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亡霊現れました。

 教会の鏡を使い、借家に移動する。

 ドアを開けて外に出てみると、アンデットの姿はない。


 ジュード殿下の後について広場へと移動すると、アンデットは教会の周囲に集まっていた。

 離れた家の柵の陰にしゃがんで様子を伺う。

 あまり近付くと、気付かれてしまう。 

 

「……ど、どうするんです?」

「おびき寄せるしかねーだろ。あいつらを教会から引き離す」

 殿下はすっくと立って、堂々と広場に向かって歩き出す。

 私は焦って、後を追い掛けた。

「無茶ですよ! か、数が……」

 

 教会に入れず、周りを囲むようにうろついていたスケルトンが、いっせいに振り返った。

 私は悲鳴を上げそうになって、ゴクンッと飲み込む。

「で、で、で、で……!!」

「おい、骸骨ども。お前らの相手は俺だ。こっちで遊ぼうぜ」

 ジュード殿下が杖をチラつかせて挑発すると、スケルトンたちの赤い目の光りが強くなった気がした。


 スケルトンには知性があるとは思えないけど、怒りを買うには十分だったみたいだ。

 ボロボロの武器を振り上げ、襲いかかってくる。

 殿下は私の手をつかむと、身を翻して走り出した。

 

 スケルトンの軍団は、ゾロゾロと追い掛けてくる。

 雄叫びの声を上げて襲ってくるスケルトン一体を、殿下が乱暴に蹴り飛ばす。

 そのスケルトンは、仲間を巻き込んで重なるように倒れていた。

 殿下は瓶の蓋を外し、聖水を勢いよく撒く。

 水滴を浴びると、スケルトンの骨が焦げたように黒くなり、その部分が灰に変わっていた。


 でも、数が多すぎるわ!

 それに、ジュード殿下がルシアンさんから受け取った聖水は五本。

 ここにいるスケルトンを全て片付けるには到底足らない。


 私たちに攻撃対象を変えたスケルトン軍団を引き連れ、村の道を走る。

 殿下は足止めのために火炎魔法を放っていた。


 爆ぜる炎に吹き飛ばされたスケルトンは、地面に叩き付けられ骨が砕ける。

 再生するまでには少しばかり時間がかかる。


 ジュード殿下が向かっているのは、森の方だった。

 このまま、スケルトンを連れて村を出るつもりなのだろう。

 けれど、森に入ったところで、殿下が急に足を止めた。


「どう……」

 口を開こうとした私は、森の奥に揺れる赤い炎に気付いて息を呑んだ。

 スケルトンの軍団が前方にも待ち構えている。

 背後からもスケルトンが迫っていて、このままでは挟み撃ちにされる。

 殿下の表情も焦りが滲んでいた。


 森の暗闇の中で揺れている炎は、鬼火にも見える。

 でも、私の鬼火さんとは違って、炎の色は赤だ。

 黒いボロボロのマントを羽織ったアンデットの周りに、その炎は浮かんでいた。


 私は足が竦んで動けなくなる。

 あそこにいるのはスケルトンじゃない。

 マントの下から真っ黒な瘴気の靄が漏れ出していた。

 顔は見えず、赤い炎を宿した双眸がこちらを見据える。

 

「……スペクター……」 

 殿下が小さな声で呟いた。


 元亡霊だったから、嫌でも分かる。

 あれは、ホラーゲームの世界にいた時の〝私と同じもの〟だ。

 深い恨みと憎しみにとらわれて、天国の門も地獄の門もくぐれずに、行き場もなくこの世を彷徨う人の魂のなれの果て。

 

 亡霊が叫ぶような声を上げると、スケルトンたちが一斉に動き出した。

 あれが、元凶なのだろう。

 でも、実体のない亡霊に物理的な攻撃なんて効かない。


 体が震えてくる。

 怖い……。

 私は震えが止まらなくて、自分の手を強く握った。

 怖い……。

 

 あの亡霊から溢れ出す憎悪と恨みの感情に、私の意識まで引きずり込まれそうになる。

 

「メアリー……メアリー=オズボーン!!」

 気持ち悪くて立っていられず、しゃがみそうになった時、ジュード殿下が私の腕を強くつかむ。

 怒鳴るように呼ぶ声が、ようやく耳に届いた。

 殿下の放った火が円形に広がり、スケルトンが近付くのを阻んでいた。

 

「何やってんだ。寝る時間じゃねーぞ!」

「あ……ね、寝てなんてないですよ……!」

 ようやく声が出て、自分でも安堵した。

 弱々しい情けない声になったけど、頭を激しく揺さぶられるような気持ちの悪さは少しだけよくなった。

 

 そ、そうだわ……。

 あの亡霊を消滅させない限りは、私たちも村の人たちも助からない。

 今までと同じように、どこかに魔力の供給源となる魔石を隠しているはずだ。

 でも、濃い瘴気を全身にまとっていて、見つけられない。

 

 冷気と一緒に瘴気の靄が広がり、私たちの足元も見えなくなる。

 地面が泥濘むような感触があり、私と殿下の体が不意にズブリと沈んだ。

「で、殿下!」

 私は咄嗟にジュード殿下の腕をつかむ。

 底なしの沼に引きずり込まれるように、暗い闇へと二人一緒に落ちていく。


 あ、あれ……。

 これ、鏡の中と同じだわ。

 ドロリとした水に浮かんでいるような、馴染のある感覚だ。


「うわあぁあ!!!」

 パニックになってもがいていた殿下が、私に抱きついてくる。

「落ち着いてください。まだ、死んでませんよ!」

 私が宥めると、ようやく少し冷静になったらしい。

 大人しくなって、周りに目をやっていた。

 と言っても、真っ暗なのでお互いの顔はよく見えない。


「どこだよ……ここ?」

「わ、分かりませんけど……亡霊のお腹の中?」

 亡霊には実体がないから、お腹の中という表現もおかしい。

 私もジュード殿下も、あの亡霊の中に引きずり込まれてしまったのは分かる。

 

「えっ……俺ら、食われたの?」

「た、たぶん……?」

「落ち着いてる場合じゃねーだろ!」

 殿下がゴンッと頭にゲンコツを落としてくる。

 ううっ、久し振りのゲンコだわ……。

 それにいつもより、ちょっと痛い。


「で、でも、これ……鏡の中と同じ空間ですよ?」

「確かにな……」

 殿下は離せば落下するとでも思っているように、私の腰に両腕を回して抱きついたままだ。


「という事は……出られんのか?」

「わ、分からないですけど、きっと出口がありますよ!」 

 私はヨイショ、ヨイショと平泳ぎスタイルで泳ぎ出す。

 殿下は気分が悪そうに背中に乗っているけれど、私はむしろ調子がいい。

 

 お、おかしいわ。私……今、ものすごくパワーアップしている気がする!

「お、おい、速くねーか? ちょっと待て。振り落とされる……振り落とされる――っ!!」 

 殿下が何か叫んでいるけど、私は世界新記録が出せそうな水泳選手みたいにスイスイ泳げて感動していた。


 そのうちに、真っ暗な闇の中に赤い光が見えてくる。

 出口かも!

 そう思って全速力で泳ぎながら近付いてみると、赤い炎に包まれている大きな魔石だった。

 これが、亡霊に魔力を供給しているのだろう。

 私が両手を伸ばそうとすると、「おい、バカ!」と殿下に手をつかまれた。


「不用意に触ろうとすんな!」

「で、でも……これが亡霊の魔石ですよ? 魔力がなくなれば、きっと消滅します。私は闇魔法適性がありますから、大丈夫です!」

「本当かよ……」

「多分? 前にもスケルトンの親玉の魔力を吸い取ったじゃないですか」

 私は恐る恐る魔石に触れてみる。

 炎に包まれているのに、少しも熱くはない。

 むしろ、凍るほどに冷たく感じる。

 

 亡霊の悲鳴のような声が響き、魔石の魔力が私の手の平を通して体の中に流れ込んできた。


 不意に、頭の中に記憶が流れてくる。

 それは、亡霊の生前の記憶の欠片だ。

 この人はずっと昔の国の王様で、反乱が起きて臣下に殺されてしまったらしい。

 信頼していた人だったのに。


 ああ、悲しいなと、私の目から涙がこぼれた。

 憤りや悲しさ、恨みや未練が伝わってきて、私の心まで引き裂かれそうだ。

 

 最後に残っていた感情はよく知っている。

〝生きたかった〟という、ただそれだけの……純粋な渇望。

 

 私もそうだった。

 消されたくなかった。

 終わりたくなかった。


 前のホラーゲームがサ柊になった時に、そう強く、強く望んで、気付いたら――こちらの世界に転生していた。


 ゆっくりと目を開けると、一番最初に飛び込んできたのは明るい星空だ。

 夜の風が濡れている頬を撫でる。


「よーやく、気付いたか?」

 ジュード殿下の顔が視界に入り、私はびっくりして瞬きした。 

 目をこすると指に滴がつく。どうやら泣いていたらしい。

 

「あの、亡霊とスケルトンは……?」

「消えた……まあ、お前に全部魔力を吸収されたから、消滅したんだろうな」

 殿下はそう言って、私に空になった透明の魔石を見せる。

 私は「よ、よかったぁ~~」と、胸をなで下ろした。


「……目が覚めたんなら、さっさと起きろよ」

 そう言われて、ようやく自分が殿下の膝に頭を載せている事に気付いた。

 道理で、寝心地がよかったはずだわ~~!

 慌てて飛び起きると、殿下がゆっくり立ち上がる。


「しっかし、お前……ますます人間離れしてきてんな……」

 引き気味に言われて、「そ、そんな事ないですよ!」と反論する。

 それから、私も立ち上がって両手を見た。


 なんだか、エステサロンに行ったマダムみたいに……お肌が艶々になってる気がするわ。

 髪も触ってみると、ウェーブになっていたのにストレートヘアに戻っている。

 しかも、以前より手触りがよくなって、まるで上質な絹糸のよう!

 今の私は、シャンプーのCMにも出られそうだ。

 それに、エナジードリンクを一気飲みした時みたいに元気一杯で、体力が漲っている。

 新幹線と並走して窓に張り付くこともできるかもしれない。


「で、殿下……殿下……っ!」

「あ? 何だよ……」

「わ、私……美人になったみたいです!!」

 鏡がないから顔は見えないけど、目も爛々と輝いているような気がするわ!


「……は? 頭、やられたのか?」

「ち、違いますよ! ほらほら、見てください。髪がいつもよりスベスベだし、天使の輪ができていますよ!」

 歩き出した殿下の隣に並び、髪の毛を摘まんでアピールしてみる。

「あーそうかよ。よかったなー……」

 両手をズボンのポケットに突っ込んで、少しもこっちを見てくれない。


「これは、きっと……亡霊のエキスを吸ったおかげです」

 スッポンエキスなみに強力だわ!

「怖えーよ! もう少し離れて歩け。取り憑くな」

 追い払われて、私はフグのように頬を膨らませた。


 ひどいわ! 

 殿下なんて、私に抱きついてブルブル震えていたくせに!

 だ、抱きついて…………。

 頬が火照ってきて、両手でスカートをクシャクシャにする。

 急に殿下が振り向いたから、ドキンとした。


「……早く、戻んぞ。村の連中が待ってんだろ」

「は、はいぃ!」

 

◇◇◇


 収穫祭が終わり、村の人たちも無事に翌日の朝を迎えた。

 あれから、教会に戻ってスケルトンが消えた事を知らせると、村の人たちは朝までお酒を飲んで騒いでいた。

 村の英雄扱いのジュード殿下は、次から次にお酒を注がれて酔っ払ってしまい、私とルシアンさんで家まで担いで戻らなくてはいけなかった。

 

 そのルシアンはというと、翌日もまだ村に留まっていた。

 村のおじさんたちに借りたお古の服を着て、キッチンで紅茶をいれている。

 殿下がようやく一階に下りてきたのは、昼になる頃だ。


「くっそ……頭、痛てー……」

 飲み過ぎたせいか、殿下はすこぶる機嫌が悪そうな顔をして頭を押さえている。


 テーブルにつくと、ルシアンさんがカップを差し出していた。

 学園の時計塔にいた時と変わらない様子に、なんだか私は安心感を覚えた。

 私もテーブルについて、いれてもらったお茶を飲む。

 部屋の隅に片付けられていた椅子をもう一脚出し、ルシアンさんも席についた。


 昨晩の事を、改めてルシアンさんに報告する。

「スペクターですか……あれは教会の上級司祭でも手を焼くアンデットですよ。ほとんどの攻撃が通らない。よく消滅されられましたね」

「こいつがな……いつもの非常識能力のおかげだ」

 殿下は私にクイッと親指を向けて言った。


「ああ、なるほど……闇属性の魔法適性を持っていると、同じく闇属性のアンデットの魔力を吸収できるというのは、実に興味深いですね。これが公になれば、アンデットに対抗する手段が変わります。今まで、光魔法しか効果がないというのが定説でしたから」


「あの……昨日、亡霊の魔力を吸う時にですね……ちょっとだけ見えたんです。あの亡霊は、どこかの国の王様みたいでした。すごく古い時代の格好をしていて、死んだ後は大きなお墓に埋葬されたみたいなんです」

「大きな墓?」 

 殿下がカップを下げて、眉根を寄せた。

「は、はい……石を積んで造ったお墓でした」

 ピラミッドみたいだったと説明しても、きっと伝わらないだろう。

 ただ、三角形ではなく、四角形を二つ積んだ形だった。

 

「衣装を思い出せますか?」

 ルシアンさんに言われて、私は紙の余白に王様の姿を描く。

 布を巻いて作ったような簡単な服だった。

 金色の帯を巻いていて、頭にも茨のような金の王冠を被っていた。


「ふむ……五百年ほど前のエルドキア時代のものに見えますね……」

「ご、五百年前!?」

 あの亡霊はそんな頃からずっとこの世に留まっていたのだろうか。

 そう思うと、ちょっと気の毒に思える。


「ロアの村から持ってきた司教の日記に、遺跡の事が書かれていた。もしかしたら、それがそうなのかもな」

「遺跡とは?」

「村の先にある魔窟の森で、偶然遺跡が発見された。それが、二十五年前の事だ」

 ジュード殿下は司祭の手帳を、ルシアンさんに見せる。


 ニ十五年前……。 

 そして、村にアンデットが現れるようになったのが二十年前……。

  

 殿下が毎日調べていたのは、その遺跡についてだった。

 魔窟の森は魔獣が多く出没するため、村の人たちが立ち入る事はない。

 遺跡を見つけたのは、他所から来た冒険者の一団だ。

 冒険者は村に滞在しながら、たびたび遺跡に足を運んでは盗掘のような事を繰り返していたらしい。

 

 本来、遺跡なら領主に報告する義務がある。

 けれど、その冒険者たちは、遺跡の財宝を独り占めしようとしたからか、その報告をしなかった。

 そして、ある時、森に入ったっきり戻らなくなった。

 

 ロアの村の人たちの間では、魔獣に襲われたのだろうというもっぱらの噂だった。

 それからしばらく経った頃、冒険者の一人が森の近くで保護された。

 その冒険者は正気を失っていて、何があったのか尋ねてもまったく答えられない。

 ただ、「呪いのせいだ」とうわごとのように繰り返すばかりだった。


 間もなく、その冒険者は死んだ。

 教会で保護されていて、司祭が様子を見に行くと、黒く変色した骨と服だけが残されていた。

 それを見た村人は薄気味悪くなり、その骨を村の外に埋葬したそうだ。

 

 アンデットが現れるようになったのは、その後の事だ。

 司祭は経緯を事細かく書き残していた。

 そのページの端に、「呪いのせいだ」と乱暴な筆跡で書かれている。

 

「あの……遺跡とダンジョンって違うんです?」

「ダンジョンがどういうものか、まだはっきりとは解明されていないのです。一説には、地中に溜まっている高濃度の魔力が放出される時にできた洞窟だとも言われていますね。それを人が改良したのがダンジョン、というのが通常の認識です。一方で遺跡は完全に人工物です。ただ、遺跡の中にはダンジョンを利用して作られたものや、ダンジョンの上に築かれたものもありますから、完全に区別する事は難しいのですよ」

「な、なるほどぉ」

 ルシアンさんの説明に、私は分かったような顔をしておく。


「で、その墓荒しの生き残りが、命がけで持ち帰ってきたのがこれだ」

 ジュード殿下は日記に挟まれていた、黄ばんで今にも破れそうな紙切れを私たちに見せる。

「死者の石に刻まれていた魔法陣とかなり酷似していますね……」

 ルシアンさんは紙切れを受け取り、ジッと見ながら言う。

「ああ……ほぼ同じだ。ところがだ……」

 殿下はルシアンさんが返した紙を裏返しにして、光に透かす。

 その模様は、家の扉に描かれていたアンデット避けの魔法陣と一致する。

 

「……表と裏で、真逆の効果が生じる魔法陣……ですか?」

 ルシアンさんが軽く眉を上げて言う。片手は顎に添えていた。

「そういう事だ。面白れーだろ?」

 殿下はニッと笑う。 


「ええっと、つまり……遺跡を荒らしたから、そのお墓に埋葬されていた亡霊が怒って、アンデットを村に送り込んできたって事です?」

 私はお皿のクッキーに手を伸ばして囓り、首を傾げる。


「そうかもな。遺跡に行ってみれば分かんだろ」

「い、遺跡に入るんです? 祟りに合うかもしれませんよ」

 死者のお墓を騒がせるのは、余り気が進まない。

 人様の家に忍び込むようなものだ。


「昨日現れたスペクターが墓の主なら、もう出て来ねーだろ」

「で、でも、呪いはまだ残っているかもしれませんよ? お墓に入った途端に、次々に不幸な目に遭ったりしたら、ど、どうするんです?」

「不幸な目って、どんな事だよ?」

「た、例えばですね……夜な夜な、枕元に亡霊が現れて恨み言を言うとか……窓の外にぼんやり立っているとか、天井から顔が覗いているとか、お風呂の水が血の色に変わるとか、壁中に赤い手の跡がついているとか……っ!」

 

 私は言いながら恥ずかしくなり、前髪を掻き集めて顔を隠した。

 全部、全部、身に覚えがあるわ!

 痛々しすぎる過去を思い出し、世界を消滅させてしまいたくなる。

 昔の私……ちょっと、自己顕示欲が高すぎたわーっ!


「は? そんな陰険な嫌がらせみたいな事、ガキじゃねーのに効くわけねーだろ」

 殿下の容赦のない言葉が、グサッと胸につき刺さる。

 今のは、致命傷だったわ……!


「おい、ルシアン……なんでテーブルの下に隠れてんだよ?」

「頑丈そうな素晴らしいテーブルなので、構造を確かめていただけです」

 ルシアンさんがスッと立ち上がって、椅子に座り直す。


「お前……さては怖かったんだな?」

「何の話をしていたのか、さっぱり聞いていなかったですね。記憶にもまったく残っていませんよ」

 震える手でポットを傾けていたけど、紅茶はカップに入らず、全てテーブルにこぼれていた。

「何やってんだよ」

 殿下がルシアンさんの手からポットを取り上げ、キッチンに台拭きを取りに行く。


「私とした事が取り乱してしまい……失礼しました」

 テーブルを拭いて紅茶をいれ直すと、ルシアンさんも平常心を取り戻したみたいだ。

 少し恥ずかしそうに頭を下げる。


「遺跡がアンデットの発生源となっていたのは確かだ。ロアの村にしばらく滞在する事になるかもな。準備はルシアンに任せる。鏡を使って移動するから、お前も連れて行くからな。メアリー」

「へ、へいっ!」

 私は背筋をピンと伸ばして返事をした。


 やっぱり、私も行く事になるのね。

 やっぱり、ジュード殿下は人使いが荒いわ!


 下僕の身に拒否権なんてなく、翌日には再びロアの村に向かう事になったのだった。


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