墓地の戦いその2です。
授業が終わった後、私はリントン先生に呼び出されて教員室に来ていた。
「メアリー=オズボーンさん……」
「は、はいっ!」
呆れたように名前を呼ばれて、私は冷や汗をかきながら返事をした。
いったい、今度は何で呼び出されたのかしら。
理由がさっぱり思い浮かばないわ……。
「先週提出するように言ったレポートですが……失格です!」
「な、な、な、何でです!? 何が悪かったんです!?」
ジュード殿下にお願いして手伝ってもらったレポートだから、完璧なはずなのに~~!
「あなたが書いたレポートではないのは丸わかりです!」
「そ、そ、そんな事ありませんよぉ~~?」
私は不自然に目を逸らして答えた。いつもより高い声が出てしまった。
先生は額を指で押さえて、呆れたように首を横に振る。
「レポートとして完成度が高すぎます。それに明らかにあなたの筆跡と違うでしょう。あなたが提出したテストをご覧なさい。間違いだらけです。それなのに、このレポートは理路整然として、スペルの間違いもない」
先生はレポートを取り出してきて、パンッと手で叩く。
見抜かれてしまってるわ!
「ええっとですね……それはつまり、親切な先輩が困っている私を見かねて、ちょっとだけ手伝ってくれたんです」
「ちょっとだけ?」
リントン先生のメガネのレンズが鋭く光る。
「うっ……かなりの部分を手伝ってもらったかもしれません」
「かなりの部分!?」
ズイッと尖った鼻が突き刺さりそうなほど顔を寄せてくるから、私はエビのように反り返った。
「ほ、本当はほとんどだったかもしれませんっ!!」
私が観念して白状すると、リントン先生は顔を引っ込めて溜息を吐く。
「やり直しです。今度は自分で調べて書くように!!」
「や、やり直し~~~~!!」
私はヨロヨロと後退りした。
先生は無慈悲にも、「来週までですよ!」と宣告する。
突き返されたレポートを手に、教員室をトボトボと出るしかなかった。
◇◇◇
その日の夜、私は一人で墓地に来ていた。
先週、ジュード殿下たちと一緒に墓を掘り起こそうとした墓地である。
ここなら、訪れる人もほとんどいない。
それに、礼拝堂の横には井戸もあった。
邸の井戸で体を洗うと、また幽霊騒ぎが起きてしまうかもしれないわ。
それに、教会の神官がやってきて聖水をまき散らしていったから、邸の井戸の水は私が浴びると体に良くないわ。髪がゴワゴワになってしまったり、お肌が荒れたりするかもしれない。
元のホラーゲームの世界でも、私は綺麗好きで、身だしなみには気を遣う亡霊だったのだ。
髪にキューティクルができるように、いつも気を遣っていた。
だって、アホ毛が立っている亡霊なんて、少しも怖くないわ!
髪は亡霊の命……。
墓地は暗くて、風がそよいでいる。
私は井戸に行くと、殿下から借りっぱなしのシルクの寝間着のシャツを脱ぎ、薄っぺらな下着姿になった。夜はかなり冷え込む上に、気をつけていないと蚊に刺されそうだ。
井戸の水を汲んで頭からかぶる。
邸の井戸の水よりもここの水の法がずっと冷たい。
「ひええっ、行水みたいだわ……」
私は濡れた腕を摩って小声で呟いた。
でも、ここなら、みっともない姿を人に見られる心配はない。
この前は墓荒しの男たちがやってきたけれど、しっかり怖がらせたからもう二度と姿を見せないはずだ。もし、やってきたら、また亡霊のふりをしてやり過ごそう……。
ホラーゲームのテーマソングを鼻歌にのせて、石けんでゴシゴシと体や頭を洗う。
あんまりいい石けんじゃなく、泡立ちも悪いけれど、我慢するしかない。
そういえば、ジュード殿下の寝間着のシャツはいい匂いがした。
きっと王室御用達の高い石けんを使っているのだわ。
ちょっと、羨ましいな……。
「ダメダメ、私には贅沢すぎるわ……お小遣いもないから買えないもの」
独り言を漏らし、頭から水をかぶる。
石けんを洗い流してから、キャミソールとドロワーズの裾をギュッと絞った。
『ねぇ……何をしているの?』
耳元で囁くような声がして、フワリと誰かに抱きつかれたような気がした。
桶を持ったままびっくりして振り返ると、白いネグリジェ姿の女の子が宙に浮かんでいる。
その体は透けていて、輪郭もぼんやりしていた。
あの日、現れた幽霊の女の子だ。
裸足で、ネグリジェの裾やウェーブのかかった髪が波打っている。
まるでスペースシップに乗っている宇宙飛行士みたいな姿だ。
「ええっと、か、体を洗ってるんですよ?」
私が答えると、女の子はクスクス笑って私の周りを一周する。
ネグリジェにちょっと触れてみたけれど、やっぱり私の手はすり抜けてしまう。
以前の私みたいだわ!
でも、女の子からは怒りや恨みといった感情は感じられない。
むしろ、目がキラキラ輝いていて、物珍しそうに私を眺めている。
「あなたは、誰なんです?」
『私? 私はね……リリー。あなたは?』
「私は……メ、メアリーですよ?」
『メアリー……そう、メアリー……覚えたと思う。すぐ忘れちゃうかもしれないけれど……私、なんでも忘れちゃうの』
そう言って、リリーという女の子は肩を竦めた。
年齢は私と同じくらいかしら……。
「どうして、また現れたんです?」
『あなたは、百合の花を私の棺に入れてくれたでしょう? 嬉しかったの。私の名前はリリーで、百合もリリーと言うでしょう?』
「ああ、そういえばそうですね」
『また、来てくれて嬉しい!』
リリーは私の頬に両手を伸ばし、それからチュッと額にキスをしてくれた。
わ、私はどうやら気に入られてしまったみたいだわ。
それとも、他に話せる相手がいなくて寂しかったのかもしれない。
その気持ちは、私も元々亡霊だったからよく分かる。
「リリー。あの男たちは、いつからリリーの棺桶に魔石を入れていたんです?」
私はタオルで拭いてから、ぶかぶかのシルクのシャツを頭からかぶった。
リリーは私の周りをクルクルと飛びまわりながら、「うーん」と首を傾げる。
『分からないけど……ずっと前よ? そうだわ、二年くらい前かしら。雪がたくさん降っていて寒かったの。すごく眠たかったのに、いきなり起こされて腹が立ったわ。その上、あんな石を入れたの。あれを入れられるとすごく苦しくて、辛くて、痛いのよ?』
「それはひどい事をしますね!」
『そうなの! 許せなくて、もう一度やってきたら、腕に噛みついてやろうと思っていたんだけど……あなたがやっつけて追い払ってくれたし、あの苦しい石も取ってくれたから嬉しかったの。ねぇ、メアリー。お友達になってくれる?』
「わ……私がですか!?」
そんな事を頼まれたのは生まれて初めてで、胸がドキドキしてくる。
でも、私なんかが友達でいいのかしら。
陰キャだし、きっと話をしてもつまらないと思われてしまうかもしれない。
『うん、そうよ。ダメ?』
「いいえっ、ダメじゃないです。私もお友達になってほしいです!」
私は頬を赤らめて胸を叩く。
リリーはニコッと微笑んで、私の隣に並んだ。
『よかった! 嫌がられるかと思っちゃった』
「そんな事ないです! リリーは私に初めてできた、お、お友達です」
『あのね。メアリー……ちょっと怖い事があるの』
リリーは急に不安そうな顔になって、白いネグリジェを両手でつかむ。
「怖い事?」
『そう。ここの墓地にいる他のみんなも怖がってるの……』
「他のみんな?」
そう言われて振り返ると、草むらや墓石の陰から覗いていた幽霊とおぼしき人たちが慌てて隠れる。
こんなにたくさんの幽霊がいたの――!
私は少しも気付かなかったから驚いた。
そういえば、さっきからザワザワとした人の声が聞こえている。
「あの人たちはリリーの知り合いなんです?」
『ご近所さんよ?』
「なるほどぉ~~」
『みんな、悪さはしないの。でもね、あれはすごく危ないの……危なくて怖いの』
リリーは私に寄ってきて、シャツの袖をギュッと握ってくる。
その手が小さく震えていた。
「えっと、その危なくて怖いものは、魔物とか……?」
私はよく分からなくて尋ねた。
けれど、リリーは違うと首を振る。
『こっちに来て』
引っ張られるようにして墓地の中を歩いていると、いつの間にか他の幽霊たちがゾロゾロとついてきていた。みんな気になるのか、怯えた様子で囁き合っている。
リリーが向かっているのは森の方だ。
鬱蒼と木々が茂る森はさらに暗く、瘴気が霧のように広がっているせいで息苦しさを感じる。
あの墓荒したちがやってきたのも、こっちの森からだったわ。
一段と古い墓が並んでいて、草に覆われていた。
リリーは怖いのか、私の後ろに隠れて首に抱きついていた。
足を止めて振り返ると、幽霊たちも私の後ろにピッタリとくっついてきている。
『あっちよ……あそこのお墓……』
リリーがさらに進んだ先にあるお墓を指差した。
石が割れて崩れているけれど、元は立派なお墓だったみたいだ。
これは騎士のお墓だと一目で分かる。
墓石に肖像画が彫られていて、生前の功績なども刻まれていた。
リリーはそれ以上近付きたくないのか、私の腕にギュッと抱きついて動かない。
「あのお墓がどうしたんです?」
『あのお墓にもね。あいつらは石を隠していったの……ずっと前よ。そうしたら、あの中からすごく怖い声が聞こえてくれるようになったわ。毎晩、毎晩……だから、怖くてみんな近寄れないの。でも、もうちょっとで出てくるわ。墓石が少しずつ開いていたから……』
私はゴクンと唾を飲み込んで、一歩ずつ近付いていく。
『メアリー、危ないわ! すごく怖いものがいるのよ』
「だ、大丈夫ですよ。それに、確かめてみないと……」
お墓に近付くにつれて、体が重く感じられて息苦しい。
これはお墓から漏れ出している瘴気のようなもののせいだ。ひどい腐敗臭もする。
もうとっくに、肉体は朽ちているはずだから、そんな臭いはするはずもないのに。
すぐ近くまで行くと、リリーは私の背中に隠れてしまった。
他の幽霊たちは途中からついてくるのをやめて、木の陰から恐る恐る覗いている。
墓を見れば、確かに敷石がズレて隙間ができていた――。
そこから、黒い靄が流れ出している。
不気味な唸り声が聞こえてきて、『ひっ!』とリリーが顔を隠した。
私は鬼火さんを呼び出すと、もう一歩だけ近付いてみる。
隙間を鬼火さんで照らしてみると、不意に骨の手が靄の中から現れた。
私もリリーも驚いて後退りする。鬼火さんも震えて私の後ろに隠れていた。
そこに眠る何かは、出られない事に苛立っているのだろう。
おぞましさを感じるような低い唸り声が聞こえてくる。
骨だけとなった手が、敷石をガタガタと揺らしていた。
古くなった敷石は罅が入っていて、今にも砕けそうだ。
ああ、これは……ダメだ。
私も亡霊だったから分かる。
これは憎悪と怒りを宿した者の魂の叫びだ。
その重く震えるような声が森中に轟く。
私についてきていた他の幽霊たちは、悲鳴を上げて森の外まで逃げていってしまった。
けれど、リリーは私の背中にくっついて震えながらも耐えていた。
『メアリー……遅かったみたい……もうダメだわ……これはもうじき出てくる!! 早く逃げないと……』
リリーが悲鳴のような声を漏らす。
言われるがまま後退りして身を翻した。
私でも、これは……怖い。
何十年どころか百年以上、恨みを溜め込んだ亡霊――。
それはもう〝怨霊〟と言うべきものだ。
怨霊は私なんかじゃ太刀打ちできない。
教会の高位神官が束になっても消滅すらさせられず、どこかに封じるのが精一杯だろう。
私は息を切らして走りながら、振り返る。
敷石が砕けて、黒い靄の塊が這い出してくるのが見えた。
リリーが悲鳴を迸らせる。
その靄の中に見えたのは、騎士の甲冑を着たスケルトンだ。
その手には大剣を握り締めている。
ダンジョンに現れたスケルトンの親玉の比ではなく凶悪だ。
立ち上がったその騎士のスケルトンは瘴気を吐き出しながら、咆哮を上げる。
森全体が揺れたような気がした。
脚が震えて、私は身を投げ出すように派手に転んでしまった。
リリーが慌てて私の手を引っ張り助け起こそうとしてくれる。
けれど、それよりも先に土中から這うように現れたスケルトンに足をつかまれてしまった。
あの騎士のスケルトンの瘴気と怨念が、アンデットを呼び起こしたみたいだ。
続々と現れたスケルトンに囲まれてしまって、私は逃げ場をなくす。
足が竦んで動けない。
『メアリー、メアリー。早く逃げて。食べられちゃう……!!』
リリーが泣きそうになりながら、必死にシャツを引っ張ってくる。
私はハッとして後退りした。
スケルトンが、サビがついて刃毀れした剣を振りかざす。
咄嗟に身を庇った私の前に飛び出したのは、鬼火さんだ。
鬼火さんが果敢にスケルトンに飛びつくと、スケルトンは煩わしそうに剣を振り回していた。
幸いに知能はあまり高くないし、バランスが悪いから、鬼火さんに攪乱されると簡単に倒れる。
今のうちに…………!
そう思うのに、膝が笑って立ち上がれない。
泥塗れになりながら、這うようにして移動する。
その間に別のスケルトンが、剣を引きずりながら近付いてきた。
ああ、もうダメかも……。
私は涙ぐんで目を瞑った。
その時、不意に人声が聞こえる。
ハッとして顔を上げると、馬に乗った一団が森の中を突っ切ってこちらに向かってくるのが見えた。
灯りが暗かった周囲を照らす。
「全て、殲滅しろ!」
手綱を引きながら馬上から声を上げたのは、エヴァリーとか言うイケメンの騎士団長様だった。
地中から湧くように出てくるスケルトンを、後続の騎士たちが剣で薙ぎ払う。
けれど、瘴気を纏って立つ親玉のスケルトン騎士を目にして、怯んだようだ。
「なんだ、あれは……」
驚愕の表情で呟く声が聞こえた。
エヴァリー騎士団長は、馬から飛び降りて剣を抜くと、スケルトン騎士と対峙する。
スケルトン騎士がニタッと嗤ったように見えた。
体格はスケルトンの騎士の方がずっと大きい。
繰り出される大剣の一撃を、エヴァリー騎士団長の剣が受け止めて押し返す。
硬い金属の音が響いた。
「団長!」
「かまうな。他を片付けろ」
エヴァリー騎士団長は冷静な声で命じる。
他の騎士たちはそちらの戦いを気にしながらも、続々と集まってくるスケルトンたちと剣を交えていた。
私は頭をかばいながら、いそいそと戦場を離脱する。
こんな戦いに巻き込まれては、命がいくつあっても足らないわ!
リリーと一緒に離れた場所に移動して、墓石の陰に隠れたところでようやく胸を撫で下ろした。
エヴァリー騎士団長はスケルトン騎士の猛攻をしのいでいるけれど、防戦一方だ。
スケルトンの騎士が咆哮を上げると、濃い瘴気の靄が広がり、さらにスケルトンを呼び出す。
いくら倒しても切りがなく、他の騎士たちの表情にも疲弊の色が滲む。
あの親玉であるスケルトン騎士を倒さなければ、いくらでもスケルトンは増えるだろう。
騎士は二十人ほどいるけれど、囲まれてしまっていて、助力する余裕はなさそうだ。
スケルトンの騎士一撃を、エヴァリー騎士団長が光の盾で受け止めた。
あの騎士団長様も、光属性なのだわ!
私は驚いて墓石の陰から戦いを見守る。
しかし、スケルトン騎士の一撃の方が重く、光の楯は砕けてしまっていた。
すぐさま飛び退いていたけれど、刃が肩を掠めたようだ。
血が飛び散って、鎧とマントを赤く染める。
私は見ていられなくて、思わず目を瞑った。
騎士団長様がいくら強くても、あのスケルトン騎士はそれ以上だ。
鬼畜騎士団長でも、一人で戦うなんて無謀だわ!
な、なんとか手助けしたいけど……。
何か弱点はないかと目を懲らして見ていた私は、スケルトン騎士の胸の辺りから瘴気が溢れている事に気付いた。
ダンジョンに現れたスケルトンの親玉は、杖に黒の魔石がついていて、魔力の供給源となっていた。
あのスケルトン騎士の大剣には、黒の魔石は見当たらない。
だとしたら、瘴気の源があるのは胸の辺り。
鎧に隠れて見えないけれど、肋の辺りにあるのかも。
で、でも、近付いたら私まで一緒に無慈悲に斬られそうだわ……。
黒の魔石の魔力を吸い取れたら、あのスケルトン騎士の攻撃力も弱まる。
そのためには、近付く必要があった。
ここからでは、いくらなんでも遠すぎるわ。
私はキョロキョロして、草むらを匍匐前進で移動する。
今なら、他の騎士やエヴァリー騎士団長は、スケルトンとの戦いに気を取られている。
私なんて見ていないわ。
モゾモゾと移動した私は、別の墓石の裏に隠れた。
石の陰から手だけを出して、「吸い込め~、吸い込め~」と念じてみる。
けれど、吸い込めたのはほんの少しの魔力だけだ。
だ、ダメだわ。もうちょっと、近付かないと。
でも、これ以上近付くと、目立ってしまいそうだ。
墓石の陰から覗いてみると、エヴァリー騎士団長がスケルトン騎士の間合いに飛び込むのが見えた。
あっ、ダメだわ!
私はヒヤッとして、思わず出そうになった声を飲み込んだ。
エヴァリー騎士団長の剣が、スケルトン騎士の首を狙う。
けれどそれより先に、スケルトン騎士の甲冑の隙間から噴き出した瘴気が、エヴァリー騎士団長の腕や首に絡みついた。
それに締め上げられて、エヴァリー騎士団長が歯を食いしばるような表情を見せる。
このままでは息ができないどころか、首の骨をへし折られてしまいそうだ。
ど、どうしよう、どうしよう……。
このままでは、あの人が死んでしまうわ。
焦っている私の後ろから、リリーが飛び出す。
止めようもなかった。
リリーはスケルトン騎士のボロボロの色あせたマントにしがみついて、力一杯引っ張ろうとする。
少しも効いていないけれど、スケルトン騎士は煩わしかったのか腕を一振りする。
それだけで、リリーの軽い体は弾き飛ばされてしまっていた。
「リリーッ!」
私は体の奥から沸々と怒りが湧いてくるのを感じて、ユラッと立ち上がる。
リリーは幸い、草むらに転がって無事だったようだ。
けれど、怖かったのか全身が震えていて、涙がポロポロとこぼれている。
幽霊なのに。ただの女の子なのに。
私の……私の……友達なのにぃぃぃぃ~~~!!!!
ゆ、許せない…………。
あのデカ骸骨……。
骨の分際で…………。
カルシウムの塊のくせに……。
髪の毛が逆立ち、瘴気のような黒い靄が体から立ち上る。
私は墓石の陰から飛び出し、腕を直角に振りながらスケルトンの騎士に向かって突進した。
ギョッとしたようにこっちを見たのは、スケルトン軍団と戦っていた騎士たちだ。
猛然と駆け抜ける私を、あ然として目で追っている。
私はジャンプすると、背後からスケルトンの騎士の首にしがみ付く。
さすがに、これにはエヴァリー騎士団長も目を見開いていた。
この空っぽの頭を……へし折ってやるわ!!
私は首に腕を絡めて力一杯締め上げる。
スケルトン騎士が咆哮を上げて、私を振り払おうと暴れ出した。
そのおかげで、エヴァリー騎士団長に縄のように絡みついていた瘴気が解ける。
エヴァリー騎士団長は、痣のついた首を手で押さえて息を吸い込んでいた。
剣を地面に突き刺して体を支えているけれど、膝をつかないのはさすがだ。
それにしても、なかなか折れない首だわ……。
私はガブリと、スケルトン騎士の頭蓋骨に噛みついた。
こんなツルツル頭に噛みつくなんて私だって嫌だけど、この時には頭に血が上っていた。
「な、なんか……すげぇ……」
若い騎士がスケルトンと剣を交えたまま、ポカンとして呟く。
スケルトンの方もあんぐりと口を開けている。歯がポロッと落ちていた。
「よそ見をしているな。集中しろ!!」
おじさんの騎士に叱責されて、動きを止めていた騎士とスケルトンが慌てて戦いを再開する。
スケルトン騎士は怒りの雄叫びを上げて、私の髪をつかんでくる。
乙女の髪をつかむなんて、騎士の風上にもおけないわぁ!!
私はスケルトン騎士の頭に何度もゲンコツを落とす。
ジュード殿下直伝――とは言えないけれど――のゲンコツ攻撃!
空っぽの頭は音がよく響く。木魚みたいだ。
許せない、許せない、許せないわぁ~~~~!!!
私は怒りにかられて、鎧の隙間に手を突っ込む。
バキッと肋骨が折れる感触があった。
その奥に熱い塊を見つけてつかみ出す。
「あ、あったわ~~~!!」
私は瘴気を放つ黒い石を高々と掲げた。
スケルトン騎士が苦しげな叫び声を上げ、私を薙ぎ払う。
振り落とされた私は、ゴロンゴロンと地面を転がった。
すっかり私にターゲットを代えたスケルトン騎士が、重たい甲冑の音を響かせて近付いてくる。
私はダンゴムシみたいに丸まり、黒い魔石を両手で握り締めた。
けれど、吸い込んでも、吸い込んでも、なかなかに空にならない。
そのうち、お腹いっぱいになってきて、ゲップが出そうになった。
でも、全部空にしないと、あのスケルトン騎士は倒せない。
焦るほど、額から汗が噴き出す。
両手で剣の柄を握ったスケルトン騎士が、真っ直ぐ刃を下ろして私を串刺しにしようとする。
あ、あと少し~~~~!
全部の魔力を吸い込むと、魔石が透明に変わる。
それを地面に叩き付けた。
魔石が砕けるのと、エヴァリー騎士団長の剣がスケルトン騎士の首を斬り落とすのは、ほとんど同時だっただろう。
ポロッと落下してきた頭蓋骨を、私は思わず受け止めてしまった。
「ぎゃあああ~~、いらないわ、こんなツルツル頭~~!!」
悲鳴を上げて、頭蓋骨を放り出す。
地面に転がった頭蓋骨は、ボッと燃え上がったかと思うと、瞬く間に灰になって消滅した。
頭から下も地面に倒れて灰となり、後には剣だけが残る。
まるで、その剣だけが騎士の魂だったみたいに――。
それを見て、少しだけ哀れな気持ちになった。
このスケルトン騎士も、魔石がなければアンデットなどにならなかったのかもしれないのに。
いつの間にかスケルトン軍団も消滅していて、騎士たちが安堵の表情で剣を下ろしていた。
ようやく、終わったと思ったけれど……。
剣を手にしたエヴァリー騎士団長が、あの冷酷無比な目を座り込んでいる私に向ける。
「あ、あの……えーと……こ、こ、こ、こ、ここここ、こんばんは?」
私は震える声で、とりあえず挨拶をしてみた。
そ、そうだわ。思いっきり目立ってしまっていたわ!
「この娘は人間……ですか? いったい、なんだってこんな墓地に……」
剣をしまって側にやってきたおじさん騎士が、奇妙な顔をして私を見る。
「……連行しろ」
騎士団長様は剣を鞘にしまい、フイッと顔を背けて命令した。
「そんなぁ~~~~!!」
私は悲壮な声で叫んだけれど、容赦なく騎士たちに囲まれてしまう。
そのまま、お縄になってしまったのでした……。
一体、なぜ~~~!?




