第17話 タケ、困ってる顔してる
◆ 主な登場人物
天峰あんず(あまみね) 通称:モフ子
浅草雷ギルド所属・六等級冒険者
16歳。犬人の巫女。本編の主人公。
怖がりの巫女。
────────────
深谷向日葵ふかやひまわり
浅草雷ギルド所属・六等級冒険者
16歳。只人の陰陽師。あんずたちのパーティリーダー。
冷静沈着で頭脳明晰な優等生。
────────────
北上武三郎きたがみたけさぶろう 通称:タケ
浅草雷ギルド所属・六等級冒険者
18歳。只人の侍。パーティの前衛担当。
豪快で大雑把な江戸っ子気質の侍。
────────────
兼風清志郎かねかぜきよしろう 通称:キヨ
浅草雷ギルド所属・六等級冒険者
16歳。只人の忍者。パーティの前衛担当。
可憐な少女のような容姿をしている。
────────────
深谷万三郎ふかや まんざぶろう
浅草雷ギルド・ギルドマスター
41歳。只人の侍。武芸の腕は相当なもの。
真愛凛の夫であり、向日葵の父親。また、武三郎と清志郎の芸人と武芸の師匠でもある。
────────────
黒金幻斎くろがね げんさい
黒金堂の刀鍛冶師。どの武器も精巧に作る腕前を持つ狼人ルナティス。
58歳(只人換算年齢37歳)。
元浅草雷ギルド所属の冒険者で、侍でもあった。
────────────
黒金龍庵くろがね りゅうあん
黒金堂の防具鍛冶師。どの防具も精巧に作る腕前を持つ狼人ルナティス。
52歳(只人換算年齢33歳)。
兄・幻斎とは違い、性格も人当たりも柔らかい。
一週間後。
浅草、駒形にある武具屋・黒鉄堂。
店内には、武三郎と清志郎の姿があった。
そして2人の新しい武具を見届けるため、万三郎、向日葵、あんずも同行している。
「おお……」
一同、目の前に並べられた新しい武具を眺め、思わず声を漏らした。
その腰には、すでに新たな大太刀が収められている。
武三郎は腰に佩いた大太刀へ手を添えた。
今まで使っていた得物とは違い、黒鉄堂で新たに仕立てられた大太刀は、鞘からして重厚な造りだった。
黒を基調とした鞘には、光を受けるとわずかに青みを帯びる艶があり、手に触れただけでも、これまで使っていた大太刀とは明らかに違う質感が伝わってくる。
「これが、おいらの新しい大太刀か……」
武三郎は、しばらく刀を眺めていた。
「抜いてみな」
幻斎が短く言う。
武三郎が柄へ手を掛けると、腰をわずかに落とし、鯉口を切る。
──スッ。
静かな音とともに、刀身が鞘から姿を現した。
刃が光を受けた瞬間、青黒い光沢が鋭く走る。
「おお……」
あんずが思わず声を漏らした。
向日葵も眼鏡の奥から刀身をじっと見つめる。
「綺麗……」
刀身は黒みを帯びながらも、鈍い鉄色ではなく、角度によって青黒い輝きを返す。その表面には玉鋼特有の美しい鍛え肌が浮かんでいる。
武三郎はゆっくりと大太刀を構えた。
「ずいぶんと軽く感じるな」
「軽くしたわけじゃねえ」
幻斎が答える。
「お前の体格と剣筋に合わせて、重心を調整したんだ。振った時に余計な力が逃げねえようにな」
武三郎が一度、横薙ぎに振る。
──ヒュンッ!
空気を裂く音が、店内に鋭く響いた。
「なるほど……こいつぁ、いい」
武三郎の顔に、満足そうな笑みが浮かぶ。
「刀身には玉鋼を使っている」
幻斎が続ける。
「そして、芯と一部の補強には黒曜鉄を使った」
「黒曜鉄……?」
あんずが興味深そうに呟く。
「黒曜石とは違うんですよね?」
「ああ。名前は似てるが、黒曜石とは別物だ」
幻斎は刀身を眺めながら説明する。
「黒曜石は火山から生まれた天然のガラスみてえなもんだ。硬く、鋭い刃を作れるが、強い衝撃を受けりゃあ欠けたり割れたりする」
「じゃあ、刀には向かないんですね」
「そういうこった」
幻斎は頷いた。
「黒曜鉄は金属だ。硬さだけじゃなく、粘りがある。衝撃や曲げ、ねじれにも強ぇ。しかも術や魔力を通しやすい」
向日葵が感心したように頷く。
「だから武器に使えるのね」
「ただし、扱える鍛冶師は限られる。普通の鉄と同じようには鍛えられねえからな」
幻斎はそう言って、武三郎へ視線を向けた。
「そいつは、お前のために鍛え直した特別な一振りだ」
武三郎が刀身へ目を落とす。
「……この刀の銘は?」
幻斎が、ほんの少し口元を緩めた。
「黒蘭」
「黒蘭……」
武三郎が、その名を口の中で確かめるように呟く。
「なんか……気が引き締まっちまう銘だな」
刀身を傾けると青黒い光が、まるで夜に咲く蘭の花弁のように揺らめいた。
「気に入ったぜ。今日からこいつが、おいらの相棒だ」
武三郎は黒蘭をゆっくりと鞘へ納めた。
腰に佩かれた黒蘭は、武三郎の黒を基調とした新しい武者鎧ともよく馴染んでいた。
その姿を見た幻斎が、満足そうに頷く。
「……ようやく、武具のほうがお前に追いついたな」
幻斎が鼻を鳴らす。
「大切に使え。そいつは、お前の命を預けるために作った刀だ」
武三郎は幻斎に向け丁寧に頭を下げると、黒蘭の柄を、もう一度しっかりと握った。
「清志郎の方はどうだ?」
清志郎が背中へ手を伸ばした。
そこには、新しく仕立てられた忍者刀が背負われている。
鞘は艶を抑えた黒。
月明かりを受けても余計な光を返さず、夜の闇へ溶け込むような色合いだった。
「清志郎、おめえのも見せてみな」
「んだな」
清志郎は背中へ手を回し、柄を握る。
刀を斜めに背負っているため、肩越しに抜き取るように腕を引いた。
──スッ。
静かな音とともに、細身の刀身が鞘から滑り出すと、格子から差す、陽の光を受けた刃が、淡い光を返す。
「おお……」
あんずが目を輝かせる。
「こっちも綺麗ですね」
「刀身は玉鋼を使っている」
幻斎が説明する。
「武三郎の大太刀とは違って、軽さと取り回しを優先してある。おめえは素早さが身上だからな」
清志郎は刀を軽く振ってみる。
──ヒュッ。
刀身が空気を切り裂く。
「……軽いべ」
清志郎が驚いたように呟く。
「今まで使ってた刀より、ずっと手に馴染むっちゃ」
「足を止めず、懐へ潜り込んで仕留める。そういう戦い方に合わせてある。もちろん打ち合いもできる」
幻斎は清志郎の動きを見ながら続ける。
「それから、鞘にも手を入れてある。抜刀するときに余計な音が出にくいよう、鞘口を調整してある」
「そこまで考えてくれたんだべか」
「当たり前だ。獲物ってのは、使い手の命を預かるもんだからな」
清志郎は感心したように、刀身の美しさに見入っている。
「この黒い色は、黒曜鉄なんだべか?」
「いや。黒曜鉄を使った武三郎の黒蘭とは違う。こいつは玉鋼を主体に鍛えてある」
幻斎は、湯呑みの茶を一口啜ると、話を続ける。
「忍者刀にゃあ、余計な重さは邪魔の一言につきるからな。だから強度を保ちながら、できるだけ軽く仕上げた」
清志郎は大いに納得したように頷いた。
確かに忍は、侍のように太刀を主体として戦うものではない。戦乱の時代においては、潜入、潜伏、撹乱、陽動、暗殺など、隠密行動を主とすることも多く、身軽な装備は必須といえた。
体術や特殊な武器を用いる場合も、装備が軽く身動きが取りやすいほど、その真価を発揮できる。
「そういえば、名前はあるんだべか?」
「夜凪だ」
「夜凪……」
「風が止まり、夜の水面が静かになる。そんな時を『夜凪』っていう。おめえの戦い方にゃ、似合うだろ」
「……いい名前だべ」
清志郎は嬉しそうに笑い、忍者刀を背中の鞘へ納めた。
──カチッ。
続いて、清志郎は腰に備えた苦無を一本取り出した。
「それと、苦無も鍛え直してある。刃先を研ぎ直しただけじゃねえ。柄の重さも調整してある。投げた時に軸がぶれにくくなってるはずだ」
清志郎は苦無を指先でくるりと回す。
「おお……確かに、前より手に馴染むべ」
「鉤爪も同じだ」
幻斎が顎で清志郎の手甲を見る。
「刃を研ぎ直して、爪の強度も上げてある。古いものを無理に捨てる必要はねえ。使い慣れた道具なら、身体の一部みてえに馴染んでるからな。ちなみに、爪を取り外して縄や鎖を装着すれば、鉤縄としても使える。用途に合わせて使いな」
清志郎は、右腕の腕覆いに取り付けられた鉤爪へ、そっと指を添えた。
手甲から伸びる金属の爪は、以前とは見違えるほど鋭く磨き上げられ、鈍い光を返している。
「……幻斎の兄さん、本当に何から何までありがとうだべな」
幻斎は、ぶっきらぼうに答えた。
「新しい物を作るだけが職人の仕事じゃねえ。使い手が大切にしてきた物を、これからも使えるようにするのも、俺たちの仕事だ」
その言葉に、清志郎の表情がわずかに揺れた。
普段は落ち着いている彼も、このときばかりは16歳の少年らしい、感極まった顔を見せる。
そして、深々と頭を下げるのだった。
「相変わらず、いい仕事してんじゃねえか、幻斎」
新しい得物に無我夢中の弟子たちの姿を眺めた万三郎は、満足そうに頷いた。
「悪いね。ウチの弟子どもが世話になっちまってよ」
万三郎が頭を下げると、幻斎は鼻を鳴らした。
「ふん。貰った銭の分だけ仕事しただけのことだよ。気にすんな」
「まあ、世話になった礼だ。まず、これを受け取ってくんな」
万三郎が店の外へ目を向ける。
すると、幻斎の弟子たちが数人がかりで、大きな木製の酒樽を運び込んできた。
さらに店先には荷車が1台。
その荷台には酒樽が二つと、旬の魚、新鮮な野菜、それに肉まで積まれている。
万三郎が自ら用意してきたものだった。
武三郎と清志郎が世話になったことへの、万三郎なりの礼であり、職人たちへの心配りでもある。
幻斎は酒樽と荷車を交互に見て、呆れたように眉をひそめた。
「ったく。得物と防具を作ったくらいで、大袈裟だなあ、おめぇはよ」
「いらねえ借りを作りたくねえだけだ、バカヤロウ」
「普通、弟子といえど、得物と防具の受け取りに師匠が一緒についてくるなんて聞いたことねえぞ。七五三かと思っちまったよ」
幻斎は武三郎と清志郎へ目を向ける。
「まさか、あの2人、お前の隠し子なんじゃねえのか?」
「馬鹿言ってんじゃねえ!あんなのが倅なんて、こっちからご免被りてえよ」
万三郎は心底嫌そうな顔をした。
「だいたい1人は女好きのスケベで、もう1人は女男だ。とんでもねえ倅ばかりだっつうの」
「ジジィ、聞こえてんぞ!俺は師匠ほどスケベじゃないですよ!」
「俺も女男じゃねえべ!」
「うるせえ!誰かジジィだよ!俺の倅ならな、もう少し心根が真っ直ぐになるってもんだろ!」
武三郎と清志郎が、ほぼ同時に抗議すると、万三郎が怒鳴り返す。そんな師弟のやり取りを、幻斎は口元をわずかに緩めた。
「なあ、万三郎。ここ何年か、お前もちと性格が柔らかくなったんじゃねえか?」
「あん?何だよいきなり」
万三郎が即座に言い返す。
「武三郎と清志郎。あの2人といるおめぇは、何か普段より生々してるからよ」
「昔から、このままだよ、バカヤロウ!あの2人来たから、毎日、青筋立ちっぱなしだよ!」
「そうかい、そういうことにしといてやるよ」
「それよりタケ、キヨ!防具はどうなんだよ?」
万三郎が話を逸らすように、声を飛ばした。
胸甲や胴には深い黒色の金属が使われ、光を受けると、青みを帯びた鈍い光沢が浮かび上がる。
肩や腕を覆う具足も黒で統一され、腰には新たに仕立てられた佩楯(太腿から膝を守る防具)が備えられている。
以前まで使っていた鎧よりも重い。
武三郎は何度も肩を回し、腕を振り、最後にはその場で大きく踏み込んだ。
甲冑の各部が連動し、動きに合わせて滑らかに追従する。
「……悪くねえな」
武三郎は口の端を上げ、胸甲を拳で軽く叩いた。
「多少重てぇ感じはありますが、前の鎧より、身体を守ってくれてる感じがします」
「武三郎くん。感じがするんじゃなくて、実際に守るよう作ってあるんだよ」
龍庵は腕を組んだまま、武三郎の足元へ視線を落とした。
「ただし、浮かれて踏み込みを間違えると、甲冑ごと転んじゃうからね」
「龍庵の兄さん、心配しすぎですよ。こう見えて、慣れてるんですよ?」
万三郎がすかさず口を挟む。
「バカヤロウ。おめぇみてぇなヘッポコ侍が、一番ドジを踏みやすいって言ってんだよ。調子こいて突っ込むんじゃねえぞ!」
「ええ!?ひでぇなあ」
眉を吊り下げる愛弟子を見て、万三郎は口元だけをわずかに緩めた。
「これが黒曜鉄の鎧。黒蘭と同じ素材で作られた甲冑だ」
刀鍛冶の幻斎が低い声が響くと、武三郎が振り返る。
「『黒蘭』と同じ素材なのかよ?」
龍庵は頷くと、武三郎の胴へ歩み寄り、職人とは思えない綺麗な指先で胸甲を軽く叩いた。
──コン。
乾いた硬質な音が店内に響く。
あんずの耳が、その音を追うように小さく動いた。
胸甲から指を離し、今度は武三郎の肩当てを眺めた。
「兄者の言う通り、黒曜鉄で作られた甲冑だよ。この鉱石は精錬すると強度が上がり、衝撃、曲げ、ねじれに強い」
「つまり、ぶっ叩かれても壊れにくいってことですよね?」
武三郎は納得したように頷き、拳を何度も握り直した。
「俺向きだな」
「バカヤロウ、始めっから壊す前提で納得すんじゃねえよ」
万三郎がすかさず釘を刺すと、武三郎は胸を張った。
「師匠も心配性だなあ。鎧まで壊される前に、おいらが真っ先にぶった斬りますよ」
「そういうところが心配なんだよ、オメェは。後先考えねえからな」
万三郎は呆れた表情で深く息を吐いた。
「まあ、武三郎くんのような敵を見たら一直線のお侍さんには|黒曜鉄は遥かに向いているのかもね」
隆庵が淡々と結論を述べる。
「あの……」
あんずが恐る恐る手を挙げた。
「黒曜鉄は、私たち巫女や神術師の防具にも使えるんですか?」
「おお、巫女の君は、見た目とは違って、目の付け所が違うねえ」
あんずに興味津々の視線を向ける龍庵。
「えへへ……。タケくんの武者鎧の色があまりに綺麗なので、つい興味が沸いたと言うか」
「うんうん!良い心がけだよ」
嬉々とした笑顔で、武三郎の武者鎧に目を向け説明を始めた。
「結論を言えば、防具に加工して使える。だが、扱いは難しい」
龍庵の目が、鍛冶場の火を映したように鋭くなる。
「黒曜鉄は知っての通り重量があるから、接近戦など、戦いに慣れていない者には邪魔になるとも言えるね」
あんずは真剣な顔で頷き、胸の前で両手を握った。
「なるほど……丈夫だから、身に着ければいいとは限らないんですね」
「そういうこと。素材の性質に合わせて使うにしても、それなりの研鑽は必要だね」
龍庵は、優しく諭すように言葉を続けた。
「あんずちゃんは、天姫様の巫女だったよね?」
「はい。そうですけど」
「君の先輩巫女である綾香ちゃん。あの子は接近戦も得意だから、胸当ては黒曜鉄なんだよ」
先輩巫女でもあり、姉のように慕う綾香の名前を聞いて、嬉しそうな笑顔を向けるあんす。
「ええ!綾香姉様も、ここの防具のお世話になっていたんですね」
「うん。彼女、猫人らしい妖しい魅力がある子だよねえ。前にさ夜の花街で、またたび豆腐を口にしただけで、目がとろんとして、僕の胸の中で甘えてくるのが、何とも可愛くて、朝まで愛ていたよ」
「あの……何のお話ですか?」
悦に浸りすぎて、ハッとなる龍庵。
あんずも、それとなく2人に何があったのかを察して顔を赤らめる。
「あっ!ごめんごめん。こっちの話。綾香ちゃんにも、よろしく伝えておいてね」
「テメェは綾香にも手ェ出してんのかよ。ったく、とんでもねえな」
万三郎が呆れたように吐き捨てる。
「俺も初耳だぞ、龍庵。あとで詳しく聞くからな!」
幻斎まで腕を組み、鋭い目を向ける。
「あちゃあ……それより、話の続きしようか」
龍庵の色話に、半ば呆れながら苦笑する向日葵が、武三郎の黒曜鉄の鎧に目を向けた。
「タケには黒曜鉄の武者鎧。丈夫で頑丈そうだしいいかも!考えなしに無闇に、正面から斬り合ったり、突っ込んでいく単純明快なタケにピッタリね」
「どういう意味だよ、バカやろう」
武三郎がじろりと睨む。
「おいらだってな、真正面からだけじゃなく、駆け引きをしながら、やり合うことだって出来るんだぞ」
「ふぅうん。じゃあ、後学までにどう戦うのか聞きたいなあ♪」
向日葵は首を傾げ、悪びれもせずに尋ねた。
「そりゃあ……こう、隙を見て、勢いよく……真正面からバサっとよぉ」
言葉が途中で詰まる武三郎に、向日葵は目を細めた。
「やっぱり真正面からじゃない」
「意地の悪い聞き方すんじゃねえよ!」
武三郎が両手を広げると、鎧の金具が大きく鳴り、向日葵は肩を揺らして笑った。
「でも、凄く似合ってる。それにカッコいいよ。ついでに馬鹿みたいに真っ黒で、馬鹿みたいに頑丈そう♪」
「褒めてねえだろ、それ!」
「褒めたじゃない。似合ってるって」
向日葵は武三郎の胸甲を指先で軽く弾いた。
「少なくとも、あんたが無茶をしても、前よりは長く立っていられそうだし、少し安心かな……」
武三郎は一瞬だけ黙り、それから照れ隠しのように鼻を鳴らした。
「……へへ、だろう!まあ、見てなっての」
その横で、清志郎も新しい装備の具合を確かめていた。
黒を基調とした帷子に、軽量な防具を組み合わせた忍装束。
肩や胸、腕などの要所には、黒曜鉄製の小さな鉄板が仕込まれている。
清志郎は腕を曲げ、腰を捻り、片足を引いて低く身を沈めた。
武三郎の武者鎧ほどの重厚さはないにしても、必要な箇所だけを確実に守りながら、忍としての身軽さを失わないよう仕立てられていた。
「おお……」
清志郎は目を丸くし、何度かその場で跳ねた。
「こりゃあ、ずいぶん動きやすいべ。前のより、身体に馴染むのが早ええ」
「清志郎くんは忍だからねえ、利点となる動きやすさを重視しさせてもらったよ」
龍庵は清志郎の動きを追いながら答えた。
「防具は武三郎くんよりは薄くなるけど、要所だけはしっかりと守る。音もできるだけ抑えてあるし、君の動きを阻害しないよう、重ね方も変えてあるよ」
清志郎は感心したように袖を撫でた。
「そんなに丁寧にこしらえてるんだべか」
「当たり前のことさ。使い手の命を預けるんだからね。職人の大切な務めってものさ」
龍庵は涼しい笑顔で満足そうな頷く。
「龍庵の兄さんにも本当に感謝だべ。ありがとう」
清志郎は龍庵に深々と頭を下げた。
「俺、こういう細けえ仕事は自分じゃできねえから、助かったべ」
頭を上げたその時……
龍庵は、あんずの両手を握りながら、端正な顔を見つめていた。
「あんずちゃん、君ってウブで守ってあげたくなる可愛さだね。巫女装束姿もとても似合っているよ」
「えっ……?」
あんずが、びくりと肩を震わせる。
「向日葵ちゃんも、久々に見たら大人っぽくなったねえ」
「そ、そう?」
向日葵も戸惑ったように眼鏡の位置を直す。
そんな2人を交互に見ながら、龍庵はにこやかに笑った。
向日葵も戸惑ったように眼鏡の位置を直す。
そんな2人交互に見ながら、龍庵はにこやかに笑った。
「良かったら今度、夜の花街でお酌してくれないかなあ。もちろん僕と2人っきりでね」
「……ひっ」
あんずは顔を真っ赤に染め、尻尾をゆらゆらと揺らす。
「あんず……これ龍庵おじさんの悪い癖だから、本気でお熱になってはダメよ」
向日葵が毎度のことだと言わんばかりの表情を浮かべた。
「おい……龍庵。"ぎるます"の手前でウチの娘たちを口説いてんじゃねえよ!ったくよお、16歳の小娘まで手籠にするとか見境なしかよ」
万三郎が呆れたように口を挟む。
「いやだなあ師匠、これは親交を深めるただのお誘いですよ」
「オメェの場合、その『ただのお誘い』が問題なんだよ」
幻斎も深々とため息を吐いた。
「龍庵。店先で女を口説くんじゃねえよ。お前は女の子がくると見境なしだな」
「兄者も師匠も頭が硬いなあ。こんな可憐な娘たちを前に、口説かない方が失礼だよ」
龍庵は悪びれた様子もなく肩をすくめる。
「おい幻斎!弟の躾がなってねえんじゃねえのか?」
「弟も腕は良いんだけど、こいつばかりは病気としか思えなくてよ。迷惑かけちまってすまねえなあ」
そんなやり取りを眺め、きょとんとした表情の清志郎も、穏やかな笑みに変わり、腕覆いを確かめるように指で叩いた。
「これなら女郎蜘蛛相手でも、少しは安心できそうだべな」
「安心じゃねえ」
万三郎の声が低く落ちた。
清志郎の笑みが消え、武三郎も口を閉じる。
万三郎は2人の装備を見つめたまま、ゆっくりと言葉を続けた。
「お前らがこれから相手にするのは、10年以上生きた蜘蛛が妖魔へ変じた化け物だ。普通の妖魔と同じつもりでかかれば、装備が良くても命はねえ」
万三郎は武三郎の胸甲を指で示した。
「黒曜鉄は、お前らを無敵にする道具じゃねえ」
次に、清志郎へ視線を移す。
「いいか、タケ、キヨ!よく聞けよ!防具に頼るんじゃねえぞ。素っ裸のつもりで挑め!一撃を受けたら、その場で終わり……それくらいの気概で行け」
武三郎は胸甲へ手を置くと、2人の顔を真剣な眼差しで見つめる。
「とまあ、オメェらヒヨッコには百歩譲って、一度は受けても良いとしよう……だけどなあ、 2度目を食らう前に、敵を仕留めろ!」
師匠の檄に武三郎と清志郎の胸は熱くなり、武者震いを覚えながら、静かに頷いた。
「わかりました師匠」
「肝に銘じるべ」
向日葵は腕を組み、女郎蜘蛛のいる方角を見据えるように目を細めた。
「タケ、キヨ。装備を新調したからって無茶はダメよ…….無茶をする場合は、2人とも無事に生きて帰ることだからね!」
「向日葵?」
「あんたたちは、あんたたちのやり方で戦えばいい。ただし……命を落とすことだけは許さないからね」
向日葵は武三郎と清志郎を順に見た。
武三郎は一瞬ぽかんとしたが、すぐに力強く笑った。
「誰に言ってやがんだバカやろう。死ぬつもりなんざ、サラサラねえよ」
「うん……この前の月夜の夜。忘れないでね」
目元を柔らかくした。
「……お、おう」
月夜の夜、向日葵との事を思い出し、少し顔を赤らめる武三郎。
「俺もタケも、向日葵もあモフ子も、みんなして元気に戻ってくるべ」
向日葵も静かに頷いた。
「ええ。必ず」
「おお、タケ、キヨ。1つ教えといてやるよ。刀を抜く前どう動くか考えろ。1つじゃねえぞ。いろんな立回りを想定するんだ。それから斬る場所を狙って動け」
「俺はいつも考えてるっての」
「減らず口を言うんじゃねえよ。なら、普段から考えた顔をしてみろ。どうせオメェは、遊び相手の姉ちゃんのことしか頭にねえんだからよ」
「こんな時、おいらどんな顔すりゃあいいんですか、それ!」
武三郎が頬を引きつらせると、清志郎が吹き出した。
向日葵も口元を押さえ、あんずまで小さく笑う。
それを見て、万三郎も思わず破顔した。
「はははっ!」
豪快な笑い声が、黒金堂の店内に響き渡った。
「よし、行ってこい。それだけだ!」
だが、それが万三郎なりの送り出しなのだと、誰もが分かっていた。
いよいよ、女郎蜘蛛討伐の時が、迫っていた。
---------
夕刻。
武三郎、清志郎、向日葵、あんずの4人は、浅草から南へ下り、柳橋へとやって来ていた。
空は茜色に染まり、隅田川の水面にも夕陽が細長く映り込んでいる。
川面を行き交う船からは、船頭の掛け声や櫂の音が聞こえ、岸辺には仕事を終えた人々の姿が増え始めていた。
柳橋周辺には、料理屋や茶屋、船宿などが軒を連ねている。
昼間の賑わいとは違い、夕暮れ時になると、これから夜を迎える花街らしい華やかな空気が少しずつ漂い始めていた。
提灯に火が入り、店先からは料理の匂いが流れてくる。
川風に混じって、醤油の香ばしい匂い、焼いた魚の香り、出汁の湯気。
ひときわ食欲をそそる匂いが、4人の鼻をくすぐった。
武三郎が足を止める。
「そういや、女郎蜘蛛ってよ……夜の何時頃に出るんだ?」
「流石に分かるわけないじゃない」
向日葵が呆れたように答える。
「でも、夜な夜な男性を誘うなら、夜更けも深い時じゃないのかな?」
「なるほどなあ」
武三郎は腕を組み、真面目な顔で頷いた。
「取り敢えず、今のうちに、そこのどじょう鍋でも食って腹を満たしてから行こうか」
「タケくん……よくこんな時に夜ご飯食べられるよね」
あんずが、どじょう鍋の店を見つめながら顔を引きつらせる。
「アタシ、食欲全然湧かないよ」
「モフ子、女郎蜘蛛討伐は長丁場になるべ。腹さ満たさねえと、身体がもたねえべ」
清志郎が、もっともらしく頷いた。
「うう……」
あんずはお腹を押さえた。
「でも……アタシ、絶対食欲湧かないと思うから、残したらタケくんかキヨくんに食べてもらうね」
「ったく、しょうがねえなあ」
武三郎が呆れた顔をする。
「まあ、いいべ。残すくらいなら、俺が食うべさ」
「キヨくん、優しいね」
「優しいっていうか、食い物を残すのがもったいねえだけだべ」
清志郎が苦笑する。
「ほれ、土産のおにぎりでも握ってもらえばいいべな。一緒さ入るべ」
「……うん」
あんずは渋々、3人の後について店へ入った。
どじょう鍋の店に入って1時間半後。
「美味しかったあ!」
お勘定を済ませ店を出たあんずは、お腹をさすりながら、満面の笑みを浮かべていた。
「どじょう鍋、最高だったよお!」
「……お前、食欲ねえって言ってなかったか?」
武三郎が呆れた顔で振り返る。
あんずは気にする様子もなく、向日葵の袖を引っ張った。
「向日葵ちゃん、鰹の出汁と甘味が効いた割り下に、笹がきごぼうと、ねぎがうまい具合に混ざって、美味しかったね♡」
「うん、美味しかった!クセになりそう♪」
向日葵も満足そうに頷く。
「ちゃんと砂も抜いてあったし、何よりどじょうに味が染みてて、身がふわっとして柔らかかった」
武三郎が、あんずを指差した。
「てめぇ、何が『アタシ、食欲全然湧かないよ』だよ!しっかり2人前食ってんじゃねえか!」
「えへへ……」
「しかも、大きな握り飯まで2人して追加してたべな」
清志郎が目を丸くしている。
「だって、美味しかったんだもん♪」
「私もつられて食べちゃったなあ」
照れ笑いするあんずと向日葵。
「モフ子は、そんなに食って大丈夫なんだべか?俺たちより食べてるべな」
清志郎が心配そうに尋ねると、あんずは自分のお腹を撫でながら首を傾げた。
「大丈夫だよ。これからいっぱい動くんだから」
「まあ、しばらくは飯も食えねえべな」
そんな、あんずに白い目を向ける武三郎。
「『食欲がない詐欺』なんて聞いたことねえよ。しかも、どじょう鍋を見たモフ子のあの豹変ぶり……おいらのお椀にいれた、どじょうまで取っちまうんだぜ。あれは、ねえよなあ」
「だって、お店に入るまでは本当に食べたくなかったんだもん」
「食い物見たら、欲望が優先する構造なんだべさ」
清志郎がしみじみ呟く。
「欲望の塊みてぇで、モフ子らしいべ」
「どういう意味よ!」
あんずが頬を膨らませる。
向日葵はそんな2人のやり取りを見て、くすりと笑った。
「まあ、いいじゃない。これだけ食べられたなら、討伐中にお腹が空いて動けなくなる心配もないじゃない」
「それもそうだな」
向日葵と武三郎も呆れながらも笑い声を漏らす。
「よし。腹も満たしたことだし、そろそろ行くか」
夕陽は、いつの間にか山の向こうへ沈み始め、柳橋の提灯が一つ、また一つと灯っていく。
川面を渡る風も、昼間より少し冷たくなっていた。
季節も初夏に入る段階とはいえ、まだ空気は若干の冷たさを残す。
これから始まるのは、10年以上を生きた蜘蛛が妖魔へと変じた、女郎蜘蛛の討伐。
4人は顔を見合わせる。
さっきまでの笑い声が、少しずつ消えていく。
「……行こう」
武三郎が大太刀へ手を添えた。
「うん」
向日葵が頷く。
「行くべ」
清志郎も腰の忍者刀を確かめる。
あんずは小さく息を吸い込み、震えそうになる手をぎゅっと握った。
「……うん」
4人は、夜の柳橋へ向かって歩き始めた。
---------
向日葵たちが、まず最初に向かったのは、柳橋のたもとにある旅籠屋。
女郎蜘蛛が現れるとされる夜まで、まだ時間がある。
そこで4人は、柳橋を一望できる旅籠屋の2階の一室を借りることにした。
部屋の障子を開ければ、眼下には隅田川の流れが見える。
夕暮れの空を映した川面は茜色に染まり、行き交う舟が細長い影を引いていた。
やがて日が傾くにつれ、柳橋の町にも少しずつ夜の気配が漂い始める。
川沿いの茶屋には明かりが灯り、暖簾の向こうからは三味線の音や、楽しげな笑い声が聞こえてくる。
橋を渡る人影も、昼間とは少しずつ変わっていった。
仕事を終え、仲間と連れ立って酒を飲みに出る者。
何軒もの店を梯子しながら、すっかり酔いの回った者。
気に入った芸者を連れて茶屋へ入り、酒を酌み交わす者。
舟の上で恋人と肩を寄せ、しっぽりと酒を楽しむ者。
更には、夜の相手を探すように、川沿いをぶらぶらと歩く男たちの姿もあった。
柳橋の番所からは、女郎蜘蛛への注意喚起の出されているが、それでも、夜の柳橋から人の姿が消えることはなかった。
むしろ、日が暮れるにつれて人の往来は増えていく。
「……これじゃあ、女郎蜘蛛がどこに出るのか分かりゃしねえな」
窓から外を眺めながら、武三郎が呟く。
「そうだね。あれだけ人がいると、見つけるのも大変そう」
あんずが不安そうに辺りを見渡すと、武三郎が向日葵に向き直る。
「なあ、向日葵。ここに4人いても、しょうがねえから、おいらだけ下に降りるわ」
武三郎が窓の外を指差す。
「おいらは川沿いの腰掛けにでも座って、遠巻きに見てるからよ。お前らはここを頼むよ」
「わかったべ」
清志郎が頷く。
「じゃあ、俺はここで見張ってるべ」
「じゃあ、私も行く」
向日葵が立ち上がった。
「あっ? なんでお前までついてくんだよ」
武三郎が怪訝そうに振り返る。
「タケ一人じゃ、飲みに行きそうだから。見張りも兼ねて」
「見張る対象が違えだろ!」
「見張られたほうがいいべな」
清志郎がしみじみ頷く。
「タケは、すぐ悪さするべ。向日葵が手綱引いてやらねえとな」
「うん。アタシもキヨくんに同感だよ」
あんずも真剣な顔で頷いた。
「タケくんなら花街で女郎蜘蛛も口説いて、そのままどこかへ消えそうだしね」
「でしょう。キヨもあんずも、よく分かってるじゃない♪」
向日葵が嬉々とした表情で頷く。
「……お前ら、おいらを何だと思ってやがるんだ」
「タケくん」
「なんだよ、モフ子」
あんずが心配そうに武三郎を見る。
「向日葵ちゃんを口説いたり、押し倒しちゃダメだよ」
「ふざけんな!」
武三郎の怒鳴り声が、旅籠屋の2階に響き渡った。
その一方で……。
柳橋の夜は、少しずつ深まり始めていた。
三味線の音。
酒に酔った男たちの笑い声。
川面を滑る舟の櫓の音。
そして、夜の闇へ溶けていく、女たちの艶やかな声。
柳橋は、夜が更けるほどに賑わいを増していく。
その喧騒の中に、彼らがまだ知らない、異様な気配が静かに紛れ込んでいた。
---------
神田川沿いに並ぶ柳の枝が、夜風にさらさらと揺れている。
武三郎と向日葵が旅籠屋を出て2時間ほど経つが、柳橋周辺は人の姿が途絶えることはなかった。
川面には幾つもの舟が浮かび、舟の上からは、酒を酌み交わす声や楽しげな笑い声が聞こえていた。
提灯の明かりの下では、芸者と連れ立って歩く男や、恋人同士で肩を寄せ合う男女の姿が、方々で目に入る。
中には長い口付けを交わす者たちや、お互い腰掛けに倒れ込み重なり合う者まで様々な恋を奏でていた。
その喧騒から少し離れた柳並木の下。
腰掛けに座る武三郎は、両腕を組んだまま、憮然と柳橋を眺めていた。
「……嫌なところに来ちまったなあ。居心地悪ぃったらありゃしねえ」
「だからって、花街に消えないでよ」
「馬鹿言ってんじゃねえよ。誰がそんなことするかよ」
「どうだか」
向日葵は疑うように横目で武三郎を見る。
「もうすぐ女郎蜘蛛が出るかもしれないって時に、行くわけねえだろ」
向日葵の疑いの眼差しにうんざりする武三郎。
周囲を見渡せば、男女たちの楽しげな笑い声や、時折聞こえてくる甘い囁き声が、夜の柳橋に溶け込む。
武三郎はそんな光景から目を逸らすように、川面へ視線を向けた瞬、突然、武三郎の右腕に絡みつくような重みが走った。
よく見ると、向日葵の華奢な左腕が、武三郎の右腕に組まれている。
「……おい、向日葵」
「なに?」
「なに?じゃないだろう。何してんだよ」
「……別に」
向日葵は平然を装って柳橋へ視線を向ける。
「男女が普通に並んで柳橋を、ただ眺めていたら不自然でしょ。女郎蜘蛛だって警戒するかもしれないじゃない」
「だからって、くっつくこたぁねえだろ」
向日葵は挑発的な視線を向けると、口元を少しだけ吊り上げる。
「ふーん、普段は女の子をたらし込んでるタケでも、私相手じゃビビるんだ。へぇ~」
「なっ……!」
向日葵の挑発的な言動に即座に反応する武三郎。
「なめんじゃねえぞ。向日葵ごときを相手にビビるわけねえだろ」
「じゃあ、どうして顔が赤いの?」
「そりゃ夜風が暑ぃからに決まってんじゃねえか!」
「さっき、肌寒いって言ってたわよ」
「うるせえ!」
向日葵はくすくすと笑った。
「タケが、降参するなら組んでいる腕を解いてもいいよ」
「死んでもお断りだ、バカやろう。おめえこそ、さっきから組んでる腕が震えてんじゃねえか」
「むっ……!」
向日葵は図星を突かれ、頬を膨らませた。
「タケみたいなスケベ武者相手に、ビビるわけないでしょう!」
意地の悪い笑顔を向ける武三郎たが、額には大粒の汗が滴り落ちる。
「へっ、無理すんなよ。声も震えてるぜ」
「震えてない!」
「震えてんじゃねえか」
「震えてないってば!」
向日葵は更に意地になると、組んでいる左手を武三郎の右手に伸ばす。そして指を1本ずつ絡めると、そのまま、ぎゅっと握り締めた。
「……こ、これならどう?」
「……!」
武三郎の言葉が止まる。
「どうしたの?」
「……な、なんでもねえよ、指絡めたくらいでいい気になんなよ」
「ふーん。タケの顔、もっと赤くなってるけど?」
「うるせえな……人も多いから暑いだけだ、バカやろう」
武三郎は握られた手を見つめるも、振り解こうとはせず、むしろ絡んだ指へ、そっと力を返す。
「……おめえだって、無理が祟って顔真っ赤になっちまって、人のこと言えねえじゃねえか」
「これは……その……」
向日葵は顔を真っ赤にしながら言葉に詰まる。
「夜風が暑いのよ」
「さっき涼しいって言ってたぞ」
「……タケのせいよ」
「おいらのせいかよ」
「そうよ……これは全部タケのせい!」
向日葵は少しだけ身体を寄せると肩が触れ合う。
武三郎の身体がぴくりと強張った。
「……も、もしかして、私にドキドキしてる?もう、降参する?」
「バ、バカやろう……こんな蚊が刺したようなもので、ドキドキするわけねえだろ」
先程までお互い勝ち気な物言いが、途端に影を潜め始める。
囁くような小声となり、強く言い切れなくなっていた。
「本当に?無理してない?」
「おう。そう言う向日葵こそ、無理してねえか?」
「別に無理していないし……」
向日葵は身体を傾け寄せると、武三郎の胸へそっと頭を埋めた。
「……お、おい、まだやんのかよ!?」
「やる……絶対、タケを降参させる」
「……胸に顔を埋めるとか、反則だろう」
「何よ……女慣れしてるくせに」
武三郎は、平静を装おうと必死だった。
だが、平気な顔をしようとすればするほど、声は上ずり、視線は泳ぎ、身体まで妙に強張っていく。
隠そうとするほど、動揺が露わになっていた。
「お前……泣きそうな顔してるぜ」
「そんな顔なんて、してないわよ……」
向日葵はそう言いながら、武三郎の胸元に顔を伏せたまま離れようとしない。
その声は、いつもの勝ち気な調子と違い、ほんの少しだけ震えていた。
向日葵の声が、小さく震える。
「……心臓がうるさいの、我慢してるだけよ」
武三郎が横を見るとすぐ近くに、向日葵の整った顔立ち。
よく見ると、耳まで真っ赤にしている。
潤んだ瞳で、まっすぐに武三郎の顔を見上げる表情は、可憐に映った。
そう思った瞬間、武三郎の胸は急激に跳ねる。
向日葵に聞かれてしまいそうなほど、早鐘のように激しく鳴るのだ。
だが、意地になっている手前、思わずそんな言葉が口からこぼれる。
「お、おう、向日葵……もう限界じゃねえのか?根を上げるなら今のうちだぞ」
「タケこそ限界じゃないの?心臓の音が、すごく早くなってるじゃん……」
「……誰のせいだと思ってんだ、バカやろう」
武三郎は何とか踏ん張ろうと、絡めたままの手を、もう一度握り直した。
「……こうなったら、どっちが先に降参するか勝負してやるよ」
「望むところよ」
「吠え面かくなよ?」
「タケこそね」
2人はしばらく顔を見合わせていたが、やがて、どちらからともなく笑ってしまい、さっきまでの緊張が、ほんの少しだけほどけていく。
それでも、2人の距離は離れることはなかった。
しばらくして、向日葵がぽつりと呟いた。
「……ねえ、タケ」
「あん?」
「いつも女の子に、こんなことしてるの?」
「……えっ?」
武三郎の顔から笑みが消える。
向日葵の声は、軽口や冗談の響きには聞こえなかった。
頭上の柳の細い枝が夜風に揺れ、さらさらと葉が擦れ合う音が、静かな川辺に流れていく。
武三郎は、しばらく何も言わなかった。
絡めた指に、向日葵の温もりが伝わってくる。
「……こ、こんなことってなんだよ?」
「……こうやって、手を繋いだり」
向日葵は視線を落とす。
「女の子を、こんな風に近くに寄せたり……」
最後の言葉だけは、少し寂しそうだった。
川面を渡ってきた夜風が、2人の間をすり抜けると向日葵の髪がふわりと揺れ、武三郎の頬をかすめた。
「……何でそんなこと聞くんだよ」
「……別に」
「…………」
答えない向日葵に、武三郎は小さく息を吐くと、繋いだ手を握り直した。
「……ねえよ」
「……嘘つき」
硬い表情だが、潤んだ瞳で真っ直ぐ見つめる。
「嘘じゃねえよ……確かによ、女の子とは……まあ、いろいろあったけどよ、こんなにすげえ胸が暴れたこたあねえよ。こ、これでいいだろ?」
武三郎は照れくさそうに鼻を掻いた。
「…………」
向日葵の表情が少し安心したかのように柔らかくなる。
「……ふ、ふぅん、私ってタケをそんなにドキドキさせるんだ」
「……ああ、悔しいけどな」
武三郎は少しだけ迷ってから、まっすぐ向日葵を見る。
「……なんかよ、こんなになっちまう自分が、よく分からねえよ」
その言葉を聞いた瞬間、向日葵の胸が大きく跳ねた。
「……そうやって、いつも女の子、口説いてるんじゃないの」
「そうじゃねえよ」
「……」
「さっきからよ……心臓、本当にぶっ壊れそうなんだよ」
少し苦しそうに息を上下する武三郎。
実際、本当に呼吸が早まり、落ち着かせようにも収まらないのだ。
「おう、からかうなら、もうやめてくれよ」
武三郎は向日葵から視線を外しそっぽを向く。
「いくは、おいらだってよ……お前にこんなことされたら、余裕なんかねえんだからよ……これで満足だろ」
向日葵も息が詰まりそうになり、何も言えなかった。
ただ、繋いだ手にそっと力を込め武三郎も、その手を握り返すと、2人の間に再び沈黙が落ちた。
すると向日葵の右手が武三郎の左頬へ手が添えられ武三郎を自分に驚いて振り向かせた。
視線が重なる。
近い……息がかかりそうなくらい近い。
「……タケ、困ってる顔してる」
向日葵がそっと囁く。
「困ってねえ」
向日葵から視線を外す武三郎。
「じゃあ、こっち見て」
「見てるだろ」
「これで満足してないから……ちゃんと見てほしい」
向日葵の瞳が、まっすぐ武三郎を見つめる。
武三郎は目を逸らせなくなった。
向日葵の吐息が、かすかに頬へ触れる。
赤橙から橙、そして淡い金色へと柔らかく色づく髪が、左右のツインテールとともに夜風にそよいでいた。
その髪からは、ララリカの洗髪剤に混じって、ほのかな香水の匂いが漂ってくる。甘すぎない、淡い香り。
武三郎は、その香りを意識した途端、上手く言葉に出来ない意識が芽生えた気もする。
いつもなら 女の子相手の1人や2人、ひっつかれたところで、平然と軽口を叩いて、笑わせて遊ぶだけだ。
今も向日葵の悪ノリに便乗しただけなのに……相手にした途端、自分の調子が狂い始めた。抱き寄せるだけで、胸が暴れる自分に驚いてすらいたのだ。
この妙な感覚は何だろう?上手く表現できない。
喉がからからに乾いていく。
心臓が、耳元で鳴っているようにうるさい。
「……向日葵」
「なに?」
「おいら、何かヤバくなってきたから……離れてくれねえかな」
「タケが離れればいいじゃない……私だってヤバいんだからね」
「…………」
互いに意固地になっているのか、それとも離れたくないのか、わからなくなってきている。
「タケ……目、閉じないの?」
「……急に何だよ?」
「……なんでもいいじゃん」
向日葵が、気まずそうに顔を赤らめ目を伏せる。
「……降参するなら今のうちだぞ」
「しない……」
向日葵は……そっと目を閉じ、顎を上げる。
武三郎の身体が、ぴくりと強張った。
左手に絡んだ向日葵の指が、これまでにない力で、きゅっと強く握られる。
無意識に向日葵へと、ゆっくりと顔を近づける。
額が触れそうになる。
鼻先がかすかに触れる。
互いの吐息が混じる。
あと、ほんの少し。
唇と唇の距離は、指一本分もない。
向日葵の胸が、大きく上下している。
武三郎は目の前にある向日葵の顔を見つめながら、これまで経験したことのないほどの緊張を覚えていた。
自分でも驚くほど、手のひらに汗が滲んでいる。
「か、覚悟しやがれ」
紙一重の距離から2人の唇が触れるその瞬間。
「タケ、現れたべ」
「タケくん……やっぱり、向日葵ちゃんに手ぇ出してるじゃん」
「…………!!」
2人が同時に振り返った。
少し離れた柳の陰から、清志郎とあんずが、じとっとした目でこちらを見ている。
「お、お前ら……いつの間に!」
「さっきからいたべ」
清志郎が、しみじみ答える。
あんずは気まずそうに顔を赤らめながら、2人を交互に見る。
「柳橋に芸者さんが立っているのが見えたから、急いで2人のところに来たのに…… タケくんと向日葵ちゃんが、ずっといちゃついてるから……声かけづらかったんだよ」
「ごめん、あんず」
向日葵が真っ赤な顔で俯く。
「あ、いいの、いいの」
あんずはにっこり笑った。
「悪いのは、向日葵ちゃんを口説こうとしたスケベなタケくんなんだからね」
清志郎は向日葵と武三郎清を交互に見る。
「……声かけようにも……なんだか、邪魔しちゃいけねぇ雰囲気だったべ。かといって芸者女も出たさで、声掛けねえ訳にもいかなぐてよ。2人には悪ぃけどよ、続きは終わった後に楽しんでけろ」
「そ、そういうことじゃないから!」
飛び上がるように武三郎から離れる向日葵の顔は、耳まで真っ赤だった。
「そうだぞ! 恋人を装って柳橋を見張っていたんだ! 何もしてねえ!」
武三郎は珍しく慌てた様子で弁明するのだが、いつもの余裕ぶった態度は、どこにもなかった。
「タケくん。何もしてない人たちは、そんなに顔真っ赤にならないよ」
ここぞとばかりに、あんずが武三郎を攻める。
「……思いっきりキスしようとしてたよね?見ているこっちもメッチャ、ドキドキしたんだからね。パーティリーダーの向日葵ちゃんにまで手を出すんだから、油断も隙もないよね」
「モフ子も人聞きの悪いこと言うんじゃねえよ!」
顔を真っ赤にして叫ぶ武三郎に、あんずは意地の悪そうな笑みを浮かべた。
「これ…..おじさまが知ったら、カンカンだよ」
「…………」
武三郎の顔が、一気に青ざめる。
「……てめえ! 師匠には絶対に言うんじゃねえぞ」
「無理だべなあ」
清志郎が、しみじみと頷く。
「こういう話は、師匠と姐さんに報告したほうが面白いっちゃね」
「コノやろう!相方をネタにしようっていうのかよ!」
「キヨくん、アタシが報告しちゃうよ」
あんずまで、楽しそうに笑う。
「タケくんには、いっつも『モフモフする』っていう名目で、いやらしい手つきで身体を触られまくったし、依頼にも無理やり引っ張られたしねえ。これはもう、感謝してもし足りないなあ♡」
「お、お前……!」
絶句する武三郎に対して、あんずはさらに愉快そうに目を細めた。
「おじさま、どんな顔するんだろうねえ」
「おい、やめろ……それだけはやめろ」
「『タケくんが向日葵ちゃんと柳橋でいちゃいちゃして、キスしようとしてました』って言ったら……」
「あんず、流石にタケが可哀想だし……私もかなり恥ずかしい」
向日葵も止めに入るが、あんずは止まる気配すら見えなかった。
「きっと鬼みたいな顔になるだろうなあ。もしかしたら、刀を抜いて、タケくんをバッサリ……とかあるかもねえ?」
「団子で手を打とう」
武三郎が即答した。
「えっ?」
あんずが残念そうな表情を向ける。
「タケくんの命がかかってるんだよお?団子だけじゃ、天秤は傾かないと思うなあ」
「ならば……団子6本!」
「6本?」
「お萩6つ!」
「ほうほう♪」
「人形焼と揚げまんじゅうも付けよう!」
「うんうん♪」
「あと、西方のカステラも!」
武三郎が必死の形相で畳みかける。
あんずは顎に指を当て、わざとらしく考え込んだ。
「……そこまでアタシの事を思ってくれるなら、黙っててあげようかなあ♡キヨくんが証人だからね。約束を反故にしちゃダメだよ」
「おう、任せるべ」
「くうぅぅぅ……!」
武三郎は頭を抱えた。
「モフ子のくせに、脅迫しやがってぇ……」
「ふふ〜ん♡」
あんずは得意げに胸を張る。
その隣では、清志郎が肩を震わせて笑っていた。
「タケ、おめえ……完全に負けだべ」
「人を脅迫する巫女とか酷いだろう!」
柳橋の夜に、3人の騒がしい声が響く。
先ほどまで漂っていた甘ったるい空気など、すっかりどこかへ消え失せ、向日葵は恥ずかしそうに俯いていた。
頬はまだ赤い。
武三郎も、そんな向日葵の顔をちらりと見ると、お互いに目が合いそうになり、慌てて視線を逸らした。
さっきまでのことを思い出せば、どうにも気恥ずかしい。
それに、このまま清志郎とあんずにからかわれ続けるのは、たまったものではない。
「そんなことよりお前ら、女郎蜘蛛だろ!なあ、向日葵!」
「そ、そうよ!タケの言う通り、女郎蜘蛛が先よ!」
武三郎が、話題を逸らすように声を張り上げ、向日葵も慌てて顔を上げ、武三郎に合わせる。
だが、その声はいつもより少し上ずっていた。
互いに顔を見合わせるも、どちらからともなく、また顔を赤くして視線を逸らす。
「タケも向日葵も……誤魔化すのに必死だべな」
「うるせえ!テメェを女郎蜘蛛に投げこんじまうぞ!」
「キヨ……今夜、枕物に黒紐狐を忍ばせるから覚えていてちょうだい」
2人から同時に睨まれ、清志郎は肩をすくめる。
「はいはい。仕事するべ」
清志郎が柳橋へ視線を戻す。
武三郎も腰の刀へ手を添え、表情を引き締めた。
向日葵も顔を上げ、あんずは、祓串を握りしめる。
変わらず人の姿は多く、酒に酔った男たちの笑い声や芸者たちの艶やかな声。
川面を揺らす舟の櫓音。
無数の提灯が水面に映り、揺らめいている。
その賑わいの中、柳橋のたもとには、1人の女が静かに立っていた。
夜風に長い髪を揺らしながら、川面を眺めている。
年の頃は、20半ば程だろうか。
黒い生地に椿柄の着物に身を包み、細い帯を締めている。
その姿だけを見れば、花街を歩く芸者か、どこかの茶屋の女にしか見えない。
だが、清志郎が小声で呟いた。
「……ほれ、あの女だべさ」
「ああ、確かに芸者女だな」
武三郎の目が細くなる。
「いや待てよ…..おいら達は外で2時間ほど、ここで見張っていたけど、あそこに女なんていなかったよな?」
向日葵も頷いた。
「私たちがここへ来た時には、誰もいなかったはずよ」
あんずの犬耳が、ぴくりと動いた。
「……何だろう?あの人……穢れだけじゃなく、魔物にない淀んだ何かが漂ってる」
女は4人の視線に気付き、ゆっくりとこちらを振り向いた。
月明かりに照らされた顔には、穏やかな笑みが浮かんでいる。
女の視線が、真っ直ぐに武三郎たちへ向けられた。
「……こんばんは」
その声は、夜の柳橋には似つかわしくないほど、静かで甘かった。
だが、その瞬間、柳橋の空気が変わった。
さっきまで聞こえていた男たちの笑い声が、急に遠くなったように感じられる。
酒に酔った客たちの話し声も、芸者の三味線の音も、川面を叩く舟の櫓音も、どこか薄い膜を隔てた向こう側から聞こえてくる錯覚に陥る。
風が止まった。
柳の枝も動かない。
なのに、川面だけがゆっくりと揺れていた。
「……全員、構えろ」
武三郎が低く号令を出した。
その声には、先ほどまで情けなかった態度は微塵も残っていなかった。相手は冗談などは一切、通じる相手ではない。そう判断した瞬間、彼の全身から張り詰めた殺気が滲み出す。
清志郎が忍者刀の柄を握り、向日葵は震えを押し殺しながら懐から呪符を抜き、扇を構え、あんずは祓串を握り締める。
「……あの人、女郎蜘蛛かもしれない」
あんずの声は、かすかに裏返っていた。
「ああ、あれはヤバい奴だ」
武三郎は女から一瞬たりとも目を逸らさない。
女は、自分に警戒して構える4人など、気にも留めていない様子だった。
ただ、静かに微笑んでいる。
その姿だけを見れば、花街にいる女たちと何も変わらない。
整った顔立ち。
艶やかな黒髪。
月明かりを吸い込むような黒い着物。
細く折れそうなくびれ。
夜の柳橋に立っていても、誰も不審には思わないだろう。
それが、姿だけなら。
あんずの鼻が、自然と嗅ぎ分ける
「……この人、変な匂いがする」
「匂い?そう言えば、何か甘ったるい匂いがするような」
向日葵も周囲に漂う匂いに気付く。
あんずは芸者女を見つめたまま、何度も鼻をひくつかせ、咄嗟に危険を感じた。
「さっきより、ずっと強くなってる。術式張るね!」
祓串を握り祝詞を唱え始める。
「和慈天姫命、御心を賜りて此の地に在る御魂を、堅く護り給え──天姫・清天魂護」
あんずから対状態異常の術式が展開されると、次の瞬間、4人の足元から淡い光が広がっていった。
水面に落ちた月明かりのような光は、ゆっくりと4人包み込み、薄い膜となって身体の周囲へ張り巡らされる。
その直後だった。
ふわりと、甘い香りが鼻腔をくすぐった。
「……あ?」
武三郎の目が、とろんと細くなる。
「なんだ……この匂い……」
清志郎も、刀を握ったまま、ぼんやりと芸者女を見つめていた。
「……なんだべ……急に……気分が穏やかになってきべ……」
2人の身体から、すっと力が抜けかける。
頭の中に霞がかかり、先ほどまで張り詰めていた戦意が薄れていく。
だが、淡い光が2人の身体を包み込んだ瞬間、その霞が弾けるように消えた。
「……っ!」
武三郎が大きく頭を振る。
「い、今のは……」
「危ねえべ……」
清志郎も額へ手を当て、荒く息を吐いた。
あんずの術式が、2人の精神へ入り込もうとしていた異常を打ち消したのだ。
「すまねえ、モフ子!助かった」
「術式なかったら、ヤバかったべな」
2人の言葉に、あんずはほっと胸を撫で下ろした。
自分の術式が間に合ったことに、ようやく緊張が解けていく。
「よ、よかったぁ……」
あんずの犬耳が、へにゃりと力なく垂れたが、嬉しそうに尻尾を揺らしながら、胸を張った。
「えへへ……巫女さん、頑張りました!」
そう言った直後、向日葵が眉を寄せる。
「あの匂い……」
あんずも、すぐに周囲を見渡した。
「……町人たちにも匂いが届いてる!」
柳橋のたもとにいる、多くの町人が様子が一変していた。
酒を飲んでいた男が、杯を持ったままぼんやりと川面を眺めている。
芸者と歩いていた客も、足を止めている。
舟の上では、恋人同士が互いに寄り添いながら、どこか虚ろな目をしていた。
誰も、自分たちに何が起きているのか分かっていない。
「このままじゃ、みんな危ないかも!」
あんずの犬耳がぴんと立つ。
「向日葵ちゃん!式神で、あの人を足止めして!」
「わかった!」
向日葵が即座に懐から形代を取り出し印を結ぶ。
「影結び、闇に紐解け──急急如律令|──黒紐狐」
次の瞬間、形代は黒い糸のように解けると、一匹の黒い狐の姿をした式神・黒紐狐が姿を現した。
地面へ着地した黒紐狐は、低く身を伏せる。金色の瞳が芸者女を真っ直ぐに捉えた。
「狩る!」
向日葵の声と同時に、黒紐狐は地面を蹴った。
黒い影が夜の柳橋を駆け抜ける。
「小賢しい!」
芸者女の着物の裾から昆虫らしき奇怪な脚が2本飛び出し
黒紐狐迎え撃つ。
黒紐狐は真正面から飛び込むことなく、寸前で身体を横へ滑らせた。
──ザシュッ!
鋭い爪が、奇怪な脚を浅く切り裂く。
「ぐっ……!」
芸者女が身を捻ると、その瞬間、口元から白い糸が勢いよく吐き出された。
「キュッ!」
黒紐狐が横へ跳び退くと、白い糸は地面を覆い、その先にあった柳の幹へ絡みついた。
黒紐狐は柳の枝を蹴り、その反動でさらに高く跳ぶ。
月明かりを背に、黒い狐の身体が宙を舞うと、芸者女はすかさず白い糸を放ち、黒紐狐を捕らえた。
「狐さん、捕まえた」
奇怪な2本の脚を振り上げた、その瞬間だった。
黒紐狐の姿が、ふっと掻き消える。
女郎蜘蛛が目を見開く。
次の瞬間、黒紐狐は身体を黒い紐状に解くように流れると、女郎蜘蛛の背後へ現れ、間髪入れず鋭い爪の一閃をお見舞いする。
芸者女の背中が、黒い着物ごと切り裂かれ、赤い血が、夜の闇へ飛び散る。
「ガルルル……!」
黒紐狐は鋭い牙を剥き出しにして唸り、さらに後ろ脚へ飛びかかる。
「常世の使い魔風情が!」
芸者女が身体を捻らせると、奇怪な脚がさらに2本飛び出し、一斉に黒紐狐へ襲いかかる。
黒紐狐は地面を転がりながら、紙一重でそれをかわしたが
1本の脚が、黒紐狐の身体をかすめた。
「キュッ!」
黒い毛が数本、宙へ舞う。
「黒紐狐!」
向日葵が声を上げる。
黒紐狐はすぐに立ち上がった。
傷は浅い。
金色の瞳は、依然として女郎蜘蛛を睨みつけている。
「……なるほど」
女郎蜘蛛が口元を歪めた。
「術者の霊力もそこそこ高いと見える。主をただの式神と侮りすぎたわ」
その身体から、さらに濃い妖気が噴き出すと黒紐狐も低く身構えた。
両者が睨み合う中、柳橋の水面に、月明かりが揺れていた。
「あんず、今のうちに!」
あんずは懐へ手を入れると取り出したのは、小さな神楽鈴だった。
左手で柄を握り、胸元へ引き寄せる。
右手の祓串は握ったままである。
あんずは一度、深く息を吸った。
「……もっと、広く」
神楽鈴を、静かに振る。
──シャララン。
澄んだ鈴の音が、夜の柳橋へ響き渡った。
淡い光が、あんずを中心に波紋のように広がっていく。
もう一度。
──シャララン。
今度は、さらに遠くへ。
橋のたもとから川沿いへ。
旅籠の軒先へ。
そして、柳並木の向こうにいる町人たちへ。
神楽鈴の音が届くたび、4人を包んでいた淡い光の膜が広がり、その範囲を大きくしていく。
「和慈天姫命──」
あんずは神楽鈴を鳴らしながら、祝詞を唱える。
「御心の光を此の地に遍く満たし給え。
邪気を退け、惑いを祓い、此の地に在る御魂すべてを、御神威もて護り給え」
──シャララン。
──シャララン。
鈴の音が重なると淡い光が川面へ伸び、柳橋を包み込む。
甘い香りが結界の外から流れ込もうとするが、光の膜に触れた瞬間、すうっ、と霧が晴れるように消えていった。
「……あれ?」
ぼんやりしていた町人が、ぱちぱちと瞬きをする。
「俺……何してたんだ?」
「さあ……酒を飲んでたはずだが」
「なんだか急に頭がすっきりしたな」
舟の上でも、恋人たちが不思議そうに顔を見合わせる。
誰一人として、何が起きたのか理解していない。
ただ、甘い香りに奪われかけていた意識がとけて、次々と正気に戻っていく。
「間に合ったよ……」
あんずが小さく息を吐いたが、神楽鈴を止めない。
──シャララン。
──シャララン。
繰り返し響き渡る鈴の音と共に、術式・清天魂護の光は広がり続ける。
その神秘的な光に武三郎が目を見張る。
「モフ子……おめえ、あの術式を町全体に広げてんのか?」
「うん。この甘い匂いは『魅了』かな。あの女の人の妖術だと思う。意識を自分に向けさせ、無抵抗になったところを襲っていたんじゃないのかな?」
あんずは必死に鈴を鳴らし続ける。
「ねえ、タケくん、考えたくはないけど、もしかしたら、行方不明の人たちは……」
「喰われちまった……かもしれねえな」
犬人の巫女に『魅了』の妖術を祓い退けられた芸者女は、向日葵の放った黒紐狐に追い詰められていた。
先ほどまで浮かべていた妖艶な笑みを消し、その顔が、憎しみに歪む。
「……忌々しい巫女」
女の瞳が、ゆっくりと細くなる。
「討伐しに来ただけでなく、我の食まで邪魔だてするか?」
あんずの全身が、ぶるりと震えた。
怖い。
けれど、神楽鈴を握る左手は決して止めなかった。
──シャララン。
──シャララン。
神楽鈴の音が響くたびに、清天魂護の淡い光は夜の柳橋からじわじわと広がり、町一帯を優しく包み込んでいく。
杏色の髪は夜風に靡き、長い髪の隙間から覗く犬耳が、鈴の音に合わせるようにぴくりと動いた。
やがて、女の身体から、ぞわりと黒い妖気が噴き出した。
「……ならば、先に主から喰ろうてやろう」
「ひっ……!」
あんずの犬耳が、ぺたりと伏せられる。
女の身体が、大きく反り返った。
着物の背中が内側から膨れ上がり、骨の軋むような音が響く。
──みし。
──めき、めきめき。
「な、なに……?」
向日葵が息を呑む。
「……喰ろうてやる」
芸者女の顔は、瞳が細く吊り上がり、その奥に人ならざる光が宿る。
細い指先が、ぐにゃりと歪んだ。
爪が黒く伸び、指の形そのものが鋭い鉤爪へと変わっていく。
そして、着物の裾が、内側から大きく膨らんだ。
布地が裂ける音が夜の柳橋に響き渡る。
その下から、人の脚ではない、節くれだった黒い奇怪な脚が1本、2本と突き出した。
さらに2本、そして更にもう2本。
最後の2本が伸びた瞬間、そこにあったのは、もはや人間の女の姿ではなく異形そのもの。
上半身には、芸者の面影をかろうじて残している。
白い肌。
黒い着物。
そして、両腕に生えた鋭い鉤爪。
だが、その腰から下は完全に蜘蛛と化していた。
8本の黒い脚が地面を踏みしめ、節の一つ一つが不気味に軋む。
脚先が地面を擦るたび、じゃり……じゃり……と乾いた音が響いた。
妖魔・女郎蜘蛛が真の姿を現した。
「……我が姿を見ても、まだ抗うならば、頭から爪先まで喰ろうてくれよう」
女郎蜘蛛が、8本の脚をゆっくりと広げる。
その姿を目の当たりにしたあんずの犬耳が、ぴんと逆立ち、尻尾は両股に挟めるくらい巻いてしまう。
「ひ、ひぃっ……!」
喉の奥から、か細い悲鳴が漏れる。
「やっぱり、蜘蛛のまんまだったぁぁぁっ!ひぃぃぃぃっ!」
あんずの悲鳴が柳橋に響き渡る。
その悲鳴に合わせて『魅了』の妖術から解かれた町人も、異形の蜘蛛女に阿鼻叫喚となり、文字通り"蜘蛛の子を散らす"ように方々に逃げていった。
「タ、タケくん……!」
「おう!なんだモフ子」
「もう、いいよね!?」
「なにがだよ?」
武三郎は思った。
この流れは、とてつもなく嫌な予感がする。
「あとはよろしくね!さよなら〜!」
「は?」
あんずは神楽鈴を握り締めたまま、くるりと踵を返す。
「怖い!蜘蛛気持ち悪い!人と繋がった蜘蛛なんて生き物じゃないぃぃぃ!もうダメ!」
「あっ、逃げるなモフ子!待てぇぇぇ!」
あんずが逃げ出そうとした、その瞬間だった。
「逃がさぬ!」
女郎蜘蛛が地面を蹴った。
巨大な身体が宙へ舞い、あんずへ襲いかかる。
「させるか!」
武三郎が一歩踏み込んみ、腰の大太刀『黒蘭』を抜き放つと、青黒い刀身が、月明かりを受けて鋭く閃いた。
──ガキィンッ!
女郎蜘蛛の鉤爪と黒蘭が激突する。
凄まじい衝撃が武三郎の腕へ伝わり、足元にまで衝撃が伝わる。
「ぐっ……!」
「タケ!」
清志郎もすぐさま動く。
新調した忍者刀『夜凪』が月明かりを受け、黒々とした光沢を返しながら、女郎蜘蛛の側面へ回り込む。
「こっちは俺が引き受けるべ!」
女郎蜘蛛が8本の脚を大きく振り回す。
「甘ぇ!」
清志郎が身を沈め、紙一重で鉤爪をかわすと、そのまま『夜凪』振り抜いた。
──ギィンッ!
刃が黒い奇怪な脚を捉え、傷を負わせたが浅いものだった。
「硬ぇ……!」
清志郎が目を見開く。
女郎蜘蛛は低く唸り、8本の脚を広げて威嚇する。
「人間風情が……!」
「うるせえバカやろう!クソ虫の癖に偉そうにすんじゃねえ!」
武三郎が黒蘭を構え直す。
「おい、人喰いのクソ虫!悪ぃけど、おいら達4人がいる限り、人を食べ放題なんてさせやしねえぞ。なあ、モフ子」
「タケくん、アタシを戦闘に加えないでくれるうぅぅぅ!」
すでに数歩離れた場所まで逃げていたあんずが叫ぶ。
「このクソ虫、モフ子を先に喰いたがってたから、お前囮にして、それから斬りかかってもいいんだけどよ。どうする?喰わせていいか?」
「嫌ですぅぅぅっ!」
「だったら、ちゃんと支援してくれよな!そらよっ!」
武三郎が地面を蹴って踏み込むと、その勢いのまま、黒蘭を横一閃に振り抜いた。
女郎蜘蛛は咄嗟に顔を逸らすも、刃が鼻先をかすめ、白い肌に赤い切り傷が走った。
「ぎゃっ!」
女郎蜘蛛が悲鳴を上げ、後ずさる。
その顔には、鼻筋を横切る赤い傷が刻まれていた。
「へっ。幻斎の兄さん、中々の業物をよこしてくれたみてえだな」
武三郎が黒蘭の刀身を一瞥し、口元を吊り上げる。
その直後、女郎蜘蛛の背後を、清志郎が音もなく駆け抜けた。
「……そこだべ」
流れるような動きで夜凪を振り抜く。
刃は女郎蜘蛛の胸元を捉えると、黒い着物が裂け、その下の白い肌に、横一直線の赤い斬り傷が走る。
「ぐっ……!」
女郎蜘蛛が身体をよろめかせる。
顔には鼻筋を走る傷から血が一筋、頬を伝っていく。
女郎蜘蛛は鉤爪と化した右手を頬へ当て、血を払うと赤く染まったその鉤爪を、しばし無言で見つめる。
「……血」
ぽつりと漏らした声は、かすかに震えていた。
「この……我の顔に、傷をつけたというのか?」
女郎蜘蛛の瞳が、ゆっくりと細くなる。
その目に宿っていたのは、先ほどまでの余裕ではなかった。
怒りと屈辱。
そして、明確な殺意。
「虫けら共がああ!」
女郎蜘蛛は8本の脚を広げ、石畳を踏みしめたると、地面が震え、周囲の石が跳ねる。
「覚悟せい!」
女郎蜘蛛が上半身を低く沈め、両腕を左右へ広げる。
鋭い鉤爪と化した両腕そのものが、月明かりを受けてぎらりと光った。
「タケ、来るべ!」
女郎蜘蛛の正面、やや右に立つ清志郎が、武三郎へ声を飛ばす。
「ああ。分かってる!」
清志郎は夜凪を身体の前へ斜めに構えた。
その左隣では、武三郎が黒蘭を両手で握り直す。2人は互いの背後を守れる距離を保ち、女郎蜘蛛の正面を挟むように立った。
「向日葵ちゃん!」
「分かってる!」
あんずの叫びに呼応して、向日葵は2人の後方、少し離れた位置から扇子を開いて印を結ぶ。
その足元に淡い術式が浮かび上がる。
「黒紐狐──影砕き」
呼び声に応じ、式神・黒紐狐が向日葵の右側へ現れる。
そして、その影へ潜むように沈むと、次の瞬間、女郎蜘蛛の影から飛び出した。
「!」
虚を突かれた女郎蜘蛛の懐へ、黒紐狐が一気に潜り込む。
そして尾が黒い紐状へと解け、女郎蜘蛛の右側中央の脚へ絡み付く。
「砕く!」
向日葵の号令と同時に、黒紐狐の尾を引くと、鋭い切れ味の鋼線で締め上げるが如く、女郎蜘蛛の右中脚が大きく軋んだ。
──バキィッ!
黒紐狐の尾が絡みついた部分から、脚がまるで細かな糸へと分解されるように崩れ、引き裂かれていく。
「ぎゃあああああっ!」
女郎蜘蛛が絶叫した、その直後だった。
「おらぁっ!」
「そこだべ!」
武三郎と清志郎が、左右から同時に踏み込む。
黒蘭と夜凪。
2つの刃が、女郎蜘蛛の左右の前脚へそれぞれ食い込み、同時に斬り落とされる。
黒い脚が石畳へ落ち、どすん、と鈍い音を立てた。
「グギャアアアアアッ!」
8本あった脚のうち、3本を一瞬にして失った女郎蜘蛛のその巨体が、初めて大きく傾く。
「今だべ!」
清志郎が叫ぶ。
「おう!」
武三郎も続く。
「待って!」
向日葵の声が響き、駆け出す2人を制止した。
武三郎も清志郎も咄嗟に足を止めて、一旦体制を立て直す。
「……流石、賢しい小娘よのう。我の糸に気付いたか」
女郎蜘蛛が顔を上げる。
血に濡れた口元が、ゆっくりと吊り上がった。
その下半身、蜘蛛の腹部のその先端から白い糸が伸びていた。
1本、2本と細い糸は次々と吐き出され、地面や柳の幹、橋の欄干へと絡みついていった。
女郎蜘蛛と武三郎、清志郎の間にも、細かな白い糸が幾重にも張り巡らされており、向日葵が声を掛けなければ、間違いなく蜘蛛の巣に掛かった獲物と化したであろう。
月明かりを受けた糸が、銀色に淡く輝いている。
「……ちっ」
武三郎が舌打ちする。
「いつの間に、こんなに……」
清志郎も夜凪を構えたまま、周囲を見渡した。
細い糸は一本一本なら容易に切れそうに見える。
だが、何重にも張り巡らされたそれは、まるで巨大な蜘蛛の巣そのものだった。
女郎蜘蛛が、ゆっくりと口元を吊り上げる。
「脚などいくらでもくれてやる。後でまた生え変わるでな。それに……我を討伐せんとする、愚か者を逃がすと思うてか?」
中堅の妖魔・女郎蜘蛛。
師匠の深谷 万三郎の言う通り、今の武三郎達では一筋縄に行かない化け物だった。
第17話をお読みいただき、ありがとうございました。
今回は、女郎蜘蛛討伐へ向かう前の準備から、実際の戦いまでを描いたお話となりました。
まず、武三郎と清志郎が新しい得物と防具を手に入れました。
武三郎の大太刀は「黒蘭」。
黒曜鉄と玉鋼を用いて鍛えられた、重量と頑丈さを兼ね備えた大太刀です。
一方、清志郎の新しい刀は「夜凪」。
忍びとしての身軽さや扱いやすさを重視し、静かな抜刀ができるよう仕立てられています。
さらに、清志郎が使い慣れてきた苦無や鉤爪も、黒金幻斎によって改めて手が加えられました。
新しい武具を手にした二人が、これからどのように成長していくのかも、楽しみにしていただければと思います。
そして今回は、武具を仕立てた黒金幻斎と、万三郎のやり取りも描きました。
一見すると、昔からの付き合いがある者同士の軽妙な会話。
しかし、その言葉の端々には、弟子たちを案じる万三郎の親心があります。
「頑丈な得物と防具を揃えてこい」と言いながら、実際には、弟子たちが少しでも無事に帰ってこられるように準備をさせている。
万三郎は口も態度もかなり荒っぽい師匠ですが、弟子たちのことを誰よりも気にかけている人物でもあります。
幻斎もまた、そんな万三郎の意図を察しているからこそ、余計なことは言わず、武三郎と清志郎に必要な武具を仕立ててくれました。
こうした大人たちの不器用な親心も、この作品では大切に描いていきたいと思っています。
そして……今回は、武三郎と向日葵の二人にも、少し糖分多めの場面を入れてみました。
普段は勝ち気で、武三郎に対しても遠慮のない向日葵。
そんな彼女が、ふとした瞬間に見せる照れや戸惑い。
武三郎も武三郎で、普段なら女の子相手に動じないのに、向日葵のことになると途端に調子が狂ってしまう。
この二人については、急に恋愛一色になるのではなく、仲間として過ごす時間の中で、少しずつ互いを意識するような関係として描いていければと思っています。
そして後半からは、いよいよ女郎蜘蛛との戦いへ。
人の姿を取りながら、その正体は十年以上を生きた蜘蛛の妖魔。
人を魅了して捕食しようとする、蜘蛛としての恐ろしさ。(さすがに町中で人を捕えるくらいの蜘蛛の巣張れば1発で討伐対象ですからね。そこのところは考えました)
武三郎と清志郎は、新たな得物を手に女郎蜘蛛へ挑み、善戦はしているものの、どこまで戦い抜けるのか?向日葵は陰陽術で二人を支え、あんずも巫女として仲間たちを守れるのか?
次回、第18話で女郎蜘蛛討伐は決着する予定です。
新たな武具を手にした武三郎と清志郎。
仲間を支える向日葵。
そして、今回も最後に逃走を図ったあんず。
四人の戦いの行方を、どうぞ最後まで見届けてください。
それでは、また次のお話でお会いしましょう。




