第15話 『八千夜講』の者だと睨んでいる
◆ 主な登場人物
天峰あんず 通称:モフ子
浅草雷ギルド所属・六等級冒険者
16歳。犬人の巫女。本編の主人公。
怖がりの巫女。
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深谷 向日葵
浅草雷ギルド所属・六等級冒険者
16歳。只人の陰陽師。あんずたちのパーティリーダー。
冷静沈着で頭脳明晰な優等生。
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北上 武三郎 通称:タケ
浅草雷ギルド所属・六等級冒険者
18歳。只人の侍。パーティの前衛担当。
豪快で大雑把な江戸っ子気質の侍。
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兼風 清志郎 通称:キヨ
浅草雷ギルド所属・六等級冒険者
16歳。只人の忍者。パーティの前衛担当。
可憐な少女のような容姿をしている。
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レオ・ハワード
浅草雷ギルド所属・一等級冒険者
28歳。只人の戦士。
ララリカ合衆国出身。金髪碧眼の冒険者。
大振りのバスタードソードを操る。
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樹玄
浅草雷ギルド所属・一等級冒険者
78歳(只人換算年齢27歳)。森人の僧侶。
容姿端麗な森人で、法力を操り仲間を支える。レオとは六年来の親友であり、仲間でもある。
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深谷 万三郎
浅草雷ギルド・ギルドマスター
41歳。只人の侍。武芸の腕は相当なもの。
真愛凛の夫であり、向日葵の父親。また、武三郎と清志郎の芸人と武芸の師匠でもある。
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深谷 真愛凛
浅草雷ギルド・副ギルドマスター
35歳。只人の陰陽師。
高い霊力と陰陽師としての腕前は全国に轟くほどで、知識量も賢者と肩を並べるほど。
万三郎の妻であり、向日葵の母親でもある。
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御嶽 沙夜
浅草雷ギルド所属・三等級冒険者
19歳。只人の陰陽師。
美人と評判の陰陽師で、明るく気さくな人柄。
レオたちのパーティメンバーとして新たに加わった。
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朧滝 翠羽
浅草雷ギルド所属・三等級冒険者
30歳(只人換算年齢22歳)。森人の斥候。
沙夜と常に行動していたが、レオたちのパーティメンバーとして新たに加わった。
性格は真面目だが、お菓子や食べ物の誘惑には弱い。
朝の晴天の浅草。
町の通りには、行き交う人々の声が響き始めていた。
その一角に建つ浅草雷ギルドも、すでに朝の賑わいに包まれている。
元は武家屋敷だった建物を改装増築を施しているギルドの一階。
広々とした伺い所では、依頼を求める冒険者や依頼申請に訪れた町人たちが、受付の前に列を作っている。
「はい、こちらの依頼でしたら、現在も募集中ですよ。こちらお受けになりますか?」
受付カウンターの向こうでは、“モフ子”こと天峰あんずが、今日も笑顔で冒険者たちの応対をしている。
その隣では、深谷 向日葵が書類を整理しながら、次々と訪れる冒険者たちの対応に追われていた。
2人は普段、依頼のない日はギルドの受付嬢としてカウンターに立っている。
特にあんずは、自分の本職はあくまで「ギルドの受付嬢」であり、冒険者は誘われて仕方なくやっているだけだと、ことあるごとに声高らかに主張していた。
もっとも、その理由は立派な職務への誇りや義務感などではない。
依頼を受けて危険な冒険に出たくない。
怖い場所にも行きたくない。
恐ろしい目にも遭いたくない。
つまり、受付嬢という仕事は、あんずにとって何よりも安心できる“逃げ場”なのである。
「次の方、どうぞ」
すっかり受付嬢らしくなった2人の前へ、女性冒険者2名が歩み寄ってくる。
「おはよう、あんず。向日葵」
「あっ、沙夜姉様!翠羽姉様も、おはようございます!」
「沙夜姉、翠姉、おはよう!」
あんずが顔を上げ、嬉しそうに声を掛けた相手は、19歳の只人の陰陽師であり、三等級冒険者の御嶽 沙夜。
艶のある黒髪は肩口まで伸び、毛先には柔らかな癖がある。整った顔立ちには知性と穏やかさと少しばかりの色香が宿り、落ち着いた物腰も相まって、年齢よりも少し大人びた印象を与える。
身に纏うのは、白と赤を基調とした陰陽装束と腰元には携えた扇子。
五芒星の意匠が施され、向日葵と同じ、短めの裾と前掛けのような装いが、陰陽師としての格式を残しながらも軽快な動きを可能にしている。
その姿には凛とした美しさがありながら、どこか親しみやすい柔らかさもあった。
そして、沙夜の隣に立つのが朧滝 翠羽。
森人の女性斥候である。
長めの黒髪を可愛らしくまとめたポニーテールが背中で揺れている。
整った顔立ちに、均整の取れた身体つき。
美人と呼ぶに相応しい容姿でありながら、森人らしい長い耳と穏やかな瞳が、その印象をどこか柔らかくしていた。
白と深緑を基調とした装束は、身軽に動けるよう仕立てられており、その上には斥候として必要な道具をいくつも携えている。
知的で落ち着いた沙夜とは対照的に、翠羽は身のこなしも軽やかで、森人らしい独特の優雅さを漂わせる。
それが、翠羽という女性だった。
「朝から精が出るな、2人とも」
翠羽が、にこやかに声を掛ける。
「昨日まで浜芝村だったんでしょう?もう受付に立ってるなんて、感心するな」
「アタシは……まだちょっと疲れてますけど、ウチはいつも、朝が忙しいから休んでるわけにもいかないですし」
「偉い偉い」
「その代わり午前中で受付嬢のお仕事は終わりなので、午後からはお昼寝が出来ます」
「そかそか。私もあんずをモフりながら、ギュッて抱きしめてお昼寝したいなあ」
翠羽が笑いながら、あんずの頭を軽く撫でる。
「翠羽姉様……アタシ、ぬいぐるみじゃないです」
「あはは、ごめんごめん」
その隣で沙夜が小さく笑う。
「ふふふ。でも、無理はしないでね。さっきレナから聞いたけど、呪禁道の使い手とやり合ったんだって?」
「そうなんです。地鬼討伐と行方不明の冒険者探しで終わるはずが、物凄い重労働になりました」
「おまけに、祠の海竜様が祟り神にされる危険も孕んで、生きて帰れたのが不思議なくらいよ」
あんずと向日葵は、当時のことを思い出したのか、揃って疲れたようにため息をついた。
「大変だったんだね。皆が生きて帰れたのが不幸中の幸いだね。お疲れ様だよ」
沙夜と翠羽が、2人を労わるように目を細めると、向日葵が、沙夜と翠羽を交互に見ながら口を開いた。
「ありがとう。それで、2人とも今日は何の御用なのかな?」
沙夜が、はっと思い出したかのように身を乗り出す。
「あんず、向日葵。ちょっと聞いてよ!今、私たちのパーティは危機に陥っているのよ!」
沙夜が、いつになく深刻そうな言葉に、あんずの犬耳がぴんと立つ。
「えっ、沙夜姉様のパーティが危機に?何か事故でもあったんですか!?」
「沙夜、言い方……」
「ごめんごめん。そうじゃなくて…..」
翠羽に言動を指摘され、沙夜は慌てて手を振り修正する。
「うちの姉の星那がね。同じパーティの忠成さんと結婚することになったのよ」
「ええ!?」
向日葵が食いつくように身を乗り出す。
「あの二人、結婚するんですか!?」
「そうなのよ。それも昨日、聞かされたばかりなんだよ」
沙夜が困ったように眉を下げる。
「私も正直、驚いたよ。あまりにも突然のことだったからな」
隣にいた翠羽も、戸惑ったように頷いた。
「私もびっくりしたよ。まさか、いきなり結婚するなんてね」
そして沙夜は、少し声を落とした。
「……ここだけの話だけど、姉は忠成さんの子を身籠もったのよ」
「ええっ!?」
あんずと向日葵が同時に声を上げる。
「星那姉様、身籠ったんですか!? わあっ、おめでとうございます!」
あんずが嬉しそうに両手を合わせる。
「ありがとう!巫女様に祝福を受けたら縁起良さそう」
沙夜も微笑む。
「星姉って、おっとりしてて、のんびりした性格だったからさ。結婚はもう少し先かなあなんて、私たちの間で話していたんだよ」
「妹の私でさえ驚いたよ。身籠っているからね」
話自体、大変めでたく誰が聞いても祝福すべきことだ。
しかし、沙夜の表情は、なぜか晴れない。
「……それでね」
沙夜が、深いため息を吐く。
「そこが問題なんだよ。姉はしばらく冒険者を休業することになったの」
沙夜が、困ったように眉を下げる。
「お腹に子がいるからね。婿の忠成さんも、身の回りの世話やら何やらで、一緒に休業するらしいのよ」
「なるほど……」
向日葵も事情を察したように頷く。
「幸い、2人とも冒険者としてそれなりに稼いでいて、蓄えもあるから生活には困らないみたいだし、出産までは、しばらくは実家の御嶽家に身を寄せるから、そこは一切心配はないのよ」
「それなら、星那姉様も忠成さんも安心ですね」
あんずがほっとしたように笑う。
「うん。それは本当に良かったんだけど……」
沙夜の表情が、再び曇る。
「問題は、私たちのパーティ」
あんずも察してハッとした顔になる。
「沙夜姉様と翠羽姉様だけになっちゃうんですね」
「そうなの」
沙夜が肩を落とす。
「今まで4人だったのに、突然2人。さすがに三等級の依頼を2人だけでこなすのは厳しいものがあるからね」
「しかも、私たち一週間前に三等級へ昇格したばかりなんだよね」
翠羽も苦笑する。
「これから上の依頼にも挑戦していこうって時に、まさかこんなことになるとは思わなかったよ」
「それは確かに大変ですね……」
あんずが心配そうに2人を見る。
「それで、経験豊富で指導役になってくれるようなパーティメンバーを探しているの」
「どんな職業の人がいいんですか?」
今回はギルド嬢の立場であんずがパーティメンバーの希望を尋ねてみることにした。
「そうねえ……」
沙夜は少し考えてから、指を一本立てた。
「まずは前衛が1人、それから、回復役が1人」
「前衛と回復役ですね」
「そう」
沙夜は頷いた。
「できれば『口うるさい仕事できますよ意識高い系』冒険者は勘弁ね。頭が硬くて、凝り固まった価値観しかないから」
「……」
「あっ、男性も女性でもお断りだから」
「そこは男女関係ないんだ」
翠羽が呆れたように呟く。
「そういう人とは、私たちまず合わないからね。て言うか合う人がいたら不思議なくらい」
沙夜は真顔で言い切った。
「できれば、腕もかなり高くて、優しくて、頼り甲斐があって、大人な感じの男性冒険者がいいなあ」
両手を結び、夢見る乙女の眼差しを向ける沙夜に、向日葵は引き気味な表情を浮かべた。
「……あのね、沙夜姉。うちは縁結びの紹介所じゃないんだからね」
「ごめんごめん」
沙夜は苦笑する。
「姉さんと忠成さん2人もいなくなると、どうしても、ちょっとだけ高望みしちゃうのかも」
「ちょっとどころじゃないだろ。しょうのない奴だ」
翠羽が呆れたように沙夜を見る。
「沙夜は、冒険に色気を求めすぎだよ」
「だって、せっかく一緒に冒険するんだもの。少しくらい夢見たいじゃん。翠羽だってイケてる森人がいたら嬉しいでしょう?」
「はいはい」
翠羽は肩をすくめた。
「取り敢えず、私たちと気が合いそうな前衛と回復役がいれば、それで言うことないよ」
「いますよ!」
突然、あんずが声を上げた。
「え?」
沙夜と翠羽が同時に振り向く。
「姉様たちが希望する冒険者の人たち、ちゃんといますよ!」
あんずは嬉々と声を上げる。
「大人で、優しくて、包み込むような優しさの人が」
「……あんず?何言ってるの?」
戸惑ったように眉を寄せる向日葵に、あんずが笑顔で手を握ってくる。
「向日葵ちゃん。いるじゃない。心当たりのある人が」
「レオさん、樹玄さん!」
あんずの掛け声に、ギルドの酒場で朝食を取っていたレオと樹玄が、顔を上げる。
「やあ、おはよう!あんずに向日葵、よく眠れたかい?」
「おはよう。あんず殿も向日葵殿も、討伐を終えた翌日から受付嬢のお仕事とは精が出るな」
「お2人とも、おはようございます!」
「おはようございます。夜中に目が覚めたけど月を眺めて、また寝ました」
あんずと向日葵も、お辞儀をして挨拶を返す。
「あのぉ……今、話しかけても大丈夫ですか?」
「うん?構わないよ。何かあったかな?」
「ええとですねえ……お2人は、浅草雷ギルド所属の冒険者になりましたが、今後、パーティを組む予定とかありますか?」
樹玄が少し考えてから答える。
「そうだな。浅草雷ギルドで依頼をこなすには、我らもパーティ仲間を探そうと考えていたところさ」
「おお!」
あんずがぱっと顔を輝かせる。
「向日葵ちゃん!パーティメンバーが欲しいって!」
「ちょっと、あんず」
向日葵が慌てて止める。
「いくらなんでも急すぎない?レオさんも樹玄さんも、ここに来てまだ一日も経ってないんだから、少しは考えなさいよ」
「ええ~、だって沙夜姉様の希望にぴったりなんだもん」
あんずは悪びれもせず言う。
「凄く強くて、優しくて、頼り甲斐もあるし!」
「……どういうことだい?」
レオが苦笑する。
「良かったら事情を教えてくれるかい?」
向日葵からレオと樹玄に、先ほど沙夜から聞いた話を一通り説明した。
パーティメンバーだった、姉の星那と忠成が結婚することなり、しばらく冒険者を休業すること。
そのため沙夜と翠羽のパーティ2人だけとなり、新たな前衛と回復役を探していること。
話を聞き終えると、レオと樹玄は顔を見合わせ、笑いながら頷いた。
「なんだ、そういうことか」
レオが穏やかに笑う。
「俺たちは別に構わないよ。ただ、真愛凛さんの承認も必要だろうし、その2人のお目に、かなうかも分からないけど……それでもいいのかい?」
「うむ。我らは今まで男所帯のパーティであった故、その娘たちには、我々の存在に、むさ苦しさを与えてしまうかもしれんぞ」
「大丈夫です!レオさんと樹玄さんなら、逆にお2人が手放さないはずです!」
あんずが自信満々に胸を張りながら、にこっと笑みを浮かべる。
「沙夜姉様、翠羽姉様、聞いての通りです。レオさんも樹玄さんも、パーティを組んでくれるそうですよ」
「えっ?ちょっと、あんず!」
向日葵が止める間もなく、酒場の柱の陰から、ひょいと1つの顔が覗いた。
「……あんず」
明らかに、青ざめた顔の沙夜
「この人たち……ここでは見ない顔だけど......もしかして」
その隣から翠羽も、そっと顔を出す。
「今朝、掲示板に貼られてた……飛級の一等級冒険者の2人じゃ……」
「えっ?そうですよ」
あんずは、何でもないことのように頷いた。
「沙夜姉様と翠羽姉様に、ぴったりの冒険者でしょ?」
「…………」
「…………」
沙夜と翠羽が固まった。
ギルド嬢のあんず達に相談したのは良いが、紹介してくれた冒険者が、まさか、今朝から噂になっている一等級冒険者──レオと樹玄だとは思ってもいなかったのだ。
翠羽が小声で沙夜に囁く。
「……ちょ、ちょっと待って。ねえ、沙夜。真愛凛姐さんが口説いたっていう……昨日まで三等級冒険者だった人達だよ?」
「その2人が私たちのパーティに?ど、ど、どうしよう!?」
2人は顔は動揺の色を隠せないでいる。
「お嬢さんたちかな?パーティメンバーを探している2人というのは?良かったらこちらへどうぞ」
レオが穏やかに声を掛けた。
「うむ。我らも朝食を取っているだけ。お気になさらず参られよ」
「し、失礼します」
「お食事中、失礼する」
沙夜と翠羽は、妙に緊張した面持ちで2人の前まで歩いてくる。
「あ、あのう……」
沙夜が小さく息を吸うと、背筋をすっと伸ばし、楚々とした佇まいで声を出した。
「初めまして。私、御嶽 沙夜と申します。こちらは仲間の森人、朧滝 翠羽です。私たちは一週間前に三等級冒険者へ昇級したばかりです」
沙夜はそう告げると、もう一度、丁寧に一礼した。
「先ほど、あんずから聞いた通りなんです。今、私たち二人だけのパーティになってしまって……新しい仲間を探していたところなんです」
沙夜は、深々と頭を下げると翠羽も、それに倣って頭を下げる。
「よろしかったら……私たちとパーティを組んでいただけませんか?」
沙夜が深々と頭を下げる。
「そ、そんなに畏まらないで……」
レオは少し慌てたように手を振った。
「もし、俺たちが威圧的に見えていたっていうなら謝るよ。そんなつもりはないから」
「うむ。どうか面を上げて、気楽にしてほしい」
樹玄も穏やかに声を掛ける。
「我らの方が、ここではむしろ若輩者であり新参者。其方らもそう堅くならず願いたい」
2人の相手を気遣う、その言葉に沙夜はゆっくりと顔を上げた。
「こんなオジサン冒険者の俺たちでよければ、ぜひ一緒にパーティを組もう」
「我らも新たな仲間を探そうとしていたところだ。其方たちから声を掛けていただけるとは、拙僧らとしても大変助かる」
樹玄も静かに頷いた。
「これも仏が導く何かの縁よ。共に歩ませていただきたい。よろしくお願い申す」
「本当ですか!?」
沙夜の顔がぱっと明るくなり、翠羽と手を取り合い飛び跳ねる。
「よ、よかったぁ……!」
「ところで、君たちは朝飯は食べたのかい?」
レオが尋ねる。
「いいえ。先ほどギルドに来たばかりなので、これから食べようと思っていたところです」
沙夜が答えると、レオはにこりと笑った。
「パーティを組んで早々だけど、良かったら一緒にどうかな?せっかくだし、自己紹介も兼ねてね」
「わあ!ぜひ、ご一緒させてください!」
「わ、私も……喜んでお供します」
沙夜が嬉しそうに頷き、翠羽は少し緊張しながらも同意する。
「席を開けるから、こちらにどうぞ」
レオが2人のために席を空けると、沙夜も翠羽もすぐ着席した。
「今日は俺が奢るから、何を食べるか遠慮なく言って欲しい」
「うむ。これから共に冒険する仲間なのだ。まずは腹を満たし、互いを知るところから始めるとしよう」
「はい!」
「……よろしくお願いします」
こうして、4人は同じ卓を囲むことになった。
新たな仲間との、最初の朝食である。
「……あんず」
その様子を見ていた向日葵が、呆れたように呟いた。
「本当に、とんでもない人を紹介したね」
「えへへ」
あんずは嬉しそうな笑顔を向日葵に向ける。
こうして、新たな4人の冒険者によるパーティが、思いがけない形で誕生した瞬間となった。
ギルドの昼下がり。
穏やかな陽射しが、縁側を柔らかく照らしている。
休憩中の真愛凛も縁側に腰を掛け、庭を眺めながら一息たいていると、ひゅうと風を切る音がした。
次の瞬間、一羽の白い烏が庭へ舞い降りる。
真愛凛の式神・白蓮。
普段は真愛凛から「白太郎」と呼ばれている式神烏である。
海竜の祠へ赴いた際にも、国侍を呼び寄せるために使役した烏だった。
今回は真愛凛の命を受け、遠く港町の小田瓦まで赴いていた。
「白太郎、ご苦労さま。どうだった?」
真愛凛が声を掛けると、白蓮は翼を畳み、静かに首を傾げた。
「言いつけ通り、用は済ませたぞ」
「そうかい。それなら上出来だよ」
「……ただな」
「ん?」
「数馬という侍の訃報については、ギルド長のジグルドとかいう厳つい男も、矢尾津家の身内も、相当な衝撃を受けて悲嘆に暮れていた」
真愛凛の表情から、笑みがわずかに消える。
「……そうかい」
「うむ」
白蓮は、しばし沈黙するも、再び語り始めた。
「正直に言えばな、我も少なからず、心を揺さぶられるものがあった」
真愛凛は白蓮を見つめた。
人の心など解さぬとされるはずの式神。
それでも長く人と共に在り、人の生き死にを見てきた白蓮には、感じるものがあったのだろうか。
それとも、人と身近に距離を置く式神たちは、人の心や感情を理解し、待ち合わせるに至ったのだろうか。
「……あんたも、そういうことを言うようになったんだねえ」
真愛凛は、好奇さと興味を示すように笑った。
「幸か不幸か……お主らと長く一緒にいるうちに、人というものについて、要らぬ知識まで身についたものよ」
白蓮が、どこか忌々しげに羽を揺らす。
「私は、それで良いと思うけどね」
真愛凛がくすりと笑った。
「忌々しいことよ」
白蓮は素っ気なく言い切る。
「まあ、よい。それから、かの者たちから伝言を預かっておる」
「誰からだい?」
「まず、港町のギルド長、ジグルドからだ」
白蓮は翼をわずかに広げる。
「戦士と僧侶の浅草雷ギルドへの移籍を、快く了承するそうだ」
「へえ」
「数馬を犠牲にしてしまったこと。そして、危険な任務へ赴かせてしまったことへの後ろめたさもあるらしい」
真愛凛は静かに頷く。
「それから、お主にはこう伝えてくれと言っておった」
白蓮は真愛凛をまっすぐに見つめた。
「レオと樹玄の救出、朱音の討伐、数馬の亡骸を回収、葬儀の手配に至る心尽くしに感謝すると。それから……レオと樹玄をどうかよろしく頼む──とな」
「……そうかい」
真愛凛は静かに頷いた。
「ありがとうよ。ジグルドには、いずれこちらから出向いて、きちんと挨拶しないとねえ」
「うむ。それが筋というものだろうよ」
白蓮は一度頷くと、続けて口を開いた。
「それから、数馬の遺族である矢尾津家からも伝言がある」
「数馬の……」
真愛凛の表情が引き締まる。
「訃報を受け、父、母、姉の三人が浅草へ向けて船で出発した。到着次第、お前たちの下に、ご挨拶に伺うとのことだ」
「そうかい……」
「早ければ1日。遅くとも1日半ほどで、浅草へ着くだろう」
真愛凛は、しばし黙って海の方角へ目を向けた。
「……家族が迎えに来てくれるんだねえ」
ぽつりと呟き、穏やかな笑みを浮かべる。
「……良かったねえ、数馬」
その声には、安堵とともに、拭いきれない哀しみが滲んでいた。
もう生きた姿で会うことは叶わないが、それでも最後には家族のもとへ帰れる。
そう思うと、真愛凛の胸には、ほんの小さな救いが灯った。
それからの2日間、数馬を送り出す日々となった。
お通夜と葬儀は、浅草にある厳命寺で、しめやかに執り行われた。
厳命寺の住職は、初老の僧侶──鉱人の天厳
かつては一等級まで昇り詰めた元冒険者であり、幾多の戦いを経て、生と死を見届けてきた人物である。
長年の歳月を重ねたその佇まいには、僧侶としての静けさと、幾多の修羅場を潜り抜けてきた者だけが持つ、確かな貫禄があった。
冒険者を引退した後は、この厳命寺の住職となり、長きにわたって武家、町民、冒険者など分け隔てなく、亡き者たちの魂を弔い続けている。
そのため、浅草では冒険者の間でも、厳命寺を訪れる者は少なくなかった。
そして今日は葬儀当日。
祭壇の前で天厳の読経が静かな堂内に響く。
低く、途切れることのない声に包まれている間だけは、誰もが沈黙したまま、ただ静かに、数馬の魂を送っていた。
参列したのは、数馬の遺族である矢尾津家の父・道三、母・奈々、姉・ほのかの3人。
そして、6年来の仲間だったレオと樹玄。
浅草雷ギルドからは、ギルドマスターの万三郎と真愛凛。
武三郎、清志郎、向日葵、あんずの六等級の4人。
さらに、レオと樹玄の新たな仲間となった、沙夜と翠羽も同席していた。
その後からギルド受付嬢たちや、一等級をはじめとする各等級の冒険者たちも参列。
数馬とは直接、面識もなければ、言葉を交わしたことすらないのに、それでも、仲間を守り壮絶に散った勇敢な侍を悼み、同じ冒険者として、1人の仲間として送り出すために集まったのだった。
──お通夜の日。
レオと樹玄は、棺の前からほとんど動かなかった。
レオは何度も数馬に声をかけようとした。
いつものように軽口を叩こうとした。
だが、喉の奥で言葉が潰れ、結局、何も言えなかった。
そんなレオの手を、沙夜がそっと握ってくれた。
その温もりは、レオの悲しみや喪失感を、少しずつ癒していくようだった。
今はただ、この温もりが傍にあることが、何よりもありがたかった。
樹玄もまた、深く頭を垂れたまま、長い間動かなかった。
生前、何度も数馬を正座させては説教していた。
だからこそ、自分たちを置いて旅立ってしまった数馬にも、いつものように説教してやろうとした。
だが……。
いざ声を掛けようとしても、上手く言葉が出てこない。
握り締めた拳だけが、わずかに震えてるのみで、言葉にならない喪失感が、ただ胸の奥へ積もっていく。
そんな樹玄の背中を、翠羽がそっと撫でていた。
何を言えばいいのか分からないのに、それでも、ただ傍にいて、少しでも落ち着かせようと懸命に寄り添ってくれていたのだ。
パーティを組んで間もない、悲しみに暮れる自分たちに、沙夜と翠羽がいてくれたことは、何よりの救いだった。
──葬儀が終わり、数馬が荼毘に付された後。
遺骨を手にした父・道三と、悲しみに暮れる母・奈々、姉・ほのかが、浅草雷ギルドを訪れた。
ギルドマスターの万三郎と、副ギルドマスターの真愛凛を前にすると、家族は深々と頭を下げる。
そして、息子を最後まで気に掛け、送り出してくれた浅草雷ギルド全員に、幾度となく御礼と感謝を伝えた。
その姿を前に、万三郎も真愛凛も、いつもの軽口は一切、叩くことなく、ただ静かにその言葉を受け止め、子を失った家族に心から親身に接した。
武三郎、清志郎、向日葵、あんず達は、数馬の強さと勇敢さを決して忘れず、心に刻み精進することを、両親と姉に誓うのだった。
冒険者たちからも、勇敢さを称賛する声、その死を惜しむ声、冥福を祈る声が飛び交う。
そして、レオから数馬が身に着けていた遺品が、家族へ手渡され、一つ一つ大切に受け取っていった。
折れた小刀も、印籠も、数馬が身につけていた小さな品々も。
遺品に残された傷は、刻まれた年月も、そのすべてが数馬の生きた証として、家族のもとへ帰っていった。
そして最後に、数馬が愛用していた大太刀。
このまま持っていくことも悩んだが、やはり遺族に返すべきだろうと考えたのである。
「……この大太刀も、お返しします」
レオがそう告げると、矢尾津家の誰もが静かに首を横に振った。
レオと樹玄は、数馬の大切な仲間だった。
共に旅をし、共に戦い、背中を預け合った。
それは、もはや「仲間」という言葉だけでは言い表せない。
家族と呼んでも良いほどの存在だった。
それならば、数馬は仲間のまま、これからも先の未来への旅にも連れて行ってほしい。
その想いを、矢尾津家の人たちは、大太刀とともに、レオたちへ託したのだった。
道三が差し出した大太刀を、レオはすぐには受け取れなかった。
鞘に施された細かな傷が、これまで数馬が歩んできた道のりを物語っているように見えた。何度も握られた柄には、手の脂が染み込み、布の巻き目にはわずかなほつれがある。
レオはゆっくりと手を伸ばした。
指先が鞘に触れる。
ひやりとした感触が掌へ伝わった。けれど、その冷たさの奥には、長い年月のあいだ数馬が握り続けてきた温もりが残っているようだった。
父の手から大太刀の重みが移る。
ずしりと腕にかかる重さに、レオは息を詰めた。
これは、ただの武器ではない。
数馬という一人の仲間が生きた証。
そして6年間、3人で共に旅をしてきた日々。
そのすべてが、この大太刀の重さと手触りに刻まれているようだった。
レオは顔を上げた。
目の前では、数馬の父・道三も唇を固く結び、必死に涙をこらえている。母・奈々も両手を胸元で握り締め、肩を小さく震わせ、姉・ほのかも大太刀を見つめている。目元を赤く腫らし俯いたまま何度も涙を拭う。
隣に立つ樹玄も、黙って大太刀へ視線を落としていた。
その横顔には、悲しみと決意が浮かんでいる。
レオは大太刀を両手で握り締めた。
「数馬を……これからも、俺たちの旅へ一緒に連れて行きます」
声は静かだったが、震えていたが、レオは意を決したかのように、大太刀を胸元へ引き寄せる。
鞘が胸に触れ、その重みが確かな存在として伝わってくる。
「数馬が見られなかった景色を、俺たちが見せます」
道三の目から、とうとう涙がこぼれ落ち、奈々は口元を押さえ、声を殺して泣いている。
「数馬が歩けなかった道も……俺たちが歩きます」
その言葉を聞いた、ほのかは涙を流しながら微笑んだ。
誰も、すぐには言葉を返せず、ただ、レオの腕の中にある大太刀を一点に見つめていた。
そこに、数馬の姿を重ねるように。
やがて道三が一歩前へ進み、レオの肩へそっと手を置いた。
その手は震えていた。
「……数馬は、かような良き友に恵まれたのだな。父として、これほど嬉しきことはない。これからも……息子を、数馬をよろしく頼む」
大太刀と共に託したことを確かめるように、ただ静かに触れていた。
「お任せくだされ。我ら3人の絆は、決して揺らぐものではございません」
樹玄は両手を合わせ、深々と頭を下げ、レオもまた力強く頷く。
2人の姿を見つめながら、道三は静かに目を閉じた。
その表情には、ほんのわずかな安堵が浮かんでいた。
大太刀は、もう一度、数馬とともに旅へ出る。
残された仲間たちと、この先の時間と歩んでいくために。
数馬の葬儀を終えた翌朝。
浅草雷ギルドの執務室兼楽屋。
部屋の中央に置かれた掘り炬燵を囲むように、向日葵たちのパーティ4人と、レオたちのパーティ4人が座に着いていた。
8人を呼び集めたのは、ギルドマスターの万三郎と副ギルドマスターの真愛凛である。
新たなパーティを組むことになったレオと樹玄を交え、今後の活動について説明する旨が伝えられている。
「先日は、あんずと向日葵に相談して正解だったよ」
沙夜がレオと樹玄へ向き直ると、改めてあんず達に礼を述べた。
「私たちにぴったりの仲間を紹介してくれて、本当にありがとう」
「こちらこそ。沙夜姉様と翠羽姉様に気に入ってもらえて、アタシも嬉しいです」
あんずが笑顔で答える。
「うむ。我らも良き仲間を得られたこと、心よりありがたく思っているよ。あんず殿、向日葵殿には感謝に絶えない」
樹玄も穏やかに頷いた。
そんな和やかな空気の中……。
「しかしよぉ……レオの兄ちゃんと樹玄の兄ちゃんは、ずるいよなあ」
武三郎が、ぼそりと呟いた。
「……?」
レオが首を傾げる。
「何がだい?」
「いや、だってよぉ」
武三郎は沙夜と翠羽をちらりと見る。
「こんな美人2人とウハウハなパーティを組めるんだぜ?そりゃあ、ちょっと不公平じゃねえか。おいらなんて脚で首締め付ける陰陽師と、連れて行くのも難儀してる巫女だぜ」
「んなっ!」
「なあっ!」
向日葵の眉が跳ね上がり、あんずは、むっと頬を膨らませた。
次の瞬間、ぐしゃっといつ音が掘り炬燵の足下から聞こえたと同時に、武三郎が悲鳴を上げる。
「いってぇ!」
向日葵が、隣に座っていた武三郎の足を思いっきり踏みつけた音だった。
「いてえな、バカやろう!」
「ふん!悪かったわね、美人じゃなくて!もう一回締め付けようか?」
「ええ……いえ、もう勘弁して下さい」
武三郎が言葉に詰まり、引き気味になる。
その隣では、あんずも呆れたように頬を膨らませた。
「タケくんって、本当に最低だよね!自分が女性を選べる立場なの?」
「いや、そういう意味じゃ……」
「じゃあ、どういう意味よ!」
向日葵が睨みつける。
すると、翠羽が呆れたように口を挟んだ。
「タケ、向日葵もあんずも、充分過ぎるとほど可愛いし、将来が楽しみな美人だぞ。冒険者たちからも人気あるし、声かけてくる奴も、見かけるしな」
「そうそう」
沙夜も苦笑する。
「タケは照れ屋で素直じゃないからね。向日葵も苦労するだろうけど、タケも本気で言ってるわけじゃないから、根気強くよく仲を深めようね」
「そ、そんな風に思ってないし!」
向日葵は顔を真っ赤にして、ぷいっと横を向いた。
その様子を見て、武三郎は頭を抱える。
「勘弁してくれよ……こんなのとよぉ」
完全に項垂れた、その瞬間。
──ぐしゃっ!
「いてえなあ!何なんだよぉ?」
再び足を踏まれ、武三郎が情けない声を上げて飛び上がる。
「ふん!」
向日葵はそっぽを向いたまま、腕を組んだ。
その時だった。襖が勢いよく開き、大声が響き渡った。
「おはようさんだ!バカヤロウ!」
万三郎と真愛凛が、姿を現すとそのまま、空いている正面側の座へ腰を下ろした。
すると、武三郎が意味ありげに、にやりと笑う。
「師匠、遅かったですねぇ」
「あん?何でえ、藪から棒に」
「真愛凛姐さんが、あまりに魅力的だからって、朝まで布団の中で頑張り過ぎて、寝坊したんですよね」
万三郎も武三郎の『振り』に即座に反応。
「そうなんだよぉ、昨日の夜、真愛凛があまりに迫るから、頑張り過ぎて、腕立て、腹筋、背筋鍛え上げちゃったよ……ってバカヤロウ!何で俺がそんなこと、白状しないといけないんだよ!」
「師匠、即身仏かと思ったべな。姐さんに体重の半分、もってかれたんだべ?」
「おうよ!真愛凛の奴が水一滴も飲ませてくれねえからよ、肌カサカサ、皮膚はしわしわ、骨の髄まで一夜干!ってキヨ!お前も振ってくるのかよ!」
怒鳴りながら突っ込む割には、万三郎もどこか嬉しそうな表情を浮かべていた。
このネタ振りと突っ込みの応酬は、師弟にとって、もはや挨拶のようなものだった。
万三郎は、弟子である武三郎や清志郎に芸人としての感性を身につけさせるため、普段から日常の中でもボケとツッコミを拾っていくよう、徹底して叩き込んでいる。
そんな師弟関係をよく知る真愛凛も、思わずくすっと笑った。
「何言ってるんだい。あんたなんて、1回で虫の息じゃないのさ。皆の前だからって、つまらない見栄張るんじゃないよ。ほら、両足もガタガタになってるじゃないのさ」
「おっとさんも、おっかさんも娘の前でやめてよ!」
顔真っ赤にして怒鳴る向日葵。
芸人としての修行の一環なのだろうが、ネタがネタだけに娘の前で、それは恥ずかしすぎた。
「タケくん、キヨくんも……向日葵ちゃんの前で、おじ様と真愛凛姐様を『夜のネタ』でいじるのは、めっ、だよ」
あんずは困ったように眉を下げながらも、2人を責めるのではなく、そっと諭すように微笑んだ。
「向日葵ちゃん、普段は凶暴で腹黒で鬼かもしれないけど、こう見えて乙女なんだからね」
「あんず……今、聞き捨てならないこと言わなかった?」
向日葵はにこりと笑うと、あんずの頬をむにっとつねった。
「いたたたたっ!向日葵ちゃん、痛いよぉ!」
「ここに、お仕置きが必要な子がいるみたい」
「ご、ごめんなさいぃ!」
あんずは涙目になりながら、向日葵の手から逃れようと身をよじった。
その様子を見て、沙夜と翠羽は声を上げて笑った。レオと樹玄も、微笑ましそうに、戯れ合う2人を見つめている。
「ネタとしては面白いけど、朝から品のない話をするのは駄目よ。せめて向日葵がいないところで言わないとね」
「私がいないところでも勘弁してよ!」
沙夜にたしなめられ、向日葵は顔を真っ赤にして憤慨すると、その反応に、今度は一同がどっと笑いに包まれた。
「さて、朝から空気も暖まってきたところで、本題に入ろうかい!」
万三郎がパンと手を叩き、声を上げる。
「まずは沙夜と翠羽だ。新しいパーティメンバーはレオと樹玄をご指名だったな」
「はい。あんずと向日葵が紹介してくれたんですよ! 師匠と違って、大人で、優しくて、紳士的な方たちだから」
沙夜が満面の笑みで、嬉しそうに頷く。
「師匠と違って、会話も態度も品があって……それに、とても頼り甲斐がありますし」
翠羽も不満なしと言わんばかりの笑顔を向けた。
「ええ!?それ俺を目の前にして、言っちゃうの?……流石の俺も刺さっちまったよ」
万三郎が傷付いた顔で項垂れる。
「何、傷ついてるんだい。普段の行いが招いた結果なんだから、文句はないさね」
真愛凛が呆れたように言う。
「うぐっ……ってタケ!キヨ!お前ら笑いすぎだろ、バカヤロウ!」
万三郎が、腹を抱えて「ひーっ、ひーっ」と笑う武三郎と清志郎を、顔を真っ赤にして睨みつける。だが2人は止まらない。武三郎は膝を叩き、清志郎は涙まで浮かべている。
「いやぁ、師匠のその顔、滅多に見られねえからよ」
「んだべ。今日は朝から縁起がいいべな」
「人の不幸のどこが縁起もんなんだよ!」
万三郎が怒鳴ると、弟子の2人は一瞬だけ口をつぐんだが、次の瞬間。
「ぷっ……」
「くっ……ぶはっ!」
「てめえら……覚えてろよ!」
万三郎は言葉に詰まり、ぐうの音も出ずにいた。
「師匠殿。我らとしても願ったりですよ。若くして三等級冒険者に昇級出来るほどの面子です。我々としてもありがたいこと」
樹玄が静かに頷く。
「俺たちも思わぬ良き出逢いに恵まれましたよ。さすが精鋭揃いの浅草雷ギルドです。師匠と真愛凛さんには感謝しかありません」
「そうかい?」
万三郎は照れくさそうに頭を掻く。
「まあ、うちはなぜか腕っぷしの立つ奴が多いみてぇだからな。沙夜と翠羽の2人を、よろしく頼むぜ」
「はい。こちらこそ」
レオが穏やかに頷いた。
「ところでよ、明日、矢尾津家の人たちと船に乗って小田瓦へ行くんだっけか?」
「はい。矢尾津家の皆さんの護衛も兼ねて、小田瓦のギルドマスターへ報告と挨拶に伺う予定です」
「ジグルドの奴か。会ったら、よろしく伝えといてくんな」
「分かりました。親父さんに伝えておきますよ」
「私たちも同行することになりましたので、しばらく浅草を離れることになりますね」
沙夜が明るく笑う。
「心機一転!新しい仲間との旅を、思いっきり満喫しましょう」
「うん。今度は4人で、のんびり旅を楽しめそうね」
「そうそう。浮かれるのもいいけど、矢尾津家の方々の護衛を忘れないようにね」
真愛凛が念を押す。
「分かってますよ、姐さん」
翠羽が笑顔で答えた。
「ちゃんと護衛も務めながら、新しい仲間との旅を楽しんできます」
「それと、向日葵たちの今後だ」
万三郎は腕を組み4人を順に見渡した。その視線に、場の空気がわずかに引き締まる。
「お前たちには、朱音討伐と海竜を祟り神から解放した功績がある。今回の報酬は、きっちり上乗せしておくぜ」
万三郎は豪快に笑い、拳で胸をどんと叩いた。
「本当ですか!」
向日葵が目を輝かせ、あんずと手を握り合う。
「あんず、やったね!」
「うん!美味しいもの沢山食べれる♡」
「服も装備も奮発できる!」
「浅草中の甘い物を制覇できるかも♡」
「使うところの重点はそこかよ。ったくしょうがねえなモフ子は」
あんずも嬉しそうに笑った。
武三郎と清志郎も顔を見合わせ、思わず頷く。
「へへっ、こりゃありがてえ」
「ありがたい話だべ」
4人の喜ぶ様子を眺めていた万三郎は、ふいに笑みを消した。何かを思い出したというより、あらかじめ知っていた事実を確かめるように、武三郎へ鋭い視線を向ける。
「……ところで、タケ」
「ん?」
万三郎はゆっくり身を乗り出した。長身の体が影を落とし、武三郎の前に圧がかかる。
「最近、夜になると姉ちゃん相手にイケナイ刀を振ってるそうじゃねえか」
武三郎の表情が、ぴたりと止まった。
「……なんで師匠が知ってんですか?」
万三郎は口の端を吊り上げ、低く笑う。
「バカヤロウ、俺を誰だと思ってやがる。ギルドの奴が何か起こしてもな、俺の耳には入ってくるんだよ」
豪快な口調とは裏腹に、その目は笑っていなかった。
「おめぇも年頃の男子だ。遊ぶなとは言わねえ」
万三郎は一度言葉を切り、武三郎をまっすぐ見据えた。口元には厳めしい皺を刻んでいるが、目の奥にはどこか面白がる光が浮かんでいる。
「けどな、節度を守るのも芸人として、人として必要なことだ。俺の弟子なら、そこんところは自分で見極めろ」
「す、すいませんでした」
武三郎は耳まで赤くしながら、素直に頭を下げた。叱られた気まずさを隠すように、膝の上で指を落ち着きなく組み替える。
「まあ、向日葵の目が光ってるんじゃ、そうそう下手なこともできねえだろうけどな」
「おっとさん!」
向日葵の頬が一気に赤くなる。慌てて両手を振り、万三郎を睨みつけた。
万三郎は、そんな娘の反応を楽しむように口の端を上げ、構わず続けた。
「だがな、タケ。俺はお前に、ウチの大切な向日葵はやらねえぞ」
「はあ?」
武三郎は思わず顔を上げ、ぽかんと口を開けた。
「芸人の女なんかにしてたまるかってんだ!」
「ええっ!?」
向日葵が素っ頓狂な声を上げ、両手で頬を押さえる。恥ずかしさと苛立ちが入り混じり、耳まで真っ赤だ。
「おっとさん、やめてくれる!タケと何かあるわけないでしょ!」
向日葵は身を乗り出し、武三郎を指さして抗議する。
「師匠……それはあまりに酷いですよ」
武三郎は眉を下げ、げんなりと肩を落とした。向日葵の方をちらりと見た途端、気まずそうに視線を逸らす。
「おいらが、なんで向日葵に惚れなきゃいけないんですか?こんな酷い拷問ったら、ありゃあしませんよ」
「タケぇ……!」
向日葵のこめかみに青筋が浮かぶ。にこやかに笑おうとしているものの、頬は引きつり、拳が小刻みに震えていた。
──ぼすっ!
「ぐはっ!」
向日葵の肘が、武三郎の右脇腹にめり込んだ。
「な、何しやがる!」
武三郎は目を見開き、腹を押さえて身をよじる。痛みに顔をしかめながらも、どこか大げさに騒いでいる。
「ほらぁ、こんな虐待受けているんですよ。たまったもんじゃありませんよ!こんな女と一緒じゃ、畳の上で静かに死ねませんよ」
武三郎が訴えると、清志郎が堪えきれない様子で肩を震わせ、にやにやしながら口を挟んだ。
「そう言いながら、タケは嬉しそうだべな。向日葵もずいぶんムキになってるべ。実際のところ気になるんだべ?」
清志郎は目を細め、2人の顔を交互に見ながら、いかにも愉快そうに笑った。
「うるせえ!てめぇはしゃべんじゃねえ!」
武三郎は顔を赤くして、清志郎の首に腕を回すと、照れ隠しのように乱暴な仕草で締め上げた。
「女みてえな顔しやがって!」
「タ、タケぇ……ぐ、ぐるじい……!」
清志郎は苦しそうに顔を歪めながらも、口元には笑みを浮かべ、じたばたともがく。
「キヨ……あとで覚えてなさいよ」
向日葵も笑顔のまま、低い声で呟いた。目だけが笑っておらず、清志郎をじろりと睨みつけている。
その様子を、万三郎は呆れた顔で眺めていた。やがて堪えきれなくなったのか、肩を揺らし、口元を手で隠す。
「……ったく」
万三郎はため息をつきながらも、目尻には愉快そうな皺を浮かべ、鼻で笑う。
「ガキのくせして、色気づいた青春しやがって」
「だから違うってば!」
向日葵は真っ赤な顔で叫ぶ声が、朝の執務室に響き渡る中、
その声が消えるより早く、真愛凛が静かに手を上げた。
「はいはい。じゃれ合いは、そこまでだよ」
穏やかな口調だった。だが、いつもの軽さはない。
真愛凛の一言で、部屋の空気がすっと冷えた。誰もが口を閉ざし、彼女の次の言葉を待つ。
「8人とも、これから本題を話すよ」
「何だべ?依頼の報酬の話だけじゃねえべか?」
清志郎が首を傾げる。
「俺たちみでえな六等級に、他さ用でもあるんだべか?」
「キヨ。忘れたとは言わせないよ」
真愛凛は、清志郎をまっすぐ見据えた。その目には、冗談を許さない鋭さが宿っている。
「海竜の祠で調査をしていた時に、呪具を回収しに来た連中のことさ」
「あっ!」
清志郎が息を呑み、顔から血の気を引かせる。
「無形の兄ちゃんと源蔵のおやっさんが始末した、黒傘の連中だべ?」
「そうさ。覚えているじゃないのさ」
真愛凛は頷いたが、その表情は硬い。
「沙夜と翠羽にとっちゃ、初めて聞く話だね」
真愛凛は2人へ視線を向ける。
「巻き込んじまって、すまないね。けど、レオと樹玄とパーティを組んだ以上、あんたたちにも関わってくる話だ。……それでも、聞いてもらえるかい?」
「もちろんです」
沙夜は背筋を伸ばし、真っ直ぐに頷いた。
「私たちでお役に立てることがあれば、ぜひお聞かせください」
「私も覚悟はできています」
翠羽も神妙な面持ちで頷く。
「真愛凛姐さんのお話なら、何なりとお聞きしますよ」
「そうかい。ありがとうよ」
真愛凛は2人を見つめ、僅かに表情を和らげた。
「それじゃあ……話すとするかねえ」
そう言って、真愛凛は一度だけ万三郎へ目を向ける。
万三郎も黙って頷いた。
先ほどまで笑い声の響いていた執務室に、再び静かな緊張が満ちていく。
「まず、黒い深編笠の連中についてだ」
真愛凛が口を開く。
「海竜の祠で、朱音が祟り神を降ろすために使った甕を狙っていた」
あんずの犬耳がぴくりと動く。
「あの甕を?」
「そう。あれはただの器じゃない。呪具だ」
向日葵が眉を寄せる。
「朱音が死んだ後も、回収しようとしていたの?」
「その通りさ」
真愛凛は一同を見渡した。
「問題は、奴らの正体だ」
部屋の空気が重くなる。
「奴らは名乗らなかった。だが、動きや使っていた呪術、狙った呪具から見て、『八千夜講』の者だと睨んでいる」
「八千夜講ですか?」
初めて聞く言葉に沙夜が尋ねる。
「表向きは、商人、武士、町人、学者、職人、農家などが集う普通の講組織さ。言うなれば、身分や生業それに種族を問わず、学問や知識を求める者たちが集う『社中』と呼ぶべきかねえ」
真愛凛は淡々と続ける。
「八千の夜を語り明かしても尽きぬほど、世には学ぶべきことがある。それが禁忌の知識であっても『知らずにいることこそ罪である』そんな思想の下に、あの者たちは繋がっているのさ」
真愛凛の口元に、かすかな笑みが浮かぶ。だが、それは知性を楽しむ者の笑みではなかった。
冷えた警戒の色が、その瞳の奥に沈んでいる。
「ただの好奇心なら、まだ救いはある。知識を求めることは悪じゃない。けれど、彼らは違う」
真愛凛の視線は鋭く、隙が見えないほど苛烈だった。
「人間の欲望、狂気、死、呪い……そして禁忌とされる知識までも、『知る価値のあるもの』として扱う。知識を得るためなら、何を壊し、誰を犠牲にしても構わない。そういう危うさを持つようになってねえ」
そこで言葉を切り、真愛凛はゆっくりと息を吐いた。表情から笑みが消える。
「彼らにとって、禁忌は『触れてはならない理由』にはならない」
低く呟いた声には、嫌悪だけでなく、相手の思考を読み切ろうとする冷静さが滲んでいた。
「むしろ……」
真愛凛の目が細められる。そこに宿った光は鋭く、同時にどこか危うい。禁忌の構造を理解しているからこそ、その深みにも手が届いてしまう者の目だった。
「『なぜ禁じられているのかを知るべき理由』になるのさ」
誰も口を挟まなかった。
真愛凛は沈黙を確かめるように、わずかに顎を引く。
「おそらく朱音も『八千夜講』に属していた可能性は高いねえ。でなければ、黒笠の連中がここまで早く嗅ぎつけることもないさね」
海竜の祠で起きた出来事を思い返し、真愛凛は目を伏せた。だが、そのしなやかな手は僅かに強く握られている。
「あの甕を、何のために回収しようとしていたのかは分からない。だけどねえ……これは、何かの始まりかもしれないよ」
真愛凛の表情には、これまでにない険しさが浮かんでいた。
「『理想の果ての狂人』とは、よく言ったものさね」
その言葉に、一同が不安と胸の奥がざわつくのを感じた。
まるで、払いきれない霧の中へ放り込まれたような気持ちだった。
「あの……姐様」
あんずが、おずおずと尋ねる。
「八千夜講の人たちって……『知識を追い求めることを理想』とするならば、それは、私たちの想像を遥かに超える存在を、降臨させることもあるんでしょうか?」
「おっ!」
真愛凛の声が、わずかに弾む。
「あんず、目の付け所がいいじゃないか」
「え?」
「じゃあ、ついでに聞いてみようか」
真愛凛が少し身を乗り出す。
「あんたは、それが何だと思う?」
「ええと……」
あんずは腕を組み、必死に考える。
「祟り神だけじゃなくて……人為的な『百鬼夜行』の開門とか『幽境開闢の儀』とか……それと……」
そこで、言葉が止ま止まり、あんずの犬耳が、しゅんと伏せられる。
「でも、これは……ありえないかなあ?」
「ん? 何だい。遠慮なく言ってごらん」
真愛凛に促され、あんずは恐る恐る口を開いた。
「……笑わないでくださいね」
「バカだねえ、笑いやしないよ」
「あの……それじゃあ言いますね。その『邪神大蛇』の降臨、とか……」
沈黙の波が押し寄せ、誰も言葉を発しなかった。
万三郎さえも、目を伏せ黙っている。
あんずは、その沈黙に耐えきれず、慌てて両手を振る。
「あっ……やっぱり今のなしです!アタシ、変なこと言ってますねえ。だって、2000年前の話なんですよ?そんなものが今さら……ねえ、向日葵ちゃん!」
向日葵は俯いたまま黙っていた。
そして、真愛凛はも一切笑わず、ただ、あんずをじっと見つめている。
「…………そうかい」
それだけだった。
その短い言葉が、かえって室内の空気を重くする中、真愛凛が、はっとしたように瞬きをする。
そして次の瞬間には、いつもの姉御肌の表情に戻っていた。
「まっ、何とかなるってもんさ!ねえ、あんた!」
「お、おう。そうだな!」
万三郎も大きく頷く。
「大蛇だか、お餅だか知らねえが、出てきたんならバッサリとやっちまえばいいんだよ!」
どこか歯切れの悪さを感じたものの、それでも、いつもの万三郎だった。
「おう!いいかオメェら。今の段階で『百鬼夜行』や『邪神大蛇』がどうこうって話じゃねえ」
万三郎が、改めて8人を見渡す。
「俺たちが警戒してんのは、黒笠のいけすかねえ連中が、何を探しているのか、何をしようとしているのかが、まだ分かってねえってことだ」
先ほどまでの軽口とは打って変わり、その声にはギルドマスターとしての重みがあった。
「だから、八千夜講に関わる怪しい動きを見つけても、勝手に首を突っ込むな。妙な連中を見かけたら、まずギルドに知らせろ」
万三郎の視線が、武三郎、清志郎、向日葵、あんず、そしてレオと樹玄に向けられる。
「特に、お前ら6人だ」
「俺たち?」
武三郎が怪訝そうに眉を上げる。
「そうだ。お前らは朱音を討ち、海竜を祟り神の呪縛から解放した」
万三郎は腕を組む。
「向こうからすりゃ、もう無関係な冒険者じゃねえ。顔も名も覚えられている可能性もある」
「……つまり、狙われる可能性があるってことですか?」
向日葵が尋ねる。
「可能性の話だ。オメェらは奴らにとって脅威でもなければ、襲って得る物もねえ。まあ、だが、相手の正体も目的も分からねえ以上、無茶はするな」
万三郎が言い切ると、真愛凛が8人を見渡した。
「それから、これからは1人で判断しないこと。レオと樹玄も、沙夜と翠羽も同じだよ。何か見つけたら、必ず皆で情報を共有して、ギルドにも伝えておくれ。いいね」
「わかりました。逐次、ご報告いたします」
レオが頷く。
「うむ。仲間を危険に晒すような真似は、拙僧も望むところではない」
樹玄も静かに応じた。
「よし!」
万三郎が不適な笑みで頷く。
「今回の件は、俺たちギルド側でも調べる。お前らは普段通りにしろ」
そして、いつもの調子を取り戻す。
「死んだ奴を送り出したばかりなんだ。焦って次の厄介事まで背負い込む必要はねえ」
8人は、それぞれに静かに頷くのだった。
そんな中、あんずの脳裏に真愛凛の眼差しが蘇る。
先程の真愛凛の「…………そうかい」という短い言葉が、妙に耳に残る。
あの眼差しは、何を意味していたのだろう?
いつもの気さくな真愛凛らしくない、あの短い言葉と眼差しは、いったい何を意味していたのだろうか。
いくら考えたところで、回答も結論も出ない。
(今度、落ち着いた時にでも、真愛凛姐様に改めて聞けば良いかな)
今は、それしか思いつくことが出来ない、あんずだった。
あとがき
第15話をお読みいただき、ありがとうございました。
今回は、数馬の葬儀を通して、残された仲間たちが送り出すお話でもありました。
6年間、レオと樹玄と旅をしてきた数馬。その形見である大太刀は、矢尾津家の遺族から2人へと託されます。
3人で旅を続けることは、もうできません。 それでも、数馬が生きた証と、彼らが過ごした日々は、大太刀と共に未来へ向かう再出発として描きました。
そして、レオと樹玄の前には、新たな仲間として沙夜と翠羽が加わりました。数馬を失った2人に寄り添い、ときに支え合いながら、これから大切な存在になっていくことでしょう。
別れの一方で、新たな出会いもあり、物語はこれからも、出会いと別れを重ねながら続いて行くのかなあと考えたりもします。
後半では、海竜の祠に現れた「黒笠の連中」の正体も、漠然とですが明らかになりました。
そして、八千夜講。
表向きは、身分や生業を問わず、学問や知識を求める者たちが集う社中です。しかし彼らの探究心は、人間の欲望や狂気、死、呪い、禁忌にまで及びます。
さらに、あんずが口にした「邪神大蛇」という言葉。それを聞いた真愛凛の反応からも、何かを予感めいた様子がうかがえます。
八千夜講が求める知識の果てに何があるのか。真愛凛はあんずの言葉に何を思ったのか?これらの謎は、今後少しずつ明らかになっていきます。
次回、あんずや向日葵たちは新たな依頼へ向かいます。
討伐対象は妖魔。
果たして、怖がり巫女のあんずは、無事に討伐を終えられるのでしょうか。
それでは、また次のお話でお会いしましょう。




