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怖がり巫女のモフ子  作者: 新小岩 茶太郎
序章編

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第13話 ありがとう。強き巫女よ

 これまで静寂に包まれていた海竜の祠の周囲が、にわかに物々しい空気に包まれていた。


 砦から駆けつけた国侍『御番衆(ごばんしゅう)』たちが、大勢集まっていたからた。


 『御番衆(ごばんしゅう)』とは、各地の砦や関所、城門などに常駐し、周辺の警備を担う国侍たちの組織機関の一つであり、名称でもある。


 街道や管轄地域を巡回し、犯罪者や不審者の取り締まりはもちろん、魔物や妖魔による被害への対処も彼らの役目だった。


「祠周辺の草木も徹底的に調べ上げろ!」


「陰陽班、召喚班は召喚による広域調査を!」


 祠へ続く道では、御番衆たちが周囲を警戒しながら次々と配置につく。


 すでに浅草雷ギルドの一行によって、祠の内外は一通り調査され報告済であるが、今回の事態を重く見た国侍たちは、念には念を入れて現場を徹底的に調べ直すことになった。


 その中心となったのが、御番衆(ごばんしゅう)を束ねる鉱人(ドワーフ)の一番頭である上条(かみじょう) 貞影(さだかげ)。


 真愛凛(まあり)の式神より報せを受けるや否や、部下を率いていち早く現場へ駆けつけていたのだ。

 彼もこれまで、浅草雷ギルドには何度も助力して貰っているので、全幅の信頼を寄せており、非常に協力的だった。


「真愛凛殿や冒険者殿が、お調べになられたとは聞いておる。だが、念のため我らの目でも隅々まで確認しておこう。事がこと故、許されたし」


「構わないさ。それに徹底するに越したことはないさね。お侍さんに任せるよ」


 真愛凛も快諾する。


 貞影(さだかげ)とは旧知の仲であり、親交のある国侍の一人でもある。

 一見すれば頑固者にも見える男だが、実際は柔軟な思考の持ち主だった。


 国侍の威信や面子に固執することなく、必要とあれば冒険者とも手を組み、その場で最善と思える解決策へと舵を切る。


 今回もまた、真愛凛たちがすでに調査したからといって、それを無駄に否定することはせず、互いの調査結果を尊重したうえで、自分たちの目でも確認する。


 それが貞影のやり方だった。


 やがて貞影の指揮のもと、御番衆たちは祠の内外をくまなく調べていく。


 玄室から祭壇、そして祠の外周に至るまで、見落としがないよう慎重に確認を進めていった。


 祭壇、玄室、通路、そして、祠の周囲に至るまで。


 新たな侵入者や罠、隠された術式が残されていないか、一つ一つ慎重に確認していったが、新たな手掛かりとなるものは見つからなかった。


 返り討ちにした深編笠(ふかあみがさ)を被った男たちの遺体も、すでに回収されている。


 彼らの遺体は、身元や所属などを詳しく調べるため、御番衆(ごばんしゅう)の検分用荷車へと運び込まれていった。

 朱音の遺体も同じく運ばれていく。


 一方、数馬と初級冒険者たちの遺体は、真愛凛たちが用意した荷車へ丁重に安置されている。

 いくつか遺された遺品も同じく回収されている。


 そして、御番衆たちの視線が、祭壇の巨大な甕へ向けられた。


 朱音が残した、あの巨大な甕。


 それがただの甕(かめ)ではなく、呪禁道に関わる重要な呪具であること。その中身は常軌を逸するものであることは、すでに真愛凛から報告されている。


「この不快極まりない呪具は、慎重に取り扱った方がいいね。"奴ら"がまた狙ってくるとも限らないからね」


「ご忠告感謝いたす。真愛凛殿が危惧される通り、万一、途中で何者かに襲われでもすれば厄介だ。既に城に使いを出したので、専門機関に搬送を委ねることになろう」


 そのため、甕(かめ)の搬送には専門のお目付け役に『御警護衆《ごけいごしゅう》』による護送。


 さらに事態を想定して、特務機関『夜霧衆(よぎりしゅう)』まで同行することになるという。


 貞影が険しい顔で甕を見つめる。


「このような鬼畜の所業……人の手によるものとは思えぬ」


 貞影が、祠の中に残された惨状を見渡しながら呟く。


「人っていうのは案外、魔よりタチの悪い鬼になれるのかもしれないねえ」


 貞影の言葉に、真愛凛もやりきれない表情で答えた。


 こうして海竜の祠は、浅草雷ギルドの手を離れ、正式に国侍たちの管理下へと移されることとなり、今夜にも小部隊規模の御番衆(ごばんしゅう)が祠に駐留し、周辺の警戒と治安維持にあたるという。


 さらに、今回の事件に関する正式な報告も改めて、浅草雷ギルドにも後日、届けられる手筈となった。


 こつて、海竜の祠を巡る一連の事件は、ひと段落ついた。


「さて……まだ、やることが一つ残ってるねえ」


 真愛凛は静かに祠の奥へと視線を向けた。

 遷座することになっても、この場所に僅かに残された穢れを放置するわけにはいかない。

 

 静かに息を吐くと、あんずと綾香たちへ目を向けた。







 浜芝村にも、すっかり夜の帳が下りていた。


 一行は村人たちの厚意で、村の集会所を借り、一夜を過ごすことになった。


 集会所は、村人全員が集まれるほどの広間を備えた大きな家屋なので、13人が押し寄せても、まだどこか、がらんとして見えるほどだ。


 皆、鎧や外套を脱ぎ、履物を外して思い思いの場所に腰を下ろすと昼間まで海竜の祠で張り詰めていた空気は、ようやく薄れていた。


 その一方で、広間の中央にある囲炉裏を挟み、真愛凛は村長の末吉と5人の村人たちと向き合っていた。


 今回の海竜の祠で起きた一連の出来事について、改めて調査結果を伝えている。

 末吉たちは真剣な面持ちで耳を傾け、時折、驚きや痛ましさを滲ませながら頷いていた。


 祠で何が起きていたのか。

 村人たちが恐れていた海竜がどうなったのか。

 そして、今回の事件が今後どのように扱われるのか。


 真愛凛は一つ一つ、分かっていることを丁寧に説明していった。


「以上が、今回の海竜の祠での顛末だよ。正直、あたしらでも、ここまでとは予想してなかったよ」


 真愛凛が、ふう……と小さく息を吐く。


「わしも昨夜、あなたの娘さんや巫女様からお話は伺っておりましたが……地鬼(ゴブリン)討伐が、ここまで発展し、祟り神などという恐ろしいことまで起きようとは、想像もしておりませんでした」


 末吉の言葉に、囲炉裏を囲む5人の村人たちも、一様に深く頷いた。


「若い冒険者様たちには、こんなしがない村をお救いするために命を落とすこととなり……本当に、申し訳ないことをしました」


 末吉が深々と頭を下げると、5人の村人たちも一斉な頭を垂れた。


「よしとくれよ」


 真愛凛は、そんな村人たちを見ながら、静かに口を開いた。


「あんたたちのせいじゃないさね」


 その声音には、責めるような響きは一切なかった。


「冒険者ってのは、常に命の危険と隣り合わせの稼業だ。地鬼(ゴブリン)討伐だって、命懸けになることはある」


 真愛凛は囲炉裏の炭へ視線を落とす。


「それを朱音(あかね)が逆手に取って、あんたたちの依頼を利用したんだ。村を救うために動いた冒険者たちを、自分の悪行に巻き込んだ」


 そして、末吉たちへ真っ直ぐ視線を戻す。


「そういうことなんだから、あんたたちが自分を責める必要はないよ」


 末吉は顔を上げられなかったが、しばらくして目元を拭いながら小さく頷いた。


「副ギルドマスターの真愛凛殿に、そう言っていただけると……少しは気持ちも軽くなります。ありがとうございます」


 末吉は深々と頭を下げた。


 すると、囲炉裏を囲んでいた村人の1人が、意を決したように顔を上げる。


「……俺たちに、何かできることはないか?」


 真愛凛は少し考えるように顎へ手を添え、それから柔らかく笑った。


「そうだねえ……」


 そして、村人たちを見渡す。


「明日、海竜の祠の祭壇で、清祓鎮魂の儀(せいばつちんこんのぎ)を執り行うから、村の人たちも参加しておくれ」


「清祓鎮魂の儀(せいばつちんこんのぎ)?」


 末吉が聞き返す。


「そうさ。海竜様を遷座する前に、今の祠に残っている穢れを取り除く。そして、今回犠牲になった冒険者たちの供養も行うのさ」


 真愛凛は、静かに言葉を続ける。


「良かったら、あんたたちも一緒に、手を合わせてやっておくれよ」


「もちろんでさぁ!」


 村人の1人が、力強く頷く。


「なあ、村長」


「うむ」


 末吉も深く頷いた。


「喜んで参加させていただきます。儀式は明日ですか?」


「ああ。明日の午前中に執り行うよ」


 真愛凛が微笑む。


「うちの巫女2人が、しっかり務めてくれるからね」


 そう言って、真愛凛は少し離れた場所にいる、あんずと綾香へ視線を向けると、2人の巫女は静かに頷いた。


  綾香は正座した姿勢のまま、背筋を伸ばし、凛とした佇まいで村人たちへ微笑みかけた。


「明日は私と隣の妹分が、心を込めて舞を踊って、唄うからね。一緒に祈ってほしいな」


 その隣で、あんずも姿勢を正す。


「アタシはまだ、慣れないところもありますが……一生懸命、皆さんのために尽くします」


 少し緊張した面持ちながらも、あんずは真っ直ぐに村人たちを見つめた。


「だから、明日は一緒に祈ってください。お願いいたします」


 村人たちは顔を見合わせると、次々と笑顔で頷いた。


「もちろんだ!」


「巫女様は勇気を振り絞って、海竜様をお救いになったんだ!」


「そんなのお安いご用だ!断られたって参加するぜ!」


 口々にそう言いながら、村人たちは嬉しそうに頷き合う。

 末吉も微笑みながら、あんずへ視線を向けた。


「……あんずさん。本当に不思議なお方じゃ」


 その言葉に、あんずがきょとんとする。


「か弱き巫女様と思いきや、その芯は強い。それでいて、皆の心にすっと入り込むようなお人柄じゃ」


 末吉は穏やかに目を細めた。


「海竜様も、さぞやお気に召したに違いありません」


「だってさ。良かったね、あんず」


 真愛凛が、にぃっとからかうような笑みを浮かべる。


「えっ……」


 あんずの犬耳がぴくりと動いた。

 その隣では、綾香もどこか誇らしげな顔をする。


「ふふっ。妹分が褒められると、私も嬉しくなっちゃうな」


 そう言って、綾香はあんずの脇腹を肘で軽くつついた。


「綾香姉様まで……」


 あんずはみるみる顔を赤くすると、恥ずかしそうに俯く様子を見て真愛凛は、楽しそうに笑った。





 それからも、真愛凛と末吉の話は続いた。


 真愛凛は、浜芝村のこれからについて、具体的な支援の話を切り出した。


「まず、村の立て直しが先だね。米に野菜、果物、それから酒。塩や砂糖や醤油なんかの必要な物も含めて、2ヶ月ほどは定期的に届けるようにするよ」


「そこまでしていただけるのですか……?」


 末吉が驚いたように目を見開く。

 5人の村人たちも互いに顔を見合わせながら騒ついている。


「向日葵から式神で討伐報告の書簡を受け取ったとき、浜芝村の今の状況も書いてあったのさ」


「向日葵殿……なんとお優しい」


 末吉が向日葵に視線を向けると、武三郎に何か詰め寄り頬をつねりながら振り向き笑顔を向ける。


 真愛凛は、少し得意げに笑った。


「だから、浅草雷ギルドの蔵にある備蓄を出すだけでなく、浅草の商店にも支援を掛け合った。必要な食料や品物を、できるだけ集めてもらったんだよ」


 村長をはじめ、村人たちは言葉を失うと、その目から涙がこぼれ落ちる。


「……ありがとうございます」


「本当に……何とお礼を申し上げればよいのか」


「……この恩は忘れねえ」


 何度も頭を下げる村人たちを見て、真愛凛は豪快に笑った。


「ははは!よしとくれって。困ったときはお互い様さね!」


 そして、少しだけ悪戯っぽく笑う。


「その代わり、今度、浜芝村の美味い魚を浅草雷ギルドに送っておくれ」


「もちろんです!」


「旬な奴をどんっと、送りますとも!」


 村人たちの間から、ようやく笑い声が上がった。


 だが、浜芝村が抱える問題は、それだけではない。

 今回の地鬼(ゴブリン)騒ぎによって、村には少なからず風評被害も生じている。


 それを踏まえ、真愛凛は今後の村の在り方についても提案した。


「それと、村を立て直すなら、祠や広場の海竜様の像だけじゃ足りないねえ」


「と、申しますと?」


「冒険者や商人が泊まれる旅籠屋《はたごや》を作るんだよ。それから、魚や農産物を売れる露店も必要だ」


 真愛凛は囲炉裏の向こうにいる村人たちを見渡す。


「国侍も駐留することになる。海竜様を祀る新しい祠も建てるんだろう? だったら、人が訪れる場所として村そのものを整えていけばいい」


「つまり……村を賑やかにしていく、と?」


「そういうことさ」


 真愛凛は頷いた。


「この村は海産物と果物などの生産に恵まれた環境だからね。人が来れば、金も落ちる。商いが生まれれば、村の財源にもなる。そうすりゃ、海竜様を祀る祭りだって、村の力で続けていけるようになる」


「……なるほど」


 末吉はしばらく考え込んだあと、力強く頷いた。


「是非、お願いしたい」


「決まりだね。資材も職人も、あたしの方で手配してやるよ」


「何から何まで……」


「ただし、一つだけ条件がある」


 真愛凛が人差し指を立てる。


「旅籠や露店の売り上げの一部は、海竜様のために取っておくんだよ」


「海竜様のために?」


「遷座したあとの新しい祠の修繕。それから、広場に建てる予定の海竜様の像。あとは、毎年の祭りだね」


 末吉は真愛凛の言葉を聞くと、村人たちを見渡した。


「……皆、どうだ?」


「異存ありません!」


「賛成だ!」


「海竜様には、これまで孤独の中でも、村を守って下さったんだ。これからは俺たちが守っていこう!」


 次々と声が上がる。

 誰一人として反対する者はいなかった。


 海竜と浜芝村。


 長い年月をかけて結ばれてきた絆は、今回の惨事よって大きく傷ついた。


 だが、それは同時に、互いの絆を改めて確かめる機会にもなった。


 失われた命は戻らないし、壊されたものも、すぐには元に戻らない。


 それでも人々は、もう一度、歩き出す道を選ぶことができるのだ。


 長きに渡り村の一部であった海竜の祠は、失うことになるが、これからは新しい祠と新しい広場が築かれていく。


 そして、碧海(へきかい)龍命(りゅうのみこと)ともに生きる未来を、村人たち自身の手で作り直していくのだ。


 それは、悲劇に打ちのめされた浜芝村にとって、やり直すための、最初の一歩なのだ。


 その様子を静かに見つめていたあんずは、懐へそっと手を入れた。


 取り出したのは、海竜から授かった御守りだった。

 あんずはそれを胸元に当てると、静かに目を閉じる。


「海竜さん……これから、海竜さんと村の皆さんとの新しい出発が始まりますよ」


 小さく微笑む。


「今までみたいに、ずっと一緒ですからね」


 御守りを両手で包み込むように握り、あんずは静かに海竜へ語りかけた。


「だから……安心してこれからも見守って下さいね」


 その声は、誰に聞かせるでもなく、ただ静かに夜の集会所へ溶けていった。







 末吉たち村人も去った後、囲炉裏には、村人から借りた大きな鉄鍋が掛けられていた。


 鍋の中では、鶏肉と旬の野菜がたっぷりと煮込まれている。


 味噌仕立ての汁からは、湯気とともに食欲をそそる香りが立ち昇り、一行の目を釘付けにした。


 そのほかにも、囲炉裏端に香ばしく焼いた日干し魚や、おやき、魚の佃煮も並べられている。


 数種類の漬物に、昼に作った料理を温め直したものまで加わり、質素ながらも酒の肴には十分な品揃えだった。


「ほら、冷めないうちに食べな」


 真愛凛が鍋から汁物をよそっていく。


「おお……こいつはうめぇ!」


 武三郎が湯気の立つ椀を手に取り、嬉しそうに声を上げる。


「お酒にも合いそうだね」


 綾香も笑みを浮かべながら杯を傾ける。

 疲れ切った身体に温かな料理が染み渡り、張り詰めていた一行の表情も、少しずつ和らいでいった。


「ほらほら、お飲みよ!」


「姐さん、注ぎすぎだって!」


「何言ってんだい。今日は無礼講だよ!」


 真愛凛は笑いながら、空になりかけた杯へ惜しげもなく酒を注いでいく。


 囲炉裏を囲み、杯が行き交う。

 笑い声が弾み、酒を酌み交わす音が重なる。


 つい先ほどまで重苦しい空気に包まれていたとは思えないほど、集会所の広間は賑やかだった


「タケぇ、キヨぉ!飲め飲め!」


 我衆(がしゅう)が豪快に笑いながら、2人の枡へ次々と酒を注いでいく。


「おい、キヨぉ!」


「我(われ)兄さん、何だべ?」


「お前は忍(しのび)として腕もあるってのに、何でそんな女の子みてぇな顔してんだ!」


「……そんなこと、言われても困るべな。俺だって、好きこんでこんな顔してるわけじゃねぇべ……」


 清志郎は困ったように頬を掻く。

 本人としては、こればかりは生まれつきなのだから、どうしようもない。


「そうか、そうか!それじゃあ、下だけ脱いで褌(ふんどし)一丁で街中歩きゃあ、男と見てもらえるもな!」


 1人で大爆笑する我衆は、のけぞりながら床を叩いていた。


「この前なんざ、お前を女子《おなご》と間違えた輩がなぁ」


 源蔵も思い出したように笑う。


「男子(おのこ)の冒険者が、お主を見て『あの可愛い女子(おなご)の冒険者をウチのパーティに入れたい』などと申しておったぞ」


「……俺は男だって断ったら、物凄く驚いて、落ち込んでいたな」


「うむ。キヨはもう少し男子《おのこ》らしくせんか」


「これでも、男らしくしてるべ……」


 清志郎が肩を落とすと、無形が静かに清志郎の肩へ手を置いた。


「気にするな、清志郎」


「無形兄ちゃん……」


「忍びとして、それも武器になる」


 無形は淡々と続ける。


「相手の油断を誘い、寝所から標的を誅することも容易い」


「……いや、それって夜伽をすること前提でねえべか?」


 清志郎が困り果てると、酔ったレナが横から口を挟んだ。


「ちょっと、そこの男子い!キヨは"女の子のまま"でいいんだからね」


「え?」


 レナは清志郎をじっと見つめる。


「男の子にするとか、ありえないし!」


 綾香も加勢する。


「こんな可愛い女の子、そうそういないんだから男の子になれとか勝手なこと言わないでよね!」


「いや……俺は男の子だべよ……」


 清志郎は困り果てたように頭を掻いている、その横では、武三郎が2人の女子に挟まれ、猛烈な勢いで問い詰められていた。


「ねえ、タケ。『男の必要経費』について、詳しく聞きたいなあ?」


 向日葵がにっこりと笑いながら、武三郎の顔を覗き込む。


「タケくん!天姫様の本社(うち)の巫女の苺花(いちか)ちゃんと何かあったの? 最近、アタシにやたらと『タケくん元気?』とか『どうしてる?』って聞かれるんだよ!」


 あんずまで身を乗り出してくる。


「……」


 武三郎は正座したまま、完全に硬直して逃げ場がない。

 そこへ、酒を飲んでいた淳三が何気なく口を挟んだ。


「どうしたの?あっ、タケちゃん。また何かやらかしたの?」


「……」


「あ、そういえばさぁ」


 淳三は悪気のない顔で続ける。


「この前の早朝、河童川通りでレナちゃんに手を引っ張られながら、フラフラになって歩いてたよね?」


「!」


「!」


 向日葵とあんずの表情が固まる。


「僕もさあ、タケちゃんがあまりに精気の抜けた顔してたから、ちょっと心配しちゃったよぉ。それにしても、レナちゃんまで手籠にしちゃうんだから、隅に置けないなあ」


「淳ちゃんったら!」


 レナが頬を膨らませる。


「この子たちの前で、そんな品ない話をするなんてデリカシーないぞぉ」


 その瞬間、武三郎の目には、向日葵とあんずから、凄まじい怒気が立ち昇るのを見た気がした。


「……」


「……」


 武三郎は、まだ正座したままだった。

 ただし、その肩が小刻みに震えていると思った瞬間。


「テメぇ!コノやろう!」


「えっ?」


 武三郎が立ち上がると、淳三の身体をひょいと軽々持ち上げる。


「えっ?ちょ、何ぃ!?何なの!?タケちゃん、どうしたの?」


 ジタバタと暴れる淳三に構うことなく、そのまま両手で持ち上げ、のっし、のっしと集会所を出ていく。


「ちょっと待ってよぉ! 僕、何も悪いこと言ってないよね!?」


 淳三の叫びが虚しく響き渡る中、武三郎は真っ暗な海辺へと辿り着いた。


 そして、波打ち際で足を止める。

 淳三が嫌な予感を覚えたように、顔を引きつらせる。


「……タケちゃん?」


 武三郎は海を見つめたまま、低い声で呟いた。


「海竜への最初の生贄だ!バカやろう!」


「えぇぇぇっ!うわぁぁぁぁ!」


 武三郎は淳三を海へ向かって放り投げた。


 ──ざっぱぁん!


 淳三の身体は見事に頭から海面へ突き刺さり、しばしの間、両足だけが海面から突き出していた。


 集会所の中から、その光景を見ていた一同は誰もが声が出ず静まり返った。


 やがて、向日葵がぽつりと呟く。


「……タケ、怒ってるね」


「あれは……怒ってるねぇ」


 あんずも呆れたように呟く。


「タケぇ……淳ちゃんは私の大切なモルモットなんだから粗末に扱わないでね」


 言い終えるな否や、レナはお腹を抱えて爆笑し始めると、海面から顔を出した、淳三の声が響いた。


「タケちゃぁぁぁん!僕、泳げないんだけどぉぉぉ!」


「知るかぁぁぁ!だいたい浅瀬なんだから立てんだろ!火に油を注ぎまくりやがって!どうしてくれんだよ!」


 浜芝村の静かな夜に、武三郎の怒声が響き渡る。

 その様子を見ていた真愛凛は、腹を抱えて大笑いしていた。


「あっははは!いいぞぉ!もっとやれぇ!」


「おっかさんも煽らない!」


 向日葵が慌てて真愛凛を止める。


「何だい、向日葵。あたしは盛り上げているだけだよ」


「煽ってるじゃない!」


 真愛凛は楽しそうに笑いながら、海へ目を向ける。


「ほら、淳三!もうひと泳ぎしてきな!」


「真愛凛(まあり)ちゃん、僕のこと何だと思ってるの?今見たでしょ、頭が砂に刺さったんだよ!?」


 海から淳三の悲鳴が響き渡る。


「淳兄(じゅんにい)、大丈夫?」


 向日葵とあんずが裸足になって浅瀬へ入り、海へ投げ込まれた淳三を助け起こす。


「いやぁ、タケちゃんが邪悪な悪霊なら、君たちは救いの天使だよ。ありがとう!」


 淳三はずぶ濡れのまま、心からの謝意を述べる。


「どういたしまして。タケ、やりすぎ!」


 向日葵は武三郎を睨みつける。


「せめて頭を埋めるなら、砂浜くらいにしときなさいよ」


「向日葵ちゃん……言ってること怖くないかなあ?」


 淳三が引きつった笑みを浮かべる。


「それか岩場にくくりつけて、満潮になるのを待つとかでもいいじゃない」


「もっと怖くなってるよ、向日葵ちゃん!」


 向日葵が提案する物騒な処罰案に戦慄する淳三を見て、一行は抱腹絶倒となる。


 レオと樹玄は、しばらく呆然とその光景を眺めていると、真愛凛へ視線を戻す。


「……まあ、ご覧の通りさ」


 真愛凛は、苦笑するように肩を竦めた。


「浅草雷ギルド(うち)は、種族だの等級だの、建前だの、そんな面倒くさいことを嫌う連中ばかりでねえ」


 そう言って、海へ視線を向ける。


「だから、しょうもないことも平気でやるのさ」


「……」


 レオは、向日葵に海から引き上げられている淳三を見つめた。


 世間からすれば、一級冒険者は誰もが一目置く存在だ。わ

 その実力も、立場も、他の冒険者とは明確に違う。


 それが今はどうだ。


 仲間に海へ放り込まれ、ずぶ濡れになりながら向日葵やあんずに助け起こされている。


 普通ならば、もっと騒ぎになってもおかしくない。


 だが、誰一人として淳三を「一等級冒険者だから」と観点で見るものはいない


 怒る者は怒り、笑う者は笑う。


 それは等級ではなく、ただ一人の仲間として接しているからなのだろう。


 我衆(がしゅう)も源蔵(げんぞう)も綾香(あやか)も無形(むけい)もレナも、各々(おのおの)に、今この時を楽しんでいるように思う。


 レオは、そんな光景をしばらく眺めていた。


「……変わったギルドですね」


 ぽつりと漏らした言葉に、真愛凛は口元を緩めた。


「そうかい?」


「ええ。けれど……嫌いじゃない。皆、本当に楽しそうだ」


 レオの隣で、樹玄も静かに頷く。


「拙僧も同感です」


 真愛凛は2人の顔を見て、にっと笑った。


「一級だろうが、六級だろうが関係ない。種族や役職やらもね。仲間になっちまえば同じさ」


 そして、海へ放り込まれた淳三を指差す。


「まあ……ああいう目にはたまに遭う奴もいるには、きるけどね」


「真愛凛ちゃん!僕の扱いが悪すぎるんじゃないかなぁ!?僕は人だよ!?下手したら死んじゃうからね」


 海辺から淳三の抗議が飛んでくる。


「淳ちゃん、いつも美味しいところ持って行けたろう?はははっ!」


 真愛凛が豪快に笑う。

 レオと樹玄、2人もつい釣られ笑ってしまう。

 

 真愛凛はふと表情を戻すと、酒の入った杯を傾ける。


「冒険者なんて……いつ死ぬか分からない稼業だろう?」


 その言葉だけは、静かだった。


「下手したら、明日の夜はこうして酒を飲んでいない……なんてこともあるかもしれないんだ」


 真愛凛は、静かに杯を傾ける。


「だからこそ、生きて帰ってきた夜くらい、馬鹿みたいに笑っていいのさ」


 その言葉を、レオは黙って聞いていた。

 樹玄もまた、何も言わずに真愛凛を見つめている。


 冒険者という稼業に、明日が約束されているわけではない。

 今日、生きて帰れた。

 それだけで、酒を酌み交わし、笑い合う理由には十分なのだ。


 真愛凛は、そんなふたりしばらく見つめると、改めて口を開く。


「だからさ……」


 その声に、レオと樹玄が顔を上げる。

 真愛凛は、ほんの少しだけ困ったように笑った。


「こんな状況で済まないんだけどね……」


 一度、言葉を切るも、2人を真っ直ぐに見据えた。


「浅草雷ギルドの冒険者として、来てもらえないかい?」


 レオは、思わず目を見開いた。

 樹玄もまた、驚いたように真愛凛を見つめる。


 それは同情から出た言葉ではなく、真愛凛自身の意思だった。


「ウチは今、一級冒険者の人手が欲しくてねえ。あんた達の力を、貸してもらいたいのさ」


 真愛凛は、2人をまっすぐ見つめた。


「貴方には御恩がある。だが突拍子のない話に戸惑ってもいる。それに我々は三等級冒険者。一等級の面々と並べられる存在ですらない」


 レオはそう答えながらも、どこか戸惑いを隠せない。

 樹玄も、しばし考え込んだ末に口を開いた。


「拙者もレオも、小田瓦(おだがわら)ギルドの一介の冒険者。真愛凛殿からのお誘いは有り難いのですが……ご覧の通り、仲間を失い死にかけた身です」


 自嘲するように、静かに息を吐く。


「『一等級』には、到底値せぬ身かと」


 真愛凛は、すぐさま首を横に振った。

 2人へ向ける眼差しが、先ほどまでの笑みから真剣なものへ変わる。


「何言ってるんだい……どこが未熟者なもんかね」


 レオと樹玄が顔を上げる。


「仲間を失って、死線を掻い潜って、それでも生きて帰ってきた。恐怖に足が竦んだこともあるだろうに、勇敢に立ち向かった」


 真愛凛は、レオと樹玄をまっすぐ見据える。


「あんた達は、立派な一等級冒険者さ」


 レオは、思わず言葉を失った。


「……俺たちが?」


「そうさ」


 真愛凛は即答した。


「一級冒険者ってのはね、何でもこなせたり、無傷で帰ってくる奴のことじゃない」


 少しだけ間を置く。


「傷ついても、失っても、それでも生きて帰ってくる。そして、また誰かのために戦える奴さ」


 レオは拳を握りしめる。

 その胸の奥には、数馬の顔が浮かんでいた。


「……俺たちは、大切な仲間を守れなかった」


「そうだね……それは、簡単に忘れちゃいけないことさ」


 真愛凛は否定しなかった。

 その言葉に、レオは顔を上げる。


「でもね」


 真愛凛の声音が、少しだけ柔らかくなる。


「だからって、あんた達まで自分を死人にするつもりかい?」


「……」


「仲間を失ったからこそ、生きている者が何をするのか。それが大切であり、数馬への供養になるんじゃないのかい?」


 樹玄は、静かに目を閉じた。

 そして、深く頭を垂れる。


「……耳の痛い御言葉ですね」


「痛くて結構」


 真愛凛は、ふっと笑う。


「痛いってことは、精一杯生きている……そういうことだからね」


 そこへ、綾香が2人のもとへ歩み寄った。


「お2人とも、少しだけごめんね」


 そう言うと、綾香はレオと樹玄の肩へそれぞれ手を添え、2人をそっと抱き寄せた。


「えっ……」


「……これは」


 突然のことに、レオも樹玄は戸惑う。


 けれど、綾香から伝わってくる温かな気配に、張り詰めていた身体から少しずつ力が抜けていく。


 ほのかに漂う花の香りと、柔らかな声音。


「私ね……生まれつき『心読み』ができるの。普段は『香り』って呼んでるんだけどね」


 綾香は、2人を見つめながら静かに語った。


 生まれつき人や動物、魔物、妖魔などが持つ「心」を、香りとして感じ取る力が備わっている綾香。


 それは言葉を聞くように、相手の心を直接読むものではないく、相手から漂う『香り』を読み取ることで、感情の起伏や精神状態、そして直前に起きた出来事などを感じ取ることができる。


 だからこそ、綾香には2人の身に何があったのか、そのすべてではなくとも、ある程度は伝わっていた。


「……怖かったよね」


 綾香は2人を責めることなく、静かに語りかける。


「大切な人を失って、それでも立っていなきゃいけなかったんだもの」


 レオは、何も答えられなかった。


 樹玄もまた、静かに目を伏せる。


「でもね……もう、1人で抱えなくてもいいんだよ」


 その言葉に、2人の胸の奥がわずかに震えた。


「ここには、あなたたちを笑ったり、弱いって決めつけたりする人はいないから」


 綾香は2人をそっと離すと柔らかく微笑んだ。


「だから……少しだけ、頼ってみてもいいんじゃないかな」


 レオと樹玄も、俯き考え込んだ。

 

 真愛凛の豪快な言葉とは違う。


 けれど、その優しさもまた、浅草雷ギルドという場所の一部なのだと、2人には少しずつ分かり始めていた。


「お2人は、ちゃんと仲間を想って戦ってたよ。ウチの若い子達をを守りながらね」


 綾香はレオを見つめると、柔らかな声で語りかける。


「怖かったでしょう?」


「……ああ、いつも怖いさ」


「苦しかったでしょう?」


「……ああ、本当に死ぬと覚悟したよ」


「それでも、最後まで立ってた」


 綾香は微笑んだ。


「だったら、それは弱い人にはできないことだよ」


 レオは何も答えられず、ただ目を伏せたまま。

 その隣で、樹玄もまた深く息を吐いた。


「……不思議なものですな」


「何がだい?」


「己では、何一つ成せなかったと思っておりました」


 樹玄は静かに真愛凛を見る。


「されど、皆様は……我らが仲間を犠牲にして、生きていることを恥ではなく誇りだと仰る」


「当たり前じゃないか」


 真愛凛は、ふっと笑った。


「生きて帰ってきた仲間を、誰が責めるんだい?ここにいる一等級の連中はね、カッコつけてここまで来た奴なんて、1人もいやしないさ」


 真愛凛は囲炉裏を囲む仲間たちへ視線を向ける。


「血まみれになったこともある。涙と鼻水で顔をぐしゃぐしゃにして泣いたこともある。心が折れて立てなくなったことだって、一度や二度じゃない」


 我衆、源蔵、綾香、淳三、レナ、無形、一人ひとりを見渡す。


「情けなくて、自分が嫌になって、それでも何度も立ち上がって、ここまで辿り着いた連中さ」


 少しだけ肩を竦める。


「だから、模範的な奴なんて誰一人いやしないよ」


 そう言って、扇で口元を隠しながら目を細めた。


「でもね……」


 その声は優しく、それでいて誇らしかった。


「そんな泥だらけの生き様と、何度転んでも立ち上がる背中がね……飛びっ切りカッコいいんだよ」


 真愛凛は仲間たちを見つめて笑う。


「これが……あたしの自慢の一等級冒険者たちさ」


 その言葉に、レオの表情がわずかに緩んだ……そして


「……分かりました。浅草雷ギルドの冒険者として、貴方たちに加わりましょう」


 レオが静かに頭を下げると樹玄も続く。


「拙者も、お願い申し上げる」


 真愛凛の顔に、ぱっと笑みが広がった。


「そうこなくっちゃ!」


 その声に、我衆が豪快に笑う。


「よっしゃ!これで一等級が2人増えたな!」


 源蔵も満足げに頷いた。


「歓迎しよう。浅草雷ギルドは、腕の立つ者なら種族も出自も問わぬ」


「うんうん。しかも二階級も上がるなんて、浅草雷ギルドでは前例がないよ!幸先いいね!」


 綾香も嬉しそうに尻尾を揺らす。


「これからよろしくね、レオ、樹玄!」


「まさに暁光」


 無形が相変わらず無表情に呟くが、心なしか嬉しそうに見える。


「レオさん!」


「樹玄!」


 武三郎、清志郎、向日葵、あんずの4人が、揃って2人のもとへ駆け寄ってきた。


「本当に浅草雷ギルドに来てくれるんだな!」


 武三郎が嬉しそうに声を上げる。


「これからは同じギルドの仲間だべ!」


 清志郎も満面の笑みを浮かべる。


「うん!これからよろしくね!」


 向日葵も嬉しそうに笑った。


「あの……よろしくお願いします!」


 あんずも少し緊張しながら、ぺこりと頭を下げる。


「こちらこそ、よろしく頼む」


 レオは微笑みながら頷いた。


「拙僧も、皆と肩を並べて戦えることを嬉しく思う」


 樹玄も深々と頭を下げる。


 その様子を眺めていたレナが、ふと思いついたように口を開いた。


「ねえ、レオ。樹玄」


「ん?」


「如何いたした?」


「これから一緒のギルドなんだから、あたしのことも気軽にレナちゃんって呼んでいいからね!深夜まで飲んで……良かったら、その……朝も一緒に」


「いや……それはさすがに……」


「仏に仕える身としては、承服しかねる」


 レオも樹玄も少し困ったように笑う。


「なんでよ!」


「いや、なんとなく……」


「ちょっとお、連れなくない?」


 レナが頬を膨らませると、その横から淳三がひょいと顔を出した。


「お2人さんねえ、僕のことも気軽に淳ちゃんって呼んでいいよ」


「淳ちゃんは別に聞いてない!モルモットでいいでしょ!」


「えぇ……」


 淳三が露骨に肩を落とす。


「それに淳ちゃんは、さっきタケに海へ投げ込まれてたじゃん」


「新入りの2人には、僕の威厳を見せたかったんだけどねぇ」


「威厳どころか、頭から海に刺さってたよ」


「レナちゃん、そこは忘れてくれないかなあ?」


「無理」


 あまりにもいつも通りの2人のやり取りに、レオと樹玄は思わず顔を見合わせる。



「……賑やかなギルドで結構、結構」


 樹玄がぽつりと呟いた。


「……ああ」


 苦笑しながら頷く、レオのその表情には先ほどまでとは違う穏やかさがあった。


 失った仲間の悲しみが消えたわけではない。

 数馬のことを忘れたわけでもない。


 それでも、ここには悲しみを抱えたままでも受け入れてくれる仲間がいる。


「じゃあ、改めて!」


 武三郎が2人の肩を叩く。


「パーティを組むことがあったら、よろしく頼むな!レオの兄ちゃん! 樹玄の兄ちゃん!」


「レオさん、樹玄さん、お2人のお話を沢山、聞きたいです」


 あんずも嬉しそうに頭を下げる。


「いろいろ戦い方も教えてもらうべな」


 清志郎も嬉しそうな笑顔を向け、向日葵も満面の笑みを浮かべた。


「ああ。喜んで!」


 レオは4人を見渡し、静かに笑った。

 樹玄も深く頭を下げる。


「拙者も、これから皆と共に歩ませていただこう」


 その様子を少し離れたところから見ていた真愛凛は、満足げに笑った。


 新たな仲間を迎えた浅草雷ギルド。

 2人はその輪の中へ、確かに加わったのだった。







---------







 翌朝。

 浜芝村は、久しぶりに雲一つない晴天に恵まれていた。


 海から吹き上げる潮風は、夜のあいだに残った湿り気を含み、頬を撫でていく。鼻先には、塩の匂いと濡れた岩の青臭さが混じっていた。


 海竜の祠へ続く道には、村人たちの姿があった。


 誰も大声では話さず、黙々と粛々に歩いていく。


 草履が砂利を踏む音と、遠くで砕ける波の音だけが、朝の空気の中に細く重なっている。


 だが、昨日まで異様な気配に包まれていた祠も、今朝は静寂に包まれており、祭壇の奥に広がる海も穏やかだった。


 波はゆっくりと寄せては返し、岩肌を撫でるたび、さらさらと泡をこぼしていく。朝の光を受けた水面は、無数の銀片を散らしたようにきらめき、眩しさに目を細めるほどだった。





 祭壇のある広間には、浅草雷ギルドの冒険者たちと浜芝村の村人たちが集まっていた。


 潮風が開け放たれた入口から吹き込み、吊るされた紙垂をかすかに揺らす。白い紙が擦れ合う、乾いた音がした。


 これより執り行われるのは『清祓鎮魂の儀(せいばつちんこんのぎ)』


 和慈天姫命に仕える巫女が執り行う、正式な神事であるが、その名の通り、2つの祈りを1つの神事として行う。


 まずは「清祓(せいばつ)」。


 妖魔や呪術によって生じた穢れ、邪気、怨念を祓い、穢れに覆われた土地と、そこに生きる者たちを清める。


 そして「鎮魂(ちんこん)」。


 この地で命を落とした者たちの御魂(みたま)を慰め、世のしがらみや未練に囚われることなく、安らかに神の御許へ帰依する祈りを捧げる。


 今回の儀式では、猫人(ダヤン)の西園寺 綾香(さいおんじあやか)と犬人(コボルト)の天峰(あまみね) あんずの2人が巫女を務める。


 綾香は祭式を整え、祭具を扱い、穢れを祓う役を担う。


 そして、あんずは和慈《なごみの》天姫命《あまひめのみこと》へ祈りを捧げ、御魂を送り届ける役を担う。


 同じ巫女であっても、2人の役割は異なるため、身に纏う正装にも、わずかな違いがあった。


 綾香は、白と銀を基調とした清浄な意匠。


 朝の光を受けた千早(ちはや)の縁取りが、細い月のように淡く輝いている。銀糸は風が通るたびにかすかに震え、衣擦れの音を立てる。


 手にした鈴は、磨き上げられた金属の冷たい光を返している。榊の葉からは青々しい香りが漂い、潮の匂いの中に、山の清らかさを添えていた。


 一方、あんずの千早(ちはや)には、水面や波を思わせる文様が、袖や裾には淡い青銀の刺繍が入り、朝の光を受けるたび、まるで水面が揺らめいているように見える。


 風が吹くと、薄い布地がふわりと膨らみ、次の瞬間には波が引くように静かに身体へ戻った。刺繍の波紋は動きに合わせて伸び、縮み、衣そのものが呼吸しているようだった。


 霊場などの討伐や探索の依頼がある場合、時として祭事の執り行いも合わせて、依頼がされることも、ごく稀にある。


 そのため綾香は、今回の行軍に加わる前に、霊場での神事がある事を想定した上で、あんずの分もあらかじめ装束一式を用意していたのだ。


 やがて、祭壇の前に綾香が静かに進み出るとその後ろに、あんずが続く。


 普段なら、少しの物音にも犬耳をぴくぴくと震わせ、怖がってしまうあんずだった。


 しかし、今だけは違う。


 潮風が耳の先を撫でても、衣の裾が揺れても、あんずは視線を逸らさなかった。


 緊張しているのは隠しきれない。


 喉はわずかに乾き、胸の奥では心臓が早鐘のように打っている。


 それでも、海竜との縁を胸に、逃げ出すことなく祭壇の前に立っている。


 綾香が鈴を手に取った。

 細い指が柄を握り、手首がわずかに返る。

 

 ──シャラン、チリン、シャリィィン


 神楽鈴の心地良い澄んだ音が、静かな祭壇の間へ響き渡る。


 音は高く、透明で、海風に乗って広間の隅々まで伸びていった。最後の余韻が消えるまで、誰も息をすることさえためらう程だ。


 村人たちも、浅草雷ギルドの冒険者たちも、自然と頭を垂れた。


 まずは清祓(せいばつ)が始まる。


 綾香が祭式を整え、鈴を鳴らし、榊を掲げる。


 鈴が振られるたび、金属の小さな玉が内側で触れ合い、細かな音の波を生んだ。


 ──シャラン、シャラン、シャリリン


 その音は、耳に届くだけではなく、胸の奥に溜まっていた重さを、少しずつ取り除くかのような音色だった。


 榊の葉が風を切り、青い香りが広がる。


 そして、あんずが和慈天姫命へ祈りを捧げる。


 あんずは静かに息を吸うと、祭壇の前で深く頭を垂れる。


「掛けまくも畏(かし)き、和慈《なごみの》天姫命《あまひめのみこと》の大前(おおまえ)に、恐(かしこ)み恐(かしこ)みも白(もう)す」


 澄んだ声が、静かな祭壇の間へ響く。


「此(こ)の地に満ちし罪、穢れ、禍事(まがごと)、諸々(もろもろ)の邪気を、御心のまにまに祓ひ給ひ(はらいたまい)、清め給ひ(たまい)て、清らけき御座(みくら)へと還し給へ(たまえ)」


 あんずは榊を捧げる。


「海より寄せ来る波のごとく、御恵(みめぐ)みを遍(あまね)く満たし、乾きし大地には潤ひ(うるおい)を、傷つきし者には安らぎを、迷ひし(まよいし)御魂(みたま)には帰るべき道を与へ給へ(あたえたまえ)」


 声は、少しずつ力を増していく。


「此(こ)の地にて命を尽くせし御魂(みたま)たちよ。恨みも、悲しみも、未練も、すべて此処(ここ)に置き給ひて(おきたまいて)、どうか安らかに鎮まり給へ(たまえ)」


 祭壇の奥から、穏やかな潮風が吹き込んだ。


「荒ぶる御魂は鎮まり、迷へる御魂は導かれ、苦しみし御魂は御慈しみの御許へ帰り給へ」


 あんずは、静かに目を閉じる。


「海の彼方より来たり、海の彼方へ帰り給ふ(たまう)御魂を、和慈天姫命の御光もて照らし給ひ(たまい)、永久(とこしえ)に安らけく鎮まり給へ(たまえ)」


 最後に、深く頭を垂れる。


「此(こ)の祈り、御心(みこころ)に聞こし召し、此(こ)の地と此(こ)の人々を末永く守り給へ(たまえ)と、恐(かし)み恐(かし)みも白(もう)す」


 最後の祝詞か終わると、祭壇の間には、しばし静寂だけが残った。


 けれど、その静寂は重苦しいものではなく、遠くから聞こえる波の音も、どこか優しく感じられた。


 あんずはゆっくりと顔を上げると、目の前に広がる海は、朝の光を受けて静かに煌めく。

 まるで、祠に残っていたすべての悲しみを、海の彼方へと運び去ってくれたかのようだった。


 やがて2人の巫女は、鎮魂(ちんこん)へと移り、白い薄布を手に取った。


 白い布は御魂衣(みたまごろも)と呼ばれ、生者が御魂を優しく包み、安らかに送り出せるよう、その願いを形にしたものとされる。


 2人の巫女達、御魂衣を掲げ、犠牲となった冒険者ひとりひとりの御魂へ祈りを捧げる。


 指先で触れると、布は驚くほど軽く、冷たい朝の空気を含んでさらりと揺れた。


 ──シャラン、シャララン。


 神楽鈴を静かに鳴らし、黙祷を捧げる。


 安らかに、もう苦しむことなく、残された者たちに託し、見守りながら、神の御許へ。


 すすり泣きをこらえる音が、どこかで小さく漏れる。


 それでも、鈴の余韻と波の音が、そのすべてを静かに包み込んでいた。


 最後に、2人は御魂衣(みたまごろも)を丁寧に畳み、祭壇へ納める。


 

 そして『清祓鎮魂の儀(せいばつちんこんのぎ)』その最後を飾る舞へと移る。


 綾香が神楽鈴を鳴らす。


 あんずも続く。


 ──シャラシャラシャラ、シャラン。


 ──シャラン、シャラン、シャララン。


 2つの音が重なり、異なる高さの響きが一つの流れとなって広間を満たした。


 白い千早(ちはや)が、海から吹き込む風を受けてふわりと広がった。


 2人の巫女は、静かに舞い始める。


 そして、舞に合わせるように、二人の歌声が重なった。


「潮路(しおじ)の彼方(かなた)月影揺れて 寄せ来る波は 汝(なれ)を包まん


 泣き濡れし夜も 恐れし夢も

 今は忘れて 眠り給え」


 その歌声は、まるで母が眠る子へ聞かせる子守唄のようだった。


「風吹けば 御魂(みたま)は海を渡り 星降る彼方へ 帰り給え


 恨みも悲しみも 波に預けて

 静けき御国(みくに)へ 還り給え」


 2人の舞が、ゆっくりと重なり、神楽鈴の音が響く。


 ──シャリン、シャリン、シャリン


 白い布が風を孕み、海の青と、巫女の白が、朝の光の中で静かに揺れていた。


 そして、歌は最後の節へと移る。


「されど此(こ)の地に 残りし者は 涙を拭きて(ふいて) 明日を生きなん


 あたらしき朝(あした) 陽はまた昇り

 枯れし大地にも 芽吹きは来たらん」


 あんずの声が、わずかに震えた。


 心優しき村人たち。

 地に足をつけ、前を向いて歩き始めたレオと樹玄。

 自らを顧みず、散っていった数馬。

 志半ばで命を落とした、若き冒険者たち。

 そして、永い孤独の中でも、懸命に村を守り続けた海竜。


 そのすべてが、あんずの脳裏を過ぎる。


 出会いも。

 別れも。

 悲しみも。


 決して忘れることはできない。

 それでも、生きている者は歩いていかなければならない。


 あんずは胸の奥に込み上げるものを堪えながら、隣に立つ綾香とともに、海へ向かって舞い始める。


「別れは終(つい)にあらず 遠き海より 見守り給え


 我らもまた 命ある限り 受け継ぎし想いを 明日へ繋がん」


 2人の声が、最後の一節で一つになる。


「眠り給え 安らかに またいつの日か 巡り逢わん」


 ──シャリリリリィン、シャリンリン!


 神楽鈴の音が、一度だけ高く響くと、舞が止まり歌声も消える。


 その静寂の向こうから、穏やかな波の音が聞こえる。

 まるで、遠い海の彼方へ旅立った御魂を、静かに見送るかのように。


 潮の香。


 濡れた岩肌の香。


 衣に残る風の冷たさ。


 そして、遠くで繰り返される波の音。


 それらすべてが、儀式の終わりを静かに告げていた。

 深い悲しみにあっても、踠くほど辛くとも、明日は来る。

 前を向き、地に足をつけて、生きていかなければならない。


 残された者たちは、受け取った想いを胸に抱き、この地を再び歩んでいく。


 それが、2人巫女が捧げた祈り歌だった。


 こうして、海竜の祠に残されていた穢れは祓われ、犠牲となった者たちへの鎮魂の祈りも終わった。


 清祓鎮魂の儀《せいばつちんこんのぎ》は、静かに幕を閉じ浜芝村の人々もまた、この日を境に前を向いて歩き始めることになる。




---------




儀式を終えると、浅草雷ギルドの一行は身支度を整え、速やかに浜芝村を発つこととなった。


 目指すは、浅草。


 村を出る一行を見送ろうと、村の入口には大勢の村人たちが集まっていた。


 先頭を進む1台目の山駈の荷車には、これまで回収された遺体と遺品が大切にあんちゃんされている。


 2台目の荷車には、武三郎、清志郎、向日葵、あんず、レオ、樹玄の6人が乗り込んでいた。


 真愛凛は馬上から村人たちを見渡すと、声を張った。


「支援物資の一部は、明日には届く手筈になっているよ。米や野菜、塩なんかの食料品に、当面必要になる物も一緒に届けさせるから、足りないものがあったら、知らせておくれ」


 村人たちから、安堵したような声が上がる。


「それから、建築資材も今月中には届く予定さ。家屋や旅籠屋、それに村の復興に必要なものは、こっちでもできる限り手配しておくよ」


「ありがとうございます!」


「何から何まで……本当にありがとうございます!」


 村人たちが頭を下げる。


「礼なんざいらないよ。困った時はお互い様さね」


 真愛凛は、いつものように豪快に笑った。

 その少し離れたところでは、あんずが一人の漁師の前に立っていた。


 それは、海竜の木彫りをあんずにくれた男だった。


「あの……!」


 あんずは何かを言おうとして、言葉に詰まる。

 そして次の瞬間。


 ぎゅっ。


 小さな身体で、漁師へ抱きついた。


「ありがとうございました!」


「お、おう……」


 漁師は一瞬驚いた顔をしたが、すぐに目尻を下げる。


「はは……なんだか娘が一人増えたみてぇだな」


 そう言って、あんずの頭を大きな手で優しく撫でる。


「あんずちゃんも元気でな」


「はい!」


 あんずは顔を上げ笑顔を返す。


 やがて真愛凛が手綱を握り直す。


「さあ、出発するよ!日が暮れる前には浅草に到着しないといけないよ!」


「はい!」


 あんずも慌てて、荷車に乗り込むと、山駆がゆっくりと動き始めると、村人たちは一斉に手を振った。


「お気をつけて!」


「また来てくだせぇ!」


「巫女様! お元気で!」


 村人たちの声が、次々と飛んでくる。

 荷車の後ろから、冒険者たちも手を振り返した。


「みんな、元気でな!」


「また会おう!」


 あんずも向日葵と荷車から身を乗り出し、村人たちへ大きく手を振る。


「みんなも元気でねー!」


 やがて荷車はゆっくりと村を離れ、少しずつ浜芝村の景色が遠ざかっていった。


 村人たちは、姿が見えなくなるまで、いつまでも手を振り続けている。


 その姿を振り返りながら、あんずもまた、小さく手を振り続けていた。


 

 


「あのよぉ、レオの兄ちゃん、樹玄の兄ちゃん!」


 武三郎の呼びかけに、2人が振り返ると、両手で大切そうに抱えていたものを差し出した。


「これ……返すな」


「……これは」


 レオの表情が変わった。


 そこにあったのは、数馬が愛用していた大太刀だった。

 レオは思わず目を伏せる。


「……別に、持っていてくれて良いんだぞ」


 樹玄も静かに言葉を添える。


「あやつも、喜ぶと思うぞ」


 武三郎は首を横に振った。


「そう言ってくれるのは、ありがてぇんだけど……今のおいらには、持つ資格がねえ」


「……」


「悔しいけど、こいつを振るう腕が、おいらにはまだ、伴っちゃいねえんだ」


 武三郎は大太刀を見つめた。


「数馬の兄ちゃんみてぇに、もっとよぉ、強くならねえとな」


 そして、少しだけ寂しそうに笑う。


「それに……」


 あんずはレオと樹玄を見上げた。


「数馬の兄ちゃんは、まだ2人と一緒に旅をしたいと思うんだよ」


「……タケ」


「だから……これからも旅に、連れていってやってくんねぇかな」


 レオは何も言えず、震える手を伸ばし、武三郎から大太刀を受け取った。


 ずしりとした重みが、腕へ伝わる。

 その刀の重さは、共に過ごした6年間と友の存在。

 そして、これからも背負っていく記憶。


 レオは大太刀を両手でしっかりと抱えた。


 樹玄も、その刀へそっと手を添える。


「……これからも一緒に冒険しような、数馬」


 静かな声だった。


 樹玄は目を閉じ、そして天を仰ぐ。


「我らがお主の元へ行くまでは、極楽で物見見物など許さぬから覚悟いたせ、数馬」


 その目から、一筋の涙がこぼれた。

 レオもまた、目元を拭うことなく空を見上げる。


 その光景を見ていた武三郎、清志郎、向日葵、あんず。

 4人の若き冒険者たちの胸には、彼ら3人の深く結ばれていた絆。


 そして、大切な人を失った悲しみを抱えながら、それでも前へ進もうとする強さ。


 それを、4人は肌で感じ、胸を焦がすほど熱くするのだった。


 真愛凛は、少し離れた馬上からその様子を見つめ、何も言わず、ただ、静かに頷いた。


 やがて村が見えなくなると、その先に広がるのは、どこまでも続く大海原だけだった。


 青空を映した海は、どこまでも美しく、穏やかで、優しく見えた。


 あんずは、海をじっと見つめていた。


 そのとき、どこからともなく、声が聞こえた。


『──ありがとう。強き巫女よ』


「……え?」


 あんずの犬耳が、ぴくりと動く。

 聞き間違いではない。

 確かに、聞こえた。


 あんずは、はっと顔を上げる。


 青い空と穏やかな海だけ。

 そこには、誰の姿もない。

 ただ、水平線の彼方で波が静かに揺れている。


 あんずは胸元へ手を当てた。

 懐には、海竜から授かった御守りがある。


 その御守りが、ほんの一瞬だけ、温かな光を帯びたように感じられた。


「……海竜さん?」


 返事はない。

 けれど、あんずの胸には不思議と寂しさはなく、ただ温もりが残っていた。


 あんずは海へ向かって、そっと微笑んだ。


「……こちらこそ、ありがとう」


 荷車は、浅草へ向かう街道を進んでいく。


 浜芝村で起きた悲劇は、決して忘れられることはない。

 それでも、生き残った者たちは歩いていく。


 悲しみを、新たな希望に変え、乗り越えるために。


 託された想いを胸に、そして、新たな明日へ向かうために。


 こうして、海竜の祠を巡る一連の異変は幕を閉じた。


 しかし、あんずたちの若き冒険者の物語は、まだ始まったばかりだった。



──序章編 完結──



 第13話をもちまして、「怖がり巫女のモフ子」序章編、無事に完結となりました。


 ここまでお付き合いいただき、本当にありがとうございました。


 序章編では、地鬼《ゴブリン》討伐から始まった依頼が、海竜の祠、朱音、そして祟り神へと繋がり、武三郎たちにとっても大きな出来事となりました。


予定では5話くらいにまとめてサクッと終わらせる予定でした。その方が、読者の皆様に作品の世界観に入っていただきやすいとも思ったのですが……。


戦いや、犠牲となった冒険者たちの遺体回収や現場検証、浜芝村の復興、そして清祓鎮魂の儀《せいばつちんこんのぎ》まで細かく描くことで、この作品の世界で生きる人々の姿を、できるだけ丁寧に伝えてみようと、危険な体当たりを敢行してしまいました。


才能に欠けた私にとって、日々、ネタの考案と編集(今もステルス編集しております)に押しつぶされる状況。


ここで作品を公開されている、優秀な作家陣の方々の凄さと情熱に改めて驚かされております。


第13話では、海竜の祠を巡る一連の事件にも、ひとまずの決着がつき序章編の最後を飾る展開となりました。


 浜芝村の人々がこれから少しずつ日常を取り戻していくように、物語もここから新たな一歩を踏み出します。


 次の章からは、今回のような大きな事件だけではなく、武三郎、清志郎、向日葵、あんずたち冒険者の日常を描いた短編も、少しずつ挟んでいく予定です。

 序章編よりはリラックスした内容に……したいなあ。(汗)


 浅草雷ギルドでの何気ない一日。

 依頼の帰りに立ち寄る店。

 冒険者仲間たちとの酒盛り。

 くだらないことで騒いだり、喧嘩したり、笑ったり。

 時には魔物、妖魔、盗賊などの討伐依頼に出向いたり。

 時には町で馬鹿騒ぎをし、時には何も起こらない一日を過ごしたり。


 そんな彼らの「冒険者としての日常」も、この物語の大切な一部として描いていきたいと思っています。


 大きな事件の合間だからこそ見えてくる、武三郎たちの普段の顔。(そいえば、武三郎と清志郎は芸人だからコントや漫才も入れなくちゃいけませんね)


 そして、これまで登場した仲間たちとの何気ないやり取りも、楽しんでいただければ嬉しいです。


 もちろん、物語の本筋も少しずつ動いていきます。


 海竜の祠で起きた事件が、これからどのような形で繋がっていくのか。


 そして、武三郎たちの冒険がどこへ向かっていくのか。

 そのあたりも楽しみにしていただければと思います。


 それでは、次の章でまたお会いしましょう。


 これからも「怖がり巫女のモフ子」を、どうぞよろしくお願いいたします。


新小岩 茶太郎


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