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【完結済】異世界移住パッケージ~保証付きスローライフだと思っていたら拾った男が訳アリ王族でした  作者: りわ あすか
移住編*エオルトリア高地の魔女

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22/90

022 TIDY 整然とした,かなりの,整頓する

 ロシュディは、かつて王家の正統を示す始祖の血にまつわる古文書を偶然発見したという。それは王宮の深奥に厳重に保管されていた、一般には存在すら知られていない禁書だった。彼がその書庫に足を踏み入れたのは、単なる学術的な興味からだったが、そこで彼の運命は大きくねじ曲がった。


 ごく一部しか残されていない断片的な資料。

 記されていた記録。


 王家が代々、神の加護を受ける者として権威を保ってきた構造は、始祖の血筋を根拠にしていた。神聖な血脈が、王国に繁栄と加護をもたらすと信じられていたのだ。


 その根が、実はとうに途絶えていたとしたら――。


「……公にされたら、大変なことになりますよね」


 ユウの声はどこまでも静かだ。


 内容的にはかなり重たい話をしているにもかかわらず、額に軽く汗をかいている。

 なぜならば先ほどまでロシュディの日課である薪割りのサポートをしていたからである。まったく自動搬入されない薪束に、ユウはナビゲーションを密かに恨む。


 ちょうどよく冷やされた果実水に、なんとか気泡を入れこむことに成功した彼女は、風の魔石をくるくると弄んだあとポケットに仕舞った。

 ロシュディはどことなく責めるような顔つきだが、ユウの行動には口を挟まない。


「だから、秘匿され続けてきたのだと思う。その情報に触れたことで、俺は危険分子とされたのだろう。まあ元々玉座には興味が無いんだが……」


 ロシュディの言葉は苦々しい。

 真実を知ってしまったが故に、彼は王家にとって都合の悪い存在となった。隠蔽された秘密を守るため、あるいは、その秘密が露見する前に彼を排除するため、追手が差し向けられたのだろう。それもまた、彼を王位継承の可能性から排除する為の言い訳の一つにすぎないのかもしれないが。


 正妃の生んだ王太子よりもずっと濃い紫紺の瞳。ずっと艶やかな白金髪。病一つしない健康な身体に恵まれている。そして魔力を持つ存在が稀少性の高いこの時代に、僅かながら魔力さえも有している。誰よりも、どの兄弟以上に、と、王宮に巣食う闇が、ロシュディを絡めとろうとしてきたことは事実である。


「戦って、怪我したんですか」


 ユウはロシュディの怪我の状態を思い浮かべる。あれは、事故でも何でもなく、殺意を持ってして行われた傷であろう。抉られた傷跡は素人目に見ても、単純な切り傷ではなかった。


 彼女は、ロシュディが自身の保身のためだけに逃げてきたのではなく、より大きな真実のために動いているのではないかと考える。

 いや、そういう考えに、変わったのではないだろうか。もしかしたら、それはこの高地で、魔女とではなく、ただの移住者である自分と出会ったことで。


「ちょっとだけ疑問に思ったんですけど……誰が、その秘密を知られたら困るんですか? ロシュディさんは王家の人間なんでしょう? その真実を知っている人は、現王家をもって国家運営していきたいから、それ以外の人に知られたら困るのかもしれないけど、現王家の人だったら、反対にその秘密を受け継いでいきそうな気が」


「ああ……俺は、庶子だから。ほかの兄弟達に比べて母親の身分が低い。今フェルギス王宮は王の病を切っ掛けに、正妃派と王太后派と宰相派に別たれて王位継承争いの混乱を極めている。反乱分子からすれば、始祖の血が現王家に無いというのが真実ならば、新たな家門を担ぐのにも易いが、正妃派も王太合派も宰相派もそれぞれ王太子、王弟、第二王子と王族を担いでいる。この状況で、始祖の血が途絶えていると周知されると、混乱に混乱を極めて国が崩壊しそうだ」


 どこか諦観するような声にユウは思わず口を噤む。


 身分制度に関してはお手上げだ。

 現代日本の社会を生きる自分にとっては、どうしてもピンとこない所が多い。それでも、庶子という立場は言葉としては理解できる。この高地に来るまで、ロシュディは計り知れない程の苦労を重ねてきたのだろう。よく軍では――という話が、会話にあがっていたのを思い出す。


「そうなんですね」

「なぜ、君が落ち込む」

「落ち込んでないですよ! 判らない事がなんとなく申し訳なくて……」


 ますますしょんぼりとするユウの額を、ロシュディは軽く小突いた。


「それより、君の力が、たぶん必要な事がある」

「たぶん、とは」

「昨日また、課題とやらを出題されたと言っていただろう? 『封印された知識を解読』とか」


 ロシュディは上着の内ポケットから、丁寧に幾重にも巻かれた巻紙を取り出した。

 広げると、そこには複雑な文様と、見慣れない文字が並んでいた。それは、アルジェントが、件の黒星石を口の中からぱかっとロシュディに押し付けてきた際、黒星石そのものを厳重に包み込んでいた紙である。


「この断片がすべてではないが、かつて書庫で見つけた古文書に記されている文字に、似通っているものが書かれていた」


 彼の言葉には、真実を求める探求心が込められていた。


「……あれ?」


 ユウが身を乗り出して巻紙をのぞき込む。

 その瞳には、困惑と、微かな興奮が入り混じっていた。


「読める……。というか、見たことのある単語が混ざってますこれ」


 彼女の言葉に、ロシュディの目が大きく見開かれた。

 彼には全く読めない、古代の文字にも見えるその記述が、ユウには理解できるというのか。


「君の言葉に?」

「私の言葉っていうか、これもまた説明しづらいんですけど……色々便利な身体になっちゃってるみたいで……」


 ユウの言葉に、ロシュディは目を細める。

 彼の心臓が、ゆっくりと、しかし確実に高鳴り始めた。


 彼の思考が、一つの結論へと収束していく。王家の秘密を知った自分が、アルジェントと出会い。それからユウがこの地に至り、自分もまた託された。そして彼女には読める文字。彼女自身の異世界への転移もまた、この壮大な物語の一部なのではないかと、漠然とした予感。


 彼女の心には、ロシュディの言葉と、眼前に提示された新たな謎が、重くのしかかっていた。


 小屋の東、結界杭のひとつがぼんやりと光り始めたのはその直後だった。

 光はやがて点滅に変わり、地面から微かな震動が伝わる。



【外部生命力反応を検知および接近中】

【モード切替:対話対応可。推奨:備えあれば憂いなし】


【外部生命力による劇的影響の可能性を検知:生活ログを記録】

【補足:叙情的事項分岐(ロマンスフラグ)発生中(未確定)】

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