3 プールサイドにて、そして卒業までの日々
お昼になった。
四人は、プールサイドに併設されている、軽食のとれるレストランに入った。
俊輔は、きつねうどん。要は、焼きそば。女の子ふたりは、サンドイッチを頼んだ。
長田さんも、山内さんも、それまで、クラスメートという以外になんの意識も持ってはいなかったが、女の子と一緒に遊ぶというのは、気持ちが華やいで楽しいものだな。
要も今は、そのように感じていた。
要には、クラスに、いいなと思っている女の子はいた。
吉田さん。
可愛いと言いきっても構わない女の子だろう。
俊輔には受け付けられないレベルに達しているかもしれない。
要の女の子の趣味は、ごく普通だった。可愛い女の子がいいなと思っている。
でも、吉田さんに対して、恋している、とまでの強い気持ちを持っているわけではない。
とりあえず今は、この状況を楽しもう、そう思った。
俊輔は、既に充分に楽しんでいるようだ。
俊輔は、口数の多いほうではない。今も、自分の方から話題をふって、ということもない。
でも、女の子というのは、よく喋る。
黙っていても、向こうから、どんどん話題をふってくる。
それに対して、俊輔は、にこやかな表情で受け答えしていた。
「ねえ、この水着、どうかしら」
長田さんが、俊輔に話しかける。
長田さんも山内さんもセパレートだった。
「よく似合っているよ」
「そう、良かった。律子も私も、去年まではワンピースだったんだけど、今年初めてセパレートにしてみたの。ふたりで一緒に買ったんだ。ビキニにしようか、とも思ったんだけど、そこまでの勇気はでなくて。男の子は、やっぱりビキニがいいのかなあ」
―そのとおりだよ。
と、要は答えた。心の中で。
「ううん、ビキニは、ちょっと刺激が強すぎるな。セパレート、良いと思うよ」
「そうなんだ。良かった」
「ふたりとも、スタイルいいね」
―たしかに。
それは要も感じていた。
「ありがとう。うん、スタイルはね。それは、ちょっと自信あるんだ」
「今日は、付き合ってくれてありがとう。岸本君と新田君が、私たちの相手をしてくれると思わなかった。嬉しいな」
と、山内さん。
「へえ、なんで」
「だって、岸本君、クラスの中でも人気あるんだよ。かっこいいって。あっ、新田君もね。ファン、何人かいるよ」
―へえ、そうなんだ。それはそれは、嬉しいな。誰だろう。
吉田さん、ってことはないだろう、たぶん。
「そういえば、岸本君って、可愛い女の子、苦手なんだったね。そのこと、有名だよね、
そうか、そうか、それで私たちの相手をしてくれているんだ。可愛くないものね。納得」
―観測気球を打ち上げてきたな
要はそう思った。
「あれは、誤解を招く言い方だったな、と反省している」
―うん、どう考えても問題のある発言だ
「僕は女の子は、みんな可愛いと思っている。長田さんも山内さんも、可愛いなって、思う。一緒にいて楽しいよ」
長田さんと山内さんが、とても嬉しそうな表情をした。
ああ、いい表情だな、と要も思った。
「僕が苦手なのは、みんながみんな、可愛いと思ってしまうような女の子なんだ。見ていて、この子、小さいときからずっと、可愛い、可愛いと言われ続けてきたんだろうな、と想像してしまって。
だったら、ずっと男の子にも人気があったろうし、別に僕じゃなくてもいいじゃないか、そんな風に考えてしまうんだ。
僕は、自分は、女の子のことすごく好きなんだな、と時々思う。どの女の子も、見ていてとても楽しい。
特に自分に自信のなさそうな女の子を見ていると、思わず、その子の可愛らしさに、僕が気付かせてあげたい、そんなこと、よく思うんだ」
要も初めて聞く話だった。
―そうだったのか、なるほど。
俊輔、お前、将来は、宗教を始めて教祖様になってしまいそうだな。
―山内さんと、長田さんの顔が輝いている。洗脳されたか。
「それじゃ、私、岸本君の彼女に立候補しようかな。実は、私、前から岸本君のこと…」
と、山内さん。
―いや、それは、今の俊輔の話と、ポイントがずれているでしょ
「律子、それは違うと思うよ」
―長田さんは、分かったようだ。
「山内さん、ありがとう。そう言ってくれるのは、とても嬉しいです。でも僕は、今は特定の彼女をほしいとは思わないんだ。それよりは、色々な女の子と楽しくお付き合いできたらいいなと思っているんだ」
「うん、私は、さっき、岸本君が言ったこと、分かったように思う。岸本君ってそういうことを考える男の子だったんだ。じゃあ、例えば、今日みたいな感じでなら、この四人でまた遊ぶのも構わないのかしら。」
「うん、もちろん。ふたりでもいいよ」
「ふうん、ふたりでもいいんだ。彼女だ、ということを求めなければ、という意味でしょうけど。でもそのこと、私が女の子たちに話したら、岸本君と一緒に遊びたいっていう女の子たくさんいると思うな。今のクラスでも、別のクラスでも」
「そうなのかなあ。でもそうなったら、嬉しいな。時間の許す限り、できるだけお付き合いしたいです。要もいるし」
―おい、俺はお前とは違うぞ。勝手に一緒にしないでくれ。同類と思われる。
でもまあ、それでもいいか。何か楽しそうだ。
中学卒業まで。
岸本俊輔と、それから新田要は、放課後と、休日の多くの日々を、グループデートと、単独デートに費やすことになったのであった。
お付き合いしていただいた女の子は……グループデートも含めれば、クラスメートの大多数。別のクラスの女の子とも、それとほぼ同じくらいの人数。
―見境なしね。誰でもいいんだ。
と、反発する声もあがったが、俊輔&要コンビは、総じて好評だった。
グループデートで、 女の子が三人以上になるときは、概ね、これまで女の子には無縁だった男子に声をかけて、極力男女同数になるようにした。
その中で何組かのカップルも誕生した。
俊輔と要は、それぞれ何人かの女の子と、ふたりだけでのデートをすることもあったが、特定の彼女はできなかった(作らなかった)。
女の子に関して、俊輔がどのような考えを持っているかということは、知れ渡ったし、
―岸本君と新田君はみんなのもの。抜駆け禁止
女の子の間で、そのような協定もできたようである。
―いや、俺は違うって。抜駆けしてよ。
要はそう思ったが、積極的に口に出しはしなかった。
要も今の状況が、充分に楽しかったからである。
おしゃれな女の子、さばさばした女の子。美術好きの女の子。音楽好きな女の子。楽器を習っている女の子。スポーツ観戦の好きな女の子。鉄道好きな女の子………
―たしかにみんな魅力的な女の子だな。
要もそう思った。




