2 美少女は苦手です
俊輔は、明るく華やか、見る人が誰でも好感を持ってしまうというようなイメージの容姿ではない。
が、むしろある程度の人生経験を積んだ女性が惹かれてしまうような、そんな深みをもった容貌の持ち主だった。
知的好奇心が強く、学業は優秀だった。
運動面では、軟式庭球部という、マイナー的な目で見られている競技ではあったが、市内の大会で優勝した経歴も持っていた。
女子にもてる要素は揃っている男の子だった。
中学二年のとき、クラスの中でも一番可愛いと言われていた福崎悦子が、俊輔に
―付き合ってほしい
と申し込んだ。
悦子は、それまでも俊輔に対して、そばで見ていても、はっきりと分かるような好意を示す言動をしばしば俊輔に投げかけていた。
その自分の気持ちに俊輔がまるで気付いていない様子なので、しびれをきらしての申し込みだった。
「ごめん、僕、可愛い女の子は苦手なんだ」
それが俊輔の返事だった。
悦子は、自分の可愛いらしさについては、充分に自覚していたので、断られるとは思ってもみなかった。
が、断られた理由は、悦子にとって決して不名誉なものではない。むしろ周りに言い触らしたい。
実際、悦子はそうした。
周りの女子に言い触らした。
クラスで一番の美少女をふってしまった岸本俊輔。
可愛い女の子が苦手な岸本俊輔。
中学の中で、俊輔は、それなりに有名になってしまった。
二年から三年にかけて、自分の可愛いさに自覚を持っている女の子が、俊輔に交際を申し込むということが、一種の流行のようになった。
そして、各クラスで、一、二を争う美少女たちは、悦子のときと同じ答えを俊輔から引き出し、喜んでそのことを周りに吹聴していった。
そのレベルではない少女であっても、自分の可愛いさに自信を持っている女の子に対しては、俊輔は、やはり、同じ答えだった。
要は、俊輔と最も仲のよい友人である。
―可愛い女の子は苦手
という俊輔の発言を知ったときは、
―俊輔も馬鹿なことを言ったものだな
と残念に思った。
要は、俊輔の女の子の趣味については、知ってはいた。
ふたりで雑談をしていて、好きな女性タレントについて話していたとき、俊輔があげたのが、歌は抜群に上手いが、地味な顔立ちで、さほど多くの少年ファンがいるわけではない少女歌手だった。
そして凄く可愛いと称されている何人かの少女タレントについて、
―どう思う?
と要が尋ねると
俊輔は、
―俺は、そういう華やかな感じの女の子は、苦手なんだ。
と答えた。
そのときは、
―ふうん、女の子に対しては変わった趣味を持っているんだな。
と、思ったが、それ以上深く追求は、しなかった。
だが、それをそのまま言ってしまったのか、それはあかんやろう。
俊輔が気にいる女の子は、「可愛くない女の子」ということになってしまう。
そういうレッテルを貼られてしまうことを喜ぶ女の子は、いないだろう。
要も、俊輔と同じ軟式庭球部である。がともに後衛なので、ふたりはペアではない。
休日も練習があるので、中学三年の前半、俊輔も要も、熱意をこめてクラブ活動に励んだ。
夏の市内大会でも俊輔のペアは優勝した。要のペアも準決勝まで進んだが、そこで俊輔のペアに敗れた。
阪神大会でもともに上位まで勝ち進み、要は県大会まで。
俊輔は、近畿大会まで進んだ。
八月中旬、公式大会は終了し、ふたりは部活動から退いた。
夏休みも残り一週間というとき、俊輔と要は、部活動から解放された自由時間を満喫しようと、阪神パークのデラックスプールに泳ぎに行った。
ふたりがシートを敷く場所を探しながら、プールサイドを歩いていると、
「岸本君、新田君」
と声をかけられた。
見ると同じクラスの女の子、長田さんと山内さんだった。
「ふたりなの」
俊輔が声をかける。
「うん、岸本君と新田君もふたりなの」
「そうだよ。じゃ、一緒に遊ぼうか」
「えっいいの、うん、そうしましょう」
長田さんも、山内さんも、クラスの中で目立った女の子ではない。
要は、可愛い女の子がいたらあわよくば声をかけて、などと考えていたのだが、それはできなくなってしまったようだ。
まあ、それをするなら、一緒に行く相手を間違えたな、仕方ないか。
そう、思った。




