表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
52/54

終わりの始まり・四

 カンパニー本部・会議室・雪月side―――


「なるほど……つまり貴方は使鬼・シラユキではなく、異世界人・雪月だと言うのですか?」


 白亜の建物の中とは思えない和風建築の会議場に、俺はカンパニーの重役とも思えるお歴々に囲まれて、ビビりまくっていた。

 正面に座る、八十くらいの小柄なお婆さんは……まさかこの人が黒須代表か?

 ギスギスした周囲の幹部連中と比べてそこだけ時間がのんびり動いている気がする。


 それが逆に不気味過ぎて恐ろしい。

 なに、異空間バリアーを張っているのさ。

 俺の心臓はネズミの心臓……少しでも気になることは皆、自分への脅威とみなす。


「そんなことが信じられるのか……身体の乗っ取り?」

「いや、権能チートは異世界人のみが得られる能力……作り物の人形が使えるよりは、その人形を異世界人が乗っ取ったという方が理には適っている」


 ざわざわと、見た感じ優秀そうな重役連中が俺の扱いに対して論議している。

 ここが正念場だ……ここでしくじれば俺は廃棄処分いや、処刑もありうると思え。

 少しの失敗も許されない。

 奴らは俺を指先一つで抹殺できる権力者共……考えるんだ、俺は何としてでも生き延びる。


「お悩みの所申し訳ありませんが……私は私が話した通りの存在……嘘偽りなど無く、私は異世界人……そして河野こうのあきらの親友でもあり……」

「あの男の親友だと!!」


 重役の中で若干若そうな四十くらいの男が声を荒げる。

 迂闊な行動だと即座に判断したのか、すぐに感情を引っ込めるが……俺にしてみればそれで十分だ。


 河野の親友……これは特別扱いしなければならないぞ。

 ……ではなく。

 あの男の関係者かこの野郎!!……みたいな。


(河野……お前どんだけカンパニーでやらかしたのよ)


 なんか河野、カンパニーで特別顧問だとかで、働かなくても給料を貰える身分らしいけど……恨みを大分買ってそう。

 ここは軌道修正……河野と敵対している事にしとこう。


「しかし私は彼に裏切られ、今はもう縁を切りました……今後の人生は河野への復讐に捧げる気であります」


 なんとか軌道修正に成功……したと思いたいが、うさん臭い物を見る目で重役たちは俺を睨む。

 さすがはブラック企業・カンパニーの幹部、なんか俺では抵抗すらできなそう。


「どのみち、我らにはこの道具一つしかない……なんとか懐柔して言う事を利かせるしかないのではないですか?」


 俺の事をはっきりと道具と称したのは、三十前後の腐りかけの魚のような目をしたチャラチャラした男であった。

 口調こそ丁寧だが、身体の各所にアクセサリーを付けて現代日本だとミュージシャン志望とでもいいたげなフラフラとしてそうな感じ。

 周りが和服なり洋服なり、スーツっぽい服をきっちり着こなしている分、余計にその軽薄さが目立つ。

 幹部会では、あまりに異質な男……。


「君は何が欲しい……ここは大陸一安全で裕福なカンパニー組織の本部だ、何でも手に入ります……金も地位も、快楽も愛情も……我らのために働いてくれるのならばできる限りの物を用意する」

「働かないと言ったら……」

「薬で言う事を聞かせる……アッパー系とダウン系……どちらがいいですか?」


 実は僕、両方キめているんですよ……そう言いたげな淀んだ目付き。

 もうヤダ、この集まり……こんな奴ばっかり。


明澄あきずみ……!!」


 だがさすがに根暗男の言動は、この中でも許されない物だったのか、幹部たちが騒ぎ出す。

 

「……!」


 見過ごしそうになったが、中央の老婆が目線を件の明澄に合わせると、部屋の隅にいた護衛らしきガードマンが彼の両脇を固め、外に連れ出そうとする。

 明澄は……抵抗しなかった。


「また私を嵌めるのですか……いいですが」


 ブツブツと呟きながら、彼は文字通りつまみ出された。

 どす黒い空気を一身に背負った奴がいなくなった後……会議場がわずかに涼やかになる。

 でも俺は油断しない。

 偉い奴は悪い奴……そう思って警戒を継続する。


*****


 明澄が退場しておよそ五分ほど、妙な沈黙を得て、中央の老婆が口を開いた。

 周囲の幹部が一斉に背筋を伸ばしたところから、彼女がやはりこのカンパニーの代表・黒須か。


「ともかく、私は貴方にカンパニーに在籍したままでいて欲しいのよ……貴方の能力・権能殺しは私達が長い歳月をかけて会得しようと研鑽してきた届かなかった秘術……それをこれ以上、他組織が手に入れてしまっては私達の立場がない」


 一瞬、周囲の幹部が怯んだが、黒須代表はそれでも全てを話した。

 変に誤魔化したりせず、自らの窮地を話すその態度は好感がもてる。


「先程、お前は河野への復讐と言ったな……我らに協力してくれるのならばその復讐を手助けしてやろう……して、その復讐相手は河野一人か、それとも彼と共にこの世界に召喚された十一人と三人全てか」


 黒須代表から見て、出しゃばるような形で恰幅……デブな四十くらいの幹部が(先程河野の名前に不快を示したのと同一人物)俺に問いかけてくる。

 なお黒須代表は穏やかな笑みを浮かべていたが、その隣の幹部が非難めいた目でデブ幹部を見ているので、その行動は否と取られたらしい。


「私が復讐するのは河野一人……他は知りませんな」


 嘘ではない。

 学生時代の同窓生……と言うものの、いわゆるボッチであったため、河野以外の十一人については顔も名前も憶えていない。

 親しい訳でもなく、思い出もなく、それ以前に登校していたが自分の机に引きこもっていた俺は同窓生自体にまるで関心がなかった。

 卒業アルバムすらロクに開かない俺は、顔も名前も分からず、名乗られてこちらに敵意を見せなければ彼らの事を認識できないだろう。

 復讐の……しようがない。


「大高……少し黙っていなさい」

「はっ、出過ぎたことを申し訳ありません」


 素直に引き下がる太っちょ……大高。

 しかし彼の言ったことは俺に一つの指針与えた。

 そうだな……俺からいろいろと要求するのもありか。

 下手に無欲でいると、何をしでかすか分からないと思われる可能性があるからな。


(とは言うものの……俺はこの世界で目覚めて一か月ちょっと、何を要求するかは決めかねるな……金を要求しても、金銭が通じない地域が多ければあまり恩恵はないしな)


「とりあえず陽菜とリーネ……俺と親しい二人はこのまま俺の護衛として続投という形にして欲しいのですが」

「もっと優秀な人材を派遣することもできますよ」

「人見知りするんですよ……俺は」


 とりあえずはこのくらいか……俺が要望を伝えると、なぜか大高が馬鹿にしたように笑う。

 お前……黒須代表に窘められたばっかりだろうに、少し黙っていろ。


「アラフォーで人見知り……信じられませんな」

「アラフォーじゃないです!!」


 ついつい声を荒げてしまったが、こればっかりは仕方がない。

 俺は三十歳。

 確かに河野らは三十歳で召喚されて七年ほど過ごしているから四十近いかもしれないが、俺は目覚めるまで封印されていたようなものなので、他人とは年齢計算が違います。


「大高黙りなさい……ごめんなさいね……貴方はアラフォーじゃない」

「勿論です」

「では本当の年を教えてくれる?」

「二十九歳です……営業職に就いてました!!」


 ふっ……つい突発的に一歳年を誤魔化してしまったが、まあいいだろう。

 この世界で俺の本当の年齢を知る者は河野ら十二人と三人のみ。

 誤魔化せるはずだ。


 大高が資料を手元に引き寄せて、しきりに首を傾げているが……多分、大丈夫。


「そうか、済まなかったな……人にはいろいろと事情がある……私の失礼な発言を許して欲しい」

「……」


 大高もこう言っているんだから大丈夫……大丈夫。


「では貴方の希望を取り入れて十七ひなとオルトリーネを護衛につけましょう……また旧首都・大和やまと郊外に住居としてお屋敷を用意します、また月々幹部クラス並みのお給金を支給します、勿論幹部としての仕事をしなくても構いません」


 家付き、高給、ついでに仕事もしなくていい。

 実に素晴らしい待遇だが、それが黒須代表の胸先三寸でいつでも取り上げられる物だということを俺は理解していた。


(これからカンパニーから円満退職して、特に働かなくても生きていけるような生活を構築するように頑張らないとな)


 理想は不労所得……地主とか、アパート経営者とか。

 あいつら何もしなくてもお金が入ってくる上流階級だからな(偏見)。

 俺もその仲間に入りたいぜ。

 

 ここは異世界だが、現代日本出身の異世界人やその血族である和人のいる世界。

 そういう生活もできそうだ。


 ただ問題は俺の身分。

 使鬼しきという従属奴隷種族の身では多大な財産や権利は持てまい。

 カンパニー上層部は俺が異世界人だという事を知っていても「雪月……知らない子ですね」と言われれば俺は他の一般市民にその素性の証明できない。

 

 俺の代わりに俺の財産と人権を保障してくれる人間種族が必要だ。

 それを探さなければ……。


 俺の異世界での目標が召喚より一か月ちょっと(体感時間)でようやく決まった。


「住居や金で貴方を吊れるとは思ってはいないわ、これはサービス……もう少ししたら貴方が本当に欲しい物を教えて頂戴、それを私は用意しましょう」


 最後に黒須代表は俺にそう告げた。


*****


 その後の会議では幹部連中がヒソヒソと話し合うばかりで俺の存在を半ば無視する始末。

 俺にとっての会議は事実上終わった。


 最後に俺は陽菜とリーネの人材資料を受け取り(新しい上司は部下の今までの成績や能力を閲覧できるらしい)。

 と言うか、俺が二人の上司になるの。

 会った時の逆の立場かよ、面倒くさい……。


 そして俺はそのままガードマンに連れられて懐かしの三十八支部に送られた。

 荷物をまとめて明日には出立だそうだ。

 

 もうちょっとゆっくり、休暇でもくれないかな……無理だよな、ここブラックだし。

 そんなことを考えながら、支部に入ると、二人のメイド?が三つ指ついて待機していた。


「カンパニー軍事部門・特別支援部隊大隊長兼 蒼札そうれい部第十三支部部長・雪月様……我らは今後、全身全霊を持って仕えさせていただきます!!」


 なんの悪戯かと思っていると、二人のメイドの一人、黒交じりの金髪で碧眼、割烹着プラスエプロン姿(和風メイド)の十五歳リーネが先に顔を上げる。

 その顔には俺に対する敬意……などはなく、口元をムニムニさせて必死に笑うのを堪えていた。

 この野郎……。


 そして次に陽菜が顔を上げる。

 黒髪ロングに赤みがかった瞳、十七歳くらいのメイド服姿。

 スーツはどうした、スーツは……カンパニー社員の誇りは?

 

 リーネと違い、彼女の目には俺に対する尊敬にあふれていた。

 が、その視線は正直重い……リーネの方が楽であったと思い直す俺。

 え、何……俺の部下はメイド服着用なの。


 俺は若干抵抗感を覚えながら、陽菜とリーネの資料を見る。

 特に俺が知っている情報と大差はないが……陽菜の年齢に問題があった。


「え……陽菜さん五歳なんですか?」

「はい……私はカンパニーに育てられた巫女ですから……普通の人よりもたくさんの魔力や栄養を得ているので成長が早いんです」


 そんな促成栽培のお野菜みたいなことを言われても困るんですけど。

 そうか、直情的でところどころ融通が利かない性格は幼い年齢によるものだったのか。

 上司になって初めて知るヤバい事実。

 リアルに人体実験に人造人間かよ。


 はたっと見ると、リーネが昔は大変だったみたいに、腕を組んでうんうん唸っているけど、お前の仕事だからな、陽菜の養育。

 ……あ、資料の一枚をいつの間にかリーネに奪われた。

 それは……あれ、二人の人材資料じゃない?


「代表もえぐいな……私たちの住む場所……対 帝乃槍グングニールの最前線だぞ」


 ……騙された。

 次回で三章は終了です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ