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終わりの始まり・三

 カンパニー本部・使部課・第三十八支部・雪月side―――


(あーやっと帰ってこれた)


 心の中でオッサン臭いことを言いながら、俺は本拠地たる三十八支部詰所に帰って来た。

 俺がこの世界で目覚め、連れてこられた初めての居場所。

 正直、ぼろっちくて物置みたいなところだけど、今はそれもなんか愛おしい。


(ついに俺にもチートが……神様遅いよ、いやありがとう)


 なんでいきなり発現したか知らないが、俺の能力は権能(チート)殺し。

 チートや魔術などの使用者に大ダメージあるいは即死させる強力な能力。

 ここが脳筋だらけの修羅の国ならば、俺の能力は何の意味もなかった。

が……この世界では上流階級はチートによって延命しているらしいので、チートを抹殺する俺の能力はそいつらには死神みたいな存在となる。

汚い政治家(偏見)は一撃死、世界が俺の能力に合わせてくれた形だ。


 俺は何もしなくていい……むしろ何もせずにどこにいるか分からなくしている方がいいのだ。

ただ存在するだけで、延命しているお偉いさんや、人体を改造している魔術士や戦士が即死効果を警戒して動きが鈍くなる。

逆に例えばどこかの戦場に姿を現すと、それ以外の場所の奴がこっちには来ないと安心してしまう。

故に俺は部屋に引きこもっているニートが主任務。

姿を現さないのが仕事。

最高じゃないか……。


以上……俺が考えた俺の能力と、俺自身の最も有効的な活用法……。

黒須代表に具申しよう。


(自分の身体を失ったことは残念だが、今はもういい……これからはこの使鬼の身体で愉しく過ごそう……寿命? 怖いことは今考えたくありません)


 俺が感激してガッツポーズをしているのを陽菜とリーネ、二人も喜んでくれている。

 おめでとうございます、とパチパチ拍手する陽菜。

 今日はお祝いだ、ご馳走だ……とさりげなく自らの欲求を紛れ込ませるリーネ。

 だが許そう……今日の俺は寛大だ。


「おや、これはなんの騒ぎだ?」


 そんな中、白い覆面を被った研究者らしき男がやってくる。

 俺をこの身体で復活させた(一応)である立花だ。

 こいつは日和見っぽくてあまり好きになれないが、こいつもお祝いの席に呼んでやろう。

 お祝いは人数が多いほどいいもんだしな。


「ほぅ……権能殺しか」


 陽菜に俺らが喜ぶ理由を聞き、考え込む立花。

 そう言えば、あの赤毛のお茶くみ何か言っていたな……確か。

「ついに完成させたんですね」


 なぜか俺の首元にゾワゾワと寒気が忍び寄る。

 ドクロの面の死神が、生ぬるい手でペッタンペッタン撫でてくるような悪寒。


「そう言えば……カンパニーって権能殺しについて研究とかしていたんですか?」


 立花にさりげなさを装い、聞いてみた。


「研究も何も、カンパニーの至上目的だ……ほれ、陽菜含む巫女なんかそのために生まれたんだよ……教国と戦争が起こった場合、こちらが圧倒的に有利になるからな、何十年も前からカンパニーはそれらを研究してきた……もっとも七年前の戦争には間に合わず、代表は各方面からかなり叩かれたらしいが」

「……そうですか」


 不味いまずいマズイ……。

 それは不味いぞ。


*****


 憧れのニート生活に脳内が快楽一色で満たされたのもつかの間、その一色が突如として泥色に染まる。


 カンパニーは何十年も前から権能殺しを発現させるべく、研究してきた。

 長い年月とまず間違いなく多大な労力と莫大な資金を投入してきたはずだ。

 それが実を結ばず、ポッとでの俺がその手柄を横から分捕ってしまった。

 

(黒須代表の面子が丸潰れ、どころではない……今までつぎ込んだ人・金・物は必要なかったのではないかと各方面から追及され、下手すら黒須代表は解雇、創業者(多分)なのに強制免職)


 無論、黒須代表とて座して死にはすまい。

 俺を捕えて私の手柄ですと周囲に喧伝すれば首の皮が繋がる。

 どんな手段を駆使しても俺を手中に、ついでに絶対服従させればなおいい。


 俺はちらっと陽菜を見る。

 権能殺しを発現させるために必死に努力してきたであろう。

 だがその努力の成果を俺に取られてしまった……それでも純粋に俺の事を喜んでくれるおひとよし

 が……世の中が陽菜みたいな人間ばかりでないことは俺は知っている。


 今回はもっと高度な料理に挑戦してみたいと、サラダとか……とか言っている。

 ああ、この前の歓迎会の料理はほとんどリーネが作ってたのか……じゃない。


 黒須代表は、自分の配下の巫女に攻撃禁止の呪縛を掛ける奴だぞ、今や人間以下の人外となった俺に対してどんな手を使うか知れたものではない。


「あれ……はい、え?」


 陽菜が突然、耳を抑えて何事か話し始めた。

 彼女は時折、姉妹からの電波?を受信する。

 多分、陽菜は人間じゃないんだろうな……多分ロボットっぽいの。

 陽菜の身体は鉄ではなくて生っぽいから、陽菜は生っぽいロボットなんだろうな。

 深く追求すると面倒臭くなりそうだから、追及はしないが。


「どうした陽菜?」

「はい、姉からの通信なのですが、どうも言っていることがバラバラで……」

「どんな?」

「早く逃げろ、とか……このまま待機して何が起きてもじっとしていろ、とか」

「なんだそりゃ?」

「それから……これから来る奴らは社員に変装した悪い奴らだからやっつけても大丈夫……ですね」

(あねぇぇぇぇぇぇ!!)


 巫女、姉妹同士で微妙に仲が悪いことを感じさせる嫌な情報が入った。

 よくよく考えると、一つの目標(権限殺し習得)に邁進する集団とは、互いにライバル同士であるという事。

 もしかして陽菜の姉妹は互いに足の引っ張り合いをしているのかもしれない。

 とりあえず、陽菜はやっつけても大丈夫と教えた姉とは縁を切った方がいいと思います。


ざっざっざっ……。


「おい……この足音、確かカンパニーの戦闘部門の……」

「何かの訓練でしょうか?」


 こっちに来るんだよ!!

 首を傾げて現状を理解できない二人を他所に、俺はガクガクブルブル震えて体育座りだ。


 どうする?

 連れていかれて帰って来た時には「今、ご飯が食べられるのはカンパニーのおかげです……」とか口走るようになるかもしれない。


「使鬼・シラユキだな……黒須代表がお呼びだ」


 ドタンと音を立ててドアが開けられる。

口の端から、どうにも不満そうな心情が垣間見えるカンパニー戦闘担当。

 お呼びだ……ではなく、およびだぁ。

 

 異世界を研究しているカンパニーらしく、やってきた戦闘要員は警察の機動隊をファンタジー風にしたようなバケツヘルムの集団。

 俺には分からないが、なんらかの魔術付与とかかかってそう。


「なんだよ、お前ら……」

「なんなんですか!!」


 今更になって驚く陽菜とリーネの子供二人。

 彼らはまだ分からなくていい。


 大人って、子供とそんなに精神年齢変わらないの。

 特に、もう自分は人生やり直せないと思い込むと、ものすごく意固地になったり、面子を気にしたりして癇癪起こした子供並みに面倒臭くなるの。

 そんな人物が高い地位に就いていると下が苦労するの。

 でも、それが社会ではごくごく普通に振り返ってくるんだよ。

異世界で社畜の苦労を味わうなんてあんまりだよな


(だが、ここで逃げてもな……)


 リーネはともなく、陽菜はカンパニーの紐付きだ。

 逃げられないし、俺もまたこんな大組織相手に逃げ切れるとは思えない。

 何か、俺の身の安全を保障できるようなことが……。


 あ……思いついた。


 俺は今にもバトりそうな二人を肩を叩いたり、抱きしめたり、頭を撫でたり、微笑みを浮かべたりなんとか宥めようとして……失敗した。

 ついてくるって……。


「私は……シラユキさんの上司ですから」

「私は……ほら、友人だから」


 俺を連れて行こうとする機動隊もどきの隊長は若干、戸惑ったようだが、意外と柔軟性があるのか、二人の同行を許可した。


 だが後ろで立花が「ごくろうさまです……」とか隊員に言われているのが気にかかる。

 お前……俺を売った訳ではないだろうな。


(俺はそう言えば、カンパニー名誉顧問だったかのあの、河野の同窓生……つまりは顔見知りだという事だな)


 ここは一旦、復讐云々は忘れることにして、全力で河野と顔見知りだという事を利用しよう。

 実は現代日本では大親友だった。

 奴は俺の言う事なら大抵の言う事は聞いてくれる……とか適当に言ってやれ。


 俺が使鬼・シラユキではなく、異世界人・雪月であることをバラしてしまう事になるが……今までの経験から出し惜しみは危険と判断。

 命は一つしかないのだ……慎重に危険な行動は控えるように。


 俺はこうして黒須代表の下に連行された。

 正直……生還率は10%を切っていると思います。

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