死者は蘇る・三
使鬼
数百年前の統一帝打倒後に、当時の和人の長との契約により召喚された和人の従属種族。
各地に存在する「神樹の森」の奥地より生まれる。
姿は十代初めから中頃ぐらいの子供のような姿をしており、性質は純粋、和人への忠誠心が高い。
しょせん小鬼の親戚である鬼族と違い、和人に対して真摯であり可愛い。
身体能力が低く、術的な能力も高くないために基本的には家事や介護などの家内での仕事に従事する。
性的な関心も低く、と言うよりも性的に成熟する前に寿命を迎えるため、鬼族のように乱暴したり、間違いを犯すことはほぼない。
七年前の戦争では、兵力不足から実戦での投入も行われたが、その戦闘能力の低さから散惨たる結果に終わり、使鬼の人口を激減させるに至る……非常に残念だ。
使鬼研究 青木
*****
カンパニー成績不審者収容所・準備室・雪月side―――
「なんだこれ……」
ここは試験会場に隣接する準備室。
試験の準備をするとかであれこれやっている紅子……その間俺は暇なので、使鬼に関する資料を見せて貰ったのだが……正直、このチョイスは失敗だと思う。
この執筆者の青木はやたらと主観的に物を書く人間らしい。
内容は、使鬼は純粋で和人(人間全体にではない)に忠実である良い子であるという事。
そしていかに鬼族がダメであるかとこれでもかとディスっている。
曰く、鬼族は基本的に内向的で殺人狂である。
勘違いや思い込みで殺す。
夜中にフラフラしていたら殺す。
身体が臭いと言う理由で殺す。
自分のテリトリーに入って来た余所者には容赦なし……主人が知り合いだからと説明しても、関係なし。
……こんな奴いないぞ。
もしかして待遇改善とかで、鬼族にストライキでも起こされたのかもしれない。
(役に立たない……)
こんな資料を渡すなよ、紅子。
自分と同じ鬼族がボロクソに書かれている物を平然と渡す
あたり、細かいことは気にしないらしい。
もしかして題名だけ見て俺に渡した可能性も……それはそれで問題だな。
「行きますよ、シラユキ……」
紅子の声が聞こえる。
俺は無駄な時間を費やしたと後悔しながら、その後に続いた。
*****
カンパニー成績不審者収容所・試験会場・雪月side―――
そこは小さな闘技場のような場所だった。
石造りの丈夫な壁、そして中央には砂地のフィールド……投げ飛ばされても怪我しない様にとの配慮か。
そしてそこには数十人の使鬼たち。
年齢は全員が十代初めから半ば……16以上、高校生くらいの年齢に見える者はいない。
そして額には式札、服装はまちまちで、仕立ての良い服を着ている者もいるが、ほとんどは粗末な物、どういう扱いを受けているか分かろうものだ。
……傍目には少年キョンシー軍団(少し少女もいる)。
「あの女……」
「負けたくせに……」
そして彼らは、紅子を見ると、あまり好ましくない話題でヒソヒソ話。
どこが純粋なんだよ……。
ただ雇用主の空気を伺って従順なフリしているだけじゃん。
その偽っているストレスのせいか、彼らは弱そうな人間、勝てそうな人間……特に高みから落ちた人間には冷酷で残忍になる。
偉い人間が何かで失敗した時、猛烈に叩きたくなる。
確信する……だって俺ならばそうする。
芸能人の転落ドキュメンタリーとか俺、大好きだし。
「はい、今回の試験監督を務めます、赤崎紅子です……そして私の隣にいるのが私の補佐である、使鬼・シラユキ……前代未聞の半日合格のシラユキよ、私の言葉は彼の言葉、彼の言葉は私の言葉……心しておくように」
(ちゃっかりしてんな……)
使鬼たちが途端に静かになる。
使鬼は弱い……弱いから権威にも弱い。
それを知っていた紅子は俺を盾に彼らを押さえつける気だ。
さすが汚い、汚い紅子。
「赤崎監督……シラユキ様は監督に勝って合格したんですよね」
「はい、そうです」
小学生六年ぐらいの使鬼が俺に様づけだとなんか微妙な気持ちになってくるな。
なんか、虐めている気がして……。
「では、彼に勝てば私たちは合格なのですか」
「そうなりますね……普通よりは難しいですけど、シラユキに勝てるのならば合格ラインは超えています」
「一対一ですか……?」
「一対十でも構いませんよ」
(はい……?)
おい、今お前何言った……?
微妙な気持ちになっていた俺は、重大な決断が下されたことを見逃してしまった。
使鬼たちがわーと歓声を上げる。
そりゃそうだ……みんなで敵を倒せばクリアなんて、一人一人試験を受けるよりも楽そうだもんな。
だがおい待て……その相手になる一対十の一である俺は……。
俺は非難めいた目を向けたが、紅子は真剣そうな目で見返して来た。
うっ……断れそうにない。
「私に使ったあの力……見せるんや、いつでも使えるように今のうちに訓練しとき」
……あの力ってなんだ?
そんな事を思いながら俺は中央に引っ張られていく。
*****
「一斉に放つんだ……そうすればいくらシラユキでも……」
木製の簡素な杖を構えて使鬼ら二十人(十人じゃない!!)が俺に敵意を向けてくる。
数は多いが、なりが子供なせいかまるで怖くない。
きっと術も大したことはない……と思いたい。
短い詠唱の末、彼らは俺相手に何物かを放って来た。
炎に包まれた子犬、青い色の小鳥、緑色のイタチetc……それらが一斉に襲い掛かる。
(うわ、やりづれえ……動物愛護団体に怒られそう)
だが数は多いがしょせんは小動物……俺は持たされた木剣で迫りくる小動物を叩きつぶし、薙ぎ払い、あるいは足で踏みつけ、蹴散らしていった。
現実の存在でないのか、それらは一撃を受けると霞の様に消え去り、後には何も残らない。
そのたびに使鬼たちはうめき声をあげてうずくまる。
いや、だったら向かわせるなよ……。
この光景を現代日本で表すならば……小学生の集団に襲いかかった三十のDQNが彼らを蹴散らし……「これが貴様らと俺の実力よ!!」と威張り散らすようなものか。
考えると余計に空しくなってきた。
俺は何をやっているのだろう。
警察早く来て……そして俺を逮捕して。
その後に気合を入った何人かが、俺と同じ木剣を手に第二ラウンドを挑んできたが、これも難なく蹴散らした。
ペット?を抹殺されて意気消沈しているのか、彼らの動きは鈍く、そして分かりやす過ぎた。
やりますっ……と目を向けて振り下ろす木剣など当るはずがない。
俺は攻撃後、あるいは振りかぶった直後に先んじて剣を振るい、彼らを軽く叩きのめした。
後には二十人ほどの、死体のように倒れた使鬼の集団。
全て俺の戦果……本当に何をやっているんだろうね、俺。
「もういいぞ……採点は済んだ」
そんな中、何やら書類に書き込んでいる紅子。
興味深そうな顔をしている。
そんなに愉しかった……?
俺は肩を落としながら紅子に近づく、そして約一メートルぐらいまで近づいた所で彼女が動いた。
「……?」
何か嫌な予感がした俺はとっさに横に避ける。
案の定、俺がいた場所に炎が通り過ぎた。
炎の先は紅子の胸ら辺。
彼女の胸にはでっかい、大きな犬程のヒヨコが抱かれていた。
炎はヒヨコの口から洩れている……何その殺人ヒヨコ?
「何するんですか……?」
「今のは、斬れそう?」
「はい……?」
呆れた俺は、紅子の真剣な声に顔を引き締めた。
今のはただの炎だった……さっきのような動物ではない。
であるならば……斬ることはできない。
確かな形のない物は斬れない。
「斬れないのね……だとしたら貴方の能力は魔術に関してのみで、魔術を介しない攻撃には効果がないという事……さっきの使鬼の魔術……どう見えた?」
「小動物のように……」
「私にはただの炎と氷、風にしか見えなかったわ」
「……」
「貴方には別な物に見える……これは稀有な事よ」
俺はもしかしてこの紅子という女性を過小評価していたかもしれない。
彼女は俺の能力を分析しようとしている。
長所は何か、短所は何か、効果範囲は、持続時間は……。
「試験にかこつけていろいろと痛い目に合ってもらうけど……同時に能力を分析します、戦場で弱点が判明したり、長所を生かせないような事態にはさせない……私が責任を持って」
耳に寄せられた彼女の唇から、鉄のような決意が放たれる。
恐らく彼女は本当の軍人なのだろう。
それも幾たびも戦場を駆け抜けた実戦あがり……。
何度も失敗をして、そのたびに仲間を殺して来た……そんな悔恨が声から感じ取れる。
(こういうの……俺のタイプじゃないんだけどな)
その気迫に気圧されて、逃げ出したくなる気持ちを押さえつけ、俺は黙って頷くしかなかった。
悲しいことに痛みと恐怖はこの世界に来て、何度も嫌と言うほど味わっている。
ここで彼女の申し出を拒否しても、後にもっと酷い目にあう……そう思うと逃げる気も失せる。
やっぱ俺って、殴られないと本気になれないタイプだよな……そんなことを思った。




