山は口を開けた・二
だんだんネタが尽きてきました。
なろう秘密基地の感想依頼、六月中に再開する予定です。
香具山・本部・事務所・雪月side―――
「氷穂さんが手を引いた……?」
「そうだ、北条が手を引いた……時間切れだとかなんとかで」
本日俺は休日……を作った。
恐ろしいことにこの鉱山には休日が存在しない。
国難のため、自分勝手に仕事を休んで全体に遅れを生じさせたことに罰則を科すことが許可され、推奨されている……法律で。
つまり休日は、給料削減やら配給の減少などのペナルティを覚悟のうえで取ること。
もっとも、ほとんどの職業が無料奉仕のため、その制限は給料が出る限られた職務に適用される。
頑張ったら罰金(給料没収)。
休んだら罰金(一部没収)。
……なんて国だ。
「明日には西条家の援軍が来る……そうすればもうカンパニーに頼ることなくこの鉱山を守り切れる」
無邪気に笑うその顔は中学生と言うよりも、小学、あるいは幼児のようでもあり、とても昨日違反者をぶちのめそうとした人間とは思えない。
ひどく機嫌がいい。
本当に……何があったんだ。
「ゆっくり休んで欲しい……その後に答えを聞かせて貰おう」
今からのこのお嬢様に現実の厳しさを教えて上げねばならない俺としては少々、罪悪感が……。
だがやらねばならない。
そうでなければこの俺の……母親と兄に裏切られ傷ついた心は癒されない。
この心を癒すには、俺以上に悲惨な目に合う人間が欲しい。
それが適わぬならば、せめて人生を滅茶苦茶にされた人間が。
すまぬ穂乃香……全ては河野と俺の母兄が悪い。
俺が今から罠にかける秋虎と真白へ厳しい処分をお願いするぞ。
「ではな……ご飯はここに置いていく」
妙に駆け足で俺に笑いかけて(俺の目からは睨んでいるようにも見える)穂乃香は仕事に向かった。
こいつ……勤怠表を見るに就任してからの半年間で数日しか休んでいない。
いいな、若いって……俺なんてあっちでは三週間も連勤するとボロボロになったものだが。
そして俺は事務所の床に毛布を引いて寝転がり、朝飯代わりのお弁当に手を出す(気分はニート)。
氷穂が陽菜に対抗(?)して作ったと言うお弁当だそうだ。
さすがは姉?……妙な所で似ている。
パカリ……中にはポテチ?
薄く切って揚げたジャガイモが木製の弁当箱にぎっしり詰まっている。
そして備え付けの飲み物はなにやら黒く……底にはべったりと粉がへばりついている……まさか砂糖?
(えっと……異世界人の主食とされる揚げジャガと黒ジュース……異世界研究所・所長・北条氷穂)
弁当の下に書かれていた内容に俺は目を疑った。
氷穂さん、そんなことまでやっていたのか……。
違う、日本人でポテチとコーラを主食とする人種は少数派……それが基本ではない。
後で指摘しておこう……そうでないとこの世界の教科書に日本人の事で誤解を受けそうだ。
ちなみにポテチもどきはともかく、コーラもどきは甘すぎて飲めなかった。
こんなものを飲んだら糖尿病一直線だ。
「権利書……見つかりましたか?」
俺がポテチを半分ほど食べた辺りに、穂乃香の護衛件補佐役である真白がやって来た。
そういえばこの女、ほとんど穂乃香の傍にいないな。
穂乃香が暴力を振るわれた時に、庇うと暴力を振るった相手に逆恨みされるのではないかと恐れて見て見ぬふりした人間だから、見限られているのだろうか。
このクズっぷり……正直言えば安心する感じだ。
やはり性格的底辺は底辺が近くにいると心が落ち着くのだろうな、と再確認。
「権利書は母親である若菜さんの手紙……それを保管している引き出しの中だ」
俺はそっけなく、適当な感じで告げる。
その間も寝ながらポテチを食べることを忘れない。
真白が、使鬼の癖になんて無礼な態度だ、と言わんばかりに蔑んだ視線を向けてくるが俺としてはあまり傷つかない。
賞賛されるくらいなら失望される方を選ぶ俺のとっては、むしろ望む展開だ。
傷つかない訳ではないが、それを改善する具体的な行動に出る気にはならない。
「これは……」
穂乃香の机をガソゴソ漁っていた真白が狼狽えた様な声を出す。
気に成って様子を除くと、何やら引き出しにピアノ線のように細い糸が張られていた。
「術法です……引き出しの中の物を取り出そうとすると、発動して手を出した者と机自体を焼き尽くす強力な……」
「……」
なにその物騒な奴。
母親の手紙と一緒に自作漫画でも入っているのか。
黒歴史に触れようとする者に死あれ……みたいな。
「一瞬で書類を引き抜けば大丈夫かもしれません……貴方やってくれませんか? 私が再就職した暁には養ってあげます」
よくもまあそんな、子供でも騙せない出まかせを言えるものだな。
仮に無傷で書類を取っても、全ての罪を着せてポイするくせに。
俺はこいつのアホっぷりに、よくこの世界で無事に過ごせたなと不思議に思う。
つくならもっとマシな嘘をつけ。
「その約束……忘れないでくださいね」
だが俺はあえて純朴な使鬼を演じる……無論、この女を嵌めて絶望させるためだ。
「勿論です……私を信じてください」
はい、嘘。
無理に作った笑みが無理有りすぎ……おっと見抜かれたとバレない様にな。
俺は彼女に、半分だけ手を付けた陽菜弁当(昨日の残り)を渡す。
怪訝な顔をする彼女だが、「貴方に雇われればもっと美味しいものが食べられるだろうから、今のうちにお腹を空かせておく……という訳分からん言い訳で誤魔化す。
不承不承、真白はこのお弁当を陽菜に返しに行ってくれた。
(かかった……)
あのお弁当こそ、俺が真白と帝乃槍との密会場所に赴いた場所に陽菜を呼び寄せるアイテムなのだ。
半分だけ残ったお弁当を見て陽菜はなぜ残されているのかと怪訝に思うだろう。
そして食べかけのサンドイッチを調べ、その中に髪の毛が入っていることに気付く。
勿論、髪の毛を入れたのは俺だ。
陽菜はしかし、自分が調理中に誤って入れてしまったと勘違いし、生真面目な彼女の事、作り直して俺のところまで……つまりは必死に探し出して密会場所まで駆け付けてくれると言う理屈だ。
名付けて「異物混入クレーム作戦」。
そして俺は次に隠してあった書類を取り出す。
真白が探している権利書ではない……がそれに類似する書類……それも穂乃香の直筆のそれだ(もしかすると書類が一枚なくなって穂乃香は困っているかもしれないが……許せ)
それを高そうな封筒に入れ、穂乃香が使っているハンコを(勝手に)押す。
これで封筒を開け、中身を精査しない限りこれが権利書でないことがバレない。
あの様子じゃあ、真白は権利書自体を見たことはないはず……バレるものか。
これこそ「パッケージ詐欺作戦」。
(自分の才能が恐ろしい……世が世なら俺は軍師になっていたかもしれない)
心の中で高笑いをする俺。
そして高笑いを(心の中で)ひとしきりした頃、真白がひょっこりと姿を現す。
「権利書は……」
「ここに……」
「罠は……?」
「私はカンパニーの使鬼です……あの程度のトラップはすぐにでも解除できます」
勿論できない。
だがアホな真白はそれを信じ込んだようだ。
そして権利書(偽)の入った封筒をひったくるように奪うと、それを胸に抱えこむようにすると、キツイ目線で俺に命令してくる。
「時間がありません……裏山まで急いでください」
「お弁当は渡してくれましたか?」
「ええ、ちゃんと……」
どうやら密会まで時間がない模様。
陽菜がお弁当を作り直して、俺を探し出すまで予想で15分くらい。
今はこのシラユキの容姿に感謝だな。
カンパニーの制服を着ているものの、白髪に近い銀髪に朱色の目は酷く目立つ。
陽菜が俺の行き先を特定するまで時間はかからないだろう。
(おっと……一応、刀を持っていくか)
河野が(俺が使鬼シラユキの身体を乗っ取って復活したことを知らずに)プレゼントしてくれた「時雨一文字」……いざとなったらこの刀を賄賂代わりにして見逃してもらおう。
高そうだしな。
「急いでください!!」
余裕をなくした真白の金切り声を聞きながら俺は、人を不愉快にさせる類の嘲笑を彼女の背中に叩きつけながら、足早について行った。
*****
香具山・裏山―――
着いた先はもはや魔晶石など取りつくされたと見える、枯れ木ばかりの林だった。
木ばかりではない、土は砂の様にサラサラしていて、生命の息吹が感じ取れない。
虫もいない、虫を食う小動物もなく、小動物をエサにする鳥も獣もいない。
その区域は死んでいた。
「権利書を持ってきました」
どこか怯えるように真白は件の主に駆け寄っていく。
(あれ……秋虎いないじゃないか)
俺はまず初めに罠に嵌める最重要ターゲットである秋虎を探したが……見つからない。
まさか怪しんで来なかったのか。
クソ……面白くない。
この上は真白の無様な姿を見るだけで満足するか。
そう俺は自分を無理やり納得させて真白が会っている帝乃槍の下っ端を観察……。
……ん?
そこに二メートル近い長身の男が立っていた。
腕の太さはちょっとした丸太並み。
いかにも分厚そうな西洋鎧。
そして極めつけはその武器……鉄塊のようなどでかい槍を肩にかけている。
体重含めて総重量は100キロ超えてそう。
(ちょっとヤバくねえ……)
俺の今現在の小柄な子供体型はもちろん、元の三十男の体型でも一撃でバラバラにされそうな巨漢。
複雑骨折、頭蓋骨陥没、内臓破裂……即死。
「そいつは……?」
見た目に違わない重圧すら感じられる低い声が響く。
顔は鉄仮面で見えない。
だが隙間から見えるその獰猛な目で見られただけで俺は金縛りにあったように動けない。
「騙されてやって来た間抜けな使鬼です……書類が手に入った以上……壊しても問題ないかと」
「何も今ここでやらんでも一時間後には総攻撃だ、どのみち生き残れはしないぜ」
「……明日には西条家の援軍が着ます、今日中に片を付けてください」
途轍もなく不味い会話を続ける二人。
と言うか真白……お前いきなり俺を切り捨てに……不味い、陽菜が来るまで時間を稼がないと。
「あれはこちらの偽情報だ……来るのは西条家の援軍ではなくて我ら帝乃槍の兵隊……歓迎会になだれ込んで……ドンだ」
「それは頼もしい」
「西条のお姫様……穂乃香だっけか……嫌いじゃないが少しばかり素直過ぎだな」
鉄仮面がそして俺の方に目線を戻す。
獰猛だった目が今はなぜか優しく見えた。
「だから……今のうちに逃げな」
……俺の目の前に奴が肩にかけていた大槍の穂先が突き付けられる。
良かった……見逃して貰える。
俺は心の中で安堵し、地面を見ると……そこには足を引きづったような跡、そして柄が砕けた刀……時雨一文字があった。
「躱した……こいつ、非戦闘用の使鬼の癖に……何度か死線を潜っているのか」
鉄仮面が驚愕する。
え……どうやら俺は、無意識に後方に下がっていたらしい。
それが奴の(恐らく手加減したのだろう)槍の一撃を躱す形になった……おい、何が逃げろだよ……殺す気満々じゃないか……せこい手を使いやがって。
この図体の割りに小賢しい真似をする鉄仮面を俺は睨みつける。
彼の足元には時雨一文字が転がっていた。
河野に貰った奴だが、まるで俺を守るかのように砕けて……。
よくよく見ると、砕かれたのは柄だけの様子……刀身は無事のようだ。
よし決めた……直してもらおう……そして今度は大事に扱ってあげよう。
こいつは俺の恩人だもんな……人ではないが。
「柄に蒼石樹種子……まさか!!」
そして真白の声が俺を更なる絶望に叩き落とす。
盗聴器ってお前……え、これは河野に貰った刀。
……
……
……
(河野、あのクソ野郎……何が祝いの品だよ……俺を監視する気でこの刀をよこしやがったな!!)
なぜこうも俺の周りにはこんな奴しか来ないんだよ。
類は友を呼ぶ。
そうか、俺がそういう奴だから、そう言うのしか集まらない訳ね……納得。
「なるほど……俺らの会話は全て香具山本部に筒抜けってことか……やるじゃねえか」
顔面蒼白な真白に対し、鉄仮面はどうにも楽しそうだった。
そうだよな……普通、この盗聴器で拾った音声は穂乃香の元に届けられると思うよな。
「お前は生かしてはおけないぜ……頭が切れる、危険すぎる……悪いがここで死んでくれ」
心の中で泣き叫ぶ俺に、鉄仮面はごくごく自然に死刑判決を下す。
早く助けに来て、陽菜。




