表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/54

喰われるのは誰?・一

香具山・本部・カンパニーに割り当てられた個室―――


「良かったな……モテモテだな、あはははは」


 俺がこの鉱山の所有者たる西条サイジョウ穂乃果ホノカに護衛の指名を受けて数時間後。

 色々な手続き(全て陽菜がやった)を終えた俺ら二人はリーネと合流した。

 リーネはその件を聞くたびに大爆笑……陽菜が非難めいた視線を向けているがそれでも笑い続ける。

 何が彼女の笑いのツボに入ったかどうかは分からないが、つられて俺も笑う気にはとてもならない。


 どうせ俺なんか弱いし左目見えないし、護衛たって適当にやって失敗しましたと情けない振りをして謝れば、元々期待されていない故に許されると思っていた……思っていたのに。


帝乃槍グングニール……ムスペルハイム教国の第一軍……他国へ侵攻するための外征軍の別名です」

「勇猛果敢だけど、それ以上に残忍非道で貪欲な狂人集団でよ……七年前の戦争でやり過ぎて教王スルトの命で北に飛ばされたとか聞いたぜ」


 なんだよその魔女教とか黒犬騎士団とかみたいな危ない連中は。

 そんな奴がなんでこんなちんけな鉱山に手を出して来たのだか。


「あいつら容赦ねえからな……死んだな穂乃香とか言うオーナー」

(それ護衛の俺も巻き添えで死ぬんじゃないんでしょうか、リーネさん)


 マジで信じられない……なぜ俺はこんな目に合わなければいけないのか。

 思えばこの世界に来たのだって、河野に騙されて殺されて……くそっ、河野と俺を轢き殺した赤毛の中年に復讐する方法がないのが妬ましい。

 だが何かの本で読んだが、俺のような自堕落な人間は窮地に陥ると凄まじい力を発揮するそうだ。

 ならばそれに賭ける。

 とりあえず護衛をしていれば何か思いつくだろう。


 俺は自分を信じることにした。

 あるいは希望的観測を持って奇跡を願う事にした。

 ちょっと早すぎる奇跡狙いなような気がするが、正直あしがくのがめんどい。


「シラユキさん……何か欲しい物はありますか」


 心配そうに陽菜が俺を覗き込んでくる。

 なぜか俺に対して過保護気味な彼女は、今回の件に対して俺以上に危惧していた。

 俺が殺されるのはほぼ確定だとでも思っているのだろう……だとするならば護衛の件を取り下げてくれればいいのだが、これがカンパニーの利益に繋がるとあっては、穂乃香は提案を拒否することができない。

 骨の髄までの社畜少女……他人事のように笑い飛ばしてくれる非情なる割烹着リーネよりは遥かにマシだけどな。


「とりあえず制服をいただけませんか……」

「制服……ですか?」

「はい……カンパニーの制服です」


 一瞬、疑問符を浮かべる陽菜だが、理解不能な事柄でも言う事を聞いてくれるのは彼女の長所でもあり短所だ。

 了承してくれた。


 今の俺はキョンシーみたいな道士服に頭にはお札……見るからに人間以下の式神の姿だ。

 額の札は仕方がないにしても、道士服からカンパニーの制服に着替えた方がいい。

 一つにはカンパニーの威光を利用するためだ。

 はっきりとカンパニーの一員だと示し、俺を傷つけるのはカンパニーの社員に攻撃することになると周囲に分からせる。

 それによって相手が躊躇し、避けられるトラブルもあるだろう。


 それ以外にもあくまで業務で穂乃香の護衛に付いていると見せることで、口さがない連中の噂を抑える事もできる。

 穂乃香は13、4歳で俺の今の姿も同じくらい(本当は30歳だけどな)、それも男と女……これ以上穂乃香お嬢様の威信を低下させるのは好ましくない。


「制服って……簡単には用意できないぜ」

「そうなんですか?」

「だいたい服一着がいくらすると思っているんだよ……カンパニー本社に申請して許可をもらって、その後に採寸して職人に頼んで……半年ぐらいかな」

「え……」

「肌着とかとは値段が桁違いだぞ……特にカンパニーの制服は特別製だから値が張るんだ」


 なんと、服一着を揃えるのがそんなに面倒だとは。

 さすがは中世ファンタジー……技術レベルが低いこの世界では、まさしく服一着が車一台。

 残念……仕方がない、この道士服で護衛をするか。

 俺はあっさりと諦めたのだが、ガックリと落とした肩にすっと、柔らかい手がかかる。


「いえ……死地に赴くシラユキさんの願い……私が叶えて上げましょう」


 ふと、なぜか嫌な予感を覚えて後ろを振り向くとそこには目に炎を浮かべた陽菜の姿が。

 おい、死地って……不吉な事を言うなよ。


「はっ、どうするんだよ……いくら黒須代表直属だとしても、そんな無理は通らないぜ」

「服ならあります」

「どこに……」

「今、私が着ていますから」


 陽菜は俺とリーネが止める間もなく来ているカンパニーの制服を脱いだ。

 まず上着を脱ぎ、そして目が点となった俺の前でベルトを外してズボンも下に落とす。

 そこに現れたのは全裸……ではなく白装束。

 

 現代日本のスーツを模したカンパニーの制服。

 恐らくカンパニーの服飾担当は異世界人ナグルファル……すなわち上着の下に来ている肌着も(陽菜の性格から言って)カンパニー製なのだろう。

 彼女が着ている白装束は上下に分かれ、上はワイシャツを模して腰の部分まで長く、下は多分、ハーフパンツを模したのだろう……太ももの半分くらいまでの長さだ。

 何を目指していたのかは分からないではないが、どうにも材質が和風っぽい布なせいでスーツに合ってない。

 これ多分、上に着物を着るのが正しい選択だろう。

 限界まで布を薄くしてもダメ……ポリエステルは再現できません。


「これを仕立て直しましょう……私にできるのはそれぐらいです」


 決意を目に、肌着姿で仁王立ちする陽菜。

 胸の部分には鉄のように見える分厚い胸当てを付けているために、中身が透けることはないが……生地が薄いせいか、スラっとした腹にへそ、そしてほっそりとした剥き出しの太ももが、少々目の毒だ。

 俺、男なんですけど……それとも式神は人間じゃないからいいんですか。

 と思ったが、だんだんと陽菜の顔が羞恥で赤くなっていく。

 俺に突き出したカンパニーの制服を今度は胸に抱え、身体を支えていた足は震え、ついには床に落ちた。

 続いてお尻も床に付き、俗に言うペタンコ座りになる。

 こいつ、ギャンブルとかに絶対に向かないタイプだ。

 開始早々、全賭けして数分で脱落する。


「陽菜……確か肌着は何着か持って来ていたよな……そっちは仕立て直さなくてもシラユキ着れるよな」

「別に私は女装したいんじゃないんです、カンパニーの看板が欲しいんです」

「そうか……」


 何か重大な勘違いをしてそうなリーネ。

 俺は一応釘を指しておく。


「パンツとかブラジャーもいらないですからね」

「パンツ……ブラジャー……なんだそれ?」


 首を傾げるリーネに、俺はカンパニー服飾担当の挫折を知った。

 ポリエステルの代替えの開発に失敗した彼らは下着の生産を諦めたらしい。

 

「陽菜……仕立て直すのは私がやるぞ」

「いえ、リーネさんのお手を煩わせる訳には……」

「いいって……今回は多分、軍と戦闘になるぞ……百人単位で襲ってこられたら私じゃどうしようもない……陽菜が頼りなんだから、ゆっくりしててくれ」


 そう言うと、陽菜が脱いだ制服を持って部屋を出て行った。

 裁縫セットは馬車に積んでいるらしい。


(本当に……軍隊に勝てるのかね)


 少し前まで俺は陽菜が居ればなんとかなると考えていたのだが、今となってはそれも安心できる物ではない。

 油断している所を狙撃……あるいは深追いしすぎて返り討ちとか、ポカしてやられそう。

 どうにも単純な戦闘力は非常に高いのだが、メンタル面で穴が多いからな。


 俺は気付かれない様に陽菜を見る。

 陽菜は今もまた水着並みに薄い白装束の姿で、赤面しながらあわあわしている。

 とりあえず俺は無言で自分の上着を被せてやった。


*****


「なんか、微妙にサイズがあってないんですけど」


 数時間ほどで戻って来たリーネ。

 俺は俺用に仕立て直されたカンパニーの制服を着たのだが、どうにもしっくりこない。

 というか、採寸もしてなかったよな……サイズが合う訳ないか。


「この仕事が終わったら、また陽菜用にするからな……細部を絞る感じで誤魔化している……あまりきっちり仕立て直すと布が傷んで見栄えが悪くなるからな」


 なるほど……服は貴重か。

 陽菜用から俺用、そして陽菜用に二度も仕立て直すと生地がボロボロになるからな。

 ならば、初めから最低限の手直しに留めた方がいいと。

 

「……」


 もしかすると……家事能力に関してリーネはかなりレベルが高いのかもしれない。

 なんとなく、そんなことを思った。


「最悪、護衛の任務を逃げてもいいんですからね……この仕事は失敗しますけれど、貴方の命には代えられません」


 俺に制服を貸している陽菜は今、リーネが見繕ってきたという別の制服に着替えている。

 エプロンドレス……すなわちメイド服である。

 カチューシャもそろえた本格派だ。

 これしかなかったとリーネは言っていたが、本当だろうか。


「最悪の場合はそうします……ですが、できる限りは頑張りたいと思います」


 俺としては殊勝な言葉だが、それも致し方がない。

 本心で陽菜は心配してくれているのは分かるが、そのバキバキに強張ったその顔から彼女がとてつもないストレスを感じているのが見て取れる。

 そんなにもカンパニーの職務に反する行動を忌むのか。

 実はこいつロボットなんじゃないか……。


「む、無理はしないでくださいね……」

「ありがとうございます、陽菜さん」


 俺の限りないリップサービスを真に受けて安堵の笑みを浮かべる陽菜。

 だけど御免……俺さ、言うつもりはないけどさ……甘やかされるとつけあがるタイプなんだよね。


 恐らくは陽菜の考える逃走可能な危険レベルを遥かに下回る状況で逃げ出す俺。

 だが遅い……もう逃げてもいいと言う言質は取った。


(陽菜が俺に心底失望したそんな顔……見るのもいいか)


 俺はそんなくだらないことを考えながら夜を超えた。

 夜の後の朝。

 穂乃香の護衛……第一日目が始まったのだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ