第14話
路地が暗かった。
足音が聞こえた時には、もう囲まれていた。
私兵だった。ミョンファンの顔は見えなかった。声だけがした。
「チニョンの心を乱すな」
それだけだった。命令というより、確認だった。既に決まっていることを告げる声だった。
棍棒が、右腕に落ちた。
音が先だった。バキッという音を聞いてから、痛みが来た。痛みというより、右腕が自分のものでなくなった感覚だった。地面に膝をついた。立ち上がろうとしたが、右腕に体重をかけた瞬間、視界が白くなった。
私兵たちが去った。
クァンは路地の壁に背をつけて座っていた。右腕を左手で押さえた。動かなかった。動かそうとすると、骨が鳴った。
試験は明日だった。
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翌朝、チャン・クネが腕を診た。
「骨が割れている」
クネは泣いていた。声は静かだったが、目が赤かった。
「今日の実技試験は無理だ。辞退しろ。今すぐ辞退しなければ、この腕は二度と動かなくなる」
クァンは腕を見た。
腫れていた。紫になっていた。指に力が入らなかった。鍼を持てるかどうか、分からなかった。
「行きます」
クネが顔を上げた。
「ここで引けば」
言葉が出なかった。出なかったのではなく、言葉にならなかった。ここで引けば、誰の顔を、という文章の続きが、多すぎた。ソックの顔。コ・ジュマンの顔。チニョンの顔。夜ごと書庫で向かい合った顔。
「行きます」
もう一度だけ言った。
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典医監の試験場。
銅製の像が、台の上に立っていた。
等身大だった。全身に経穴の穴が開いていた。内部に水が満たされ、表面に蜜蝋が塗られていた。正確な位置に、正確な深さで鍼を打てば水が出る。外れれば何も起きない。医官ですら十に一か二しか当てられない試験だった。
クァンが入ってきた時、会場が静まった。
右腕を布で吊っていた。顔が白かった。冷や汗が首筋を流れていた。
嘲笑が聞こえた。何か言っている者もいた。聞かなかった。
壇上にミョンファンがいた。見なかった。
鐘が鳴った。
クァンは右腕の布を解いた。
だらりと落ちた。観衆から声が上がった。
左手で像に近づいた。注ぎ口に体温で温めた白湯を入れた。内部の温度が変わる。外との温度差が生まれる。蜜蝋の表面に、見えないほどの湿りが出る。経穴が、呼吸している場所だけ。
老医師の声が耳の奥に鳴った。
*命の道は、目に見える形だけではない。熱があり、流れがあり、引き寄せる力がある。*
指を像の表面に当てた。
温度を読んだ。流れを読んだ。馬の首筋で脈を探した時と同じやり方だった。生きているものには、通り道がある。その道が、ここにもあった。
見えた。
銀鍼を口に咥えた。
右手を持ち上げた。左手で支えた。骨が鳴った。視界が揺れた。
飲み込んだ。
口から鍼を取り、指に挟んだ。感覚がなかった。だが指は覚えていた。何百回も繰り返してきた角度を、指が知っていた。
体重を肩に乗せた。肩から腕に流した。腕の先の、感覚のない指先に、全部預けた。
刺した。
金属の音がした。
水が出た。
胸元の経穴から、細い水の線が噴き出した。
誰かが息を呑んだ。
クァンは止まらなかった。
次の経穴を探した。温度を読んだ。刺した。水が出た。また次を探した。骨が軋んだ。右腕が震えた。左手で押さえた。それでも刺した。
一つ。また一つ。
痛みは、最初から限界を超えていた。だから、もう痛みで止まることはなかった。越えた後は、ただ動き続けるだけだった。
全部、打ち終わった。
銅人経が全身から水を噴いていた。
細い線が、何本も、像の表面を流れ落ちた。静かな水音が会場に響いた。
誰も喋らなかった。
試験官の声が聞こえた。
「全打中」
間があった。
「合格。ペク・クァン、合格」
誰かが叫んだ。次に何人かが叫んだ。それから会場全体が音になった。
クァンは像の前に立ったまま、動かなかった。
立っていられるうちに、見ておきたかった。銅人経から水が流れる光景を。自分の手が打った鍼から、水が出る光景を。
膝が折れた。
地面に膝をついた。右腕が体の脇に落ちた。視界が揺れた。
その揺れの中に、チニョンの顔があった。
泣いていた。声を上げずに泣いていた。口を押さえて、目だけが濡れていた。
クァンはその顔を見た。
ただ見た。
笑う力はなかった。頷く力もなかった。ただ、見つけたということだけを伝えた。目の動きだけで。
チニョンが頷いた。
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壇上でミョンファンが立っていた。
手すりを掴んでいた。指が白くなっていた。
折ったはずの腕が、動いた。水が出た。合格した。その事実が、積み上げてきた何かを、一点だけ崩した。一点だけだった。だが、崩れた場所から、初めて見たものがあった。
恐怖だった。
この男が何者か、まだ分からなかった。だが、潰せる相手ではなかった。潰せなかったことが、分かった。
ミョンファンは立ち上がり、会場を出た。
足音が、いつもより速かった。
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コ・ジュマンが群衆の端にいた。
何も言わなかった。クァンを見て、それから銅人経を見た。全身から水が流れる像を、しばらく見ていた。
それから、静かに背を向けた。
泣いているようには見えなかった。見えなかっただけかもしれなかった。
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チャン・クネが駆け寄ってきた。
クァンの右腕を見た。腫れが、行く前より増していた。
「この腕を、今日中に治さないと」
「はい」
「痛いだろう」
「はい」
「……よくやった」
クァンは何も言わなかった。
クネの手が右腕に触れた。その瞬間だけ、目を閉じた。
痛みではなかった。この手を、どこかで知っていた。この指の使い方を、どこかで見ていた。見ていたはずがない。それでも、知っていた。
何かが、繋がっている。
言葉にはならなかった。




