表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『炯眼(けいがん)の馬医 ―異世界朝鮮・泥中に咲く龍の譜―』   作者: 水前寺鯉太郎
第1部

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
15/50

第15話

 意識が戻った時、恵民署の天井があった。右腕が重かった。動かそうとした。動かなかった。

 「腕は戻る。神経は死んでいない」

 コ・ジュマンがそれだけ言った。それで十分だった。

 数日、動けなかった。眠れない夜は銅人経のことを考えた。水が出た瞬間のカツッという金属の音、それからピシャッという水音。何度思い出しても夢のようだった。腕の痛みが証拠だった。チニョンは毎日来た。何も言わずに来て、傍らに座って、帰った。言っていた通りだった。

 退院の日、クァンはミョンファンの執務室へ一人で行った。包帯の巻かれた右腕を前に出した。「折っても、無駄でした。貴方がどれだけ闇を動かしても、私は医師として貴方の前に立ち続けます」。宣言ではなかった。事実の確認だった。ミョンファンが背を向けた。

 「次はないぞ」

 クァンは頭を下げて出て行った。廊下を歩きながら、右腕が疼いた。疼きながら、まだ動いていた。それで十分だった。

 翌週、典医監の教授が書類を見ながら言った。「十日間、医女の詰め所で薬草の洗浄と看護の基礎を学び直せ」。反論を待っていた顔だった。クァンは頭を下げて出て行った。牧場に来た初日、老医師は糞を片付けろと言った。始まりの場所を恥じる気になれなかった。

 医女の詰め所で薬草を洗った。艾葉の乾燥が足りない株を匂いで見分けると、翌日から持ってくる者が増えた。熱を測り、脈を取り、知らないことは聞いた。チニョンにも、他の医女にも。知らないことを知らないと言えない人間が命を扱う方が、よほど恥ずかしかった。三日目の夜、クァンは言った。

 「教本の文字より、薬草を触って病人の声を聞いている場所の方が、俺には合っている」

 「最初からそうだったでしょう」

 「でも、感覚だけでは人に伝えられない。感覚を言葉にする方法を、試験の準備で初めて学んだ気がします」

 チニョンはしばらくクァンを見ていた。「貴方を医女の詰め所に送った人たちは」

 「ええ」

 「間違えましたね」

 「ええ」

 薬草の匂いが部屋に漂っていた。

 七日目の朝、コ・ジュマンが来た。「漢陽の南側で、発熱の患者が増えている。高熱と発疹だが、痘瘡とは違う出方だ」

 利川の時を思った。「見に行っていいですか」

 「行け」

 クァンは銀鍼の箱を取った。チニョンが立ち上がっていた。「私も行きます」。止める言葉が出なかった。二人で詰め所を出た。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
最新話まで一気読みいたしました! 馬医という、なかなか斬新な切り口で、どのように展開していくのかと不思議に思いながら読み進めたのですが、馬だけでなく、羊や牛、そしてついに人間を相手にする医者へと… 残…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ