第13話
書物が、地面に落ちた。クァンが拾おうとした時、足で踏まれた。
「馬医が医学書に触れるとは。紙が汚れる」
もう一人が笑った。「お前が目指すべきは屠殺場の門番だろう」
クァンは黙っていた。殴れば試験も、コ・ジュマンへの義理も、全部終わりになると分かっていた。だから動かなかった。
「知識の深さは、身分の高さでは決まりません」
チニョンが書庫の入口に立っていた。踏まれた書物を拾い上げ、砂を払って渡した。「礼はいい。続きを読みなさい」。それだけ言って、自分の席に戻った。
夜の恵民署。人がいなくなってから、クァンは正直に言った。「無理かもしれない。馬の筋肉なら目を閉じても描ける。だが人の経絡図は迷路だ」
チニョンは筆を止めなかった。「向き不向きの話をしているの。向いているかどうかは、終わってから言いなさい」
それから紙を一枚、クァンの前に置いた。「春の脈は弦。弓の弦のように張る」
「……馬も季節で脈が変わる」
「同じです。根は同じ。覚え方を変えればいい」
それから毎晩、二人は書庫に残った。チニョンが説明し、クァンが自分の言葉に置き換えた。肺は風箱、腎は水甕、心臓は厩舎の中心にある柱。馬で覚えてきたことが、人に繋がった。感覚に言葉が追いついてきた。
試験前夜、チニョンが風呂敷を持って来た。過去十年分の出題傾向をびっしりと書き込んだ紙の束だった。いつ書いたのか。自分が寝ている間か、自分より早く起きてか。
「なぜ、ここまでするんですか」
チニョンは手を止めた。「貴方が合格するからです」。それだけ言った。紙の束を渡す時、指先がクァンの手に触れた。一瞬だけ。「明日は自分の手を信じなさい。救ってきた命の重さを信じなさい」
試験会場に数百人が並んでいた。見せ物を見る目には慣れていた。慣れていても、消えない重さがあった。鐘が鳴り、問題が配られた。一行目を読んだ。経絡と臓器の相互作用。チニョンが「必ず出る」と言っていた箇所だった。筆を取った。馬の体で覚えたことが人の言葉になって出てきた。頭が飛んでも、手が動いた。終了の鐘が鳴った時、最後の一文字を書き終えた直後だった。
数日後、掲示板に人が群れていた。前に進めなかった。名前がなかった時のことを考えると、足が止まった。
「ペク・クァン。あります。中位より上です」
チニョンの声は普段より低かった。こらえている時の声だった。自分の名前を見た。墨で書かれた四文字だった。それだけのことが、目から離せなかった。二人は並んで掲示板を見ていた。おめでとうと言う者はいなかった。それでよかった。この四文字は、この二人のものだった。
遠くで、ミョンファンが掲示板の前を通り過ぎた。足を止めなかった。だが目だけが、一瞬そこに向いた。「……しぶとい」。供には聞こえなかった。




