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奴隷だった少女は悪魔に飼われる 〜居場所のなかった少女は、悪魔に溺愛されていく〜  作者: アグ
双子の過去

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イオランの試練

ルミエルは、イオランから目を逸らさない。


「……イオラン」


息を整えながら、言葉を繋ぐ。


「私の力……知ってる……でしょ……」


わずかに震えながらも、視線だけは揺れない。


「穢魔も……光も……風も、水も……使える」


イオランは、あっさりと頷いた。


「知ってるさ。報告は受けてる」


淡々とした声。


評価でも否定でもない。


ただの事実。


ルミエルの膝の上で、手が強く握り込まれる。


「……だったら――」


言いかけた、その瞬間。


イオランは、ゆっくりと首を横に振った。


「でも」


一言で、流れを断ち切る。


「攻撃魔法は、使えないだろ」


静かに。


だが、逃げ道を潰すように。


ルミエルの喉が、小さく鳴る。


耳の奥で、心臓の音だけがやけに大きい。


「……それは……」


言葉が、続かない。


イオランは間を与えない。


「剣も振れない」


さらに一歩、踏み込む。


「体術も、まともに使えない」


事実だけを、積み重ねていく。


逃げ場を、一つずつ消していくように。


ルミエルの呼吸が、浅くなる。


視線は逸らさない。


けれど――


追い詰められているのは、明らかだった。


ルミエルは、唇を噛む。


視線を落としかけて――止めた。


考える。


戦えない。


それは、事実。


けれど――


それだけじゃないはずだ。


頭の中で、必死に探す。


自分に出来ること。


自分だから、出来ることを――


部屋が、静まり返る。


秒針の音だけが、やけに大きく響いた。


そして――


「……できる……」


小さく、絞り出す。


顔を上げる。


「誰にも気づかれないで……侵入、できる……」


まだ、途切れ途切れ。


それでも――止まらない。


「傷も……治せる……」


一歩。


「バリアも……張れる……」


もう一歩。


「……守れる」


最後の一言だけは、はっきりと。


ルミエルの瞳が、真っ直ぐにイオランを捉える。


沈黙。


ほんの一瞬。


イオランの目が、細くなる。


――さっきとは、違う意味で。


口元が、ゆっくりと吊り上がった。


「……へぇ」


興味を持った時の顔だった。


イオランは、間を置かない。


「……どうやって、気づかれずに侵入する?」


試す声。


逃げ道は、ない。


ルミエルの思考が、一気に回り出す。


言葉にしなければ――通らない。


「……光魔法で……」


途切れる。


自分でも、まだ曖昧だと分かっている。


「光を……操って……消す……」


イオランの眉が、わずかに上がる。


「“消す”?」


静かに、切り込む。


「どうやって?」


ルミエルは、反射的に顔を上げた。


視線が、部屋の中を走る。


そして――止まる。


鏡。


「あれ……」


指先が、そちらを示す。


「光は……当たって、跳ねる……」


言葉が、少しずつ形になっていく。


「反射させて……」


一歩、踏み込む。


「見え方を……ズラす」


まだ粗い。


けれど――“考えている”のは伝わる。


イオランは、何も言わない。


ただ、じっと見ている。


続きを、待つように。


……完全に消すんじゃない」


ルミエルは、ゆっくりと首を振る。


「光を……曲げる」


鏡を指差す。


「当たった光は……跳ねる……でしょ?」


指先が、わずかに震える。


「それを……ずらす」


一歩、言葉を進める。


「私の輪郭に当たる光を……別の方向に逃がす」


呼吸が浅くなる。


それでも続ける。


「そうすれば……そこに“いないように見える”」


イオランは、わずかに顎に手を当てた。


そして――


「……試してみろ」


短く言う。


ルミエルは、ゆっくりと息を吸った。


指先が、淡く白く光る。


その光が――身体へと広がっていく。


輪郭が、にじむ。


背景と混ざるように、揺らぐ。


やがて――


そこに“いるはずの形”が、消えた。


完全な空白ではない。


空気が、わずかに歪んでいる。


光が、ほんの少しだけズレて見える。


だが――


意識しなければ、気づけない。


「……消えた、でしょ……」


声だけが、正面から届く。


イオランは、目を細めた。


視線を動かさず、周囲を読む。


「……ああ」


低く、漏らす。


「“消えてるように見える”な」


次の瞬間。


ルミエルの声が、続いた。


「……足元、見て……」


イオランの視線が、すっと落ちる。


そこには――


わずかに歪んだ影。


光が、そこだけ不自然に沈んでいる。


「……完全じゃないか」


口元が、ゆっくりと上がる。


見抜いた。


そして――評価した。


だが、そのまま続ける。


「けどな」


視線が、わずかに鋭くなる。


「それでも足りない」


はっきりと、線を引く。


ルミエルの指先が、わずかに震える。


「最低限――」


間を置く。


逃げ場を与えない間。


「弱い攻撃魔法くらいは、使えないと話にならない」


静かな断定。


部屋の空気が、少しだけ重くなる。


イオランは何気なく言った。


「お嬢ちゃん、俺を攻撃してみてよ。」


ルミエルは周囲を見回し――逃げ場を探すように――そして、ゆっくりとイオランへ視線を戻す。


「で……できない……」


その声は、小さく震えていた。


イオランの目が、すっと細くなる。


「……じゃあ、今の話は全部なしで。」


迷いはなかった。


切り捨てるような一言。


「……お願い……協力して……」


ルミエルの声が、かすれる。


イオランはため息をついた。


「オレは条件を出しただろ。“攻撃魔法を使う”ってな。」


顔色など見ない。情も挟まない。


ただ、事実だけを並べる。


「――もし、お前の甘い判断で味方が死んだらどうする?」


ルミエルの肩が、びくりと震えた。


「攻撃してれば助かったかもしれない。そういう場面、いくらでもある。」


一歩、距離を詰める。


逃がさないように。


「防御魔法は、魔力が尽きたら終わりだ。」


低く、現実を叩きつける声。


「でも攻撃は違う。潰せば終わる。」


間を置く。


そして、静かに言い切る。


「――どっちが、味方を生かせると思う?」


ルミエルの胸の奥が、どうしようもなく重く沈む。


「みんな……守れて……」


言葉は、最後まで形にならなかった。


イオランは間髪入れずに切り込む。


「――で?魔力が尽きたらどうするんだ?」


容赦はない。


「オレには一つ案がある。」


淡々と、まるで作戦を説明するように。


「若様と他の味方を囮にする。時間を稼がせて、その間に自分と双子だけ脱出する。」


一拍。


「その作戦なら、うまくいく。」


ルミエルの呼吸が止まる。


「――みんなの犠牲の上に立って、な。」


視線が、真正面から突き刺さる。


逃げ場はない。


イオランに、優しさはない。


あるのは、現実だけだ。


「お嬢ちゃん……」


わずかに目を細める。


「君は、若様にも劣らない“暴君”だね。」


その一言が――


深く、突き刺さる。


ルミエルの手が、ぎゅっと握り締められる。


爪が食い込み、痛みが走る。


けれど、それすら感じない。


(……違う)


否定したいのに、


言葉が出てこない。


(守りたいだけなのに――)


胸の奥で、何かが軋む。


それでも、


現実は変わらない。


守れなければ、


見捨てたのと同じだ。


「……っ」


息が詰まる。


ここまで言われて、ようやく理解する。


自分は――


“使えない”のと同じだと。


「身を守るのにも、攻撃魔法は必須だ。」


その言葉が――


ルミエルの中で、大きく脈打つ。


心臓が、うるさい。


今すぐ逃げ出したい。


それでも、足は動かない。


イオランは、何も言わずに見ている。


ただ、試すように。


見定めるように。


ルミエルの“答え”を。


「……っ」


震える手が、ゆっくりと前に出る。


その瞬間――


イオランが、静かに口を開いた。


「……この部屋が吹き飛んでも、誰も何も言わないさ」


淡々と。


まるで、どうでもいい事実を告げるように。


逃げ道を、完全に塞ぐ一言。


ルミエルの喉が、ひくりと震える。


それでも――


もう、引けない。


手のひらに、水色の魔法陣が浮かび上がる。


淡く、だが確かに。


空気が震え、魔力が収束していく。


イオランの視線が、わずかに細まる。


「――そうだ」


低く、短い肯定。


ルミエルの指先が震える。


それでも――


「――……っ!」


光が、弾ける寸前まで膨れ上がる。


――次の瞬間。


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