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奴隷だった少女は悪魔に飼われる 〜居場所のなかった少女は、悪魔に溺愛されていく〜  作者: アグ
双子の過去

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82/93

正体

オニキスとカリナが森に入り、一時間ほどが経っていた。


穏やかな湖に、爆音が響く。


鳥が一斉に飛び立ち、静けさが崩れる。


「今のって……」


ルミエルは立ち上がると、考えるより先に走り出していた。


レヴァントがすぐに手首を掴み、引き止める。


「嬢ちゃん、ダメだ」


ルミエルの視線は森から外れない。


「でもーーオニキスとカリナが」


「こう言う時は慎重になれ。」


レヴァントが低く言い聞かせる。


ルミエルは息を整え、ゆっくりと頷いた。


――その頃、森の中では。


「この獣二人を拘束しろ。」


カインの声が、冷たく響く。


フードの男達が間合いを詰める。


逃げ場は、もうない。


「人間に戻れ。」


一歩、踏み出す。


「お前達を入れる檻は用意してないんだよ。」


――バシンッ!!


空気を裂く音。


ムチが地面を叩き、土が弾ける。


威嚇ではない。


次は、確実に当てるつもりの一撃だった。


カリナの耳が、不安げに垂れる。


「……オニキス」


その声は、かすかに震えていた。


オニキスは一瞬だけ目を閉じる。


――そして。


「言う事、聞いて。」


低く、迷いのない声。


次の瞬間、姿が揺らぎ、人の形へと戻る。


遅れて、カリナもそれに続いた。


カインの口元が歪む。


「その赤い目……その顔」


愉悦を隠そうともしない。


「二人とも、あの男にそっくりだ。……特に黒い方は、生き写しだな」


オニキスが一歩、前に出る。


カリナを庇うように。


「さっきから“あの方”って――誰の事よ」


カインは、値踏みするように二人を見つめる。


「もちろん――君達の父さ」


わずかに口元が歪む。


「大人しくしていれば、すぐにでも会わせてやる」


カリナの喉から、低い唸りが漏れる。


「……いらない」


一歩、踏み出す。


「私達に、父親なんていらない!」


空気が張り詰める。


「私達の父は――ルベル様だけです!」


一瞬の静寂。


そして――


カインが腹を抱えて笑い出した。


「ははっ……何を言う!」


嘲りを隠そうともしない。


「正統な後継はルベルじゃない」


声が、急に低く落ちる。


「――あいつの叔父であり」


わざと区切る。


「君達の父」


ニヤリと笑った。


「エリック・ヴルファレイン様だ」


オニキスの呼吸が、わずかに乱れる。


「……あの時」


かすれた声。


「確かに――死んだはずだ」


カリナの瞳が大きく揺れる。


「……うそ」


小さく、否定する。


「うそ、うそ……」


言葉が止まらない。


指先が震え、ぎゅっと自分の腕を掴む。


「そんなの……ありえない」


「――生きている」


カインの声が、静かに落ちる。


「エリック様は、ルベルから逃げ延びた」


一歩、距離を詰める。


「お前達は、そのご息女だ」


視線が絡みつく。


「……丁寧に出迎えよ」


その一言で、空気が変わった。


フードの男達が一斉に動く。


背後に回り込み――


ガシッ


手首を掴まれる。


力が入らない。


振り払えない。


身体が、言う事を聞かない。


――怖い。


あの時の記憶が、蘇る。


抵抗すれば、どうなるか。


知っている。


「……っ」


歯を食いしばるが、動けない。


「それに――」


カインが、楽しそうに笑う。


「お前らを囮にして」


わざと、言葉を区切る。


「ルミエルとかいう小娘を殺すのも――悪くない」


「――随分と、物騒な話をしてるじゃねぇか」


頭上から、豪快な声が叩きつけられる。


「嬢ちゃんを殺す、だと?」


次の瞬間――


ドォンッ!!


衝撃と共に、影が落ちた。


土煙の中。


レヴァントが、ルミエルを片腕で抱えたまま着地する。


そのまま顔を上げ、周囲を見渡した。


「護衛が人質になるなんざ――笑えねぇ話だな」


低く、吐き捨てる。


カイン達が一斉に身構える。


カインは、ゆっくりとルミエルへ視線を移した。


そして――口元を歪める。


「これはこれは」


わざとらしく、肩をすくめる。


「元老様が、小娘の世話係とはな」


レヴァントの口元が、ゆっくりと歪む。


「俺はな――強い奴にしかつかねぇ」


軽く肩を鳴らす。


「年なんざ、関係ねぇんだよ」


カインが舌打ちを鳴らす。


「……エリック様だって強いだろ」


レヴァントは一瞬、間を置いた。


そして――


「は?」


空気が、凍る。


「エリック?」


鼻で笑う。


「笑わせるな」


一歩、踏み出す。


「嬢ちゃんの実力にすら届かねぇよ」


視線が、鋭くカインを射抜く。


「……俺にすら、勝てねぇだろうな」


カインが、わずかに視線を動かす。


――その一瞬で、空気が変わった。


「そうだな」


口元に笑みを浮かべる。


「だが、この娘達は頂いていく。命令なんでね」


フードの男達が同時に手を上げる。


握られていた水晶が――


パキンッ


乾いた音と共に砕けた。


光が弾ける。


足元から、影が滲むように広がり――


オニキスとカリナの身体を呑み込んでいく。


「――っ!」


抗う間もなく、姿が掻き消える。


カインの姿も、同時に揺らいだ。


「待って――!」


ルミエルが手を伸ばす。


だが。


掴もうとしたその先には、何もない。


指先が、空を切った。


「早く……追いかけないと……」


ルミエルの声が、かすれる。


レヴァントは、何もない空間を見据えたまま――


「無駄だ」


短く、吐き捨てる。


それだけで、全てを断ち切るように。


「……っ」


納得できるはずがない。


ルミエルはレヴァントの服を掴む。


「なんで……連れてきたの……」


震える指に、力がこもる。


「やっぱり……外に出たら、ダメだったんだよ……」


視界が滲む。


ぽたり、と涙が落ちた。


レヴァントは動かない。


答えない。


ただ――


掴まれたままの服を、振り払うこともしなかった。


日が暮れる。


屋敷に戻る頃には、ルミエルの頬には乾いた涙の跡が残っていた。


レヴァントは足を止めない。


そのまま、ルベルの元へ踏み込む。


「帰ったぞ!」


遠慮も、躊躇もない声。


ルベルの眉間に、深く皺が刻まれる。


――次の瞬間。


視線が、ルミエルを捉えた。


腫れた目。


赤く濡れた頬。


それを見た瞬間――


空気が、歪む。


黒い炎が、ルベルの周囲で弾けた。


「……おい」


低く、這うような声。


「どういう事だ」


一歩、踏み出す。


「なぜ、ルミエルが泣いている」


圧が、空間ごと押し潰す。


レヴァントは、その殺気の中で――


口元を、わずかに吊り上げた。



「若様は、やっぱりいいな」


ルベルの威圧を真正面から受けながら、レヴァントは愉しげに笑う。


「エル」


名を呼ぶだけで十分だった。


エルはすぐに動く。


レヴァントの腕の中にいたルミエルを静かに抱き取り――そのまま執務室を後にした。


扉が閉まる。


空気が、重く沈む。


「……なぜ、外に出た」


低い声。


「オニキスとカリナもいないが」


レヴァントは肩をすくめる。


「あの二人は――攫われた」


その瞬間。


黒い炎が弾け、槍へと形を変える。


一直線に、レヴァントへ突きつけられた。


「……なぜ、助けなかった」


殺気が、肌を裂く。


だが――


「若様、少しは俺を信用してくれ」


レヴァントは一歩も引かない。


「あの二人のおかげで、カインの居所と――黒幕が見えた」


一瞬の沈黙。


ルベルが、ゆっくりと息を吸い込む。


――そして。


黒い炎が、霧のように消えた。


「誰が、囮捜査をしろと言った」


抑え込まれた怒りが、逆に重い。


「お前には、ルミエルの護衛を任せたはずだ」


「……そうか」


わずかに間を置いて、レヴァントが鼻で笑う。


「若様がノロノロしてるからだろ」


空気が、軋む。


「俺はな――焦れったいのが嫌いなんだ」


一歩も引かない視線。


ルベルはゆっくりとソファーへ腰を下ろした。


だが、それは落ち着いたからじゃない。


圧を、抑え込んだだけだ。


「……だからといって」


低く、重い声。


「二人を囮にしたのか」


視線が、突き刺さる。

いや、本来は――嬢ちゃんと俺を囮にするつもりだった」


レヴァントはあっさりと否定する。


「お前がいる限り、敵は動かねぇだろ」


ルベルの手が、ゆっくりと額に当てられる。


押し殺した苛立ちが滲む。


「……それでもだ」


低い声が落ちる。


「ルミエルを連れていく必要はなかったはずだ」


レヴァントは小さく首を振る。


「必要だったさ」


一拍、置く。


「嬢ちゃんがいなきゃ、あいつらは出てこなかった」


静かに言い切る。


「結果、カインは動いた。黒幕も見えた」


視線が、まっすぐルベルに向く。


「無駄じゃねぇ」


沈黙が落ちた。


重く、張り付くような静けさ。


やがて――


ルベルが、ゆっくりと顔を上げる。


その瞳に宿るのは、怒りだけではない。


「……で、黒幕は誰だ」


短く問う。


レヴァントの口元が、わずかに歪む。


「エリック・ヴルファレイン」


その名が、静かに落ちた。


空気が、凍りつく。


ルベルの指先が、わずかに強く握られる。


だが、それ以上は何も言わない。


ただ一言。


「――奪い返すぞ」


誰に向けた言葉でもない。


それでも、確かな意志が込められていた。


部屋の外では、夜が深まっていく。


静まり返った屋敷の中で――


嵐の前のような、重い気配だけが残った。


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