第44話 祭りの後の日常
神前祭が終わり、祭りの熱気を纏ったまま眠りについた翌朝。
目を覚ますと見慣れた天井が広がっていた。
「……夢でも見てたみたいやわ」
そう呟いて、ぼんやりする頭を覚醒させようとする。
時刻は六時。いつも通りの起床時間だ。
春の大気は徐々にその温度を上げつつあり、これから来る夏に向けて準備を始めている。
そろそろ布団をしまわないとな、と。慣れた手つきで寝具を畳み、自室の扉を開けた。
「あ、櫛姉。おはよう」
「おはよう。こんな時間に珍しいやん。勉強してたん?」
「そんな感じ。あ、でももう今日の勉強範囲は終わったよ。……だから、櫛姉の朝の支度、手伝おうと思って」
その言葉は、もちろん本心から来る言葉なはずだった。
いつもしてもらって申し訳ないからとか。
時間が空いたから手伝ってみようとか。
言わせているわけでも、気を遣わせているわけでもない。本当に手伝いたいと思ってくれているように、見えた。
しかし、その表情は明るくない。というよりも、期待していないようにも映る。
当然だろう。これまで櫛奈はその手の申し出を悉く断ってきた。受け入れる日もあることはあったが、基本的には首を横に振っていた。
それは尊に受験に専念してほしいという配慮からのもので、尊本人もそれは理解しているからこそ、今みたいな苦しそうな顔をしているのだろう。
いつもなら断っていた。
そんな気を遣わなくてもいいよと。
お姉ちゃんに全部任せていていいよと。
今までなら、そう言っていたはずだ。
でも、そうした考えは、誰も幸せになれないんだなと、そう思い始めた。
親切心だろうが、余計なお世話だろうが、気遣いだろうが、なんだろうが。
自分の為に手を伸ばしてくれていて、自分のことを想っている人のことを、無碍に扱うのは間違っていた。
これは、向こうの世界で学んだことだ。
「……うん。ほな、手伝ってもらおかな」
「え? いいの?」
「いいのって。自分で言うてきたんやん」
鳩が豆鉄砲を食ったような、キョトンとした顔の弟に櫛奈は笑って応えた。
未だ受け入れられてない彼の手を掴んだ。
「ほら、ぼうっとしてやんと。朝は忙しいんやから。やって貰いたいこと、色々あるし」
「あ、ああ! なんでも言ってよ!」
声のトーンが一段高い尊を引っ張りながらリビングへと向かう。
今日も同じような朝が始まる。
けれど、今日からはまた違う朝が始まるのだった。




