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世界の終りまで君と  作者: 佑
第二部 第三章 誰かのために
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95. ダンジョンへ

「ウィリアムとリュカはエリザベスと低層に。アントニーとリリアナはトリスタンと家で魔法付与、ナイジェルとリディアはアリアンヌと診療所じゃ。薬の錬成を手伝えよ――」

「「「え?」」」


 翌日朝。シュヘル邸の前庭に集合した皆に言った祖父ホルストの言葉に、驚きの顔と声が重なった。


「お祖父様? 私がダンジョンに入ってもいいのですか?」


 中でも驚いたのが、エリザベスだ。

 今までは入れてくれなかったのに。


「うむ。では行くぞ」


 それだけ言って歩きだそうとする祖父ホルストを止める。


「あの、お祖父様? 私、この格好でいいんですか?」


 診療所に行くつもりのワンピースは普段着だし、ダンジョンに潜るための装備など何も持っていない。持ち物はお弁当の入ったカバンだけだ。


「よいよい。エリザベスがおるとな、おそらく魔物は出て来ん。その二人をつけるのは万一の用心と無礼な冒険者がいた場合に追い払うためじゃ――わしとマリーで薬草を探しながらちいっと深くまで行ってみるでの、おとなしく待っとれ。潜っていいのは三階層までじゃぞ」

「え? 三階層!?」


 リディアが驚いた声を出した。


「いろいろ念のため、じゃ」


 祖父ホルストが頷いて確認する。

 確かその辺りまでなら普通の動物がいるって話だったし、リディアやナイジェルでも普通に十階層くらいまではいけるという話だった。


「トリスタンのお祖父様って、エリーが関わってくるとものすごく過保護ね……」

「当然じゃ。夢にまで見た孫の嫁じゃぞ? 万に一つのことも起こさせん。トリスタンにも約束した。ほれ、行くぞ」


 リディアが笑って、「『夢にまで見た』んだ。よかったね、エリー。いいお祖父様で」と言ってくれて、ホルストの目じりが下がった。

 祖父と話をしてあったらしいトリスタンが「気をつけて」と言ってくれて、ウィリアムとリュカにも「エリザベスを頼む」と声をかける。


「ちゃんと無事に連れて帰るし、絶対無茶しないからあんまり心配するなよ」


 ウィリアムが約束して、肩を叩きあってからシュヘル邸を後にした。


 ホルストが「今日の計画を話すが機密事項があるのでな」と言って、診療所組と距離を開けたので、歩きながら話を聞く。


「今日エリザベスを連れて行くのはな、低層は随分と安全になったし、エリザベスもダンジョンに求めるモノがいろいろ決まってきたようじゃから、どの程度影響を与えられるかを確認する意味が大きいんじゃ。潜る前にそれぞれよく考えろ。どこにどんなものがあったらいいと思うのか。

 魔物については安心していいぞ? この二人はこの前まで来ていた四人より随分とマシじゃ。大事な孫の嫁のことはそれなりの相手にしか任せられんのでな。ふぉっふぉっふぉっ」

 

 いつものように楽しそうな笑い声――けれどその言葉はちょっと気になった。


「この前まで来ていた四人――って」

「トゥルクロウの長男とボルドウィンの長女には代わりがおらんそうじゃ――トゥルクロウの長女は家を継がんそうじゃし、ボルドウィンの二女も家には残らん。あの二人をダンジョンで死なせるわけにはいかん、とそれぞれの家が言ってきよった。ふぉっふぉっふぉっ」


 え。

 それなら、残りのステファンとディミトリとナタリアは。


 どういう顔をしていいかわからずに困惑したエリザベスとは違い、ウィリアムもリュカも表情に変化はない。


「パートリッジの次男はなかなか使えたが、三男は死なせるなとサマセットが申し送ってきたし、侯爵家以下は問題外――。大事な孫の嫁をたった一人に任せるわけにはいかん。その点今回のは――ふぉっふぉっふぉっ」

「なるほど、僕たちはどちらも後に弟が控えていますからね」


 さらりと言ってのけるウィリアムを見てホルストは「その通りじゃ。ひっひっひ」と笑った。


 だけど。


「お祖父様? ウィルもリュカも、言うまでもなく死なせちゃダメな二人なんですけど――」

「ふん。わしは聞いとらんぞ?」


 え。


「だいたいのう、ダンジョンが立ち行かなくなれば国が傾くというのに、家がどうとかどの口が言う――そう思わんか?」

「そうですね。まったくその通りだと」


 再びさらりと言ったウィリアムの言葉にリュカも頷いた。


「……沈黙のまま送り出したのは国王とパートリッジのみじゃ。親というものは皆欲が深い。親である以上そうあるべきだとは思うが、国を治める立場になると、そうは言っておれん」


 頷いたウィリアムの目もとがきつくなる。

 エリザベスは心配そうに眉を寄せた。


 国王とパートリッジ公爵家のみ。ということはウィルベリー公爵家からもなにかあったということだ。


「……お祖父様、お父様は、アリーを……アリーのことを、なんと?」

「ジークフリート現公爵ではない。ユージーン、とか言ったか、あの次期当主から『ダンジョンに潜らせるときは、必ず姉と一緒に行動させるように』と。他よりはマシな言い回しかもしれんが、あやつも相当よ。ふぉっふぉっふぉっ」


 つまりダンジョンで危険な目に合ったら――エリザベスがいたらアリアンヌのことを助けないはずがない――それよりもホルストがエリザベスのことを危険にさらすことはない――そういうことだ。


「そんなわけでな。お前たちは今日のところは『三階層まで』じゃ。暇になるじゃろうが――いいな?」

「「「はい」」」


 ギルドに寄ってウィリアムとリュカとアリアンヌが冒険者登録をする。


 待っている間に、今日のダンジョンは初心者立ち入り禁止にしてある、とホルストに言われた。

 エリザベスが入ってダンジョンの内容に変化が生じた場合、ある程度臨機応変に立ち回れることが大切になるからだそうだ。

 どんな変化が生じるかは、入ってみないとわからない。


 診療所の前でアリアンヌたちと別れた。


「こっちも暇じゃろうから、薬の錬成をがんばれよ」


 そして、ずらりと看板が立ち並ぶお化け屋敷の前に五人で立つ。


「うっわ。なんか凶悪なのがいそう」

「だな。マジ祟られそう」


 さすがの外見にウィリアムとリュカが顔を見合わせた。


「ああ、その辺りの話も――一通りは聞いてきたのかもしれんが、エリザベスから詳しく聞いておけ。お前たちは『友人』じゃ。階層は浅くなってきておるはずじゃが息子はまだ見つからん。かといってわしも大事な孫の嫁を一人で悩ませたくはない。その二人は『相談』相手にはちょうどええ」


 つまり『呪い』と『魔王』の話を聞いてもらえ、とそういうことで――それもあってこの人選なのだ、とエリザベスは今さら気づいた。


「お祖父様、気をつけて行ってきてくださいませ。くれぐれも無理はなさらないで――」

「わかっとるよ。わしも代わりのきかん身体じゃ――マリー、行くぞ」


 微かに笑んで、祖父の後ろにマリーが続く。

 その後ろにウィリアムが続き、エリザベス、リュカ、と次々門を抜ける。


「目くらましか? 鎖も門も」

「まあ、似たようなもんじゃな。悪戯防止じゃ」


 板の打ち付けられた正面扉もそのまま通り抜ける祖父とマリーの後にウィリアムがすんなりと続いて、エリザベスも目をつむって通り抜けた。


 で、目を開けて――薄暗い廊下を少しだけ進み、下の方が明るい階段を降りる。


「何、ここ?」


 天井の高い、随分と明るい洞窟の中だった。


「ほっほっほ、こりゃあ~おもしろそうじゃな」


 祖父の声が弾んで――なんだか気配が変わったような気がした。

 なんとなく、妖怪度が増したような……さすが、『魔王』経験者、というべきか――。


「ここが一階層――生き物の気配は――あることはあるが、やはり魔物ではないのう。小さいやつばかりだな。ふぉっふぉっふぉ。ゆっくり進みながら下に降りる階段を探すか」


 ということは祖父には見覚えのない地形なのだろう。


「あの、お祖父様? 『おもしろそう』と言うのは?」

「前回潜った時まではのう、入り口になっとるあの家の地下室じゃった。ドアを開けると廊下で、薄暗い狭苦しい空間がいくつも続いておってな。こうまで変わるとは思っておらなんだ――これがエリザベスの『ダンジョン』のイメージなんじゃろう? それともそこの二人か?」


 聞かれたウィリアムとリュカが首を振る。


「やはりのう。エリザベスの思考はすでにわしやトリスタンに随分影響を与えておるし、その希望を叶えたくなるのは当然じゃからな……ちなみに何が欲しいと思ったんじゃ?」

「え?」

「一番欲しい物は深いところにということが多いが、価格によっては浅いところにあることもある――見つけたら採って来るぞ」


 そういうことなら、ありがたくお願いしたい。

 エリザベスは自分が欲しいと思う物をそのまま口に出した。


「ええ、と、お薬の材料と香辛料があったらなって――カレーとかシチューのルーを売っているお店があったら買ってきて欲しいです。特にカレーはルーがあるとすごく楽だし、絶対トリスタンが喜ぶと思うの――お菓子も。

 あと、東洋系の食材や香辛料はなかなかここまで入って来ないですし、生姜やニンニクも、ドライパウダーを作るのが結構難しくて。コンソメとか、チキンスープも素とかがあれば便利だし、ドライイーストがあると酵母を使わなくて済むのも助かる――。

 あと、待っている間に足湯に入れたらいいなって――でもあれは持ち出せないものだし。あ、持ち出せないものでもいいなら、せっかくだから、魔獣の出ない気持ちのいい草原や林があったらごろごろしたいなって思いました。小川とか泉とかがある――。え、もしかしてそういうのは無理、ですか?」


 途中から周囲が絶句していることに気がついたエリザベスだった。


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