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世界の終りまで君と  作者: 佑
第二部 第二章 気持ちの向かう場所
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91. 四男(アントニー)のアドバイス

 何を話しているのかは聞こえないけれど、百面相みたいに表情を変えながら仲良く話す姉妹を見ているのは楽しかった――時々アリアンヌに睨まれているような気がすることを除けば。


 草地に座って、焦げた醤油が香ばしいトウモロコシを齧る。

 こんな食べ方、公爵家では絶対無理だ。

 エリザベスのお勧めする料理は公爵家向けじゃないものが結構あるから、ここが田舎の男爵領でよかった――ひとつでもそう思えることがあることに感謝する。


 けれどその側から、自分がエリザベスをここに連れてこなければあの二人はもっと頻繁にあんなふうに過ごせていたのかもしれない、という考えと罪悪感が沸き上がる――それでもさっきリュカと話したおかげか今回の罪悪感はわりとあっさり消えた。


 確かにエリザベスはみんなと一緒に帰りたいと思っているようには見えない。

 自分が笑顔にできている――リュカはそう言った。自分もこれからはそう思うことにしよう。


 なんとなく呆れた顔になったアリアンヌが立ちあがってリュカの方に行ったので、今度こそ長兄のアドバイス通りに仲良く――と足を向けようとした矢先、アリアンヌのいた席にウィリアムが座った。

 久しぶりに会ったんだし、そこはやっぱり自分が遠慮するべきだろうと思う。


 ふう、と息を吐いて立ちあがり、グラスにミントと炭酸水を追加して草地に戻った。


 ウィリアムとエリザベスは――もちろん二人が友人で、エリザベスがただの一度もウィリアムにそういう気持ちを持たなかったのはよくわかっている。

 だけど、ウィリアムの方はエリザベスに振られてるし、それなのに――すごく仲がいい。言葉にしなくてもいろいろ通じているような気がするし、さっきの挨拶の時も他のみんなより見つめ合ってる時間が長かったと思う。


 エリザベスの表情がクルクルと変わるのも、アリアンヌの次にウィリアムと話をする時が多い。

 今もそうだ。

 お互いに余裕の笑顔かと思ったら、呆れた顔、驚いた顔、困った顔――目を細めて睨んだりとか――心から安心して、ふざけて――挑戦的な顔に、疑いの顔も。あれは、トリスタンには絶対にしない顔だ。


 ウィリアムの方もそうだ。サリーに見せる甘い顔や王太子としての責任のある顔とは違う。

 基本は対等でありながら、時に甘やかし、諭し、時にへりくだりさえもする。包み込むように優しく、目じりが常に下がっていて――ウィリアムがそんな顔をする相手は他に誰もいない。


 もし、ウィリアムがサリーを心から愛していると知らなかったら、間違いなくエリザベスを愛しているのだと思っただろう。

 それに、サリーを愛していてもきっとウィリアムの心の中にはいつだってエリザベスのための場所がある――そんな気がする。


 未来の国王として、国ごと彼女を守る。

 覚悟付きの大きな器を見せられたような気がして、ウィリアムに嫉妬する自分の器の小ささに肩を落とす――と、そのウィリアムに何を言われたのか、困り顔のエリザベスがますます困り顔になって、小さく躊躇った後でウィリアムの耳元に口を寄せた。

 ウィリアムが目を見開いて動きを止め、ゆっくりエリザベスの方を見て、何か言った――一方のエリザベスはちらりとウィリアムの方を見てすぐに視線をそらし、そのまま小さく頷いて――その頬が真っ赤だ。


 そんなふうに頬を染めるような、いったい、何を。


 グラスを握った手に力が入った。


 ウィリアムがもう一度何か言って、一瞬トリスタンの方を見ようとしたように見えたけれど、そのまま顔を伏せた。

 そのウィリアムに向かってエリザベスが口を開いて、何か尋ねたのだろう。小さく首を傾げる。


 それはどういうこと。今のは、どういう――湧き上がる嫉妬に足を踏み出しかけた時。


「ほら、やっぱり! 笑わないって言ったのに! 嘘つき! バカにして――笑わないって言ったくせに。だからあなたは信用できないのよ!」


 トリスタンの耳にも届く怒りの声と一緒に、エリザベスが華奢な拳を振り上げた。

 どっと安堵の息を吐く。


 なんだ。


 どうやら内緒話は、ただの笑い話にできるような内容だったらしい。そしてウィリアムが顔を伏せたのは、トリスタンに表情を読まれたくなかったのではなく、笑い顔をエリザベスから隠そうとしてのことだったらしい。


 実際のところは『なんだ』の一言で済む話でもなかったのだが、トリスタンはとりあえずホッと胸をなでおろした。


 それにしても、両手を挙げて謝りの言葉を繰り返す今のウィリアムはどう見ても王太子には見えない。乱れた茶色の髪も、作らない笑顔も、そのへんにいる――にしてはハンサムだけど――青年となんら変わらない。


 エリザベスの周りにいるときは、みんな自分を繕わなくていい。そういうエリザベスが好きだと思う。

 ホント、いい子なんだよな――。


「自分の嫁さんに見とれるにしては、切ない顔してないか? まさかウィルに嫉妬したりしてないよな?」


 串焼きを手にしたすぐ上の兄に横から声をかけられて、苦笑した。


「してるよ――誰にだってする。アントニーはしないのか?」

「……しないな」


 ちょっと考えはしたものの、はっきり否定した兄を羨ましく思う。


「そうなんだ……なんで?」

「リリーは僕が好きだから、だな」

「ごちそうさま。――だよな」


 聞いたのがあほらしい。

 その声が聞こえたかのようにアントニーはちょっと顔を顰めて、それからトリスタンの隣に座った。


「トリスタン? 僕たちが最初からこうだったと思うなよ――今のこれは努力の結果だ。リュカに頼まれたし、教えてやるからちゃんと聞け。いいか、最初はこうじゃなかった。とりあえず独占しようと思って、花とかを贈って毎日会いに行って、ことあるごとに『好きだ』って伝えてみたんだ。どうなったと思う?」


 そんなことを聞かれても困る。


「上手く行ったんだろ? あれだけ仲がいいんだし――」


 思った通りに答えたら、ものすごく渋い顔で首を振られた。


「ものすごく嫌がられた――『嫌がられた』んだぞ? どうしてかわかるか?」


 また聞かれて、かぶりを振る。

 そんなこと、わかるわけがない。


「だろう!? で、情報も得たかったから、相談したんだ。そしたら『確かに女性も相手の気持ちに対しては不安になることが多いけれど、心がこもっているなら回数は少なくてもじゅうぶん嬉しいのよ』って言われたんだよ。

 『それだけじゃちゃんと伝わっているかわからないし心配になるじゃないか』って言ったら『言葉も嬉しいけど、笑顔一つだって嬉しいし、何気ない会話とか、手をつなぐとか、じっと見るとか、髪に触れるとか、お互いに特別な呼び方をするとか、ただ隣にいるだけだっていい。贈り物は本当に特別な時だけでいいし、一緒にいたい、好きだっていう気持ちを伝える方法はたくさんあるはず。それを考えるのが面倒なら、そんな気持ちなんて本気じゃないと思うし、伝わらない』って言われたんだよ。

 だからちょっと試してみたら本当にそうで――リリーは気が強いのに恥ずかしがり屋ですぐ赤くなるし、そういう所、むちゃくちゃかわいいなって思ってさ。気がついたときにはお互い相手しか見てなかったんだ」


 ぽりぽりとこめかみの辺りを人差し指でかいて、「あっという間にミイラ取りがミイラ――練習にもならない。いきなり本番だ。本当にかなわないと思ったよ。まあ、エリーはそんなリリーを見てご満悦だったし、僕なりに彼女の理想のエンディングに貢献できたらしいけどね」と、すぐ上の兄は苦笑いで言葉を追加した。


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