表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
3/4

第3話「タワマン60階とジャンクなノイズ」

挿絵(By みてみん)


ネオルミナの空を貫くように聳え立つ、中央区画の超高層公共住宅『ルミナ・タワー』。

地上60階、オートロックの電子セキュリティをくぐり抜け、流音は詩音の部屋へと踏み入った。


「うわ……なにこれ、さっ寒っ!」


足を踏み入れた瞬間、流音が上げたのは感嘆ではなく、あきれ返ったような声だった。


広々とした室内は、まるで未開封の精密機器のパッケージ内のように無機質だ。家具らしい家具もなく、壁一面に設置された環境管理用モニターが淡いブルーの光を放っているだけ。床の白すぎるタイルから冷たい足音が返ってくる。生活感というものが1ミリも存在しない。


流音は備え付けの小さなキッチンを覗き込んだ。ピカピカに磨かれた冷蔵庫を開けると、中に入っていたのは透明なバイオドリンクのパウチと、サプリメントのケースだけ。それ以外の「食べ物」の気配は綺麗に排除されていた。


「寒くはありませんが。室内温度は常に22度に固定されています」


背後から、ひんやりとした詩音の声が飛んでくる。


「そういう意味じゃないっての! 何この味気ない部屋! 生活のノイズが一切ないじゃん。冷蔵庫の中身もこれだけ? 息がつまるわ!」


流音はリビングの中央へドカドカ歩を進めると、真っ白なソファにスニーカーのまま身を投げ出した。


「こんな実験室みたいな場所で暮らしてたら、そりゃバイオドリンクしか口にしなくなるわ。詩音様、昨日言ってたよね? 研究所が用意した部屋だって」


「ええ。わたしの歌唱数値を測定し、安定させるための専用住居です。外部からの雑音も遮断されています」


詩音はバイオドリンクのパウチを手にしたまま、不思議そうに首をかしげる。

彼女にとって、ここは「数値(Lv.30)」として管理されるための箱でしかなかった。温もりも色彩も、自分の意志で置いたものも何一つない空間。


「やっぱり、ダメだこりゃ」


流音はソファから跳ね起き、詩音の元へ一直線に詰め寄った。そして、華奢な肩をガシッと掴む。


「決めた! 今日からアタシがこの部屋を改善する!」

「はい……? 改善……ですか?」

「そう! 詩音様に必要なのは、管理された綺麗なデータじゃなくて世界を揺らすためのビートなの! おいしいもの食べて、いろんなノイズを身体に叩き込まなきゃ!」

「わ、わたしはバイオドリンクとサプリで十分――」

「拒否権なーし! ほら、行くよ!!」

「えっ、ちょっと……またですか……!?」


昨日と同じように手首を掴まれ、詩音は抵抗する間もなくエレベーターへと押し込まれた。


エアロバイクでタワマンを飛び出し、流音は詩音を連れて下層街のジャンクショップへと飛び込んだ。


「これ、ベッドの上に置く! ほら、蛍光ピンクのハート型クッション!」

「待ってください流音、派手すぎます……!」


さらに隣の雑多な服飾街へ引きずり込まれ、流音は自分の趣味で選んだ派手なプリントTシャツや、ぶかぶかのパーカーを次々と詩音の体に押し当てていく。


「似合う! 絶対可愛い! ほら、これも試着して!」

「あの、わたしは規定の制服があるので……」

「いいからいいから! 世界一の歌姫が地味な格好してどうすんの!」


詩音は嵐のような勢いに翻弄され、色とりどりのショッパーを両手いっぱいに抱えさせられるハメになった。


「よし、次はメシだ!」


流音が目を輝かせて駆け込んだのは、下層街の小さな焼き菓子屋だった。


「ねえ流音、わたし、こういうのは……その、胃が受け付けないかもしれません」

「いいから一口食べてみなって! ほら、あーん!」


突き出された紙ナプキンの上には、香ばしい小麦と焦がしバターの匂いを放つ、不格好な巨大クッキーが乗っていた。


「ん……っ!?」


拒絶する間もなく口元へ押し込まれ、詩音は反射的にそれを噛み締めた。


サクッとした歯ざわりのあと、じゅわりと広がる濃厚なバターのコクと、ガツンとした強い甘み。人工的で均一なバイオドリンクとはまるで違う、強烈な味覚が口いっぱいに広がる。


詩音は思わず、紫の瞳を丸く見開いた。


「……あ……甘い、です」

「だろー!? これが『本物のメシ』の力だよ! 人間はこれ食って生きてるんだよ!」


満足そうに胸を張る流音。

その横で、詩音は手に持った焼き菓子をもう一口、小さくかじりついた。サクッ、と心地よい音が響く。

ほんの少しだけ、詩音の硬かった表情が緩んでいた。


その横顔を見つめながら、流音は胸の奥で拳を握りしめた。


――この歌姫は、絶対に誰にも渡さない。アタシの手で、最高のステージへ連れていく。


無機質だった詩音の世界に、流音という強引で温かいノイズが、確実に溶け込み始めていた。


(第3話「タワマン60階とジャンクなノイズ」終わり / 第4話へ続く)

メインヒロインのひとり流音るおんが歌う、Chrono・Sphereのキャラクターソングです


『Ignition Flame』


架空アニメ 「 Chrono・Sphere - 運命の旋律 - 」 キャラクターソング


歌:流音 - ruon - & Chrono・Sphere



https://suno.com/s/TdG6ZrP3IH9KdsHS

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ