第8話 幼馴染の手作り弁当
そして時が経つのは早いもので昼。
なんか委員会や部活の話を先生がしていたような気がするけど、上の空になっていてあまり記憶に残っていない。
「昴」
「は、はい」
「お昼ですね」
四時限目が終業。すなわち昼休みに突入したのである。
美夢ちゃんは授業が終わったと同時にロッカーに駆け寄ると、袋を持って帰ってきた。そして阿吽の呼吸の元、机をくっつける。凛としていた表情には緊張の色がにじみ出て、頬っぺたはほんのりと赤くなっている。袋から目が離せないし、俺も緊張してきた。
おそらくこれが─。
「もしよかったら…こ、これを!」
袋から取り出され差し出してきたのは、まごうことなきお弁当箱であった。しかも二段。
この瞬間を待ち望んでいた。ついにそれが目の前に!
「お弁当……っ! ありがとう!」
手作り弁当である。
もう答えは半分くらいわかっていたけども、こうして目の前にすると、嬉しくて仕方がない。まだ弁当箱しか見ていないのだが、一気に緊張してきて自分の鼓動が耳をつんざく。それと同時に感動している。
幼馴染による人生初めての手作り弁当が目の前に、顕現したのだ。そうなるのも当然だ。
「いえいえ。これはその……えっと、そう! 作りすぎてしまったのです! 高校になって初めて作ったので分量を間違えまして。今日はたまたまお弁当を2個持ってきていたんです!」
あまりにも強引すぎる言い分。だけど、そこがなんとも彼女らしい。
昨日のメッセージのあとにこんな感じの事を言ってくるのが、けなげで可憐で可愛らしい。少し不器用というか、素直じゃないというか。そこが彼女らしくていい所なのだ。
「じゃあ、ありがたく…いただきます!」
緊張で震えそうになっているのを悟られないように受け取って、中身を見た。
「おぉ~美味しそう~!」
お弁当の中身は、卵焼き、鳥の照り焼き、タコさんウインナー、きんぴらごぼう、スコッチエッグ、そしてトマトとブロッコリーが添えられている。もう一段の方には半分が白米で、もう半分はケチャップがかかったオムライスだ。
そこそこ量が多い上に、俺の好きな卵料理がこんなにも。色鮮やかにいっぱいのおかずが綺麗に配置されていて、見ているだけで食欲がそそられる。匂いも良いし、それぞれのおかずが宝石のように輝いてる。これはもう芸術の域。
ついまじまじと見入ってしまう。
「……」
またも『じーい』という効果音が付きそうなほどに凄く凝視されている。そんなに見つめられると穴が開いちゃうよ!
「あ、あの……美夢さん」
「味にはそんなに自信はありませんが……まぁその……どうぞ召し上がれ、です」
手はギュッと握られ、震えそうな声を必死にこらえている。彼女の緊張が伝わってくる。少し恥ずかしそうにしながらも俺の方から一切、目を離さない。
初めてのお弁当─俺も緊張しているが、彼女もまた緊張している。精一杯受け止めなくては!
「はい! さっそく、いただきます!」
箸が震えそうになりながらも、まずは艶やかな卵焼きを掴み、口の中に入れた。刹那。
「っ!!」
「っん!?」
「美味しい~!」
口の中いっぱいに旨味と甘みが広がり、卵の良い匂いが鼻を抜けていく。美味しいとは想像していたけど、想像なんか遥かに超えてきた。細胞一つ一つが活性化されていくかのような感覚。胸いっぱいに広がる高揚感。
もしかしたらここは極楽か?そんな錯覚すらも覚えてしまうほどの幸せが、舌から全身へと広がっていく。
まだ一口目だけど、胃袋を完全に掴まれている。
美味しくて食べて数秒後には次の一口を求めて、その手は止まることなく、おかずとご飯に伸びていく。どれも美味しい。もう俺はお弁当の虜になっていた。
「はぁ、よかった……」
そんな俺の様子を見て、ホッと一息ついた安堵の声が彼女から漏れた。クラスの喧騒とした声に紛れてしまう程に小さな声だったけど、俺にははっきりと聞こえた。
「美味しいよぉ~! 作ってくれてありがとう!」
「いえいえ……って! べ、別に昴君のために作ったわけではないです! さっきも言いましたけど作りすぎてしまったからです。卵料理が多いのだってたまたまですから!」
何も言っていないのでそこに触れてしまうとは、わかりやすい。でも今はその言い分を受け入れる事にしよう。だって嬉しすぎて、ついニヤけてしまっているから。
俺の様子に満足しているようで、得意顔となる。安心したのか、ようやく自分のお弁当を食べ始めた。視線は俺に向いたまま、一層嬉しそうに顔を綻ばせていた。
「ごちそうさまでした。全部凄く美味しかったよ!手作り弁当を食べれて嬉しかったよ!ありがとう!」
数分後、完食。美味しさと満腹感で、いたっている。あぁ…天にも昇るような浮遊感。
「いえいえ。嬉しかったとまで言ってもらえるなんて作ったかいが……『作りすぎてしまったかいが』あるというものです! 喜んでもらえたようでよかった」
今、普通に本音が出かかった気がするけど、聞かなかった事にしよう。
「エヘヘ……特に卵焼きが最高でした」
「……~っ! そ、それはよかったです!」
顔を赤くしたかと思えば、腰に手を当ててメチャクチャ胸を張りながら得意顔になる。一番の自信作だったんだろうか。そう言い終わり数秒後、しまおうとしていたお弁当箱があっという間に回収されていった。
「あ、いいよ。洗ってから返すよ」
「いいんです! 作りすぎた物を食べてもらったのは私の方ですので」
「それじゃ俺が貰ってばっかりだよ~! 言葉だけじゃなく、せめて何かお礼の品でも」
「貰ってばかりなのは私のセリフです! あなたは出会った時からいつも…」
「ふぇ?」
「あっ……それはその……とにかく! お礼は言葉だけでいいんです!」
うーん、思い返してみても特に何かあげまくっていたという記憶はないんだけど。どんなに思い返してみても、2人で楽しく遊んで笑い合ったという感じの、凄く幸せな時間しか思い出せない。
ダメだ、また無自覚系だ。
「どうしても納得できないのであれば……また作りすぎた時は食べてくれますか?」
頬を赤く染めながら、上目遣いでそう聞いてきた。その破壊力ときたら。一瞬で鼓動が早まった。そしてこの提案は、相変わらず俺にとっては願ったり叶ったりの申し出。
「もちろん! いつでも、いただかせていただきます! その時を楽しみに待ってるよ」
「じゃあ……約束ですから!」
「うん!わかった!約束だよ!」
自分では自覚がないけど、俺が彼女に何かをしたお礼としてお弁当を作ってくれているみたいだ。
ラノベとか漫画でも流行っているけど見るたびに『無自覚系にはなりたくないな…俺はこうはならないぞ!何にでも敏感になる!』と息巻いていたのにこの様である。
せめてこれから美夢ちゃんに、こそっと何をか贈ったりしてみよう。




