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第7話 戻ってきた日常

 次の日。


 感動の再会から一夜明けた。

 ソワソワして落ち着かない。5年ぶりに奇跡的な再会を果たせたのが本当に現実だったのか、今になっても少し不安な気持ちを抑えることができない。


 そのせいか少し早めに起床。

 

 早くまた美夢ちゃんの側にいたい。西園寺さんに言われて、改めて決意を固めることができた。5年という月日を経て、俺も変わった。もうあの頃と同じじゃない。


 なんて思うけども、できることが特別増えたわけではないし、なにより今はお弁当のことで頭がいっぱいになって深くは考えられない。

 俺の予想が正しければ、彼女がお弁当を作ってきてくれる。考えれば考えるほどに心臓が高鳴る。朝っぱらから緊張してきたな。


 居ても立っても居られないとはこのこと。少し早いけど学校へ行こう。


 支度を済ませ、いざ玄関へと向かう。


「じゃあ行ってくるね!」


「いってらっしゃい。それにしても……フフ、青春ね。ちゃんとエスコートしていくのよ」


「ん? 青春? エスコート?」


 めちゃくちゃ楽しそうな表情で背中を押され、玄関の外へ。いったい何があるというのだ。この有無も言わせぬ感じ。でもその答えは家を出て数歩でわかった。


「……っ!」


 じーい、という効果音が付きそうなほどに物陰から凝視されている。

 相手は言うまでもなく、奇跡の再会相手である『雨宮美夢』だ。


 本人は隠れているつもりらしく、物陰から顔を半分だけ出してこちらの様子をうかがっていた。秒で視線が重なって、驚きのあまり可愛らしく大きな目を真ん丸にしている。


「おはよう美夢ちゃん」


「お、おはようございます昴君。ここで会うなんて奇遇ですね!」


「そう、だね。んー……俺の家の前なんだけどね」


 視線が泳ぎまくっている。動揺しすぎだよ。気持ちはわかるけどね。でもなんで俺の家を知っているのか…教える暇はなかったのにいつ知ったのか。

 謎だ。


「そんな細かいことは気にしないでください!さぁ学校に遅れますよ。さぁさぁ」


 俺の些細なツッコミは儚くも消えた。

 これまた背中を押されるように一緒に学校へと向かったのである。でも確かにそんなことは些細なものだ。彼女とまたこうして隣にいられる。正直それだけでも安心してしまう自分がいた。

 やはりどこかしら、あの日の事が脳裏に過るから。1日の始まりに彼女を見る事ができると言うのは、とても安心する。


「ずっと笑顔ですけど何かありました?ずいぶんと上機嫌で」


「またこうして美夢ちゃんと一緒にいられるんだから、嬉しくて仕方がないよ!だってこうして一緒に登校するのも5年ぶりなんだから」


「フフン!そうですよね!5年ぶりですもんね!」


 自分でもわかるくらいに笑顔である。つい笑いが抑えられない。そういう彼女も微笑んでいるのだけれども。俺の返答を聞いてその微笑みは得意顔に変わる。

 この表情を見るのは数年ぶりだ…懐かしいし感慨深い。でもどうやら同じ気持ちでいてくれるようだ。胸の中がぽかぽかと温かくなるのを感じた。


 5年前までは当然のように毎日一緒に登下校していた。晴れの日も、雨の日も、雪の日も。なんだったら休みの日にだって一緒にいたのだ。


 それが当たり前だったし。その当たり前が終わる日が来るなんて当時は思ってなくて、その当たり前の日常が返ってくるとは昨日までは思っても見なかったけど。


 胸の中がじんわりと熱くなる。油断をすると涙腺が緩む。目の前には蒼穹が広がり、燦然と輝く。空を見て、こんなにも綺麗だと思ったのは久しぶりだ。


 世界に色がある。彼女がいてくれるおかげで、俺は世界を受け入れられる。


 そして視線は、自然と彼女の持つスクールバッグへ。


『昴君ってどれだけ食べられますか? 弁当の1つや2つくらいは大丈夫?』


 思い出されるは、あのメッセージ。あれを送られてきて意識しない人間なんて、全く人間性が深まっていない相手か、もしくはラノベの鈍感系主人公しかいないだろう。彼女のスクールバッグは、初日にしては重みを帯びている。

 一度目にしてしまえば、気になってつい何度もチラッと見てしまう。


「……っ! わ、私のバッグを見ても何もありませんよ!」


 完全にバレバレだった。感情の乗った視線が鋭いことは自分でさっき体験したのに。でも止められなかった。


「あの、その……エヘ!」


 こういう時は笑って誤魔化すしかない。

 というよりも指摘されたことで心臓が少し跳ねて、うまく言葉が出なかったのだけなのだけど。


 すると彼女が立ち止まり、くるっと俺の方へと向く。表情は少しだけ緊張している感じ。頬っぺたも少し赤い。



「その……急に全く関係ない話で申し訳ないんですけど」


「は、はい……」


「今日は……お弁当とか持ってきましたか?」


「……っ! 持ってきて、ナイヨ」


「フフン! そうですか……そうですか!」


 俺の少し片言な返事を聞いて、腰に手を当てて胸を張って満面の笑みの得意顔になる。この感じだと、俺の予想の答えはもう確定なのでは?というか美夢ちゃん、こういう感情を隠すの下手すぎなのでは?


 でもそこが良い。そこが彼女の魅力なのだ。


「じゃあ私任せてください! お昼、楽しみしていてくださいね」


「うん! 楽しみにしてる!」


 ほぼ言ってるけど、答えを明かしてくれるのは昼休みの時になるらしい。まだ朝のホームルームが始まる前どころか学校にすらも到着していないのだけど、早く昼になってほしい。


 もう今すぐにでもなってほしい。この瞬間ごとに、胸のときめきが高まり続けていく。


 

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