第39話 もう離れない
直後に扉は破られ、警察の人達によって俺達は保護された。
子供である自分たちが無茶をしたことはこっぴどく怒られたものの、『仕方がないか』という空気にはなってくれてはいたけど。これもまた、先生や先輩方が掛け合ってくれたおかげかもしれない。
無茶をしたし、命の危険性もあった。無傷なのが奇跡だ。何度思い返しても背中に悪寒が走る。偶然の成功。
でも行動したことに後悔は一切ない。彼女を過去の呪縛から解放することができたから。俺だけじゃなく、自分の手で元凶との過去に終止符を打った。
それだけで命がけで行動した甲斐があるというものだ。
あとは子供の俺たちにできる事はなく、大人たちの手に委ねられた。
事の顛末は後日、話し合いに同席した康太から軽く教えてもらった。
まず美夢ちゃんのご両親が手放した会社は、取り戻せた。
会社は調査の通り、経営が傾いていたのに加え、元家族が起こした問題も数多くあったようだ。それでも『健次郎と自分達で全て立て直す。それがワシらにできる罪滅ぼしだ』とご両親は意気込んでいる。
2人とも70を超えているのに凄まじいバイタリティだ。俺も見習わなくては。
そして元凶たちの処遇だ。
いわく─【追放】。
雨宮司とその両親、そして取り巻きを合わせた7人はとある国へと飛び立ち、日本へは2度帰ってこず、俺達とは関わることのない人生を送る…らしい。
『らしい』という、ここは康太はもちろん誰に聞いても詳細を教えてくれなかったからだ。美夢ちゃんも、両親から詳細を教えてもらえなかった。
『大人の事情』というやつみたい。とにかく俺たちの人生に関わることは二度とないのは確定らしいし、想像するのも嫌なくらい今までの罪を償わせる人生を歩ませるとのこと。なんとも怖い事を言ってくれたもの。
そんな大それたことの協力者に、誠一郎さんの親友である西園寺家の当主─学校の理事長が助けてくれたという事と、とあるヒントを1つ教えてくれた。
『【トゥルーマン】って男を知ってるか?』
『誰それ? カードアニメの悪役でそんな人がいたけど』
『そいつじゃない。いや、知らないならいい。安心しろ。二度と関わることはない』
【追放】だなんて、ファンタジー系ラノベとか、人狼ゲームでしか聞かないような言葉だ。話を聞く限り西園寺家も相手さんには相当お怒りだったみたいで、全力をもってつぶしにかかったらしい。
でも、詳しく聞きたいとも思えないし、気にもならない。
だって─これでようやく、美夢ちゃんも俺も過去の呪縛から解放されたのだから。その嬉しさの前にしてみれば、些細な事なのだ。
「フフフ……」
「あ、あの……美夢さん……」
呪縛から解放された彼女は凄かった。
一報を聞いた瞬間から俺にピッタリくっついて離れない。どのくらい離れないかというと、彼女のお願いによって家でお泊りすることになったくらいには。
美夢ちゃんのご両親は今日はいない。会社での問題を解決するために奮闘している。俺の家族は、とにかく賑やかに送り出してくれた。
そういうわけで、彼女の家に2人きり。
手を繋いで買い物に行き、互いにあーんしあってご飯を食べ、一緒に入ることはしなかったけどまた彼女の髪を洗い、そして今はベッドの縁に並んで座っている。この間のお泊りの再来だ。
しかし並んで座っているというより、俺の腕に彼女ががっつり抱きついている。柔らかいものが当たっている気がするけど、気のせいだと思う事にしている。
そんな俺たちを見守るのは、数々の思い出の写真たちと、宝物であるカピバラのぬいぐるみだけ。
そのくらい嬉しくなる気持ちは、俺にもよくわかる。2人の前に立ちふさがる障害は消え去り、元凶と決別できたのだ。嬉しさのあまり泣いたし。人生は何が起きるのかわからない。事故、事件、自分の力ではどうしようもないものが次々に起こりうる。でもそんな日常の中から元凶がいなくなるということは、俺たちには真の意味で『安寧』というものがようやく訪れた…そんな気がするんだ。
そしてこの体勢には、覚えがある。
「覚えていますか? 私たちが初めて会った日の別れ際」
「うん、もちろん覚えてるよ。今と同じように抱きついてくれてたよね」
彼女と──『雨宮 美夢』と初めて会った日。
時間を忘れ、公園で遊びまくったあの日の最後。お迎えが来た瞬間に別れの時間を悟った美夢ちゃんは、今と同じく俺の腕に抱きついた。凄く力強くて、でも温かくて。
あの時に迎えに来たのは、今のご両親で。俺から一向に離れようとしない彼女の姿を見て、嬉しそうに微笑んでいた。
俺はというと、心地よかったのもあるし、嬉しかったのもあって、彼女にされるがままに抱かれていた。
『また……あってくれます?』
目を潤ませながら、少し不安そうに聞いてきた彼女に俺は──。
『うん! あしたも、あさっても! まいにち、いっしょだよー!やくそくだよぉー!』
そう言って頭を撫でた。本当にあの時の俺は無邪気だったな。
そんな俺の言葉に彼女は、最高の笑顔を浮かべてくれて、何度も頷いてくれた。
「怖くて離れたくなかったんですよね。1度離してしまえば、2度と会えないような気がして……。でも昴君は、一度たりとも約束を破りませんでしたね。毎日、毎日、私に会ってくれましたよね。それどころか、離れ離れになってもまたこうして会えた。だから今は何も怖くない」
「なんだか不思議だよね。もう離れない……って心のどこかで確信めいたものがあるんだ」
そう言って、勇気をもって頭を撫でると驚いた表情を浮かべた後、少し赤面しつつも微笑んでくれた。相変わらず撫で心地がいい。ずっとこうしていたくなってしまう。
いや、こうしてていいんだ。




