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第3話 成長で変わるもの

 ホームルームが終わり、今日のスケジュールは全て終了。

 これからは初めての放課後である。隣の席に座る美夢ちゃんもまだ潤んだ瞳をしながらも帰り支度を済ませ、席を立とうとしていた。俺の視線に気づいて目がばっちり合う。さっきまで泣いてから少し赤いけど、あの頃と変わらない綺麗な瞳だ。


「美夢ちゃん、今日からよろしくね! あっ……ちゃん付けは変えた方がいい?」


 もう高校生だ。人前で『ちゃん』付けは恥ずかしいかもしれない。俺にとっては特別な呼び方だけど、本人が嫌だというなら─。


「絶対に変えちゃダメです! 私にとって特別なものなんですからね」


 少し頬を膨らませての拒否。『特別なもの』とまで言ってくれるくらい気に入っているとは、思いもしなかった。同じ気持ちであることに、ホッしてしまう自分がいる。


「よかった! ありがとう! 俺も特別だと思ってたから嬉しいよ」


「そんな嬉しそうにするなんて、5年も経ったというのに昴君は変わっていませんね」


 そう言う彼女の表情はどこか嬉しそうだった。


 『昴君』、『美夢ちゃん』という呼び方は昔から変わっていない。そう、出会ったあの時からずっと。


「美夢ちゃんだって変わらないよー!まぁ少しだけ呼ぶのが照れるけどね」


「呼ばれる私だってそうですよ。人前で『ちゃん』は少し恥ずかしいですし、こそばゆいですけど……でもいいんです!昴君はどうなんですか? 『君』付けは」


「是非そのままでよろしくお願いします!」


 5年ぶりだけど、そんな空白はなかったかのようにあの時から何も変わらない。それがまた嬉しくまた涙が……。この瞬間をどれほど渇望したことだろうか。現実だよね?


「そういうわけで昴君、ツーショット写真を撮りましょう!」


「どういうわけかはわからないけど、もちろんいいよ!」


 撮らない理由はない。むしろ、ツーショットを体が欲しているレベルには撮りたい。


「フフン! じゃあいきますね」


「ふぇっ!」


 返事をしたと同時にスッと肩を寄せ合い、もう肩と肩がぶつかっている。けど、そんなのはお構いなしにもっと密着。息遣いがわかるほどに、あと少しで触れてしまいそうなくらい顔も近い。抱き合った時のようにフワリと甘い香りが包み込む。めっちゃ近い!

 その瞬間、鼓動が跳ねあがる。触れているところが熱い。近い顔も熱い。ゼロ距離一歩手前。


「はーい、スマホを見てください。フフフ、緊張しすぎですよ! 子供の頃はいつもこのくらい近かったですし、なんならさっき抱き合ったんですから、このくらいの距離で照れないでください」


「そっちだって頬っぺた赤─」


「気のせいです!! 目の錯覚です!!」


 食い気味で否定するけど、どう見ても赤い。グイグイくるけど自分でもダメージを受けている様子。でもそうまでしてでもこの距離で写真を撮りたかった気持ちはわかる。またこうして一緒にいられるんだから、嬉しくて仕方がない。


 インカメから画面に映し出される俺たちは、あの日と同じように眩しく微笑んでいた。あの時にはなかった心臓の高鳴りを感じながら、新たな思い出を記録に残した。


「い、良い感じですね」


「そうだね」


 でもあの時とは少し違うのは、少し頬っぺたは赤いし、照れているという事だ。


 子供の時には平気でできていたことが、時が経つにつれてできなくなっていく。そう、今の俺たちのように。人生で心臓の高鳴りが1番響き渡った気がする。


 この5年という月日は、体だけではなく心にも変化を与えていた。もしかしたら、気づかないふりをしていただけなのかもしれない。


 俺はあの時から『雨宮 美夢』のことが─。



「まぁ……今日はこのくらいにしておきましょう」


「そうだね! お互いにダメージが大きそうだし」


「べ、別に私はそんなに大きくはありません! 大きいのは身長位です!」



 ダメージを受けた事は否定しない当たり、かなり微妙な強がりだ。またそこが可愛らしい。


 でも確かに身長は大きくなった。小学生時代も身長差はなかったんだけど、互いに身長が伸びたにもかかわらず相変わらず身長差はない。むしろ、平均身長をしている俺よりも彼女の方がわずかに大きい。高身長女子というやつだね。


 それと…さっき抱きつかれた時に感じてしまったんだけど、彼女の場合は身長以外も大きくなっている。『何が』とは口に出す勇気はもちろんない。


 それはそれとして─。


「ねぇ美夢ちゃん。聞きたいことが沢山あるんだけど、時間ある?」


 今日の日程は終了。本来であれば、あとは家に帰るだけだ。しかし彼女は西園寺さんの従者を務めているので、時間的余裕があるのかは不明だ。そもそも従者が何をする人なのかはよく知らないのだが。イメージとしては執事とか側近みたいな感じだけど。


「忘れたんですか? まだ大事なスケジュールが入ってますよ。全くアナタときたら……。でも、それを忘れるくらいですか。フフッ……その気持ちはよくわかりますがね。私も話したいことが沢山ありますので、会場に着いてから話しましょうね」


「はへ? 会場?」



 彼女は少し呆れたようにしながらも、嬉しそうに微笑んでいる。色々あって俺は先生の話を半分も聞いていなかったけど、果たして俺は何を聞いていなかったのか。



 数分後。俺達は─『パーティー会場』にいた。


 床には赤い絨毯が敷かれ、大きなテーブルの上には豪華な料理が並ぶ。天井にはシャンデリアが燦燦と輝いていて、会場内を一層煌めかせる。中央奥にはステージ。

 会場内には数えきれないほどに多くの人が賑わっていて多くは新入生で、入学式に来賓で来ていた人も見える。会場は映画に出てくるダンスパーティーや、結婚式で使うようなえげつないくらいに広いホールだ。


 入学パーティーは毎年の恒例だという。心ここにあらず状態だった俺は、見事にこの情報が入っていなかった。流石、元お嬢様学校。やることが派手だね。


 そして今は、挨拶回りが終わった西園寺さんが来賓の人と談笑を始めて、美夢ちゃんの動きが止まったため、近くのテーブルに一緒に座っている。ようやく一息付けた。


「いやぁ~従者って大変だね」


「私も最初の頃は、戸惑う事が多かったですけど慣れました。風花お嬢様の方が苦労の度合いが高いですから、この程度で弱音は吐けませんよ。いただきます!」


 キリっと宣言したと思いきや、キラキラとした瞳でショートケーキを口に運ぶ美夢ちゃん。昔から変わらず甘い物には目がない。それなのにスラっとしたモデル体型を維持できているのには感心してしまう。


 それと、『風花』とは西園寺さんの下の名前である。


「西園寺さんの付き人? 従者?になってどれくらい経つの?」


「中学校に入学する同時期に見習いとして始めました。まだ子供ですからね。アルバイトの付き人という正式な雇用形態になったのは、今月からです」


「始まりは中学校時代からなの?! なんで!?」


「まぁ……色々あって西園寺家に援助してもらったので。せめてものお礼です。遠慮されましたが、私が貰いっぱなしでは納得できなかったので、無理を言ってやらせてもらいました。子供なので労働というわけにはいかず、ごっこ遊びみたいなものでしたがね」


「なるほど……じゃあ正味3年はやってるんだ! スゴイね!」


「……別にたいしたことはしていませんよ。まだ学生なので、テレビで見るような執事や側近、秘書みたいに、しっかりとした管理とかするわけではないですからね」


「そっか! 西園寺さんとの付き合いもそのくらいから?そもそもどういうご縁で?」


「両親が西園寺家と幼馴染で、その縁ですね。まぁその辺は私も詳しくは知らないんですけど。私に西園寺家と縁ができたのは5年ほど前からで、お嬢様とはそこからですね。お嬢様は良き友人として接してくれますし、お嬢様のご両親も私に良くしてくれるので働くのが楽しいですよ」


「……幸せそうで良かった」


「フフ、えぇ──幸せです」



 微笑んで見せるその表情に一切の曇りはなく、世界で一番輝いていて。本心からそう言っているのがわかる。だからこそ本当に良かった。『幸せです』と彼女の口からきくことができたのは何よりも嬉しい。嬉しく手視界が若干滲む。



「よかった! それが聞けただけでも満足だよ。さぁもっと食べよう!大好きなスイーツはもっとあるよ!」


「……私ってそんなにスイーツを見る目が違うんですか?」


「うん、それはもう輝いているよ!」


「うぅ……そんなにわかりやすいとは」



 顔を手で覆い、恥ずかしそうに少し悶える美夢ちゃん。でもすぐにスイーツを一口食べて笑顔になる。そんな恥かしそうにしてるけど、むしろ無自覚だったんだね。


「もう質問は終わりですか?」


「幸せなのがわかれば満足だよ」


 その言葉に一瞬目を見開く。綺麗な目でジッと俺を見返して、何かを考えている。


「じゃあ次は私からの質問。いいですね?」


「もちろん! なんなりと受けて立ちます!」


 答えられない事はなんとか躱そう。まぁそんな質問来ないだろうけど─。



「訊かないんですか──5年前の事を」


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