第28話 一歩踏み出した彼女へ
「あっ……」
「!?」
ある物を見つけた時に今まで言葉を発さなかった美夢ちゃんから、声が漏れた。何かいい物を見つけたようだ。
ついでに俺は油断しまくっていて急に声が上がって少し驚いたし、俺もこの店に入ってから無言である。アクセサリーショップに来たのは人生で初めてで、彼女を見ることで何とか心の平穏を保っていた。いわば、店の雰囲気にビビっている状態だ。
でもラッキーなことに俺の驚きは彼女にはバレなかった。
見つけた商品を手に取って、微笑んで目を輝かせながらじーいと見つめている。今まで見てきた商品とは明らかに反応が違う。握られている手にも力が入る。
彼女が手の取ったのは、六つの星がデザインされたヘアアクセサリー。
クリップでつけるタイプのようだ。
「昴君」
「はい?」
「これ……私に着けてもらえますか?」
「……んっ?! 私がですか!?」
「なんで敬語な上に一人称が私になっているんですか。別に緊張することでは……はっ! ……フフン! 別に緊張することでもないでしょう!」
完全に俺が緊張すると気づいてしまったし、緊張することをめっちゃ喜んでる。まぁ自分が緊張している時に他の人が緊張していると、なんだか冷静になれるよね。
だって俺が彼女に髪飾りを着けるという事は、『彼女の髪に触れる』という事だ。
艶やかで滑らかで全ての光を反射し綺麗に金色の煌めきを放つ、あのベリショの髪に触れる…ドキドキしない方がおかしい。そりゃ敬語にもなるし、一人称も普段は言わないものになる。
「フフフッ……この間だって頭を撫でてくれたじゃないですか」
「あ、やっぱり覚えてたんだ」
「細かいことは気にしない。で、答えの方は?」
「もちろん、やらさせていただきます!」
逃げるわけがない。彼女が喜んでくれるならいくらでもドキドキしますよ。
でも自分から撫でた時もドキドキしたけど、お願いされて髪に触れる方が何倍もドキドキする。彼女が自分からグイグイ行く時は比較的に平気だけども、グイグイ来られるとめっちゃ照れるのと同じ。同じ…なのか?いかん、緊張で思考がおかしい。
髪飾りを受け取り、髪と髪飾りを交互に見る。幼馴染は少し恥ずかしそうにしながらも、すでに待ち構えている姿勢だ。俺の方を嬉しそうにじっと見てきている。きらきらと瞳を輝かせ、これぞ期待の眼差しと言うにふさわしい目をしている。
今この瞬間にも、看病している時に撫でた髪の感触が手に蘇ってきて、胸が高鳴ってしまう。しかしだからといって、こんなにも期待の眼差しをしている彼女を待たせるわけにはいかない。
覚悟を決めろ、俺。
「では……し、失礼しまーす」
「いつでもどうぞ」
そっと手を近づけて、髪に触れる。
前に触れた時と変わらない、滑らかで艶やかなだ。少し触れるだけで指に間を髪が抜けていき、その感触に俺のドキドキ度合いは加速していく。めちゃめちゃ触り心地がいい。もうずっと触れてい─。
(ダメっす、そんなことを考えちゃ!! ささっと任務を遂行するのです!!!)
なんとか意識を保ち、慎重かつ迅速に髪飾りを着けた。
「ど、どうですか?」
「ぁっ……凄く綺麗。よく似合ってるよ」
髪飾りを着けた彼女を見た瞬間、その姿に息を飲んだ。彼女の不安の声が鼓膜をかすめた時には、思っていたことが口からするりと漏れ出た。それくらい綺麗でよく似合っていた。
金色の髪に六つの星が彩られ、どちらの輝きもより一層深めているようで。上手いことは言えないけど、とにかく綺麗だ。彼女が髪飾りを着けているのも、何ならこういったアクセサリー系を身に着けているのも初めて見た。それが凄く新鮮で、いつもと違う雰囲気で、近くで見ているだけでも緊張してしまう。
「……よかったです。フフッ!」
俺の言葉を聞いて少し照れながらもはにかんだ笑顔を見せてくれて、どこか安心したように胸を撫で下ろしていた。
(よかった……本当に)
子供のように無邪気なその笑顔を見ていると、ついさっき背中を押すことができてよかったと心の底から思えた。こんなにも綺麗で純真無垢な微笑を見れたんだ。過去の俺よ、よくやった。褒めて遣わす。
何度も鏡を見ては胸を張って得意顔になっている彼女を見ていると、幸せで胸がいっぱいになっていって、体の芯から熱くなっていく。
「いい物が見つかってよかったね」
「えぇ。一目見た時からビビってきましたね。購入決定です」
「じゃあここは俺も……」
「いいですよ。この店に行くきっかけを作ってくれただけでも感謝しているのに、それ以上のことをさせるわけにはいきませんから。それにこれくらい自分で払えます」
「どうか半分払わせてー!ご慈悲をー!!」
「そんな所で慈悲に頼らないで下さい。もうそこまで言うなら仕方がありませんね」
若干泣き落としのようになってしまったけど、呆れつつも嬉しそうな感じで了承してくれた。でもどうしてもお金を出したかった。だって『思い出になる物を2人で買った』ってなんか特別な感じがしてさ、前からあこがれてたんだよね。我儘だけど、それを見た時に今の思い出と、ついでに俺のことも少しだけ思い出してほしいと思って。
「昴君」
「はい?」
「ありがとうございます」
「エヘヘ、俺は何もしてないよ!」
俺はただ彼女の背中を少し押しただけ。いわばきっかけに過ぎない。でもこんなにも喜んでいる彼女の笑顔が見れたんだ。お礼なんてそれだけで十分なのだ。
「フフンー♪」
目的の食材を買い、ショッピングモールからの家に帰ってきた。
その食材を前にした彼女は、最高に上機嫌で髪飾りを着けたエプロン姿でキッチンに立って料理をしている。その心の晴れ具合に比例して料理をする動きが軽快だし、スポットライトが当たっているかのように眩しく見える。あとエプロン姿がめっちゃ可愛い。
髪飾りを買って着けてからというもの、鏡やガラス等、物に反射する自分の姿を見ては嬉しそうに頷いて、はにかんだ笑顔を見せている。
帰り道では変わらず手を繋いでいるけれど、彼女の軽やかな歩みに俺が持っていかれそうな雰囲気すらある。でもそんな幸せそうな美夢ちゃんの隣にいるだけで、俺もまた幸せで胸がいっぱい。家に着いて手を放す時に心底名残惜しそうにして、頬を膨らませていた。
ついでに髪飾りは、また俺から着けてほしいとのご要望だったので着けてあげた。さっきと変わらず髪の感触と待ち構える期待の眼差しで、めっちゃドキドキした。でもまぁ…上機嫌な彼女を見ることができたし、ドキドキした甲斐があるというものだ。
そんな彼女の隣で、俺はできるサポートしている。
野菜を洗ったり皮を剥いたり、調味料を混ぜたり、使い終わった物の片づけをしたりと簡単なものだけど。
子供の頃からお手伝い程度には料理に触れていたので、全くできないというわけではない。この間の看病の時だって『玉子がゆ』を作ったわけだし。それでもいつもお弁当を作ってくる彼女に比べたら…いや、比べることすらもおこがましいレベルだ。
でも一緒に料理をできている気になって凄く楽しい。まるで─。
(今は1日だけの限定的な時間だけど、これがもし毎日の日常になったら─)
「なんだかこうして一緒に料理をしてると……家族になったみたい、ですね」
「フフッ……うん! そうだね」
「その笑い……同じことを思っていたようですね」
「ご名答だよ~」
つい照れ臭くなって、互いに少し恥ずかしそうに笑いあってしまった。思っていることは同じ。心が通い合っているかけがえのないひと時だ。
(あぁ……この時間がずっと続けばいいのに)
そう願わずにはいられない。




