第27話 描いた未来に思いを馳せる
目的地であるショッピングモールに到着。
流石都会のショッピングモールというべきか、縦にも横にも巨大だ。俺たちが通っているマンモス校よりもでかい。いつも遠くからは見ていたものの、近くで見るのは初。こんなでかい建物は人生初だし、見ているだけでも圧倒されている。
場所といい、休日というのも相まって人の多さも段違い。パッと見ただけでも数組のカップルが見えるし、有名なデートスポットのようだ。中は広く、人が沢山いても密にならない。煌びやかだし温度もいい感じ。何もかもが自分にとっては規格外。
「ここが、ショッピングモールですか……広いですね」
「うん、めっちゃ広い……。ていうか、美夢ちゃんも初めてだったんだ」
「という事は昴もそうなんですね。まぁ薄々そうだとは思ってましたけど。そうですよ。初めてです。だからこそ2人で行きたいと思いまして」
「エヘヘ、そう言ってもらえると光栄だよ。誘ってくれてありがとう。じゃあ俺たちの初めてのショッピングモールを楽しみますかね」
「はい!」
一番の目的は夕食の食材だけども、彼女と一緒にここに来たからにはできる限り堪能しないとね。
巨大な商業施設とあって様々な店舗がある。視線を少し変えるだけでもすぐに別の店が目に入る。おいしそうな匂いもするし、服だけでもたくさんあるし、一日で回るのは不可能なのではないだろうか…いや、断言する。不可能だ。
そしてそんな大型商業施設なので普段は目にしないような店まで。
「あっ……」
ある店の前で俺たちの動きは止まった。
店先には『純白のウェディングドレス』が燦然な輝きを放っていた。
ドレスだけではなく、結婚指輪やタキシードなど『結婚式』に関係する商品が並んでいる。そうここは─【ブライダルショップ】である。
他の店とは毛色の違う煌びやかで、その空間の全てが眩しくて。恋人もいない自分にとってはまだまだ遠い世界のはずだけども、それを見てしまった途端に『結婚』や『家族』というものを猛烈に意識してしまう。
そうすると自然に頭の中に浮かんできてしまうのはあの約束で──。
「ぅ……」
彼女も同じだったようだ。純白のウェディングドレスの前で止まった途端に頬を赤くして、恥ずかしそうに目を伏せてしまった。あの時と一緒だ。繋いである手にもわずかに力が入って、さらには鼓動も強まっているのが伝わってきた。
そんな姿を見ていると俺も自然と鼓動が強まっていき、触れている手が熱い。
幼き日のあの日の約束が、少しばかり姿を見せた。
でも止まってしまった足は、その場からすぐには動こうとはしない。
「えっと……その……綺麗なドレス、だね」
「そう、ですね……。タキシードも、いい雰囲気ですね」
どうにか空気を変えたくて言葉を探すも、頭が回らなくて無難な言葉しか出てこなかった。くっ……こういう時は何を話せばいいんだ!
でもこのウェディングドレスをいつの日にか着て……なんてね。想像してしまえばすぐに頭に浮かんでしまって、心臓をどぎまぎさせていく。
「ねぇ昴君」
「は、はい」
「その……あの……いえ! 何でもないです。私たちとは縁が遠い物ですので次に行きますよ」
何か言いかけたけどすぐに切り替えて、手を引かれてその場から離れた。チラッと見ればその横顔は相変わらず耳まで赤くなるほどに赤面しているし、ちょっと視線が合えばハッとしてわかりやすいくらいに視線を泳がせた。
「べ、べつに変に意識とかしてませんから。ただちょっと…私には似合わないほどに綺麗だな、と思ったくらいで……」
「そうかな?凄く似合ってると思うよ」
「えっ……」
信じられないというような目で、そらしていた視線を俺に戻した。
雨宮美夢は、たまにとんでもなく自己評価が低くなる。
そんな状態の彼女を放っておくことはできないのだ。考えるよりも先に、思っていたことが漏れた。
「凄く似合ってるよ」
『思う』、なんて曖昧な言葉はいらない。
言いたいのは真実の言葉だけ。微笑みかけ、そして握っていた手を優しく強めた。
「……っ。着てないのにわかるものですか?」
「うん、わかるよ。ずっと見てきたんだから。もっと自信を持ってもいいんだよー!」
「……うん」
そう言ってみせると、頬を赤く染めながら嬉しそうに小さく頷いてくれた。
好きなものを、好きでいてもらいたい。すぐに変わるのは無理なのかもしれない。でも1つのきっかけになってくれれば、今はそれで十分なのだ─。
「あの店に寄ってもいいですか?」
視線の先にはアクセサリーショップ。多種多様な綺麗なアクセサリーが店の中でズラリと並んでいる。照明の光を反射して、まるで俺たちを出迎えてくれているかのように煌びやかに輝きを放つ。
彼女の目には少しだけ不安の色が漏れているけども、それでも懸命に自分に心に素直になろうと戦っているのがわかる。よかった─。
「もちろんだよー、行こう!」
俺の返答を聞くと大きく頷き、歩みを進め店の前へ。店の前で一瞬だけためらったように立ち止まるも、意を決しておもむろに足を踏み出した。端から見ればただの一歩だ。でも彼女にとってこれは、記念となる大きな一歩なのだ。
店に入った瞬間、ソワソワしながらも店全体を眺め始める。その目は綺麗に輝いていて、凄く楽しそうだ。握られている手にも自然と力が入っていて、鼓動も少し早まる。言葉はなく、時折商品を手に取ってはため息が漏れた。そんな極々普通の光景を見ているだけでもう嬉しい!
いつもはあんなにも自信満々な彼女が、好きなものに勇気をもって触れて楽しんでいる…これが見れただけでもここに来たかいがあるというものだ。俺の言葉なんてものはきっかけに過ぎなくて、彼女が自分で一歩を踏み出した。えらい!今日は存分に甘えさせてあげたい。でもそれって、いつもしているような気も…。




