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第20話 甘えたっていいですか?

(踏み込むのって大変なんだな。いつもグイグイ来る美夢ちゃんは勇気があるね。結構ダメージを受けている事が多いけど。でも俺も見習わないと)


 普段はあまり見る機会のない、枕に顔をうずめてもぞもぞしている後頭部とつむじを見ながらそんな事を思った。後頭部とつむじは普段は見る機会がそんなにないから、見てはいけないような場所を見ているように思えてきて妙にドキドキしてしまう。


「でも少しだけ……嬉しい」


 悶えること数分。クルっとこちらを振り返る。


 あのめちゃくちゃわかりやすい反応から見ても好意的に受け止めてもらっているのはわかっていたけど、こうしてはっきりと言葉にしてもらえるとホッとする。


 しかし表情は言葉とは裏腹に少しどころではないくらいに、はにかんだ笑顔になっているのだが。相変わらず少し素直じゃない言い方だけど、そこがまた彼女らしくて良い。


「私も昴君との時間は……す、好きです! それがたとえ風邪を引いて看病してもらっている時間でも、変わりません。だから、もう申し訳なくは思いません。この時間をめいっぱい楽しみます」


 笑ってくれたその表情は風邪の中でも燦然と輝いていて、世界の中でも一段と眩しく見えた。世界で一番魅力的な笑顔だ。


 そんな彼女の隣に入れる事に俺はいま凄く感動している。俺だけじゃなく彼女にとっても特別な時間であったんだ。少し恥ずかしそうにしながらも言葉を紡いでくれた所でまた一回心臓が跳ね上がったのは、彼女に悟られないように必死ではあったけどもね。


 まぁおそらくバレてるけど。


「この時間を楽しんでもらえるように俺も頑張るよー! 風邪を引いてるんだからどんな我儘だって言っていいんだよ。特別サービスで、なんでもお申し付けください! できないこと以外はなんでもするよ!」


 胸を張って答えて見せれば、少し呆れたように笑ってくれた。


「風邪を引いていなくとも、昴君はいつも何でもしてくれるじゃないですか」


 言われてみればそうではある。彼女からのお願いを断った記憶はない。特に無理難題と言われるようなものはなかったし、比較的常識の範囲内のお願いだったからね。背中を拭くというのが過去一のお願いだった気がする。


「恥ずかしい場所も見てもらいましたし…」


「それは語弊があるよ!!」


 俺はただ背中に見惚れしまっただけで……。あぁ、この瞬間にも思い出して顔から火が出るくらいに熱い。もしいま鏡を見たら、風邪を引いている彼女と同じくらいに顔が赤くなっている自信がある。


「もっとしてもらいたい事……むぅ。この際ですから、病人であることを盾にして無理難題を吹っ掛けるのも面白いと思うんですが…悩みますね」


「本音が駄々洩れだね!! 特になければそれに越したことは…」


 心を弾ませながらしてほしい事を考える姿は、どこかいたずらを考える子供の様に無邪気で楽しそうだ。『できる事はなんでもする!』と宣言してしまっているし、よっぽどでもない限りは叶えるようにする気ではいるけども、少しだけ怖い。


 いつもグイグイ来ている上に、風邪で少しタガが外れている感じになっている彼女の事だ。『おでこで熱を測る』、『背中を拭く』ってだけでもかなりハードルの高いお願いではあったが、それすらも超えそうな気がする。


「あっ、そうだ! フフン、これにしましょう」


 どうやら何かを思いついてしまったようで、目を輝かせている。何かはわからないけど頑張れ、俺の心臓。


「なんだい、お兄さんに言ってごらん」


 ここまで来れば俺も無駄な抵抗はせず、楽しみながら全てを受け入れる事にする。

 少し恥ずかしそうにしながらもまっすぐ俺の目を見て、布団をパッと開く。手が伸びてきて服を掴み、優しく引っ張る。


「一緒に寝ましょう! …だ…抱き合う感じで」


「……ぁふぃっ?!」


 驚きすぎてギリギリ言葉になっていないような感じになってしまった。けどそんな事は今の状況では些細な事だ。


 『抱き合う感じで一緒に寝る』ということは、俺が彼女のベッドに入り、抱き合うって事。抱き合うって言ってるんだから、抱き合う感じになるのは当然なんだけども。そうなると必然的におでこをくっつけるよりも触れる面積が増える。同じゼロ距離でもレベルが違う気がする。


 自分で言うのもあれだけど、中々に想像力は豊かな方だからその絵面は容易に想像できる。というか意思とは関係なしに勝手に想像されてしまう。


 しかも想像してしまっただけで心臓が早鐘を打つ。呼吸をするのを忘れ、世界の時間がゆっくり流れる。視界の中から美夢ちゃんと自分以外が消え、まるで2人だけの世界に入ったかのような錯覚を覚えた。自分の想像力の豊かさが恐ろしい。


 そんな間にも彼女の手は、少しずつ自分の元へと俺を引っ張る。


「ダメ……で──」


「ダメじゃないです!」


 少し目が潤み、小首を傾げようとする前にとっさに言葉を返す。この状況であれを見せられたらその破壊力も相まって、自分がどうかしてしまいそうだったから。しかも恐ろしい事にこの小首をかしげるとか、彼女は何の計算も無しにそれをやっている。最強だ。


 俺の返答を聞いて満足そうに微笑む。目は期待に満ちてキラキラと輝いている。これは逃げられない。


「し、失礼しまーす……!」


 期待している彼女を待たせるわけにはいかない。空けてくれたスペースに迅速かつ慎重に入る。全身が入った瞬間に布団ゆっくりとかかる。緊張で重さも感じない。ふわっとした甘い匂いとほのかな温もりが、おもむろに全身を包み込んでくる。


 でも正直心臓がドキドキしすぎて全身熱くて、もう温度がどうとかさっぱりわからない。


 視線をしっかり向ければ、目と鼻の先に彼女の顔がある。金色のベリショも、綺麗な瞳も、その微笑みも、何かもがいつもよりも鮮明に見える。視線はジッと俺を捉えて離さない。その瞳は息を飲むほどに綺麗で、まるで吸い込まれてしまうかのように思える。


 彼女の少し苦しそうで、でもどこか嬉しそうな息遣いも聞こえてくる。


 でもなぜか凄く安心できて、落ち着く。彼女の側にいられる。ただそれだけで、心が満たされていく。それはそれとして緊張とドキドキで心臓が破裂しそうだけどもね。


「じゃあ……抱きしめてください」


 軽く手を広げて、期待と恥ずかしさが混ざったような表情で、完全に受け入れ態勢となっている。なんか子供っぽい仕草で愛らしい。


 ここまで来るだけでも心臓が悲鳴を上げそうだったのに…もうひと頑張りだ。


 心臓の動きとは対照的にゆっくりゆっくり距離を縮めて、腕を後ろの回す感じにして抱きしめた。独特な柔らかさが全身に触れる。再会の時以来の感触…心臓が破裂しそう。


「んっ」


 お願いだから少し色っぽい声を漏らさないで。


 美夢ちゃんの頭が俺の胸にすっぽりとはまるような体勢で、視界いっぱいに鮮やかな金髪ベリショ。おでこをくっつけた時と同じようにドクンッ─ドクンッ─と、少し早い彼女の鼓動がはっきりと伝わってくる。そして彼女の甘い匂いで心臓を騒ぎ立っている。


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