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第14話 幼馴染が抱える事情と心の変化

 それから数分間、彼女の部屋をじっくり見てしまった。

 俺の部屋で記念撮影をするほどにはしゃいでいた彼女の気持ちが今なら完全にわかる。撮らずにはいられない。俺もまた記念に、ツーショット写真が飾られているのをカメラで撮った。ひょっこり美夢ちゃんも顔を出して、映りこむことに成功している。いい写真だ。


「今日はありがとうね、美夢ちゃん。家と部屋も知れて大満──」


「ねぇ昴君」


 そろそろお開きと言うところで、彼女の声色が変わった。

 視線を向ければ、真剣な眼差しと重なった。どこか覚悟を決めたかのように力強く、でも少し揺らいでいた。俺の名前を呼んだ時も、声が震えそうだった。


 いきなりどうしたんだろう。

 少しだけ不安がこみあげてきた。胸の奥が直に握られているかのように圧迫感を覚える。でも逃げる気はない。どんなことがあっても、彼女から離れる気なんてないんだから。


「そんなにかしこまってどうしたの、美夢ちゃん?」


「……1つ、私の『事情』を話しておこうかと思いまして」


「事情……」


 その言葉と共にまた少し瞳が揺らいだ。きっと今から言おうとしている事には、勇気がいる事なのだと思う。


 俺『小鳥遊 昴』は、幼馴染である『雨宮 美夢』の事情をほとんど知らない。


 記憶の中では学校以外の時間はほとんどずっと一緒にいたのに、再会するまでは連絡先も居場所も、今日までは家の場所も知らなかった。彼女が、どういう人間なのかは誰よりもわかっているつもりなのに。なんでも話してくれていたけど、自分の周りのことだけは何も教えてくれなかった。


 そんな彼女が、今自分の意志で不安に包まれながらも勇気をもって話をしようとしてくれている。


「なっ…!」


 気が付いたら、彼女の手を握っていた。ほのかに温かくて心地がいい。


「大丈夫だよ。俺が側にいるから」


 少しでも不安を少なくしてあげたかった。子供の頃からそうだった。なにかあれば、こうやって手を繋いで一緒にいた。今は恥ずかしくて意識してしまうと躊躇ってしまうけども、出会った時から積み上げてきた思いで体が勝手に動いている。


「あ、うぅ……。ず、ズルいです……! いつもあなたはそうやって……。でも、だからこそ話そうと思ったんです──ありがとうございます」


 プイっと顔を逸らすけど、横顔で耳まで赤面してしまっているのがまるわかりだ。特に特別な事をしているつもりはないけども、きっと何も考えずにこういう事が出来ることが彼女にとって特別なものなんだと思う。


 でもその赤く染まった顔を見せしまったら、急激に俺も照れてきた。自分から手を繋いだのに全身が熱い!特に手が熱い!自分の鼓動が全身に木霊してしまっている。


「自分からやっておいて照れないでください……もう本当に昴君は……フフ」


「いやぁー……えへへ、我ながらお恥ずかしいところを」


 手を繋いでいるからか俺の鼓動はまるわかりだ。呆れたような言葉だけど、その表情が凄く嬉しそうであった。いつもの雰囲気にいい感じに戻ってきた。


「それじゃあ……話しますね」


「うん。安心して話して」


 視線が重なった。その目にはもう不安の色はない。俺も、どんな事を言われても受け入れる。その覚悟が固まった。


「実は先ほど会ってくれたお父さん、お母さんとの本来の血縁関係は──【祖父母と孫】です。『生みの親』はまた別にいます。養子縁組……いわゆる養子なんです」


「養子……祖父母?」


「はい、そうです。昴君も覚えていてくれていたみたいですけど、子供の頃に2人を紹介した時に『親』だとは一度も言ってなくて、少し違和感を覚えていましたよね。年齢も、高校生の親にしては高めですからね。見た目通り、もう70代です。あの時……元家族の方々と折り合いが著しく悪くなりまして。祖父母であったお父さんとお母さんが、助けてくれたんです。莫大な『犠牲を払って』命の恩人になってくれただけではなく、最高の両親になってくれました。それが……私があの町から去った要因の1つです。」


 5年間ずっと謎だった答えの1つが、突如として目の間に出現した。それは俺が想像するよりも重くて、世界の薄暗い闇の部分に触れたような気がする。


 『元家族』とか完全に他人行儀だし、今のご両親が助けに入って養子になるくらいにそんな人たちと折り合い悪かったって……『命の恩人』だって……。

 高校生の俺でも様々な想像ができてしまう。言葉を多少濁していても、意味も理解できてしまう。


 心臓を直接握られたかのような圧迫感と、魂を引き裂かれたかのような痛みのない痛みが全身を駆け巡った。


 気が付けば、スッと手を伸ばしていた。


「ぁっ!」


 彼女の頭をできる限り優しく、手が震えそうになるのを懸命に抑えながら、撫でた。


 艶やかで滑らかなベリショの髪が、指の間を抜けていく。子供の頃に何度か撫でたことがあるけども、髪の長さこそ違えども、感触はあの頃から変わらない。めちゃくちゃ撫で心地がいい。撫でている俺の方が落ち着く。


 一方撫でられた彼女はさっきと同じで、突然手を繋いだ時と同じように驚きながら少し頬を赤く染めて照れた表情になりながら視線が重なった。


「よく頑張ったね。本当にえらいよ。よかったね……良いご両親に恵まれたね!」


 何があったのかはまだ知っていないけど、彼女の口ぶりから家での生活は想像しただけでも察するに余りある。いつも俺といる時にはそんなそぶりを一切見せなかった。ずっと1人で抱え込んで懸命に生きていたんだと思うと、胸が張り裂けそうでじっとしている事なんてできなかった。


 そしてそんな彼女の身を守ってくれて『親』になってくれた誠一郎さんと、百合子さんには感謝してもしきれない。きっとあの2人にも、俺には言えないような苦労をしてくれたのだろうから。


「はい! 最高の両親に恵まれました。そのおかげで今はもう大丈夫です。精神的にも支えてくれて助けてくれたし、それに……今は大切な人が側にいてくれますので」


 そう言って微笑んでくれた。少し霞んだ視界の中でも、彼女の笑顔は最高に眩しくて、輝いていた。


 『大切な人』─俺のことをそう言ってくれるなんて最高に嬉しい


(そう言ってくれたからには、俺ももっと頑張らないとね。……で、でもそろそろ……)


 心臓がバクバクしてきた。我に返った瞬間これだ。あぁ……無邪気でいられる時間は終わった。自分から撫でておいて凄くドキドキしてしまっている。さっき手を繋いだ時と同じだ。

 というか、いきなり頭を撫でるのは一歩間違えばアウトだったのでは?


 時間の経過とともに、子供の頃には平然とできていたことが今はできなくなっている。これが心の変化と言うやつか!俺はこれを何度、身をもって体験するのだろう。


 あまりにもドキドキしてきたのでスッと手を引いた。


「もう! またですか! せっかく人が勇気を出して言葉に出したのに……いいですけど! まぁでもそこが昴君らしいですけど」


「本当に面目ないです……」


 でもこの心境の変化は嫌いではない。


 そして今日のことで、彼女の側にいたいという思いが一段とまた強くなった。


 俺も、もっと強くならないといけない。彼女を守れるくらいの強さを。


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