表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
55/57

55話・緑青の夢



「そんなあんた達を見て、あたしも旦那とのことを思い出して甘酸っぱい思いがしたものさ」


 スターシャにも、そんな過去があったようだ。懐かしむように言うスターシャを見ていたら、当たり前のことだが、彼女も初めからお婆ちゃんだったわけではなく、娘時代があって、その中で恋い慕う相手がいてもおかしくはないことに気が付いた。

 結婚して夫のステパンは行方知れずになっていたが、彼女の心に残る夫の姿を胸に、息子を育てあげて今まで頑張ってこられたのだろう。そのスターシャの想いが報われて良かったと心から思った。


 スターシャらに見送られて店を出ると、窓に一匹のヤモリが張り付いているのが見えた。後からノアールに教えてもらったことだけど、ノースデン山の麓の街では、ヤモリが付く家は縁起が良いとされているとか。やもりは家を守る存在として石工達には大事にされているそうだ。ノアールは私が手にしていたパン屋の紙袋を持ってくれた。


「王都では滅多に見られないが、ヤモリがいるなんて珍しいな」

「もしかしてノースデン山で会った緑青さんだったりして?」

「それはどうだろうな? 彼女は麓の街に追いやられたようだったから。ヤモリの足でここまで来るには、無理があるだろうな」

「分からないわよ。彼女はブルーノだったステパンさんにかなり執着していたもの。追いかけて来たのかも?」


 彼女ならばヤモリの姿に戻されたとしても、鳥などを利用してここまでやってきそうな気がする。彼女の本性がヤモリだったのには驚いたが、彼女は色々な顔を持っていた。もし、魅了なんて使わずにただの人間として存在していても、周囲の男性は翻弄されそうな気がする。


 もう一度、窓の方を見ればヤモリの姿は消えていた。まるで家の中の者達を見守っていたかのようだ。緑青は一体、何をしたかったのだろう? 彼女は実の母親に捨てられたと言っていた。その言葉に深い孤独のようなものを感じた。彼女は家族が欲しかったのではないだろうか?


 それを知った竜胆は、拾った緑青の願いを叶えるために、記憶喪失だったブルーノを魅了し、仮の夫として側に置き続けたのではないか? 緑青の父親役として。

 もしもそうなら、あの家は緑青の夢そのものだったのかも知れない。優しい母に頼れる父親。身体が大人になっても、心は子供のままだった彼女はその夢に浸り続けたかったのだろう。でも、いつか夢は覚めるもの。母親役をしていた竜胆は消えさり、父親役をしていたブルーノこと、ステパンは現実社会に戻った。幻想の家族は綺麗さっぱりなくなった。

 それでも父親でいてくれたステパンのその後を心配して、様子を見に来たのではないか? あのヤモリは緑青のような気がしてならなかった。


「彼女、ノアールのことも気に入っていたわよね? ノアールは彼女のことどう思っていたの?」

「どうって?」

「異性として惹かれる要素はあった?」

「興味ない」


 突っ込んだことを聞いてしまったが、彼は即座に答えた。それでも気になってしまう。その想いが口をついて出ていた。


「でも、彼女は綺麗だったじゃない? 少しは心惹かれたんじゃない?」

「いや。容姿ならサーラの方が断然綺麗だ。心根も優しいし、あの腐った匂いがする女にはそもそも好感など持てないよ」

「どうもありがとう」


 真顔でそう言われて礼を言えば、ノアールは納得のいかない顔をしていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ