新たな魔王軍の存在
ルナの暴走から数時間後。アギトが用事を済ませて帰ってきた。そして、アギトが見た光景はとても奇妙なものだった。
「ただいま…………」
「…………」
「んー…………んー………(たすけてくれ、アギト)」
「いったい、俺が留守の間に何があった?」
そこには、リビングのソファーで口枷され、全身包帯グルグル巻きになって並んで転がっているルナとガイが居た。
「ふふふっ。自業自得ですね(ニコリ)」
「………馬鹿ね」
「んー…………んー………(はやくしてくれー、しぬ)」
「と、とりあえずその口のやつを外してあげたらどうだ?ガイなんて、白目向いて泡吹いてるぞ…………」
メイはニコニコしながらルナとガイの口枷を外す。
「ぶっはっ!」
「あやうく、しぬところだったぜ!まったくこのざんねんおっ………んー…………んー……(ぱいなにしやがる)」
暴言を吐こうとしたルナは、目にの手によって口にタオルを詰められる。
「んー…………んー……(わかった、こうさんする)」
「ルナちゃん、何か言った?」
メイが不敵な笑みを浮かべ、ルナに問う。するとルナは、全力で何も言ってないと首を左右に振る。
「らな、よし」
「ゲホッ、ゲホッ、ゲホッ………なにをする!ころすきか!」
「いったい、何があったんだ………。おい、ガイ!返事をしろ!大丈夫か!?」
「…………」
ガイは白目を向き気を失っていた。
「フンッ!こいつらが悪いのよ!全く、いい気味!」
「また何かやったのかルナ?」
「ルナはなにもやってない!ただ、アリスをおとしあなにはめようとしたら、あのおじさんがおちただけだ!」
ルナは目でグレイヴをみた。
「お前な…………」
「………俺なら平気だ。たかが子供の遊び、怒りはしない」
「だってよ、ルナ!良かったな、グレイヴいい奴で!大輔さんなら、殺されてたぞ!」
「ひげごとき、ルナがかえりみちにしてやる!」
「………返り討ちね。出来るとは思わないけど」
「なんだとー!」
「はいはい、そこまでよ!で、何か分かったアギト?」
ここで、アリスが終わりそうもない討論を強制的に止め、話をアギトに振った。
「あぁ」
アギトは今日、以前に村のクエストでガイ達が倒した見たこともない魔物が落とした魔石を調べにライザの冒険者ギルドを訪れていた。
「………それで、あの魔物はいったい何だったんだ?」
「その魔物の正体は…………」
【遡る事4時間前】
時刻は朝の10時。ガイ達から見たこともない魔物を討伐し、その魔物の魔石を調べて正体を教えてほしいと頼まれたからである。
アギトも、是非にと自らライザに行くことを了解した。
「こんにちは」
冒険者ギルドの中には、既に数十人もの冒険者達が今日のクエストが張り出された掲示板の前に群がっている。
「これはこれはアギト様お久しぶりです。今日はどういったご用件で?クエストですか?」
「いや、今日ここに訪れたのは以前この近くの村で奇妙な魔物の魔石が見つかったと聞きそれを調べに来た。ガイと言う冒険者のパーティが討伐したみたいなんだが」
「あぁ、確かにこの前禍々しいオーラを放った魔石を預かりました。どうぞ、奥の方へ」
アギトは、カウンターで対応してくれた男性のあとを追い、応接室へと入って行った。そして、待つこと数分1人の男性と1人の女性が入ってきた。
男の方は40代ぐらいのがっちりした体形で、女の方は30代前半で眼鏡をかけ、いかにも仕事が出来ます的な風貌だ。
「君が勇者アギトか?」
「はい、そうです。あなたは?」
「わしは、このギルドマスターのエリックだ。そして、そこに居るのが秘書のシャーリーだ」
「初めまして勇者アギト様。私は、ギルドマスターの秘書をしております。お噂はかねがね伺っておりますよ。アリス様を助けて、今は自分の街を作ろうとしているなど」
「あはははっ。随分ご存じのようで…………」
「そんなことより、今日はこの魔石についてだとか…………」
エリックはテーブルの上にガイ達が倒した魔物の魔石を置いた。
「我々の方でも調べてはいるのだが、なんせこんな禍々しいオーラを放つ魔石など見たことなくてな、お手上げ状態だ」
「そうだったんですね。確かに、嫌な感じがしますねこの魔石は………」
「聞いた話によると、勇者のスキルでこいつの正体がわかるのだとか…………」
「…………」
「ははははっ!そう警戒するな、勇者のスキルを知っているのは、王族の一部とギルドでは私とシャーリーだけだ。もちろん、他言するような事は決してない。安心してくれ」
「どうして、俺のスキルの事を知っているんですか?」
「王様に頼まれたからだよ。もし、勇者がギルドに対して協力を求めたら何が何でも力を貸せと。その時に、スキルの事は聞いた」
「なるほど」
「すまんな。王様も言っておったが知られたくないのだろ?お前が勇者で、スキル【調べる】が使えることを」
「はい。周りに知られれば、必ずこの力を悪用しようとする人物が現れると。剣聖エリス様にも、念を押されました。信用できるもの以外知られてはいけないと」
「そうか………」
「でもまぁ、ギルドの方が協力をしてくれるのであれば、俺も動きやすいです」
「何でも言ってくれて構わない。もちろん、この部屋で話をすることを約束しよう。シャーリーの魔法で、この部屋の声は外には聞こえない」
「そんな魔法があるんですか?」
「あぁ、それはシャーリーから説明した方がよさそうだな」
「そうですね、わかりました。私から説明いたしましょう。私の職業は空間術師といいます」
「空間術師?聞いたことないな…………」
「滅多にいない職業ですからね…………」
「もしかして、あなたも転生者ですか?」
「残念ながら違います。私は、この世界で生まれこの街で育ちました」
「そうですか………。それで、あなたの魔法と言うのは?」
「はい、名前の通り空間を支配できる魔法を使えます。今のように、音を遮断したり、逆に音を広い範囲に聞こえるようにしたり、それから空間を捻じ曲げて物を近くに寄せたり、離したりもできます。例えばそうですね…………」
ここで、シャーリーは魔法で空間を捻じ曲げ、エリックの後ろに飾られている高そうなグラスを手元にもってきた。
「こんな感じです」
「………こいつは凄いな」
「アギト様のスキルに比べたら大したことはありません。捻じ曲げられる距離も決まっていますし、目に見える物しか出来ませんし」
「それでも、十分すごいと思いますが…………」
「そう言ってもらえると嬉しいですね、ありがとうございます」
「ま、こんなふうにこれから先はシャーリーも連れて話をしようではないか」
「わかりました」
「では、こいつにスキルを使って調べてみてくれ」
「わかりました。やってみます」
【スキル 調べる】
【魔王軍アンドリューの眷属アースグラップラーの魔石 買値不明/売値不明】
「なっ!」
「どうした!何か分かったのか?」
「魔王軍アンドリューの眷属アースグラップラーの魔石……」
「魔王軍だと!」
「はい。俺は以前、魔王軍の四天王の2体と戦った事があります。しかし、その時に戦った相手はエイモスとアルメリア。アンドリューと言う名前ではございません」
「四天王の残り2体か、もしくは更にその下の魔王軍の者か…………。どちらにせよ、今の時点でははっきりしないな」
「すみません、力が足りず」
「何をおっしゃいますかアギト様!魔王軍の手下という事が分かっただけでもすごい事ですよ!」
「そうだな、これは我々人間達にとってはとても貴重な情報だ。おかげで、これからの対策がとれる」
「さっそく、皆に伝えましょう」
「そうだな。この国すべての街で共有しよう。さすれば、無駄に死人を出さずに済むしな。これの他にもまだまだ現れる事は間違いなさそうだ」
「そうですね、各街に居るクランやパーティに共有できれば越したことは無いですしね」
「そうだ。でかしたぞ、勇者アギト!」
「俺のスキルが役に立ってよかったです」
「そうだ、褒美をやらないとな!シャーリー、アギトに1000万ゴールドを渡してやれ!」
「はい、直ちに」
「1000万ゴールド!?ちょっと待ってください!」
「ん?そうか!そうだな、1000万じゃ少ないな。なら3000万でどうだ!?」
「いやいや、逆です!貰い過ぎなんです!そんな大金、いりませんよ!」
「なぜだ?おぬしは、それほどの仕事をしたんだぞ?これくらい受け取る権利はあるはずだ」
「しかしですね…………」
「気にするな!この情報で何人、いや何百人もの冒険者の命が救われると思えば安いものだ。さ、シャーリー3000万ゴールド用意しろ!」
「わかりました!頼むから1000万に戻してください。3000万なんて管理しきれません!」
「何!?そうか………。では、1000万持ってこい!」
「直ちに」
(3000万なんて大金しまっておく場所がない………)
そして舞台は皆の居るリビングに戻り
「って、感じだったんだ」
「あ……あ…………あ」
「ん?どうした?アリス?」
「あんた、バカなの!?何で3000万貰って来なかったのよ!この街を作るのにいくらかかると思ってんのよ!」
「しかしだな…………」
「あんたの、スキルは貴重なのよ!それを使わないでどうするのよ!吸い上げられるところからは、とことん吸い上げるのよ!」
「えー。それはちょっとなぁ…………」
「何、あんた善人ぶってんのよ!バッカじゃないの?これだから、あんたはへっぽこ勇者なのよ!私達の、残金いくら残ってるのか知ってるわけ?1000万なんてあっという間になくなるのよ!いい、この世界は金が全てなの!そこんとこおわかり!この、へっぽこ勇者!」
「そこまで言わなくても………。それに、少ないけど魔物の素材も分けてもらえたし…………」
「そうだ!アギトをいじめるな!かわいそうだろ!ざんねんおっぱい!」
「あんたは黙ってなさい!へっぽこ熊!」
「へ、へっぽこくまだと!」
「そうよ、冒険者でもない私に勝てたためしないじゃない!あんたにはお似合いよ!へっぽこ熊!」
「う……うぅ………」
「ア、アリスさん。それはいくらなんでも…………」
「いいのよ!こいつは散々私の邪魔したんだから!これくらい言われて当然よ!」
「うわあぁぁぁん」
「あー、よしよし。泣かないの」
メイは泣いてしまったルナの頭を優しく撫でた。
「フンッ!泣けばどうにかなると思ったら大間違いよ!これを機に心を入れ替える事ね」
この場に居た誰もが、今後アリスだけは怒らせまいと心に誓ったのであった。白目を向いている奴以外は…………。




