温かな家~星と月の涙、ミニトマトの乱~
【翌日】
アギトが寝ている部屋に一人の少女が入ってくる。その少女はボロボロの布を纏っており、すやすやと寝ているアギトのお腹の上にダイブした。
「トウッ!」
【ドンッ】
「グヘッ!」
【ペシッ、ペシッ】
「おっきろー!」
今度はアギトの頬を叩く少女。アギトは、目を覚ましその少女を見る。ルナだった…………。
「何だ、ルナか…………」
「あさだぞ!おきろ、アギト!」
【グググググッ】
アギトの両頬を小さな手で摘んで横に伸ばすルナ。
「こ……のにゃ……ろ」
負けじとアギトも上に跨るルナの左頬を右手で横に伸ばす。
【ムニュュュ】
そんな事をしている時にもう一人部屋に入ってくる人物が居た。
「入りますよ、アギトさん!って、何やってるんですか?」
部屋に入って来た雫は二人のやり取りを見て苦笑いを浮かべる。
「……は……やぐおり……ろルナ」
「ア……ギト……こそ……はやぐ……おぎ……ろ」
「はぁ。二人とも、朝食の準備が出来たから下に来てもらえると嬉しいんですけど………」
朝食と言う単語を耳にした途端、ルナは反応した。
「おお!ごはん、ごはん!いくいく!」
ルナはすぐに手を離し朝食が用意されていると思われる一階へと向かう。
「アギト、はやくしろよ!」
「やかましいわ!」
そう言って、嵐のように去っていったルナ。
「ははははっ」
「ったく、誰のせいでこうなったと思ってやがるんだ」
「相変わらずルナちゃんはアギトさんの事が大好きなんですね」
「何でこんなに好かれるのかわからん」
「アギトさんが面倒見がいいからじゃないですか?」
「そんなもんかなぁ」
「そんなもんですよ。ははははっ」
そんなこんなで、アギトは着替えを済ませ皆の居る一階のリビングへと向かうのだったが…………。
「ごはん、ごはん、ごはん」
【カンッカンッカンッ】
「…………ルナ、お行儀が悪い」
朝食が待ちきれず、両手に持ったお子様用のフォークとスプーンでテーブルを叩くルナ。それを注意するステラが居た。
「すみません、お待たせしました」
テーブルには既に皆集まっており、アギトが下りてきたことにより愛華がテーブルに朝食を並べる。
「もう!アギトおそい!ねぼすけ!」
「あはははっ。ごめんごめん」
【ポカッ】
ルナの隣に座ったアギトだったが、座った途端にルナに頭を小突かれるアギト。
【ポカッ】
「いてっ!」
「なにするの、ステラ!」
「………ルナがアギトを叩くから」
「だって、アギトがおそいのがわるいんじゃん!ルナはわるくないもん!」
「………そういう問題じゃない。私達を助けてくれたアギトを何で叩くの!アギトや髭さんが居なかったら、私達は今頃死んでいたかもしれない。お母さんに会うことも出来ないまま」
「ママなんていないもん!ママもパパもきっとルナたちをすてたんだ!だから、あいにきてくれないんだよ!」
「………そんなことない。パパもママもきっとこの世界に居るはず」
「いないったら、いないの!」
「ちょっと落ち着けよお前達」
「…………髭さんは黙ってて!これは私達姉妹の問題」
「わ、わかったよ…………」
一気に場の空気が重くなる。ステラの発言によりこの状況を誰も止められない。
「………ママは間違いなくこの世界に居る。パパはあの時に一緒に居なかったからわからないけど」
「いないもん!あのとき、ルナはママとてをつないでいたのに、いっしょにいたのはステラだった。もしいたとしても、ママはわたしたちをおいてどっかいっちゃったもん!」
(確かにルナの話が本当なら、なぜ母親だけ転生されていない?この姉妹だけ転生されたのか?その時の状況を二人はどこまで覚えているんだ…………)
「なぁ、ステラ!ちょっといいか?」
「…………何?」
「ステラは、なぜこの世界に母親が居ると確信を持っているんだ?」
「………私は見てた」
「見てた?何をだ?」
「………転生される瞬間」
「「「なっ!」」」
ステラの発言に、アギト達は驚いた。何とステラは自分達が転生される瞬間を見ていたというのだから。
「………最初はルナが消えて、その次にママが消えた。見間違えるはずない。確かに私の前から身体ごと消えていった。そして、自分も意識が無くなるまでの間、身体が透明になっていくのを見ていた」
「そして、気が付けばルナだけがステラの横に居たと?」
「………そう。だからママも必ずこの世界のどこかに居るはず」
「じゃぁ、なんでママはルナたちをむかえにきてくれないの?」
「………ルナ、私達は昨日この世界に来たばかり。もしママが私達よりも遠くの場所に居たとしたらまず来れない」
「確かにな…………。何らかの形で遠くに転生させられていたら、たった一日じゃ探しようがない」
「じゃ、ルナたちはまたママとあえる?」
「………会えないと思う」
「なんで!ステラはママがきらいなの?ママをさがさないの?ママにあいたくないの?」
「………私だってママに会いたい。でも出来ないのよ」
「できるもん!アギトも、ひげも、しずくちゃんも、あいかママだっているじゃん!みんなでさがせばすぐみつかるよ!」
「………ルナ。それが出来ないと言ってるの!」
「なんで!?わかんない。ルナわかんない。どうしてさがしてくれないの?」
「………それは、私達がアギト達の家族じゃないからよ」
(家族じゃないから俺達には頼れないという事か)
「………アギトはなぜこの世界に転生されたの?」
「ん!?俺は、女神様からこの世界の魔王を倒せと。見事倒すことが出来た時には、元の世界に帰る事が許され、身体も元通りになると」
「…………元通り?」
「あぁ。そうか…………二人にはまだ話してなかったな。俺は、元の世界じゃ難病に侵されてて自分では身動き一つ出来なかったんだ。つまり、寝たきりって事だ」
「そんな…………」
「でも、魔王を倒せば病気は治り、普通の生活がおくれるようになる。だから俺は魔王を倒す旅をしているわけだ」
「俺達家族もそんな感じだ!」
「………髭さん達も?」
「あぁ。俺達も、魔王が倒されれば元の世界に帰れる。そして、魔王を唯一倒せる存在がアギトってわけだ!だから俺達はアギトに手を貸している」
「………そうだったんだ」
「ねぇねぇ、どういうこと?ルナわかんない」
「………つまりねルナ、アギト達は悪い人達を倒すためにこの世界に来たの、だから私達のママを探している時間は無いのよ。これでわかった?私達二人じゃママを探すことなんて出来ないの。昨日の悪い奴らに、直ぐに殺されちゃうの」
「そ…………そんな………う………ぅ…………うぅ………ヒック………ヒック………うわぁぁぁぁん」
ここでようやく理解が追いついたルナが絶望のあまり泣き出してしまう。
「うわぁぁぁぁん…………マ…………ママ…………あいたいよ……」
「………大丈夫よルナ。お姉ちゃんが必ずあなたを守るから。二人で頑張って生きていこう」
「…………う…………ぅぅ…………ス…………テラ…………」
「………よしよし。大丈夫よ」
ルナはステラの胸で泣きじゃぐりそんなルナの頭を優しくなでるステラ。
「ちょっと待てステラ」
「………?」
「誰がお前達の母親探しを手伝わないと言った?」
「………え?でも、アギトは魔王を倒すために旅をしていると…………。私達のママを探している時間なんかあるわけないんじゃ?」
「時間なんて腐るほどあるさ!確かに俺は魔王を倒す旅をしている。けど、俺一人で魔王を倒せると思うか?現に、少し前に魔王軍の奴らとやり合った」
「………魔王軍」
「あぁ。だがなその時見事に完敗したよ。魔王でもなく魔王軍の四天王の一人にな。その時おまけに呪いを受け俺の左腕は動かなくなった」
「………確かにいつも左腕を使ってない事に違和感はあった。その原因が魔王軍の呪い」
「それと、俺は木製の武器しか装備出来ない。主に使っているのが木刀だ。だが、こんな武器では魔王はおろか四天王にすら勝てるはずがない」
「………そこで強い仲間を探していると?」
「正解!相変わらず賢いなステラは」
「…………別に」
【プクーッ】
「ルナだってかしこいもん!」
ステラだけがアギトに賢いと言われ、納得のいかないルナが頬を膨らませて抗議する。
「はいはい、ルナも賢い、賢い!」
「あー!アギトてきとうにいってる!いけないんだよ、そういうの!」
「わかった、わかった!よしよし、ルナも賢いな!」
「グヘへへっ」
(((チョロいな)))
「だから、仲間探しついでに二人の母親も探してやる!」
「…………いいの?」
「ダメな理由が見当たらんが?」
「………ありがとう。いつか必ずこの恩は返すから」
「まぁ、期待しないで待ってるよ!」
「………うん」
「ルナもアギトにおんをかえす!いくら?」
「いくら?」
「………ルナ。恩はお金で返す物じゃない。やっぱりルナは賢くない。どちらかと言うとおバカ」
「おバカじゃない!ルナはかしこいもん!アギトだってかしこいっていったもん!ブーッ!おこったぞ!」
「やめれ(笑)」
「ステラ、俺達家族もお前達の母親探し手伝うぞ?」
「………え?」
「当り前じゃないか!アギトだけが手伝って俺達が手伝わないわけないだろ?それに、こっちには話術師の雫が居る!雫の力は情報を聞き出すのにうってつけだ!」
「なるほど!ここでようやく私の職業が役に立つのね!いつもお客さんが来ないから私の職業が宝の持ち腐れになっていたからやる気出てきた!」
「おいおい、雫さんよ…………。そんな風に思っていたのか ?お父さん悲しいぞ?」
「何よ?当り前じゃない、いっつも店番暇だったんだから!」
「…………面目ねぇ」
「ははははっ!ひげがおこられてしょんぼりしてる」
「お前にだけは言われたくねーよ!」
「ささ、じゃ、アギト君も、私達家族もルナちゃん達のお母さんを探すって事でご飯にしましょう!」
「そうだな!とりあえず飯食うか!」
「そうですね、いただきましょう!」
「たべる、たべる!ルナいっぱいたべる!」
「………ありがとう、アギト、髭輔さん」
「おう」「誰が髭輔だ!大輔だ!」
こうして、各自目の前に食事が用意されたのだが…………。
「ん?どうしたルナ?お腹でも痛いのか?」
大輔がただ一点を見つめるルナを見て声を掛けると、ルナは閃いたように
「ああ!そういえば、ひげはこれがすきだったよね?ルナのぶんもあげる!」
そう言うとルナは自分の前に置かれたサラダのミニトマトをスプーンで取り、大輔のプレートに置く。本日の朝食はと言うと、ワンプレートになっており、それぞれパン、オムレツ、サラダ、デザートの果物が置かれていた。
「ん?嫌いじゃないけど好きとも言った覚えはないぞ?」
「このまえいってたじゃん!ルナはちゃんとおぼえているんだから!」
「この前っていつだよ?」
「うーん。みっかぐらいまえ?」
(え!?三日前?まだこの世界に来てないだろ…………。ちょっとかまをかけてみるか)
「まだ一日しか経ってねーよ!」
「なぁ、ルナ」
「なーに、アギト?」
「俺には何かくれないのか?」
「なにもあげない!」
「えぇ!?何で、何か頂戴よ?」
「やだ!」
「ははーん。わかったぞルナ!お前、トマト嫌いだろ?」
【ギクッ】
大輔の発言に思わず体が飛び跳ねそうになるルナ。
「………べ…………べつにきらいじゃないもん…………。むしろだいすきだもん。でも、いつもやさしくしてくれてるひげにおれい」
「別にお礼何ていらないぞ?むしろ、大好きなら俺の分まであげるぞ!」
そう言って、大輔はルナと自分の分のミニトマトをルナのプレートにのせる。
「あー!なにするのひげ!いらないっていったじゃん!」
「いらないなんて一言も言ってないが?」
「いったもん!ぜったいいったもん!」
「いつ?」
「えーっと、よっかぐらいまえ?」
「嘘つけ!俺達は、昨日初めて会っただろうに!」
「じゃぁ、ステラにいった!」
「『じゃぁ』ってなんだよじゃぁって!」
「うるさい、うるさい!ひげのいじわる!ひげきらい!」
「おおう!嫌いで結構!でもちゃんと食べろよな、ミニトマト!」
「…………アギト」
「俺ならいらないぞ!?自分の分あるしな!」
「…………ちなみに私もいらない」
【ガーン】
みんなに拒否されたルナの顔は一気に青くなった。だがこの絶望的な状況でも悪知恵が働くルナ。
「あー!アギト、まどのそとにくまさんが!」
「えーっ!熊さんだって?何処、何処?」
【チラッ】
絶対的に嘘だと確信していたアギトは、窓の外を見るふりをして自分のプレートに目をやる。すると、そこにはアギトがよそ見をしている隙に自分のプレートから二つのミニトマトを移すルナの手が見えていた。
【ヒュッヒュッ】
ルナの行動に笑いをこらえる大輔達。
「何処だ、ルナ?熊さんなんていないぞ?」
「あ!そう?じゃ、ルナのきのせいだったのかも。あー、それにしてもミニトマトはおいしいな。モグモグ」
(あきらかに移していたな。それにそのモグモグって自分で言ってる時点で不自然すぎるだろ)
「えぇ!?ルナ、もうミニトマト食べたのか?」
「た、たべたよ!とってもおいしかった!でも、アギトのはいらない。ちゃんと、すききらいしないでたべるんだよ、アギト!」
「あー、そうか。食べちゃったか?でも、なぜか俺のプレートのミニトマトが二つ増えてるんだよな?気のせいかな?」
「き、きのせいだよ!さいしょからみっつあったよ?ぜったいにルナがアギトのおさらにのせたんじゃないからね!ぜったいにのせてないんだから!」
「そうか、そうか。最初から三つあったか………しかし残念だな。ルナがミニトマトを食べている所が見れたら、この後の買い物で何か買ってあげようと思ったのに。あー、非常に残念。次の機会だな、これは…………」
「……………」
「かえして!アギト、ルナのミニトマトかえして!」
「あれー?さっきは最初から三つあったって言ってた気がしたけど?」
「アギトが、ルナのぶんのミニトマトとった!だからかえして!」
「まぁ、ルナが返してって言うなら返すけど」
アギトは再びルナのプレートにミニトマトを移した。そして、自分のプレートに乗せられたミニトマトを見るルナ。
「えいっ」
今度はちゃんとミニトマトを食べるルナ。
【モグモグ】
「うぇぇぇぇ。おいしくない」
「………チョロいなルナは。ほらルナ、ジュース飲んでごまかしなさい」
そう言うと、ステラは自分のオレンジジュースをルナに渡す。
「ははははっ!えらいぞルナ、ちゃんと食べられるじゃないか!」
「うぅぅぅ。これで何か買ってくれる?」
「おう!もちろん!頑張ったルナにはご褒美あげないとな!」
「やったー!」
「さ、とっとと食べて買い物に行くぞ!」
「「「おー!」」」
こうしてこの後、アギト、ステラ、ルナ、雫は街へと買い物に行くのであった。




