温かな家~髭輔さんと唐揚げの乱~
漫才にも似たやり取りは終わり、いよいよ今後の事について話すアギト達。ステラ達姉妹は今、2階で雫が面倒を見ている。
リビングの椅子に腰かけるアギト、大輔、愛華の三人。テーブルには愛華特製の茶菓子が置いてある。それを摘まみながら話す三人。
「で、アギトこれからどうするんだ?」
「一度、自分のクランハウスに戻ろうと考えています」
「クランハウスに?別に、うちでステラ達を預かってもいいんだぞ?」
「あなた、アギト君には何か考えがあるんじゃないの?」
「そうなのか?」
「えぇ」
アギトは、大輔と愛華を順に見る。そして静かに話し始める。
「最初は、しばらくステラ達をお願いしようかと思ったのですが、あの子達が転生者と知れたら、攫いに来る者もいると思います。そしたら、大輔さん一家にも迷惑がかかってしまうと思うんです」
「なるほど。だから、勇者であるアギトが守ると?」
「いえ。今の俺の力じゃあの二人を守る事は出来ません。もちろん、クランハウスに戻っても戦闘が出来る人間もいません。戦闘能力も低いうえ、左腕が動かないんじゃあの子達を守る事はおろか、自分を守るだけで精一杯です」
「ならどうするんだ?」
「そこで、知り合いに頼ろうと思います」
「その知り合いというのは誰なの?」
「剣聖エリスです」
「剣聖だと!?知り合いなのか?」
「はい。以前、天使の宴少し縁がありお願いしてみようかと。あのクランならきっとステラ達を守ってくれると思うんです」
「なるほど。確かに剣聖の居る天使の宴なら、申し分ないだろ」
「それでもダメなら、国王を頼ってみようと思います。うちのクランには第三王女のアリスが在籍しているので、話を通してくれるかと」
「第三王女だと!?アギトのクランには第三王女が居るのか!」
大輔はあまりの驚きに、身体をのけ反らせ椅子から転げ落ちそうになる。
「はい。彼女が襲われている所を助けて、そのまま俺のクランに籍を置くようになりました」
「マジかよ…………。とんでもねーな、アギトのクランは」
「まだ、俺とアリスの二人しかいないんですけどね」
「あっ!そーいえば、あなたどうするの?アギトさんのクランに誘われてるじゃない」
「あぁ。その事なんだが、俺達家族もアギトのクランに加わりたいのだがいいか?」
「本当ですか!是非、お願いいたします!」
「こんな騒がしい家族だけど、よろしくねアギト君」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
「ただ、手を付けている仕事もあるから、一か月の準備期間をくれ!準備が出来次第アギトの街に向かう!」
「わかりました。戻ったらアリスにも伝えておきます」
「あら、どうしましょ?第三王女様が居るとなると、きちんとしたお洋服を用意しないと…………」
「それなら、平気です。アリスも特には街では着飾っていないので。それに大輔さん達が着飾って行ったら、アリスも困惑すると思います。性格的に…………」
「あらそうなの?」
「えぇ。とても気さくな子なのでかしこまらなくても平気かと」
「それはそうと、ステラちゃん達のお洋服を買いに行かないとね。今の格好じゃちょっと…………」
「確かにそうですね。明日、俺が二人を連れて買ってきます」
ステラ達はこの世界に転生された時は、元居た世界の洋服ではなく、ただのボロボロの布を着ているだけだった。
「じゃ、雫も連れて行ったら?女の子が居たほうが何かと便利よ!」
「そうですね。後で聞いてみます」
「アギト、今夜はどうする?うちに泊まっていくか?宿屋よりは安心できると思うが…………」
「ありがとうございます。では、お言葉に甘えて」
「じゃ、今夜はご馳走ね!腕によりをかけて作っちゃうわよ!」
【夕刻】
「わぁ、ごはんがいっぱい!おいしそう!」
愛華が夕飯をテーブルに並べていると、椅子に座っているルナは目を輝かせ、待ちきれないのか、前屈みになり唐揚げに手を伸ばす。
「………ルナ。お行儀が悪い。ダメ」
「なんで!いいじゃん!いいじゃん、だっておなかすいたんだもん!ステラのケチ!」
【ポカッ】
ルナは、自分を静止してきたステラの頭を叩く。
「………。ルナ、言う事聞かない子はお化けに連れて行かれちゃうのよ。そうすると、アギトや髭輔さんともお別れだよ?」
「誰が髭輔だ!大輔だ!」
「ひげはいいけど、アギトとおわかれはいやだ!」
「俺はいいのかよ…………」
「………じゃ、お姉ちゃんの言うことを聞きなさい」
「………うん。わかった。ルナがまんする」
そして、全てのおかずが並びいよいよその時がやってくる。
「「「いただきます」」」
早速ルナは、持っているお子様用のフォークで唐揚げを取ろうとする。
「えいっ!」
【コロンっ】
しかし、フォークが上手く刺さらず、唐揚げがお皿から落ちてしまう。
「むむむっ」
「えいっ!」
【コロンッ】
「………………」
上手く刺さらない唐揚げをルナは鋭い眼光で睨みつける。
「すげー顔してるな。こえーぞ、ルナ…………」
ルナの正面に座る大輔が苦笑いを浮かべながらルナに言った。
「このからあげ、ルナのいうこときかない」
「………ルナがへたくそなだけ」
そう言って、ステラはお皿にのる唐揚げにフォークを刺し、自分の口に運ぶ。
「………おいしい」
「あー、ステラだけずるい!ルナもたべる!」
【コロンッ】
「………へたくそ」
「うるさい!」
ルナは頬を膨らまし、再びステラの頭を小突く
【ポカッ】
「こらこら、あまりお姉ちゃんを虐めるな」
「だってぇ…………」
アギトに注意されルナはしょんぼりしてしまう。
「ほら、ルナ口を開けろ」
ルナの横に座るアギトが唐揚げを箸でつまみルナに食べさせる。
【モグッ、モグッ】
「うーん、おいしい!アギトもっと!」
「………アギト、ルナを甘やかせてはダメ!つけあがる」
「ステラはさっきからうるさい!いいの、ルナはアギトにたべさせてもらうの!」
「…………自分で食べなさい」
【プイッ】
ルナは、自分の事をうるさく言うステラに対してソッポを向く。
「ほ、ほら、ルナ!唐揚げだぞ!あーん」
「ひげのはいらない!アギトのがいい!」
「………知ってたさ、こうなる事ぐらい。知ってはいたけど傷つく」
「ルナ、いい加減にしなさい!」
ここで初めて、ステラがルナに対して大声を上げる。
「うおっ!」
大輔はあまりの出来事に唐揚げを落とす。
(お、俺の唐揚げが………)
「わがまま言わないの!せっかく大輔さんが食べさせてあげてくれてるのに何てこと言うの!髭だけど、私達にとってはパパの代わりなの!」
「ス……ステラ?べ、別にそこまで怒らなくてもいいぞ?俺もこの流れはなれたから……」
「髭輔さんは黙ってて」
「お……おう」
「………う………ぅう…………うぅ…………」
「まぁまぁ、ステラの言う事も分かるけど、二人とも少し落ち着け」
何とも重苦しい雰囲気の中、興奮するステラと泣きそうになるルナをアギトがなだめる。
「ほ、ほらルナちゃん、このハンバーグもおいしいよ!あ!それとこっちのエビフライも!ルナちゃん食べる?」
「ハンバーグたべる…………」
すると、雫が場の雰囲気を変えようと必死になる。雫はハンバーグを一口大に切り、ルナのお皿にのせる。
「さ、さぁ、ルナちゃんお食べ!美味しいよ!」
ルナは半べそをかきながらフォークをハンバーグに刺す。すると、ハンバーグなら普通に取れたルナに笑顔が戻る。
【モグッ、モグッ】
「おいしい!」
「よかったなぁ、ルナ」
「うん!アギトのぶんもルナがとってあげる!」
ルナはお皿の上にのっている残りのハンバーグをフォークで刺す。そして、プルプルと震えた手でアギトに渡す。
「アギト、あーんだよ!」
「えっ!?」
「はやく!おくちあけて!」
「い、いや。ルナ、ハンバーグが大きすぎだろ!」
「いいの!はやくたべるの!」
「わ、わかったからそんな睨むなよ」
渋々アギトは一口で食べるには無謀にも思える大きさのハンバーグを無理矢理ルナによって口の中に入れられる。
「むぐっ!?……もごもご(熱いし、でかい……)」
「どうだ!ルナだって、やればちゃんとできるんだ!えっへん!」
熱くてもがき苦しむアギトを余所にルナは自分もアギトと同じ事が出来たことに対して胸を張った。
「ルナ?俺にはないのか?」
「ひげはじぶんでたべられるでしょ?」
「えっ!?ま、まぁ……。自分で食べられるが……」
「なら、じぶんでたべればいいじゃん!ルナはアギトにたべさせるのにいそがしいの!」
「そ……そんな」
「あはははっ!お父さん残念だね」
「う、うるせー!ルナがダメならステラなら……」
「………何で私が?無理」
【ガーッン】
【カランッ】
ステラにも拒まれ持っていた箸を落とす大輔。
こうして、ステラ達双子の姉妹が転生された初日は幕を閉じるのであった。




