逸脱
「人生はなぁ、たったの4000週間やねんて。あんた見た感じ、まあ30前とかやろ?30歳になったらもう人生は残り2500週間。あっちゅうまや。わしなんかもう数週間で死ぬわ、はっはっは!…はい、じゃあここでアンタに聞く。人生あっちゅうまに終わんねん。そんな中で自分がやりたい事、楽しい事を蔑ろにしてまでどれだけ考えても一生わからんことばっかりに時間つこうて、気ばっかつこうてする時間ってあるんかね?」
「……」
このおじいちゃんが言ってることは社会の常識から外れてる。
楽しい事なんて優先すべきものじゃない。社会ではやりたいことよりもやらないといけないことを優先しないといけない。
多くの人がそうやって人生を仕事に捧げてきたお陰で今この社会が回ってる。世界中の人がこのおじいちゃんみたいなら社会は回らない。だからこのおじいちゃんの言うことは間違っている。
「…わしはそんな時間ないことに気が付いたんや。やからもともと人の目ごっつぅ気にするタイプやったけど『でもそんなこと考えたってしょうがないな』って思うようにしてん。自分を見てどう思うかなんかその人が決めることで、わしがどうすることも出来へんから。やからわしはわしのことを考えるようにした。『自分の中にある選択肢は“行動するかせーへんか”だけでどっちをわしは選択したいのか』これだけを考えることにしたんや。行動した先の未来なんか誰にも分からへん。誰にどう思われるかも分からへん。一生考えても結果出るまで、結果出た後もほんまのことなんか知る由もあれへん。」
「…ハハハ、そうですね。うん、でも、…はい、もう。すいません、ありがとうございました…」
早く否定しないと、それは違うって、そんなのおかしいって、そんなのまかり通る訳ないって言わないと僕が壊れてしまう気がした。
その結果がそのボロボロの見た目なんだろ。
社会の秩序から外れてまでやりたかったことが、こんなクソ暑い路上で観客もいない中で一人でギターを弾くことだったのかよ。
そんな嫌な感情が僕の口から出そうで、急いで逃げるようにして交差点の方に向かった。




