表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
OneLoser(ワンルーザー)  作者: kíséri/キセリ
The first series:「ぼくのうた」
8/45

他人の視線

 もうどこから突っ込めばいいのかわからないレベルに混沌と化しているこの場はこのドギツイ二人の関西弁によってさらにカオスになっている。とりあえずこのおじいちゃんに招かれ、交差点の影の方に行く。

 だいたいこういう系の人には話しかけない方がいいんじゃないの?義務教育が体に染みついている僕は少し体が竦む。

 それでも進んでいけるのはマスターの風貌がここらの誰よりも厳つく、そんな人と一緒に歩いているというだけで勝手に自信もっているからという大変ダサい理由だ。



「はい、りっちゃん、聞いてみ」


「えっ、…いや、え、でもマスターさすがに…ヒィッ。……どうして、そんなにたのしそう、なんですか…。恥ずかしくない…んですか…。」


「恥ずかしいっちゅうんは、おっちゃんがここでギター弾いとることがけ?」


「あ、いや、え、えと、えと…いや、あの、」




 やばい絶対地雷踏んだ。マスター!だからさすがにやばいって言ったじゃん!マスターから鋭い視線を感じたから勢いで言ったけどさ!?心の中で僕があたふたしているそばで突如豪快な笑い声が聞こえた。



「ハハハハハ!!そらそうやわなあ。若者(わかもん)からしたら恥ずかしいように見えとんのかあ、ハハハ正直でええこっちゃ!!」


「…へ?」


「なんで恥ずかしくないかかぁ。そうやなあ、おっちゃん周りの目とかあんまし興味ないねん。誰からどう思われとるかとか、別になんて思われとってもかまわんから恥ずかしないんやと思うわ」



 地雷を踏んでいなかったことに安堵するよりも先に、大きなはてなマークが僕の頭上に一つ浮かぶ。


 周りの目が興味ない…?


 僕とは正反対だ。僕は自分の意見や感情よりも、周りの目線を優先してしまう。

 芸能人にしろ、こういうところで弾き語りをしている人にしろ、ああいう人たちは頭のねじが1,2本外れてるんだろうと思ってたけどやっぱりそうだった。人の目線が気にならないなんて頭おかしいでしょ。

 おかしすぎる。この窮屈な日本の空気の中で生きてきてどうすればそんな考え方になるのか。


 …でも同時に羨ましい。周りの目を気にしないようになればもっと楽になる気がする。こんな暑いところで音楽をしたいとまでは思わないけど、もう少し人の目を気にせず生きられたら…。



「どうして人の目線が…気にならないんですか…?」


「んーわしももともとごっつう人の目ぇ気にするタイプでな。ある時になんかよぅわからんおっさんに言われた言葉、伝授したるわ。…考え方を変えるねん。んで自分ができることは何なんか考えるねん。」




 ついに頭の中まではてなマークで溢れかえった。隣のゆりも同じような顔をしていた。

 ただ一人だけ、マスターだけはとても真剣に、穏やかな表情をしていた。



「例えば、あんたがここで弾き語りするとするやろ?そん時、周りがどう思うか気になって恥ずかしなるとする。『あそこのカワイ子ちゃんにダサい思われたらどうしよう』『知り合いに見られてかっこ悪い思われたらどうしよう』ってな。そん時に自分にこう聞くねん。『これは自分の問題なんか?』って。…じゃああそこの、あのカワイ子ちゃんがわしらが今、ここで話してるのを見て気色悪いなぁ思うてるかどうかってアンタわかる?」


「…わからない、です。」


「そりゃそうやわな。誰にも他人の心の中は読まれへんもん。アンタはその隣のイケメンくんが何を思っているかも、この厳ついのが何を考えてるかも、わしがどう思ってるかもわからへん。もちろんわしもアンタの心の中なんかどれだけ考えても、寄り添うことはできても、一生分かりはせん。」


「…はい。」


「じゃあ次に質問や。人生って何週間か知っとる?」


「…どうだろう…5万とか?」



 一体、何の話をされているのかわからない。自分の問題?心の中?人生何週間?それぞれのトピックが点と点でつながらない。

 なのにどうしてかこの人の話しぶりには惹きつけられた。身振り手振りで伝えようとするその姿は僕が持っていない自信にあふれているからだ。もう60にもなりそうな日焼けした肌のやせ細ったおじいちゃんのはずなのに、僕よりも自信と熱意に溢れていて、とてもパワフルだった。


 僕が持っていないものをすべて持っているような気がして、暑い中僕は周りの音が聞こえないほどに集中していた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ