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OneLoser(ワンルーザー)  作者: kíséri/キセリ
The first series:「ぼくのうた」
10/45

神様

 



 何をしたいのか?それだけ?何を言ってるんだろう。




 それだけなわけあるか。

 僕たち社会人には生きているうちに大量の課題がある。じゃあお金は?生活はどうする?親にはなんていう?


 何かをしようと思っても、その課題をまず処理しないと行動できない。

 そしてその処理が面倒くさいから行動しないんだ。




 なのに、“行動するかしないかだけ”だと?そんなものは学生までだ。

 家賃も親に払ってもらって、何もせずとも“学生”という最高の肩書きがあって、何をしても“若い”という理由で許される、そんな10代まで。ぎりぎり20代前半まで。もう僕は乗り遅れたんだ。


 その言葉を20歳の時に聞いていれば何か変わったかもしれないが、もう遅い。同級生にはプロのカメラマンや小説家、SNSインフルエンサーなど“自分のやりたいこと”で食っている人もちらほらいるがそんな人たちの大抵は学生時代からその目標のために動いている。


 出遅れた僕みたいなやつは『あの人は当時から変わってたもんね』と傍から称賛するか『たまたまちょっと上手くいっただけで若いうちだけだろあんな仕事』と傍から批判するかの二択。もう、もう…。



「りっちゃん!もうちょっと…」


「もう遅いんだって!!もう遅い!!何をいまさら言ってる……何をしたいかだけで人生を選択できる人間…いいですね。羨ましいです。でも僕には無理です。現実そんな甘くないじゃないですか。…すいません。帰りますね。」



 目の前の信号は今にも赤信号になりそうにチカチカ点滅していた。車なんて確認もせずに猛ダッシュで交差点に入った。案の定、クラクションを鳴らされ、運転手は窓から顔を出して僕に怒鳴りつけてくる。僕はどこも見ずにふらふらと右、左、と地面を踏みつづけた。



 ほら、ちょっと頑張ってみようとしたらこうだ。その反発でこんなにも苦しい。こんなにも胸が絞めつけられる。


 喉の奥がギュイっと上がってきて息をするのも苦しい。シャッと傷ついた肌からプツ…プツ…プツ…と血が出てくる。そのプツプツした血液は次第に一本の線になり、下へ流れていく。




 こんなにもしんどい反発があるのなら僕はもう頑張りたくない。もういい。止まらない時間の中で、まるで僕だけが止まっているような感覚。僕だけが時間に取り残されていくような感覚。置き去りにされていく感覚。

 僕が思っているより時間は速く進んでいたそうだ。この速さに僕はついていけそうにない。そのための筋力を持ち合わせていない。少し頑張ってみたけど、やっぱり無理だったよ。




 ふとあたりを見渡すと僕は十字路の真ん中にいた。

 周りには同心円状に緑の田や緑の畑が広がり、その先には大きな緑の山がドンと構えられていた。まるで抹茶のホイップクリームで縁られたホールケーキの中心にいるかのように、気づけば僕は緑に囲まれていた。

 どこだ…ここは…。ここは阿蘇山のカルデラの中のように外輪山に囲まれた緑の平地で後ろを振り返っても、どこを見てもあの交差点もない。大きなビルもない。ここにあるのは緑だけ。人も、いない。ここにいるのは僕だけだ。


 どうやって僕はここにたどり着いたんだろうか。どこにも入り口は無い。あの大きな山を登ってきた…?そんなわけない。


 風も吹かず、サーという草木の音も全く聞こえないこの殺風景な空間に僕はとてつもない神秘さを感じていた。


 僕は()()()()()()()360度、両手を広げてゆっくりとぐるぐる回る。



 空気を感じたかった。



 自然を感じたかった。



 自然なら僕を受け止めてくれると思った。



 人間の癖に人間社会を生きるのが下手くそな僕を自然だけが受け止めてくれると思った。






 空を見る。入道雲、右側は青い空、左側には赤みがかってきた空。

 まるで本の中の世界のようにきれいな空。もしかしたらここは絵本の世界なのかもしない。僕は絵本の中の冴えない主人公で、作者が僕に意地悪をしているのかな。絵本やドラマだとこんな風に悲しいことがあると大体いいことがあるけれど僕の人生にもそんなページがやってくるのだろうか。






 ねえ、神様…。もしいるなら、もし本当にいるなら…僕と友達になってよ…。

 僕は人間なのにこの世界を進んでいく人間たちにはついていけない負け犬だったよ…。


 神様が僕を作り出したんでしょう?ならそんなに冷たくしないでよ…。もうちょっと優しくしてよ…。





 力も能力も望まないから、僕と同じスピードで、神様くらい隣にいてよ…。




このシーンは2024/9/16に新たに追加したシーンです。

この神秘的なシーンを書くのにとても時間がかかりました。

誰も言ったことのない場所でありつつ、読者の方に想像してもらえる情景描写を心掛けました。

ここから3,4話くらいは追加エピソードになりますがぜひお楽しみください。


陽向りお

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