ヒーロー
そうだ。あの場で即決で決めてしまったことによる大きなデメリットがこれだった。これに気が付いたのは一昨日でもうその時にはバンドを組んでいた。
ゆりと長谷川さん。コンバス出身でバンドを始める人ってほとんどの人がベースをやるイメージなんだが、正直僕は2ベースを見たことがない。このバンドにベースが二人いることに気が付いてから少し調べてみたが、2ベースもいるはいるんだけど正直僕たちがやりたい音楽のジャンルではなかった。
「ふぁあああ……俺、ギターできるよ」
そういって目を擦りながらボソッと呟くのは、ゆりだった。
「え?え?え?そうなの?」
「俺、律が楽しそうにギター弾いてるとこ見て、いつだったっけな、大学2年のときかな、俺ギター買ったんだよ。」
「え?え?え?」
「ふふふ~ん、俺は律のその驚く顔が見たかったんだ!ふっふっふ!!」
癖の悪い顔でこちらを見るゆりはもう深夜テンションで陽翔になんらか影響されたようなしゃべり方をしていることに驚きも相まってじわじわ面白くなってくる。そりゃそうだ、もう時間は深夜の3時。防音室にいるから聞こえないもののそろそろバイクの音も聞こえてくる時間だろう。もちろん明日も仕事なわけで正直明日のことを考えると憂鬱になるのでもう考えないようにしている。
この中で唯一目がガンギマリしている陽翔は目鼻口から、いや全身から、この深夜には合わないキラキラオーラを発し、「見てぇ!!ゆりのギター!!」と子供のように要求するからゆりは「仕方ないなぁ」とまんざらでもない表情でギターを持ってきた。
彼が持ってきたのはボディが綺麗な木目のエレキギターだった。
「え!そのギター!かっこいい!なにそれ!欲しい!!オシャレ!!ゆりに似合うよ!!」
「だろ~?」
そういってゆりはギターを首にかける。流石に深夜なのでいくら防音室とはいってもここはゆりの実家だし、お母さんたちは寝てるはずだからアンプは付けずにHirumaの「真昼の月」のギターソロを弾き始めた。
この曲自体、おしゃれな雰囲気の曲なんだけどギソロはちょっと激しい曲で、僕は基本バッキングしか弾いたことないし、単音弾きは苦手意識がある僕にとってこんなにかっこいいギソロを弾けるなんて最早ヒーローだった。
激しいフレーズの中に感じるコンバスの時から感じていたゆりの繊細さがこのギソロの新しい側面を見せてくれる。一音一音確実に、丁寧に弾きながら荒々しくカッティングする場面もあって、なんだか今まですっとコンバスを弾いているゆりしか見てきてないのに、もう目の前のギタリストに僕は釘付けだった。そしてなんだろう、多分ミュートがめちゃくちゃ上手なんだと思う。
このグルーヴ感、たまらない。




