アツい音楽
「でもそれは必ず未来の自分の味方になるんだよ。それだけは、それだけは間違いないんだ…」
ワンコーラス歌い終わって、最後にジャーンと鳴らし、ストロークする腕をゆっくり止めた。
声も震えたし、弦もしっかり押えられてないところもあった。でも今できる最大限のことはできた。緊張した。怖かった。でも、でも頑張った。でも僕は頑張ったんだ。
ゆっくり目を開けるとそこには怖い顔のアツと涙を流している長谷川さんがいた。
アツ…いや陽翔の顔を見てビクッとする。まるで睨むかのように僕たちを見ていた。最後のギターとコンバスの余韻が聞こえなくなるとパチパチと拍手が鳴った。
「……どう、でした、か…」
唇が震えて、うまく話せなかった。さっきまで楽器が鳴っていたこの部屋が途端に静かになる。そのギャップに耐え切れず、軽くギターの弦を触る。
「……」
すごく長い無言が続く。聞こえるのは僕が弦を触るキュッキュッという音だけだ。そしてそれさえ気まずくなったその瞬間、長谷川さんが鼻をすすると同時に無言を切り裂いた。
「…本当に素敵な音楽だった。なんだろう、何かが足りないのにこの足りなさが心地いいような…。完璧な演奏じゃなかったことくらい分かる。でも楽譜通り演奏するだけなら学生の趣味のバンドで十分。あなたたち二人の音楽がもう既に出来上がってた。多分、あなたたちは何を歌っても、演奏してもあなたたちの歌にして見せる。…本当に素敵だった。最高の音楽だったよ。」
「…うん、俺もマジで同じこと思ったわ。ところどころミスしてたけどいい音楽だった。」
うれしい。うれしい、心の底からうれしい。僕の心の中がうれしいでいっぱいになって弾けてしまいそうだ。怖かったけど、緊張したけど、完璧には演奏できなかったけど、でも、あの瞬間僕たちはいい音楽を届けられたんだ。
「えそれにしては陽翔、めちゃくちゃ怖い顔してたくね?」
「は?してねえよ」
「あ~!あれはアツの癖なのよ。多分集中するとあのこわーい顔になっちゃうんだと思う」
「え?マジで?俺そんな顔してた?」
とまさかの陽翔の怖い顔は集中したときにでる癖だったことが判明。無言で気まずかったこの真っ白の部屋は僕たちの笑い声でカラフルに色づいていった。
「俺さ、音楽大好きなんだよな。音楽のアツい感じ?なんか、こうグワッて、こう、胸に来る感じ?これって本当、音楽にしかできねえことだと思うんだよな。そりゃ、ドラマとかも感動するけど、音楽は、もっと、浅くて、深い。そんな音楽が俺は大好きなんだ。」
陽翔は持ってきていたカバンの中からスティックを取り出す。とてもやさしい目をしていた。
「バンドって、そんな単純で複雑なものがいくつも組み合わさる。簡単に見えて、すごく複雑なのがバンド。カッコいいけど、そのカッコよさの裏にあるエグイ努力。その努力をこなしたもんだけが奏でられる単純さとカッコよさ。俺はそんな音楽をやりたいんだ。そんなアツい音楽をやりたい。」
「うん」
「俺、前バンド組んでた時のこともあって正直もうバンド組みたくないと思ってた。俺が理想とするアツいバンドなんか存在しないんだって思ってたから。」
「うん」
「…でも、ここにあった。」
「……」
「お前らとならアツいバンド組めそうな気がする。それくらいアツい想いが伝わってきた」
「「うん」」
僕は徐にアコギを床に置き、立ち上がって二人の方へ向いた。
「もう一度言います。…僕たちとバンド組みませんか?」




