苦いうまさ
風呂場から出てきて髪を乾かさずに廊下を濡らしながらリビングに向かう。冷蔵庫からアレを取り出す。
プシュッ
「いい音、だな」
水分を欲している体に存分にコイツを注ぐ。ゴクゴクと喉から美味しそうな音を鳴らす割には苦いこの飲み物にイライラする。
「なんだよこの飲み物」
小さいころはピーマンがとにかく苦手だった。あんな苦い食べ物、何を美味しそうに食べているんだと思っていた。給食にピーマンやピーマンの苦み上位互換であるゴーヤが出てきた時に僕を含めた多くの生徒が嫌がって残している中で自慢げに食ってるやつにもイライラしていたっけ。
本当に苦いくせに我慢しやがってって。
高校になったごろくらいから『ピーマンはあの苦さが美味しい』『ブラックしか飲めない』とかふざけた奴らが増えて、何を言ってんだと思っていたあの頃を思い出す。
あんなに馬鹿にしていたくせについに僕もあの苦みの美味さに気づいてしまった。大学に入ったころに母が作り置きしてくれてたピーマンの肉詰めがうますぎて、アイツらが言っていた苦みの美味さをようやく理解した。
でも正直コノ苦みは慣れないな。シンプルに美味くない。こんな飲み物が定番化していることへの異常さをもっと感じるべきだ…なんて、ピーマンが嫌いだった時も同じことをいっていたからコイツを好きになった時のためにこれ以上言うのはやめておこう。
ドバン…
「ふぅぅぅぅぅー…ベッドぉぉぉぉ……痛って」
ベッドに飛び込むとせっかく慎重にパジャマを着たのに勢いで右腕の瘡蓋が少し剥けてしまった。絆創膏は苦手だから怪我をしても意地でも貼らない。
寝る前に最近に日課であるショート動画を見る。見始めると30分など一瞬にして過ぎ去る恐怖といつまでも見たい中毒性にはやられる。
動画を見ているととても仲がよさそうな夫婦の朝のルーティンの動画が流れてきた。非婚化、晩婚化の社会だから別に焦ってはいないけど、いつまでこんな一人の生活するんだろうとはよく考える。
そう思うのも多分2か月前に別れた彼女と半同棲していたからだろう。家に帰ると誰かがいるあの感覚を小学生のころから味わっていない僕からすればもう堪らなかった。本当に家に帰るたびに幸せだと感じていた。…なんて終わった恋愛を振り返ると虚しい。
ただゆりたちに叫んだ時にも口を滑らせてしまったけど結婚に関しては最近良く考える。同級生が結婚した噂が最近よく周ってくるからだ。
まあ僕は多分結婚なんてできないんだろけど。




