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OneLoser(ワンルーザー)  作者: kíséri/キセリ
The second series:「はじまりのうた」
20/45

緊張と興奮

「お…おじゃまします…うっわ懐かし!!」



 久しぶりのゆりの実家は何にも変わっていなくて、とにかく豪華できれいなままだった。だってそもそも家に防音室があるなんてやばすぎるでしょ。

 僕たちはそのまま防音室に直行した。防音室も変わらず真っ白で、中にある唯一の茶色は少し埃をかぶっていて一人さみしそうにしていた。



「まじで就職してから触ってないからまずメンテナンスからかもなコレ」


 そういいながらまるでわが子に触れるかのようにコンバスの埃を優しく払う。僕は定期的にメンテナンスはしていなくても多少弦を交換するくらいはやっていたからある程度問題なさそうだった。



 ゆりがメンテナンスをしている姿を久しぶりに見てとても懐かしい気持ちになった。


 ゆりと出会ったのは大学生のころでそんなころから僕と仲良くしてくれていて、今や一緒に夢を追いかけてくれている。ゆりがいなければ僕の人生がリスタートすることは絶対になかった。


 だからこそ、僕がこんなこと思うのも変なんだけど、やっぱりゆりには幸せであってほしい。こんな優しいゆりだから、コンバスの弦交換がレべチで早くできてなるべく指を傷めななかったらいいな。そう願いながらゆっくり右手の親指を中にして握る。



「…じゃあそろそろ撮る?」


 まさかの願った通り弦交換が過去最速で出来たらしく、早速お互い練習に入っていった。僕は極たまに弾いていた程度だったから指先が少し痛い。この感覚が懐かしくて痛気持ちよかった。それはゆりも同じっぽい。



 ゆりは自分のスマホを行きしなにかったスマホスタンドに装着した。なんだかこの真っ白い部屋が相まって本当の撮影部屋みたいで少し緊張してる。

 こういうことをするのは初めてだからマイクとか要らないのかとゆりに聞くと「DO IS BETTER THAN PARFECTだよ」というぐうの音もでない返事が返ってきた。



 ゆりがピコンと動画撮影を開始する。


「え、これもう始まってるの?」



 途端に心臓がビクンとうねる。ゆりの前だし、いつもなら緊張しないのに…。

 なんだろうこの感覚。僕とゆり以外の誰かに見られているような感覚。このカメラの黒い部分が僕をじっと見ているような気がして、それが人間のあの目みたいで少し怖い。





 何か異変を感じたのかゆりはコンバスから離れて僕の目の前に座った。


「律は今何をどう感じてる?」


「…え?」


「律はいつも我慢して頑張るから。今なんか嫌だなとか億劫だなとか思うことがあるなら全部俺に言ってほしい。」




「…いや、なんか…単に緊張するなあって。カメラがあって、まるで誰かに見られてるような感覚で、こわいなあって思うとさらに緊張してちゃって…ははは…」





 僕がそう話すとゆりはゆっくりと僕の右手をつかみ、ゆりの胸のあたりに押し当てた。



「…聞こえる?…いやマジで緊張してるわ俺も!!…ップ、アハハ!こんな撮影みたいなのもちろん初めてだし、このむずがゆい感じ?」



 ゆりの心臓は僕以上の速さで脈打っていた。でも彼の表情は明るくて本当に心の底から笑うもんだから僕もつられて笑ってしまった。

 そんな僕を見たゆりは立ち上がって左右に揺れながらコンバスの方に向かっていく。




「でもさ、俺なんかで聞いたことあるんだけど、緊張してる時と興奮、高揚してるときの体の状態ってめちゃくちゃ似てるらしいよ?多分俺ら今めちゃくちゃ興奮してるんだよ。だってこんなの今まで憧れてきたことの第一歩だし、Hirumaみたいでかっこよくね!?ほら!これは緊張じゃなくて興奮だから!!ほらこの興奮の中で一発歌おうよ!別に何回でも撮りなおせるし!」



 このゆりのごり押しに笑いが止まらなくなった。めちゃくちゃごり押しじゃん!

 まあでもうだうだ考えてたって仕方ないし、僕はうだうだ考えて行動できないタイプだけどゆりはうだうだ考えずに行動するタイプだからそういう人に引っ張ってもらうことも大事だよな。流れに逆らうことは苦手だけど、流れに身を任すのは今までも大得意だったし。



 ゆりの言う通り、僕は今興奮しているという風に考えることにする。僕は興奮していて、それはこんな今までにない経験をしようとしているからだ。緊張ではなく興奮。僕は頼もしい相棒とギターと共に、今とってもワクワクしている。


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