第三話 襲撃
聖女様により放たれ、俺を捕縛せんと向かってくる鎖。薄く輝くそれは、それが神罰である何よりの証拠である。
「ああチクショー!」
「なッ!?」
襲い掛かる鎖をギリギリまで引き付け、触れる直前で真横に跳ぶ。聖女様の驚愕の声が聞こえる。
が、流石は聖女様の神罰である。空ぶったそれらは慣性を無視し、再び俺へと向かってきた。
再び、横に避ける。
『捕縛』の欠点は応用が利かないところにある。動きが単純なのだ。直線的な動きしかできないうえに、回り込みというものを知らない。
「ッ! ならば!」
だがそれゆえに、一度に大量の召喚が可能なのだ。
聖女様もそのことはわかっているのだろう。すぐに膨大な数の鎖が現れた。
こうなると、さっきのような避け方は困難を極める。
そんなことをかんがえるうちに、全方位から鎖が迫っていた。
「クソッ!」
もう後がない。まさか保護対象に襲われるとはな。
だがまあ、しばらくおとなしくしてもらうとしよう。
「『神罰執行・送還』」
俺が言葉を紡いだその瞬間、それまで一心不乱に俺を追いかけていた鎖はその場に固まった。そして、そのまま輝きを失い、ボロボロと崩れ去っていった。
「え? な、なにが、は?」
聖女様の口から漏れる同様の声。目の前の事態が理解できないようだ。
「なにを、したのです」
しばし呆然とした後、聖女様が怯えたように問う。
「私は教会所属エクソシスト・No.013。『窓際の枢機卿』の命により、教皇に与する者から保護しに参りました」
聖女の問いには答えず、ただ用件を述べる。
「それは真ですか?」
「はい」
「神に誓って?」
聖女様は相変わらず怯えながら聞いてくる。
ふむ、審判でもする気か?
「もちろん、神に誓って」
答えた瞬間、聖女様の目の奥が光った。
「『神罰代行・審判』を行います」
やはりか、動揺するふりをして、ずっとこれを狙っていたのだろう。
発言の真偽を区別し、偽であった場合に『鉄槌』を下す神罰が『審判』である。
まさに、今の状況にぴったりといえる、そんな神罰だ。
無論、本当のことしか言っていないので、おれにとっても好都合である。
「……真、でした」
申し訳なさそうに、聖女様が言った。
「まあ、気にするな」
明らかにシュンとする聖女様に、そう声をかけた。
「信用はしていただけますか?」
「は、はい。もちろんッ!」
聖女様の言動は一つ一つに最大限の感情が詰まっているようで、何か面白い。
今の慌てっぷりにしてもそうだ。誤解で攻撃した事への罪悪感からだろうか、明らかに委縮している。
それはそうと、まずいな。今の戦闘で音を立てすぎた。
このままでは俺が襲撃犯に仕立て上げられる可能性が高い。
「聖女様、では身支度を」
「もう済ませてあります。元々、一人でする予定でしたから」
今日、初めて話したが、流石は聖女様である。
己の感情への区切りの付け方、自らの危機を察する洞察力、そして一人でも行動しようとする勇気。
自立した考えと残る未熟さ、これらが聖女様が聖女様として崇められる理由か。
「では、すぐに出ましょう。どこか当ては?」
「あ、はい、東へ。懇意にしてもらっている伯爵家の領地があります」
「じゃあ、いきましょう」
東の伯爵家といえば、カンパヌラ伯爵領だろうか。あそこは美しい景色で有名だったか。
まあいい、追ってが来る前に逃げなくては。
「待ってもらおうか、No.013」
ドアのほうを振り返ろうとしたその時だった。
ゆがんだ男の声。
間違いない。十字架教の枢機卿が一人。
「『神罰執行・神威』ッ!!」
振り向きざま、手をかざし、神罰を放つ。
神の怒りを体現した光の線は俺の掌より伸び、奴に向かう。
が。
「『神罰執行・送還』」
神の怒りは奴に届くことなく、消え去る。
あれは俺と同じ……!?
「ひどいじゃないかNo.013。いきなり攻撃するなんてなァ」
「……」
にやつきながら歩みを進める男。
隙を見せないよう、聖女様をかばいつつ、距離をとる。
「……何しに来た、『統治』」
声を静めながら聞く。
「くだらないことを聞くなよ? 貴様ならわかっているはず。なァ?」
返ってきたのは嘲笑。
「そういうことでいいんだな」
「クドいぞ、No.013!」
厄介なことになりやがった……!




