第二話 聖女
大聖堂の廊下、ここもまた、枢機卿の部屋と変わらず、むしろ先ほどより豪華に装飾されている。
先ほどは堂々とふるまってはいたものの、こういうところをみると、さすが教会のあぶれ者。まさか廊下より貧相な部屋とは。
今度来たらこれでいじってやろう。
さて、急務は聖女の確保である。
あの後なんやかんやで枢機卿直筆の許可状ももらってきた。俺が聖女を連れ出すのは合法なのである。
ちなみに俺は聖女を遠目でしか見たことがない。つまり、当たり前だが話したこともない。おそらく相手は俺のことを知らないだろう。
知りもしない男が突然、枢機卿直筆の許可状を引っ提げて聖女を連れ去る。……事案かな? 事案だな。
なるべくフレンドリーさを心がけよう。
そんなこんなで聖女の公務室の前まで来た。
……大丈夫か? 今更だが不安である。一応エクソシストの正装は身に着けているし、怪しまれはしないと思うが、やはり不安である。
しかしながら今更である。もうすでに部屋の前まできてしまった。観念しろ俺!
意を決して扉をノックする。
「もし、聖女様はいらっしゃいますか?」
第一関門クリア。優しい声も意識して出した。百点といっていいのでは?
しかし声が返ってこない。もしや留守だっただろうか。……いや、既に刺客が訪れている可能性もあるか?
「聖女様? いらっしゃいませんか?」
もう一度、声をかけてみるも、返事がない。
万が一があってはことだ。
「入らせていただきますね」
ノブに手をかけたその時、
「……どなたですか」
かわいらしい女性の声がした。しかし、声にトゲが混じっているようにも感じる。
それはそうと、名乗りを忘れていた。警戒されて当然である。
「十字架教所属エクソシストNo.013です。枢機卿の命により、お迎えにあがりました」
「枢機卿? ……お入りください」
厳密にいえば、枢機卿一名の独断なので枢機卿令とは言えないが、まあいいだろう。入室許可も出たことだし。
扉を開けて中に入る。中には、廊下の絢爛さとは違い、落ち着いた風合いのザ・執務室が広がっていた。
「何の御用でしょうか」
聖女の正装を身に着けた聖女様が、高そうな椅子に腰かけながら、警戒した風に聞く。
それに対し、俺は一歩踏み出しながら、問いに答えようと……。
「動かないでッ!」
歩みを止める。にこやかに浮かべていた笑顔も消した。
「何故、でしょう」
「それ以上近づけば神罰を代行します」
聖女様は俺の疑問に答えることなく、一方的な警告を発した。
聖女様の言う神罰。それは、十字架教の中でも紙に認められた者のみが使用できる反逆者への裁き、神の怒りの代行。
「落ち着いてください、聖女様。あなたは何か勘違いをしている」
平静を失わぬよう、なるべく穏やかに告げる。
「……あくまで白を切るつもりですか。こちらはわかっていますよ。あなた、教皇の手先ですね?」
聖女様も我々と同じ結論に至り、警戒を深めていたようだ。
首にかけた十字架のシンボルを握り、こちらを睨んでいる。
その一方で、逃走経路の確保も行っていたのだろう、本棚に不自然に移動された形跡がある。あれは大聖堂の秘密経路の入り口か?
「我々もそれを危惧しています。ですので、『窓際の枢機卿』の独断で保護に参りました」
正直に告げ、説得を試みる。
「『窓際の枢機卿』? くだらない嘘はやめてください。彼が、あの怠け者が動くわけがないでしょう」
おいいいいぃぃぃ!! ふざけるなよあいつ!! くそみたいな理由で信用を得られなかったぞ!?
「はあ、もういいです。消えてください」
想定外の事態に狼狽える俺を見て、聖女様は確信したようだ。握りしめたシンボルをこちらにかざす。
……真面目に勤務してるんじゃなかったのかよ。
「『神罰代行・捕縛』!!」
「え、ちょっ、まっ」
聖女様が叫んだ瞬間、床から無数に飛び出す聖なる鎖。それらは一目散に俺へと向かってきた。




