第一話 依頼
「戦争が始まる」
重厚かつ豪華な装飾が施された部屋。十字架教が誇る大聖堂の一室で、これまた豪華な椅子に座った枢機卿が言った。
「戦争?」
「そうだ」
思わず怪訝な顔をして問えば、帰ってきたのは即答。
「どことやるつもりだ」
つい語気が強くなる。すると、目の前の男は口角をこれでもかと上げた。
「『つもり』? ハハハ……。甘いな、甘い。もう始まっているよ、とっくにな」
神経を逆撫でするような声音。苛立ちが募る。
「どことだ」
「自由貿易都市連合さ」
「は?」
理解できない。
自由貿易都市連合といえば、直近で入信した国の中でも最も国力の優れた国のはずだ。親密にする理由こそあれど、戦う意味など……。
「先日の神託は覚えているか」
枢機卿はそう尋ねた。
十字架教がここまで発展できている理由の一つ、神託。
「先月、聖女が受けた奴か」
「そうだ」
神託は十字架教の限られた者のみが神から授けられるメッセージ。
現在、公になっている限りでは聖女しか存命ではない。
「あれによると、魔神の復活が近いそうだ」
「それがどうした。まさか自由貿易都市連合がそうさせていると?」
半笑いで尋ねる。馬鹿馬鹿しい話だが、最近の教会にはそういう陰謀論的な考えが蔓延している。
「そのまさかさ」
「なに?」
どうした事か、ついに上層部もトチ狂ったか。
思わず天を仰ぐ。きらびやかな天井があるだけだった。
「今朝な、新たに神託が下った」
「聖女か」
「教皇だ」
半ば当たり前のことを聞いたつもりが、返ってきた言葉で驚かされる。
「あいつもな、目覚めたらしい。信心深いこった」
枢機卿的にはそれがツボらしい。笑いを堪える声が妙にうざい。
さっさと続きを話せと目で促す。
「でだ、でだな、内容が問題だ。何だったと思う? なんとな、『魔神の依り代』が自由貿易都市連合に保護されているらしい。びっくりだろう?」
答えを待つ気のない問いを挟みつつ、ようやく中身を話した。
「で、なぜ俺を呼んだ」
俺の問いに枢機卿は薄く笑う。
「私はな、今回のは何かあると思うんだ」
「だろうな」
今の今まで神託なんぞ聞いたことのない教皇が、なぜ今回いきなり受けたのか。
「おかしなことばかりだ。これを聞いたとき、他の枢機卿は疑いもせず、教皇を信じた。しかも、今回、『魔神の依り代』には捕獲命令が出ている」
枢機卿はそこまで言って、一息ついた。そして続ける。
「おそらく教皇は魔神の手下だ。ほかの枢機卿も同じか、操られているか……」
「なるほどな」
ようやくわかった。どうやら十字架教は本当にダメらしい。
「そこで君の出番だ、No.013。エクソシスト最強と名高い君に頼みがある」
No.013、それが俺の名前だ。
「四つ……かな。まずは『魔神の依り代』の始末。次に聖女の保護。私の考えが正しければ、彼女が危うい。そして、教会の是正だ」
そこまで言って枢機卿は口を閉ざした。険しい顔をしている。どうせ、厳しい難題だとでも思っているのだろう。
だが。
「どうした。四つ目を言え」
「ん? ……三つだったようだ」
三つのタスクをこなす程度、余裕だ。あまり舐めないでもらいたい。
「そうか、三つだったか。なら貴様なら余裕だな?」
枢機卿にもそれがわかっているようだ。
「だが回復役は欲しいな」
「そうか?」
意外そうな顔をする枢機卿に当たり前のように聞く。
「聖女は連れまわしても構わんな?」
枢機卿は一瞬ポカンとし、そして笑った。
「構わん。だが、余計はするなよ?」
「当たり前さ」
枢機卿の言う『余計』、何のことかわからぬ程、子供ではない。
軽く言い放って、身を翻し、ドアへ向かった。
さあ、忙しくなるぞ。
「ああ、ちょっと待て」
「なんだ。今いい感じに出ていくところだぞ」
「四つ目、いいか?」
「……なんだ」
「次までに機嫌、直しといてくれ」
「不可能だな」
「そういわずにな? プリンの件は謝るから」
「死ね」




