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「あら。助かるわ」

 彼女は、笑顔で答えた。本当に26歳なのだろうか。僕よりちょっと年上くらいのおねいさんにしか見えないくらい若い。ひょっとしたら、僕がしらないだけで、26歳という年齢は結構若い年齢なのかもしれない。

 ユキさんは、近くにいたティムを手で手繰り寄せそのまま抱きかかえた。ティムは嫌がることなく綺麗に彼女の腕の中にすっぽりと収まった。

「ところで、カク。あなたは武器とか持っているの?」

「え?」

 平和そうな日常をぶち壊しにするようなことを彼女は、聞いてきた。彼女は、平然そうにティムの頭を撫でたりアゴの下を撫でたりしている。

「いや、もってないですけど」

 僕は、真顔で正直に答えた。

「図書館までの道のりは、危険だって言ったでしょ?ちょっと危ない区域を通らないといけないの。何か武器になるようなものがあると大変助かるんだけども……」

 僕は、身体中のポケットを改めて調べてみた。すると、制服の上着の内ポケットに細長い物体があることに僕は気がついた。そういえば、こんなものを最初のコンビニで貰ってきたものがあったかと思う。(正確には、お金を置いてはきたから買ってきたということにはなると思う)

「こういうものならありますが」

 僕は、内ポケットからその物体を取り出して、彼女に見せた。彼女は、その物体を始めてみたらしくなんだか不思議そうな顔をしていた。

「あれ、カッターって知らないんですか」

「知らないわねぇ」

 彼女は、依然として不思議そうな顔をしている。カッターを右手と左手で持ち替えてみたり、ひっくりかえしてみたり、天井に掲げてみたり。ありとあらゆる手段を講じて彼女はカッターを理解しようとしていた。

「これで、何ができるの?」

「紙とか切れます。人には向けないようにって先生とか親から教えられてます」

「なるほど」

 彼女は、何か考え事をしはじめた。ぶつぶつと独り言をしはじめた。

 しばらく考え事が続いていたが、何かを思いついたのか彼女はポンと手を叩いて、床にカッターを置いた。

「ちょっとだけ、離れていてくれるかしら」

「はい」

 僕は、言われるがままに床から立ち上がり、ベランダの方まで離れた。

「いや、そんなに離れなくて大丈夫だから」

「あ、そうですか」

 僕は、ベランダから部屋に戻り、座った。彼女は、ぶつぶつと何か言い始め、ポケットからチョークのようなものを取り出し、カッターを囲んで何かを書き始めた。。そして、「フェイッ」っと言葉を発すると、床においてあったカッターが木刀くらいのサイズになった。僕は驚きのあまりしばらく口が開いたままだったことだろう。この人を元の世界に連れ帰ってテレビショーに出させたら、その若さと美貌も相まって一躍スターダムを駆け上がることだろう。

「はい」

「いや、はいって渡されても」

 僕は、しぶしぶ彼女から渡されて大きめなカッターを受け取った。カッターの何十倍もの重さにはなったと思うが決して重いと感じるようなものではなかった。それに、刃先は大きくなったせいかまったく切れそうには無くなっていた。

「何か、敵が来たらそれで叩いて撃退できるわ」

「いや、カッターって元々切る道具ですよ。だったら、切れた方が敵も撃退しやすいんじゃないですか」

 彼女は、口を開いて「たしかに!」と天然っぷりを発揮した。僕は、呆れてものも言えなかった。僕のカッターの説明はなんだったんだろう。彼女は「まぁ、なんとかなるわよ」と引きつった顔で僕に言ったのだった。


 

 彼女は支度をしてくると言って、洗面台のほうに向かっていった。

 僕は、カッターを改めて眺めていた。右手から左手に持ち替えてみたり、ひっくり反してみたり、天井に掲げてみたり。これじゃあ、大きい枝と大差ないじゃないか……と僕は不安に感じているのだった。

「おい、カク」

 ティムが僕に話しかけてきた。彼は、リョータローと話しかけてきてくれていたのに、あだ名が変わったせいか、カクになっていた。まぁ、どうでも良いことではあるが。

「ユキの癖なんだ。気にするな」

 どうやら彼は僕を慰めているらしい。

「おや。慰めてくれるのかい」

「まぁな」

「ありがとう」

 僕も支度をしなければならないと思った。

 髪の毛もワックスがついたりして生乾きだったし、なんだか体も臭かった。手につけていた軍手もボロボロだった。

「なぁ、ティム。体とかって洗えるの?なんかこの世界に来てから満足に体とか洗えてなくて」

「あるぞ。この家は、一応お湯が出る。頭くらいは洗えるんじゃないか。勝手に使って良いぞ」

「ありがとう、助かるよ」

 僕は、体が洗えると思ったら嬉しくてしょうがなかった。早速、お風呂場の方に向かっていった。

 お風呂場の前に立って、僕はドアを開けた。

「きゃぁあああ」

 目の前に、紺色の下着姿の女性が顔を赤らめて立っていらっしゃった。

 僕はまったくしらなかった。お風呂場に行くためには洗面台の前を通過しないと入れないことを。そして、彼女がまさかお風呂に入っているとは。

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