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 彼女は、手に持っていた布のトートバックを部屋の入り口近くに置いて部屋に入ってきた。

「あなたは、誰?」

 可愛らしい声であった。僕はおもわずドキッとした。

「えっと……隠咲良太郎です」

 僕は彼女の質問に真面目に答えた。

「名前もそうなんだけど……どっから来たの?旅館区域から来た人?それとも図書館区域?」

 彼女は僕の知らない場所の名称を上げた。そもそもここが、何区域なのかもわからない。僕は、どこから来たか説明しようとすると、ティムが彼女に僕のことを話しはじめた。その話を「ふんふん」と相槌を打ちながら聞いていた。

「あなた、この世界の人じゃないんだ」

「ええ、まぁ」

 僕は頭を右手でぽりぽりと頭を書いた。

「おもしろいわね。その話が作り話ならあなたは小説家になれるわ。うん。あと、ティムの話が一部聞き取れなかったから、ちょっとお話しをしましょうか。ホットミルクとコーヒーはどっちがお好みかしら」

 彼女は、そういうと台所の方へと歩いて行った。

「えっと、コーヒーで。できれば、ホットミルクを入れていただけると助かります」

「カフェオレね。了解です」

 手をちょろっと降って、彼女はやかんを台所の下の用具入れから取り出して、コンロの上に置いてコンロのスイッチを回した。

 その光景を見た僕は「ああ、ここはガスも通っているのだな」と思った。どうやら、このあたりは本格的にこの世界の居住区であるようだ。

 しばらくすると、彼女が両手に真っ白のマグカップを持って僕のところへとやってきた。そして、僕のとなりに座り、マグカップを床に丁寧に置いた。

「直置きでごめんね。私、机とかつかわないんだ」

「はぁ」

 僕は、床に置かれたマグカップを手に取って「いただきます」と言い口元へと持っていった。

「熱っ」


 彼女は、マグカップの中に入っているコーヒーの暖かさを確かめるように両手でマグカップを持っていた。しばらく、何を話して良いのかわからず二人の間にしばし沈黙が続いた。そして、彼女はその沈黙を破るように口を開き始めた。

「ティムの言葉はね、30歳を過ぎると聞き取りにくくなるのよ」

 彼女は、笑って僕に言った。

「ということは、30歳なんですか」

「ううん。まだ。今26歳かな。うん」

 僕は、驚いた。もし驚いた内面が顔から現れていてしまっていたらとても恥ずかしいし、失礼な話だ。できれば、表情に表れていないことを祈るばかりだった。

「そういえば、まだ名前を聞いていなかったですね」

 僕は、いつも肝心なことを忘れているような気がしていた。

「わたしは、ユキ。ユキです」

「ユキさん。よろしくです」

「じゃあ、カクシザキリョウタロウってすごい長いから、君は今この瞬間からカクで良い?」

 彼女は、なかなかの天然なのかもしれない。普通、あだ名を考えるとするならば、良太郎の部分から取ってリョウとかにするものだと思うが、そこをあえて名字から取ってきた。なかなかのやり手である。

「まぁ、いいですよ。なんでも。確かに名前長いですからね」

「カク。宜しくね」

 その後、彼女が僕の年齢を聞いてきたので、年齢を言うと「若いなー!」と両手でほっぺを抑えてびっくりした表情をした。女性が男性の年齢を聞いて驚いたとしても文句を言われないのは、どの世界でも同じなのかもしれない。彼女は、「ごめんごめん」と僕に言った。「でも、君の顔は結構老け顔だから、てっきり20代かと思ってたよ」とフォローになっているのかなっていないのかよくわからないことを言っている。天然ココに極まる。

「そういえば、この場所ってなんて言う場所なんですか。さっき言ってたじゃないですか。旅館区域とか図書館区域とか」

「ああ。その話ね。ここは団地区域。人が大勢住んでいる場所。まぁ、大勢とは言ったものの、この世界に人間の数が絶対数として少ないから、実際のところスッカスカなんだけどね」

 彼女は、はははと笑いながら、頭を掻いていた。

「他の区域名もその名の通り。旅館がいっぱいあるから旅館区域。図書館がいっぱいあるから図書区域」

「なるほど」

「あ、そういえばティムから聞いたんだけど、なんかお仕事を少しくらい引き受けてくれるのかしら」

「そういうことになっています」

 僕が仕事に対する熱意を表明すると「それは、助かるわっ」と言いながら立ち上がり、さきほど入り口の近くに置いたトートバックから藁半紙を一枚取り出し僕に渡してくれた。

「この紙を届けに行って欲しいの。というか私も行くのだけれど、どうしても一人だと危なくて」

「はぁ」

「それに、ちょうど良いわ。届けるのは隣の図書館区域のおばちゃまのところよ。さっき話に出てた図書館区域も見れるから丁度いいんじゃないかしら。ふふふ」

 彼女の目は、光り輝いている。まぁ、僕に断る理由なんてもちろんないわけなので、僕は首を縦に振った。

「わかりました。行きましょうか」

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