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「この、変態!」
彼女は、僕を洗面所から追い出して、勢い良くドアを閉めた。
「やれやれ」
僕は、ため息をついて部屋に戻ろうとしたが、洗面所の中でドカドカと音がなり、再び勢いよくドアが開いた。
「今度からは気をつけるように」
彼女は、鬼の形相で洗面所から現れて僕の横を通って部屋に戻っていった。あっけにとられた僕は数秒間その場に立ち尽くしたが、今度はお風呂から上がるのが遅ければ怒られてしまうということが頭をよぎった。僕は、すぐにお風呂に入らないといけないという焦燥感に駆られたのだった。
「ねぇ、ティム」
ティムは、後ろ足で頭を掻いている。
「わたしの体って汚くないよね?最近、歳をとったせいか、ちょっと各所にたるみとか出ちゃって」
ティムは、逆の後ろ足で頭を搔き始めた。ユキは、お腹のあたりをさすったり、胸をさわったりしている。
「はぁ、カクはどう思ったんだろう。いやだなぁ、おばさんとかって思われてたら」
ティムは、ベランダの方に歩いて行った。ユキは、部屋のすみっこに座って、カクがお風呂から出るのを待つことにしたのであった。
僕は、来ている服を全て脱いだ。インナーが良い感じの臭いを発していてさすがにもう一度着たくはなかった。僕は、替えの服など持っていないから、もう一度これを着なければならない。少しだけ落ち込んでいたのだが、洗面台の近くに着替えられそうな服が置いてあることに僕は気がついた。
丁寧に折りたたまれており、濃い緑色の上下の服だった。しかも、どこからか取り出したような感じで置いてあったので、もしかしたら彼女が僕のためにわざわざ取り出しておいてくれたのかもしれない。お風呂から出たら真っ先に、謝らなければならないだろう。
僕は、お風呂から出て、タオルで体を拭き、置いてあった濃い緑色の上下のスウェット(でよいのだと思う)を着た。
「あら、もう出たの」
ユキが早いのねと言いたそうな顔で部屋の隅っこに座っていた。
「ええ。男のお風呂は早いんですよ」
「ふーん」
ユキは、ベランダにいるティムを眺めた。ティムは、暖かい日の下でうたた寝をしているようだ。
「さっきは、すいませんでした。しかもなんかこんなスウェットまでお借りしてしまって」
「いいのよ別に。まぁ、二回目もやったら怒るけどね。ラッキースケベくん。」
彼女は一瞬、鬼の形相に変わった。そして、すぐに笑顔に戻った。
「はい」
僕は、深々とお辞儀をして先ほどの無礼を詫びた。
彼女は、部屋の隅からたちあがり、1、2回伸びをした後に、部屋の入り口に置いてあったトートバックを持った。
「では、行きましょう」
先を行く彼女を僕は、追っていった。
玄関から外に出ると、改めてこの団地の大きさを体感した。
行くときはティムに先導されていき、随所にある現代的な装置(電気など)に感動していたから団地全体は見渡せなかったけれど、今はその見渡す余裕があった。僕は思う存分あたりを見回した。
四角い建物で、真ん中は吹き抜け。しっかりした作りではあるが、随所に塗装の剥げとサビが目立つ拭き抜き周りに設置されている柵。昔は大層綺麗で、人気の物件だったんだろうと思わせるような作りであった。
上がってきた階段をユキが降りていき、その後ろをティムがてくてくと降りていった。僕はやはりティムの先導についていくような形となった。特に文句などない。
「こっちよ」
団地のエントランスを出ると、ユキは僕が来た道とは反対の方向に向かって歩いた。
子供達が遊んでいない公園を通り抜け、田んぼ道に出た。田んぼには特段、作物は植えられていないようだ。茶色い土がむき出しの状態であった。
「この田んぼからは何が取れるの」
僕は聞いてみた。
「芋よ。芋くらいしか取れないわ。野菜とかは別の区域で作ってるの」
「へぇー」
彼女は、その後もスタスタと歩いていく。ティムもスタスタと歩いていく。僕もスタスタと歩いて行った。
スタスタ歩いた甲斐があったのか、田んぼ道の横に山道が現れた。山道の入り口から気持ち程度の石畳が敷かれているのが伺えた。
「こっち」
彼女は指差して山道の中に入っていった。
山道の中を入っていくとあたり一面、木々に埋め尽くされていた。でも、小鳥とかがいるような気配ななかった。いたって静かな森林という感じである。
山道は勾配がきついような感じはなく、ゆったりと登ったりくだったりしていた。ただただ黙々と歩いていくのもつまらないので、彼女と黒猫にこの世界についてもう少し聞こうかと思った。
「あの、ちょっとお話ししてもいいですか」
「いいわよ」
返事はするものの、僕の方は振り向かない。
「この世界というか、この国というかわかりませんけど、どんな形をしているんですか」




