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目の前にぽっかりと空いた穴の中に落ちていった一匹の猫。
僕は、その猫がいた場所を一瞬だけ眺めてはっとする。
「おい。助けにいかないのか」
タイチが、僕の肩を叩いて穴の方へ向かう。僕は、彼の後ろについていき、穴の前へとやってきた。そして、僕はあの中を両足を広げて覗き込んだ。
穴は深くない。
むしろ、深くない上に階段まで付いている。至れり尽くせりとはまさにこのこと。
そこは、落とし穴ではなく地下室への入り口であった。
「つまり、なにかのはずみで地下室への入り口が開いたってこと?」
誰かに問うというよりも自分に問いかけるようにユキはいった。そしてユキは顎に手をあて、探偵のごとく考え始めた。しかし、名探偵ユキの推理が炸裂する可能性は高くはないだろう。彼女にそんな高い洞察力があるとは思えなかったからだ。
彼女は、僕が立っていた位置にすたすたと歩いていく。棚の中の食器を見たり、まわりに散らばっている食器類を手に取ったりしていた。
しばらくすると、ティムは地下室の入り口から戻ってきた。少しだけほこりが体についていたが、目立った外傷はなさそうだった。
「いやぁ、ひどい目にあったよ」
彼は、ひどく疲れたような声で言った。
「まさか、地下室があったとはね」
「それで、あんたは奥深くまで行ったのかい?」
タイチは腕を組みながらティムに質問をする。
「行ってみた。なんだか、明かりが灯っていた気がするんだが」
「本当?」
ティムの話を聞く分には、中はそこまで広くなく、ドアのようなものがいく手を塞いでおり、ティムでそれ以上先へ進めなかったようだ。
そして、ドアの隙間からオレンジ色の光が漏れていたという。
僕は、その話を聞いた時に昔読んだ漫画のことを思い出した。薄暗い地下室で、極秘裏の研究を一人の科学者が黙々とやっている姿を描いた一枚絵の扉絵がかっこよくて、地下室に憧れを抱いていた幼き日。
「ティム、行こう」
僕の中の小さな小さな少年が、そっと前に出てきた瞬間であった。
「その先に何かがあるかもしれない」
僕らは、ゆっくりとその地下室への階段を下っていった。
途中、ユキは「前が見えない、前が見えない」とボソボソといって僕の手を握っていた。これが世間で言われる「吊り橋効果」というやつだろうか。少しだけ、地下室を作ってくれた人間に感謝をした。
感謝をした思いが通じてしまったのか、現場の状況は少し悪化してしまった。急に、入ってきた入り口がしまったのである。地下室へは暗かったものの、後ろを振り返れば見えていた小さな点のような光が見えていた。
それが、急になくなったのだから、僕らは動揺を隠せなかった。
しかし、一行はそんな些細なことは気にせず、そのまま前へと進んだ。そして、ティムの言っていた場所にたどり着いた。
目の前に大きな木でできた扉がある。周りを鉄で補強しており、良いアクセントになったおしゃれな扉である。
真っ暗闇の中で、扉の模様がわかるというのも、少しだけ明かりが扉の周りに灯っていたからだ。
「ティム、明るいじゃないか」
タイチは、ティムに向かって言う。
「おかしいなぁ。さっき見た時は、扉から光が漏れていたんだが……」
ティムは、扉を確認するために近づいていき扉の細部を調べた。いたって変わった点は見当たらないといった様子であった。
「とりあえず、入ってみるか」
タイチが、開けようとした時、少しだけ違和感を感じた。扉がまったく動く気配がなかったのである。
タイチは、何度も何度も押したり引いたりするも動かなかった。
「まさか……」
僕は、タイチを押しのけ扉のドアノブを握った。
そして、ドアの周りを手で触って確かめる。ドアは、残念ながら本物ではなかった。おそらく、扉は壁にハマっているだけであり、この奥に何かがあるわけではなさそうだった。
「この扉はフェイクだよティム」
「そんなまさか……」
僕は、嫌な予感がしたため、踵を返し、急いで入り口の方に走って戻った。暗闇の中、階段を踏み外さぬよう慎重にということもなく、ドカドカと登っていった。
嫌な予感は数秒後には的中した。扉は鍵がかかっているのか、上に重いものを載せられているのか、ビクともしなかった。まるで、この入り口も偽物であったかのような感じだった。
しばらくして後ろから、他の仲間たちも来た。
「どうしたカク」
タイチは僕に向かって言う。
「扉が完全に閉まってる。ビクともしない。どうやら、誰かに閉じ込められたようだ」
「なんだと……」
タイチが、僕を押しのけ、再度確認した。しかし、扉はビクとも動かなかった。
「誰か!誰かいないのか!」
暗闇の中、タイチは大きな声で叫んだ。
意外なことにこの願いが通じたのか、扉の外から声が聞こえてきた。
「助けて欲しいのか?」
「助けて欲しいのか?」
声色からして、そう年齢は高くはなさそうな声。そして、二人いるようであった。




