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暗闇の向こうから声がする。これは、現実だろうか。いや、現実だ。
「誰かいるのか!?」
引き続き、タイチが大きな声で叫ぶ。
「君たちは、ぼくらの敵かい?」
「敵かい?」
声は、オウム返しのように二回連続で続いていく。本当に二人いるのかどうかすら怪しい。しかし、この暗闇の中ではそれを確認する術すらない。
「敵じゃない」
ティムが冷静な声で返事をする。
「証拠は?」
「証拠は?」
この暗闇の中で、提示することの難しい、難題を平然と彼らは僕らに投げかけてきた。僕は、証拠を提示しようにもできないじゃないかと心の中で思った。
「提示できるならばしたい。しかし、この中ではできない。だから、ここから出してくれ」
タイチも冷静になり、語った。
「無理だ」
「無理だ」
僕の後ろで、ユキが震えているのがわかった。僕の着ている服の裾を手で引っ張っていた。
「なんか、怖いわ……」
「大丈夫だよ」
ユキは、僕に体を寄せた。不覚にも、やわらかい「何か」が僕の体に当たる感触があった。僕は、暗闇の中で妙な汗をかいた。
僕が妙な汗をかいている最中でも、ティムとタイチによる交渉は続いた。あーでもない、こーでもない。しかし、話は一向に平行線を辿るばかりだった。そして、しばらくの沈黙が続いたあと、彼らは口を開いた。
「君たちは、オールバックに尖ったメガネ。全身銀色のスーツにピンク色のネクタイ。ちょっと長い革靴を履いている人物を知っているかい?」
「知っているかい?」
長文においては、どうやらオウム返しはしないようだ。なんとも効率的な二人である。
「知らない。それとこれと何の関係がある」
「彼が、僕らのこの街を襲ってきたからだ。本当に1日、2日の出来事だったよ。
「出来事だった」
彼らは、またしばらく黙ったのち、ゆっくりと語り始めた……
僕らは、いつものと変わらない生活を繰り返していた。
ボールを蹴ったり、かけっこをしたり。夜になればお母さんが作ってくれた晩ご飯を食べて、近くの町に働きにいっているお父さんが帰ってくるのを待った。そんな何の変哲もない日々が繰り返されていたんだ。
ある時、とてつもない音とともに雷が近くの町に落ちた。
その町は、この辺では、不思議な場所だった。こんな高層な建物を建てる技術はこの世界にはないのに、高い建物が何本も建っている。一面ガラス張りの建物や、変わった形をした建物。奇抜な色の建物。なんだか、数十年後の未来から来たような建物たちだった。
その一角に、新しく小さなお店のような建物が現れた。そして、その周りに二人の人が現れた。
一人は、赤いピエロのお面をかぶった人物。
一人は、長く黒いローブを着たヒゲの長い老人。
僕らは、大きい音に誘われてその場所に来ていて、彼らに見つからないように物陰からひっそりと見ていたんだ。
すると、その小さなお店から一人の冴えない男が現れた。
ヨレヨレのシャツに、センスの良いとは言えないネクタイ。髪の毛もボサボサで、あまり「優秀」とは言えなさそうな風貌の男が店の中から出てきた。
その男が出てくるやいなや、両手を広げてヒゲの長い老人は大きな声で言ったんだ。「ようこそ、ロストエイジへ!」って。
その後、赤いピエロが右手の指でパチンと鳴らすと、男は不思議な光に包まれて着ている服と髪型が一気に変わった。銀色のスーツに、ピンク色のネクタイ。メガネもインテリ系のとんがった奴。革靴も蹴られたら痛そうな長いやつに変わった。
自分の変わった姿を見て、男は一気にテンションがあがったようだった。
大きな奇声をあげて、周りを力の限り走り回った。すると、驚いたことに男は、常人とは思えないようなスピードで走り回り始めた。そして体の動きをある程度確かめたあと、コンクリートで出来た小さなお店の壁に向かって回し蹴りをし、壁に綺麗な亀裂が入った。
僕らは、恐怖を覚えて声が出なかった。二人で、必死に声が出ないように口を押さえていたのもあるけれど。
しばらくして、男たちはどこかへ行ってしまった。
僕らは、怖くて怖くてしばらくその場で泣いていた。でも、あの時僕らは泣いている場合じゃなかったんだ。早く、泣くのをやめて家に帰るべきだった。僕らが、家に帰る頃には町の大半は廃墟になっていた。それも、もう「何十年も前から」廃墟だったような雰囲気にね。
お父さんもお母さんもいなかった。誰一人として知り合いもいない。
僕らは憔悴しきって街を歩いていたんだ。そして、僕らは見つけてしまった。
コンクリートの壁に入った綺麗な亀裂を。どこかで見た綺麗な亀裂を。
この亀裂を見た時に、僕らの脳裏には彼の大きな高笑いが聞こえてきた。
災いが空から降ってきたんだ。




