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とりあえず、僕はティムに視線を持っていく。
ティムは、しっぽを空に向かって立てて、ゆっくりと慎重に歩いている。どうやら、人影には気づいていないようだ。猫は意外とそういう違和感に弱いらしい。
「ユキ」
僕は、となりに居た彼女の細い腕を掴んだ。
「どうしたの?」
彼女は、小さい声を発しながら僕の方を見た。
「あの建物の陰に、人がいると思う」
「えぇ!?」
「シーっ。声が大きいよ」
「ご、ごめん」
彼女は、口元を慌てて押さえた。
人影が見えた建物は、赤いレンガの建物で、ところどころが大きいな穴が空いており、屋根も一部崩れていた。周りにはもともとはその赤いレンガの建物の一部であったのであろうが、レンガたちが見るも無残に散開していた。
ユキの声に反応して、ティムとタイチが僕らの方に寄ってきたので、事情を説明した。
「人がいるのか」
タイチは、腕につけたブレスレットをさすりながら言った。
「ああ、間違いないと思う。あのレンガの建物に」
「どれくらいの大きさの人だった?子供か?大人か?」
「そこまでははっきり……でも、視線を感じたんだ」
僕は、自分の直感を強く信じることにした。タイチは、あまり信用しているような態度は示さなかったが、今は考えても仕方ないと思ったのだろう。タイチは、赤いレンガの建物の方に自ら進んでいった。
僕らも、タイチの後ろについていき、恐る恐るゆっくりと歩き始めた。
朽ち果てた周りの建物には様々な鳥や動物が住み着いているようだった。
鳴き声が、頻繁に聞こえてきた。キィキィとい甲高い鳴き声が、永遠と鳴り響いている。
タイチは、パスケースを片手にいつでも変身できる体制で、赤いレンガの壁にへばりついた。彼は、アイコンタクトで僕らにその場の安全を知らせた。どうやら、誰もいないらしい。
僕らは、少しだけ歩くスピードを速くし、レンガの建物まで移動した。
「カク、いないぞ」
僕は、彼に言われるまま、赤いレンガの建物の中を覗き込んだ。板張りの床にところどころ穴が空き、食器類が棚の中や床の上で朽ち果てている悲惨な景色が目の前に広がっていたが、人がいる気配はなかった。
「確かに、人はいない」
僕は、確かめるように声に出した。ただ、なんだか、違和感を感じた。言葉にできない違和感である。この違和感が気になったため、僕は中に入ることにした。
扉のような形をした板は、ドアノブがなかった。
ゆっくりと前に押すと、その扉は鈍い音を立てながら開いた。この場所は朽ち果てる前はなんだったのだろうかと僕は思う。
外から見た印象と違って、中は結構薄暗かった。そして、意外とほこりっぽい。僕が歩くたびに床のほこりが空気中に舞い、外から入る日差しによってその姿が映し出された。
そして、僕につづいて他の三人が中に入ってきた。
「単なる廃墟じゃんか」
タイチは、あたりを見回しながらいった。
「薄暗いわ。なんか外と違って少しだけ寒いわね」
ティムは、僕のほうに歩み寄った。何か見つかったのかという表情で僕を見つめる。
僕の違和感は、間違っていたのだろうか。さっきの直感もどうやら外れたようであったし。
他の三人は、何もないことを確認して、さっさと外に出ていた。
僕も出ようとした次の瞬間、あることに僕は気がついた。
「ティム!この部屋の違和感がわかったよ!」
僕は大きな声で叫んだ。外にいるティムが部屋に入ってきた。
「どういうことだ」
「わかったんだ」
「いつから、探偵みたいなことをするようになった。お前は」
ティムは、少しだけ僕を馬鹿にした。僕は、ティムの言葉に少しだけ笑ってしまった。
「たしかに。ははは。それは良いとして、わかったんだよ。この部屋の違和感に」
僕は、部屋の奥に言って両手を広げて言った。
「こんなに広い部屋なのに、あるのは、壁際に置かれた食器棚。そして、床に落ちている食器たち。これしかない。本来だったら、机とか椅子とかもあるだろう?」
「最近は、そういう暮らしをする人間もいるらしいぞ。ミニマリなんとかっていう人種が」
「そういう、例外は置いておいて。こんなに食器があるのに机がないのはおかしい」
僕は、食器棚の上に置いてある茶色の花瓶を手に取った瞬間だった。
花瓶を食器棚から話した瞬間に、ティムが立っている床が左右に分かれはじめ、ティムはその暗闇の中に落ちていった。
「ティム!」
僕は、叫んだ。
「だ、大丈夫だ!」
僕は、ティムが落ちた場所に急いで行った。すると、彼が走った言葉の意味がわかった。
たしかに、ティムは落とし穴に落ちていったが、それは落とし穴ではなかった。地下へと通じる階段が、伸びていったのだった。




